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珊瑚の出産④



※この画像は『妖ノ恋』さまの了解を得て公開しております。

晩秋の少し肌寒い陽気の中、巫女装束の楓とりんが仲良く連れ立って歩く。
本物の祖母と孫のようである。

楓:「そういえば、りん、今日は兄殿が来る日ではなかったのか?」

りん:「えっ! あっ、はい、そうでした」

兄殿とは殺生丸を意味する。
りんを預かって以来、楓は殺生丸をそう呼んでいる。
腹違いとはいえ犬夜叉の兄だからである。
りんを預かった当初、楓は勿論、犬夜叉や珊瑚に弥勒までもが思った。
殺生丸はもうりんをの面倒を見みないだろうと考えていた。
というのも殺生丸が大の人間嫌いだったからである。
殺生丸は己と違い人間の母をもつ半妖の犬夜叉を露骨に蔑(さげす)み顔を見るのさえ嫌(きら)っていたのだ。
嫌うくらいなら、まだいい。
とことん仲の悪い犬夜叉と殺生丸は、父親の形見の剣、『鉄砕牙』を廻(めぐ)って何度も命賭けの兄弟喧嘩を繰り返していた。
その際、巻き添えを喰ったかごめと弥勒、それに七宝は危うく殺生丸に殺されかけたことさえある。
だから、誰もが予想しなかった。
殺生丸がりんに逢う為だけに村を訪れるなど。
それも思い出したかのように偶(たま)に来るなどという生易(なまやさ)しいものではない。
キッチリ三日おきに現れるのだ。
まるで判で押したかのような律儀さである。

《りんを楓に預ける辺りの件(くだり)は拙作の第58作目『決断①~③』をご参照ください》

最初は物珍しくとも頻繁に繰り返されれば、いつしか誰もが慣れる。
今や、殺生丸の訪問は村では極当たり前のこと、いつのもことと扱われている。
その当の大妖がお供の小妖怪、邪見を従え現れた。
夏と違い勢いを失った陽射しに白銀の髪が柔らかく煌めく。
まるで秋空に広がる筋雲のようだ。

りん:「あっ、殺生丸さま!」

楓:「ほっ、『噂をすれば影』だ。ではな、りん、夕餉(ゆうげ)までには帰るんじゃぞ」

りん:「はい、楓さま」

幼女はいそいそと待ち人のもとへと駆けつけた。


※『珊瑚の出産⑤』に続く。



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珊瑚の出産③



※この画像は『妖ノ恋』さまの了解を得て公開しております。


パチパチ・・パチッ・・

薪が勢いよく燃える音に珊瑚の呻き声と楓の声が入り雑(ま)じる。
それから二時(約四時間)ほど後、珊瑚は無事に女の双子を出産した。
産湯(うぶゆ)につけてやれば赤子達が矢継ぎばやに元気な産声(うぶごえ)を発する。

「ほぎゃあ・・ほぎゃっ・・」「ほぎゃ・・ほぎゃあ~っ・・」

弥勒が産室に駆け込んできた。
赤子の産声に矢も盾もたまらなくなったのであろう。
いつも冷静な男の目が潤んでいる。

弥勒:「珊瑚・・・」

珊瑚:「法師さま・・」

楓:「抱いてやりなされ、法師殿。元気な女の双子だ」

楓が生まれたばかりの赤ん坊を新米の父親に一人ずつ手渡す。
震える手で、それでもしっかりと子供達を抱きとめる弥勒。

楓:「さっ、後は家族だけにしてやろう。りん、帰るぞ」

りん:「はい、楓さま」

楓とりんは素早く後産の始末を終え産室から退出した。
犬夜叉が所在なさげに土間で待っていた。

楓:「おお、犬夜叉、戻っておったのか」

犬夜叉:「ああ、珊瑚の奴、無事にお産はすんだみてえだな?」

楓:「うむ、元気な女の双子じゃ」

犬夜叉:「ははっ、女だらけって訳だな。へっ、女好きの弥勒にゃ持ってこいじゃねえか」

そう云うなり踵(きびす)を返そうとする犬夜叉に楓が声をかける。

楓:「犬夜叉、赤子達の顔を見ていかんのか?」

犬夜叉:「ああ、また今度にするさ。あいつら、今、親子水入らずだろ。水をさす気はねえよ」

楓:「そうか」

そのまま犬夜叉は山の方へブラブラと歩いていった。
楓とりんは反対に村の方へと向かう。


※『珊瑚の出産④』に続く。



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珊瑚の出産②



※この画像は『妖ノ恋』さまの了解を得て公開しております。


バサッ!

すると枝を払いながら現れたのはりんも顔見知りの半妖の男だった。
紅葉にも負けない真紅しんくの童水干、長い白銀の髪、瞳は金色である。
下品ではないが非常に派手な色合いだ。
黒目、黒髪に色目の冴えない野良着ばかりの村人と比べれば目が覚めるように鮮やかだ。
年の頃は少年から青年になりかかったばかりか。
綺麗な顔立ちに精悍さがにじみでている。
中々の美丈夫である。

りん:「犬夜叉さま?」

犬夜叉:「おう、りんじゃねえか。久し振りだな。弥勒は楓婆を連れてったか?」

りん:「はい、今しがた楓さまを負ぶって走ってかれました」

犬夜叉:「そっか。じゃあ、こいつを届けてやらなくっちゃな」

そう云うなり犬耳の青年は木立ちの中からヒョイと米俵を担ぎ上げた。
米俵の重さは十六貫(一貫は3.75kgつまり3.75×16=60kg)もある。
大の大人でも一俵担ぐのがやっとの重さだ。
それを三俵も軽々と、驚くほどの怪力である。
犬夜叉は右肩に米俵を二俵を担ぎ、左腕には一俵をかかえこむやスタスタと歩き出した。
りんも一緒についてトコトコ歩く。

りん:「犬夜叉さま、それ、重くないの?」

犬夜叉:「ああ、これか。どってことねえぜ。金持ちに妖怪退治を頼まれたときゃ、これ位の謝礼はいつもの事だしな」

りん:「じゃあ、貧乏な人に頼まれた時は?」

犬夜叉:「そうだな。そういう時は寸志すんしって奴だな」

りん:「『すんし』って?」

犬夜叉:「心ばかりの御礼、つまり相手の気持ち次第ってこった。貧乏なら貧乏なりに御礼の気持ちを込めて物を贈ることさ」

りん:「ふ~~ん、それにしても凄いね、犬夜叉さま。村の若い衆だって米俵は一俵かつぐのがやっとなのに」

犬夜叉:「そっかあ? でも、俺より殺生丸の方が力持ちなんだぜ」

りん:「そうなの?」

犬夜叉:「ああ、あいつは見た目こそあんな優男だが、片腕だった時でさえとんでもねえ馬鹿力だった」

りん:「じゃあ、今の殺生丸さまは両腕があるから、もっと力持ちなの?」

犬夜叉:「まあ、そうなるわな。おまけに今の奴は天生牙だけじゃなく爆砕牙まで持ってやがる。どこにも死角がねえ。もし、殺生丸が本気になったら誰も敵わないだろうぜ」

そんなたわいもないことを話しながら田舎道を歩く犬夜叉とりん。
程なく二人は弥勒と珊瑚が暮らす家に着いた。
家の中から微かにうめき声が漏れ聞こえてきた。
珊瑚の声だ。
どうやら陣痛の真っ最中らしい。
痛みを必死にこらえているのだろう。
声が老婆のようにしわがれている。
りんは慌てて家の中に駆け込んだ。
すると楓が陣痛に苦しむ珊瑚の手を握って励ましていた。

楓:「しっかりせい、珊瑚!」

りん:「楓さま、珊瑚さんっ!」

楓:「おおっ、りん、丁度いいところに来てくれた。急いで湯を沸かしてくれ」

りん:「はいっ、楓さま!」

テキパキと湯を沸かす準備をするりん。
現代と違い戦国時代である。
電気は勿論、マッチもガスもない。
単に湯を沸かすだけでも大変な手間がかかる。
まず囲炉裏の火種にわらをくべて息を吹きかけ火口(ほくち)を大きくする。
それからまきをくべて更に火力を強くする。
そうしてから、やっと井戸から汲んでおいた水を入れた大鍋を火にかけるのだ。


※『珊瑚の出産③』に続く。


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珊瑚の出産①



※この画像は『妖ノ恋』さまの了解を得て公開しております。

吹く風が冷たくなった。
季節が秋から冬へと変わろうとしている。
紅葉は今が盛りだ。
赤、だいだい、黄、黄緑、緑、鮮やかな色彩が山野を彩る。

カサッ カサッ カサカサ・・・

落ち葉を踏みしめ老婆と幼女が道を急ぐ。
日暮村を守る巫女の楓と養い仔のりんである。
隻眼の楓は刀のつばを眼帯代わりにしている。

りん:「楓さま、急いでっ! 赤ちゃんが生まれちゃうぅ」

楓:「そう慌てんでも大丈夫だ、りん。初産ういざんは時間がかかるものと昔から決まっておる」

りん:「本当?」

楓:「ああ、本当だとも。まだ産道が開いてないからな」

りん:「産道って?」

楓:「赤ん坊が通って生まれてくる道のことだよ。女は皆、体内に道を持っておる」

りん:「りんにもある?」

楓:「勿論あるとも。いつか、りんが子供を産むとき道が開くだろう」

ザザッ・ザッザッ・・ザッザザッ・・ザザッ・・・

落ち葉を蹴散らす勢いで墨染めの衣をまとった若い男が現れた。
珊瑚の夫、赤子の父親である法師の弥勒だ。

ザシュッ!

勢いよく手にもつ錫杖しゃくじょうを地面に突き刺し大きくあえぐ。
先日、妖怪退治を請け負って犬夜叉とともに村を離れていたはず。
それが、今、ここにいるということは・・・

弥勒:「ハアッ・ハア・ハッ・・ハッ・・七宝が・・さっ・珊瑚が産気づいたと・・知らせてくれ・・駆けつけ・・てまいりました。ハアッ・・ハアッ・・後は・犬夜叉に・・まかせてきました」

よほど急いで走って来たのだろう。
髪は汗で頬に張り付き息が乱れている。
いつも泰然と事に対する弥勒にしては珍しく焦っている。
流石に初めての我が子の誕生に平静ではいられないらしい。

弥勒:「楓さまっ!」

楓:「落ち着きなされ、法師殿。産気づいたからといって、そうそう簡単に赤子は生まれんぞ。特に初めてのお産はな」

弥勒:「そっ、それでも、珊瑚がっ! 珊瑚が・・ひどく・・痛がっているのです。見ているこちらは・・生きた心地がいたしません。楓さま、お願いですっ! 何とかしてやってくださいっ!」

楓:「そうはいってもなあ、こればっかりは自然にまかせるしかないのだ」

弥勒:「ともかく急ぎましょうっ!」

そう云うなり弥勒はやにわに楓を引っ担ぎ走り出した。

楓:「こっ、これ、法師殿!」

弥勒:「りん、私達は先に行きます。後からゆっくり追ってきなさい」

すぐさま弥勒と楓の姿は見えなくなった。
あっという間の出来事だった。

りん:「・・・置いてかれちゃった」

ヒュルルル~~~~~~~ 

りんは晩秋の田舎道にひとりポツンと置き去りにされてしまった。
落ち葉が風に吹かれてカサカサと舞い散る。
すると近くの木立ちからガサガサと物音がするではないか。
狸か? 狐か?
このところ、野盗や追剥おいはぎというたぐいの話は聞かない。
だが、万が一ということもある。
りんは警戒しつつ藪を見つめた。


※『珊瑚の出産②』に続く



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根の首騒動始末記=邪見覚書き=

お仕置き主従

あ~~~先頃、人界で根の首なる雑魚妖怪が騒動をおこしよった。
それだけなら別にどってことなかったんじゃがな。
根の首め、りにもって楓の村を襲いよった。
ここまで話せばもう分かるじゃろう。
殺生丸さまがな、万が一を考慮して、わざわざ村の上空で待機されたんじゃ。
何でって、そりゃ、分かるじゃろうがっ!
不届き者めが、りんを襲わんよう監視する為じゃ。


まっ、人間の村が襲われようが壊滅しようが別に殺生丸さまの知ったことではない。
じゃが、そこにりんの安全が関わってくるとなれば話は別じゃ。
りんは殺生丸さまの大事な養い仔じゃからのう。
騒動が終わってから楓に聞いたんじゃが、あの根の首は、楓の姉、巫女の桔梗が犬夜叉と出逢う前に封じた妖怪らしいな。
しかも桔梗は犬夜叉と恋仲だったそうじゃ。
なのに犬夜叉を封印したのも、これまた桔梗ときておる。
なんとも面妖な話じゃのう。
まあ、色々と複雑な事情があるんじゃろうが。


正直な話、一体、何があったのやら。
とはいえ五十年以上も昔のことじゃ。
当時のことを聞こうにも大抵の人間は亡くなっておる。
わしら妖怪と違って人間は短命じゃからな。
まあ察するに、多分、よくある痴情のもつれって奴じゃなかろうかと。
奈落が関わっておったそうじゃし。
あ奴はトコトン悪知恵にけておったからなあ~
殺生丸さまならともかく犬夜叉が相手では・・・
ハッ、どうせ赤子の手をひねるが如く容易くだまされたんじゃろうて。
何もかも完璧な殺生丸さまと違い犬夜叉は余り賢いとはいえんからのう。


それとな、これも楓に聞いたんじゃが、『かごめ』は桔梗の生まれ変わりだそうな。
いやはや驚いたのう。
前世と現世が同時に存在するなど、まず有り得んはずなんじゃが。
はっ? 何で知ってるかって?
りんから七人隊の睡骨なる死人しびとに攫われた時のことを聞いたんじゃ。
綺麗な巫女さまに助けられたってな。
殺生丸さまが言うておられたが、その巫女、桔梗とやらは生身ではなかったそうじゃ。
何でも死人が仮初かりそめの肉体をまとっていたそうな。
じゃからな、厳密にいうならば桔梗は『生きていた』とはいえん。
死人しびとが徘徊しておった訳じゃからのう。
そこんところが実にややこしい。


何がどうして、そうなったのやら。
まあ、四魂の玉が絡んでいたそうじゃからの。
そういう奇妙奇天烈なことが起きるのも無理ないかもしれん。
色々な事情がくちなわの交尾のように複雑に絡み合いもつれ合い・・・。
うげっ、想像するだに気色悪い。
ゾゾ~~っとするわい。
とにかく、考えるだけでややこしくてたまらん。


そもそも根の首が現れたのは山崩れで奴を封じていた塚が壊れたせいなんじゃ。
運の良い奴じゃ、そのまま大人しくしておればいいものを。
なのに根の首め、調子に乗りよってからに。
これ幸いとばかりに人を襲い始めよった。
奴に襲われるとな、人間は骨だけにされてしまうんじゃ。
養分を吸い取られるんじゃな。
更に生首だけを持ち去る。
実に気味が悪いというか趣味の悪い奴じゃのう。

(んっ、生首だけを持ち去る???)

そういえば似たようなことをやらかす妖怪がおったような。
確か・・名前が・・さっ・・さっ・・さっ・・
むぅ~~~喉元まで出掛っておるんじゃが。
う~~む・・うむむ・・・
えい、頑張れ、わし!
さくっと思い出すんじゃ。
ほれほれ、あの妖怪の名は?
そうじゃ、思い出したぞ。
『逆さ髪の由羅』じゃ。


あ奴は死人の髪を操る女妖怪でな。
根の首と同じように死人の首を持ち去るんじゃ。
とはいえ『逆さ髪の由羅』は根の首のような雑魚妖怪とは訳が違うぞ。
殺生丸さまには及びもつかんが、かなりの妖力の持ち主でな。
死人の髪を集め妖力で操るんじゃ。
んっ?! 何じゃと!
違う、違う、紙ではない。
頭に生える髪の毛のことじゃ。
むっ、わしにはないだろうと。
ほっとけ!


あの時、殺生丸さまとわしは楓の村に向かっておった。
勿論、例の如くりんに逢うためじゃ。
殺生丸さまはな、りんに逢うため三日おきに西国と人界とを行き来しておられる。
すると途中で骨だらけの死骸の集団に遭遇したんじゃ。
身なりからして武者のようだが正規の武将ではらしい。
旗指物はたさしものが見当たらんかったからな。
装具から推察して野盗のようじゃった。
人も馬も等しく骨だけのむくろになっておったわ。
唯、馬の首の骨は残っておるのに人の頭部だけがなかった。
となるとこれに該当する妖怪は???
ふむ、根の首じゃな。


根の首の臭いを嗅ぎ取った殺生丸さまは直ちに村へ急行された。
殺生丸さまは怖ろしく嗅覚が鋭い御方じゃ。
奴が楓の村に向かっておるのを嗅ぎつけられたんじゃろうな。
あの時、たまたま琥珀もそこに居合わせてな。
骨だらけの死骸どもに首をかしげておった。
じゃによって殺生丸さまが琥珀に奴らを襲った妖怪の正体を明かされたんじゃ。
琥珀も退治屋の端くれじゃからな。
奴の姉の珊瑚が法師の弥勒と夫婦になって楓の村に住んでおる。
となれば、当然、姉夫婦一家を心配して村に駆けつけるじゃろうし。


楓の村に着いた殺生丸さまは、何故か、そのまま珊瑚と法師の家の上空でとどまられた。

邪見:「あのぉ、殺生丸さま、楓の家には?」

殺生丸:「りんはこの家にいる」

邪見:「はっ?」

すると村の中で怪しい動きが!
土の中で何かが蠢いておるのだ。
上空から俯瞰するとこれが一目瞭然。
何者かが珊瑚の家に向かっておるではないか。
じゃが、殺生丸さまは動こうとされん。

邪見:「せっ、殺生丸さまっ!?」

殺生丸:「大事ない。奴の狙いは巫女だ」

巫女? 巫女といえば・・・そうか、かごめじゃ!
根の首の狙いは桔梗、即ち生まれ変わりの『かごめ』だったんじゃ。
奴にとって桔梗は自分を封じた憎い敵。
それに桔梗が持っておったはずの四魂の玉を根の首は欲しがっておったはず。
五十年以上、封印されておったせいで根の首は最近の事情を全く知らん。
桔梗がとっくの昔に死んだことも、勿論、四魂の玉が消滅したこともな。
それどころか奈落と犬夜叉達の四魂の玉を巡っての熾烈な争いも知らん。
知らん、知らんの知らん尽くしじゃ。
はあ~~っ、もう『時代遅れ』もいい所じゃな。
そう考えると奴も亡霊みたいなもんかの。


おまけにな、根の首の奴、あっさりと犬夜叉とかごめに退治されたんじゃ。
これが、もう、情けないくらい綺麗さっぱりとな。
元々、雑魚に毛が生えた程度の妖怪じゃ。
ろくに抵抗もできんままバッサリやられおった。
奴自身は自分が一端いっぱしの妖怪と自惚れておったのだろうが。
わざわざ伝家の宝刀、冥道残月破を使うまでもない。
極々、普通の風の傷とかごめの破魔の矢をお見舞いされて一巻の終わりじゃ。
あ奴、一体、何のために出てきたんじゃろう?
人騒がせな、いや、この場合、わしらも迷惑かけられたから妖怪騒がせかの。


まあ、あんな奴のことなどどうでもいい。
りんに土産を渡さねば。
今回の土産は櫛じゃ。
りんも今年でよわい九つ。
もう女のめのわらわとはいえん。
段々、娘らしゅうなってきたからの。
これからは身だしなみに気を付けねばならん。
じゃからの、髪を整える櫛を持ってきたんじゃ。


ほれ、りん、見てみい。
これでな、髪をくしけずるんじゃ。
さすれば、お前の癖毛もサラサラになるじゃろう。
猫っ毛のせいか直ぐに癖がつくからのう。
そう得々と説明しておったら殺生丸さまに蹴飛ばされた。

スコ―――――――――――――――――ン

あ"~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ

それはもう久々に本気の蹴りじゃった。
何故に? どうして? 殺生丸さま???
あっという間に楓の村は見えなくなり気がつけば山をひとつ越えておった。


朝方、ボロボロになって村に辿り着いたわし
ゼイゼイ・・ヒイハア・・
たまたま、珊瑚が朝餉あさげの支度で家の外におったんじゃ。
じゃからな、これこれこうでと昨夜の経緯いきさつを話して聞かせた。
するとな、えらく呆れた顔をされたんじゃ。

邪見:「何がいけなかったんじゃろう?」

珊瑚:「そりゃ、当たり前だろ。りんに櫛を贈ったんだから」

邪見:「だから、そこが分からんのじゃ。櫛を贈ってはいかんのか?」

珊瑚:「あのさ、邪見、昔から櫛には呪力があって別れを招くって云われてるんだ。だからさ、りんに櫛を贈るってことはだよ、殺生丸と別れろって意味にも取れるんだ」

邪見:「なっ、何じゃとおぉっ!」

大驚愕するわし
あごはずれるかと思ったぞ。
その後、わしは殺生丸さまの許へ直走ひたはしった。
殺生丸さまの前に身を投げ出し土下座して己の無知を謝りまくったんじゃ。
ふう~~~今、思い返しても、まるで呪いのようじゃった。
むっ、櫛といえば女、女の呪いか。
わし、誰ぞに怨みでも買ったんじゃろうか?
はっ、そういえば『逆さ髪の結羅』は髪を櫛で操る妖怪じゃったな。
ということは、これは、あ奴の呪いやもしれん。
いや、きっとそうじゃ。
はあ~~みだりに噂をするものではないのう。
本当にえらい目にあったわい、桑原、桑原。
         
              了

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入道雲



とてとて・・ちょこちょこ・・

とてとて・・ちょこちょこ・・

可愛らしい幼女が畦道(あぜみち)を歩く。
はずむような足取りは見るからに楽しそうだ。
鮮やかな紅白の市松模様の小袖を緑の帯で留めている。
幼女の名は『りん』。
つい最近、村を守る巫女の楓に預けられた養い仔である。


傍らにいるのは小妖怪の邪見だ。
小柄な『りん』より更に小さい。
矮小な緑色の身体に雀色の水干、頭には烏帽子をかぶっている。
そんな邪見の三本指が手にしているのは人頭杖(にんとうじょう)。
翁(おきな=爺)と若い女の二つの頭部がついた不気味な杖である。
実際には超強力な火炎放射器だが、村人には単なる虚仮威(こけおど)しの道具と思われている。


楓の村の者にとって【幼女と小妖怪】は見慣れた光景だ。
というのも邪見が、りんを楓に預けた殺生丸の従者だからである。
殺生丸は村に住み着いた半妖、犬夜叉の異母兄である。
父親は同じだが母親が違うのだ。
だからだろう。
同じ白銀の髪と金色の瞳だが半妖の犬夜叉は頭からピョコンと犬耳が飛び出している。
対して純血妖怪の殺生丸は完璧な人型である。
妖力の違いともいえる。


夏の空にもくもくと湧きあがる白い雲。
田植えの終わった田はたっぷり水をたたえている。
吹きすぎる風に苗がゆれる。
清々しい風景である。
空を見上げながら幼女は傍らの珍妙な存在に話しかける。


(りん):「ねえ、見て、見て、邪見さま。すっごい大きな雲」

(邪見):「ああ、あの入道雲か」

(りん):「ふ~~ん、ねえ、邪見さま、どうして入道雲っていうの?」
 
(邪見):「それはな、あの雲をよく見てみい。大入道のように見えるじゃろうが。だからじゃ」

(りん):「そっか、そういえばそうだね。でも、邪見さま、あの雲、殺生丸さまのモコモコにみえない?」

(邪見):「はあっ? ん~~そういわれれば確かにそう見えんこともないが」

(りん):「でしょ!   でしょっ! だから、あたし、あの雲が大好きなの」

(邪見):「・・・すっかり夏じゃのう」

(りん):「うん、そうだね」

(邪見):「りん、人里の暮らしにはもう慣れたか?誰ぞに虐め(いじめ)られたなんてことはあるまいな」

(りん):「うん、最初は寂しかったけど。三日おきに殺生丸さまが逢いにきてくださるし村の人達も優しくしてくれるから」

(邪見):「うむ、そうかそうか」

(りん):「それにね、楓さまって凄く優しいの。ほんとのお婆ちゃんみたい」
 
(邪見):「あの老いぼれ巫女がか?」

(りん):「楓さまは老いぼれなんかじゃないよ。そういう邪見さまこそ老いぼれのくせに」

(邪見):「なっ、なにをいうか、わしゃ、まだ若いぞ(嘘)」

(りん):「え~~だって邪見さま、楓さまより年寄りでしょ?」

(邪見):「うぐっ、むむむ・・・」


一人と一匹がたわいのない言い合いの最中、空から美貌の大妖が下(お)りてきた。
夏の陽射しを弾く白銀の髪、髪と同色の毛皮が風にたなびく。
左肩を防御する妖鎧、流水文様の飾り帯、腰には二本の長刀、凛々しくも優美な若武者姿。
こんな片田舎には不似合いなほど煌々(きらきら)しき存在である。

(りん):「殺生丸さま!」

幼女が大好きな人(?)に駆け寄る。
楓に引き取られ人里で暮らすようになっても彼女の一番は変わらない。
これからもりんの『一番大好き』はずっと殺生丸であり続けることだろう。






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春爛漫の椿事(ちんじ)



※この画像は『妖ノ恋』さまの了解をえて公開しております。


冬の終わりをつげる梅が咲いた。
そして散った。
陽光の化身のような菜の花はずっと咲き続けている。
しばらくして本格的な春の訪れをつげる桜が咲いた。
桃も負けじと咲きだした。
桜色と桃色、濃淡の違う淡紅色の花弁が艶やかさを競うように咲き誇る。
隻眼の老女、巫女、楓の守る村は、今、春を彩る花々に覆われている。
春の訪れに村人の表情も明るい。
畑仕事にも精がでる。
そんな春爛漫の村里をのんびりと歩く珍妙な三人連れがいる。
その一行に目をとめた吾作は農作業のかたわら女房のお花に話しかけた。


吾作「おい、かかあ、見ろや。ま~た、あの御仁が来とるぞ」

お花「ん? あぁ~~殺生様かい。りんちゃんに逢いにきなすったんだね。腰巾着(こしぎんちゃく)の邪見も一緒だ」


五つか六つだろう。
可愛らしい女児がはずむような足取りで村の中を先導している。
その後から堂々たる美丈夫と緑色の小妖怪がついていく。
女児の名は『りん』。
つい先日、この村を守る隻眼の巫女、楓が預かった幼子である。


美丈夫は『殺生丸』というらしい。
いつの間にか村に居付いた犬夜叉の兄との触れ込みだ。
犬夜叉は半妖だが兄の殺生丸は純粋な妖怪らしい。
というのも犬夜叉の母親は人間だが殺生丸の母親は違うのだ。
いわゆる異母兄弟とかいうやつである。
そのせいだろうか。
身にまとう雰囲気が兄と弟では天と地ほども違う。


犬夜叉は野育ちのせいか基本的に粗野で物言いも荒っぽい。
それに比べ殺生丸は生まれも育ちも本物のお殿様である。
やることなすこと全てが貴族的で洗練されている。
それもあって村人は恐れ多くて殺生丸の傍にもよれない状態だ。
とはいえ殺生丸も犬夜叉も白銀の髪と金の瞳である。
同じ色合いが嫌でも両者の血の繋がりを感じさせた。


柔らかな陽射しの中、長身の妖怪はゆったりと歩をすすめる。
右肩を覆う豪奢な白銀の毛皮が陽光をはじいて眩しい。
厳(いかめ)しい妖鎧、雅(みやび)な流水文様の飾り帯、風にはためく艶(あで)やかな振袖。
溜め息がでるほど見事な若武者姿である。
腰には対照的な二振りの長刀を帯びている。
ひと振りは漆塗りの黒鞘におさめた天生牙。
もうひと振りは雷紋が施された白木の鞘の爆砕牙。
『慈悲』を象徴する天生牙と『非情』の爆砕牙、それは殺生丸の本質でもある。
白銀の大妖は相反する資質を同時に有する稀有な存在でもあった。


サクッ サクッ サクッ
静かに草を踏みしめて歩く殺生丸。
何気ないひとつひとつの所作が流れるように美しい。
そして何物にも動じない悠揚せまらざる態度。
いかにも上つ方(=貴人、身分の高い人)らしい。


そんな美貌の主(あるじ)の後をチョコチョコと小走りで追いかけるのはお供の邪見。
いわずと知れた殺生丸の従者である。
ギョロリとした出目、尖った嘴(くちばし)のような口許、緑色の矮小な体躯。
蛙なのか河童なのか、はたまた鳥か、実に判断に苦しむ。
なんとも奇妙な風体(ふうてい)の小妖怪である。
それでも従者らしく焦げ茶色の水干を身につけ、禿げ頭にはチョコンと烏帽子(えぼし)を乗っけている。
片時も手離さないのは翁と女の頭がついた不気味な杖、人頭杖である。


お花「そういや、お前さん、聞いたかい? 村外れの袂橋(たもとばし)でのこと」


お花は亭主の吾作に、先頃、村でもちきりの噂話をはじめた。
袂橋とはこの村と隣村の間に流れる川に掛けられた橋である。
川そのものが境(さかい)になっているのだ。
昔、話し合いの結果、橋は二つの村が協力してかけられた。
それゆえ、橋のど真ん中が村と村との境だと決められている。


吾作「あぁ、何かあったんか?」

お花「それがさあ、聞いておくれよ。村の悪たれどもが、りんちゃんにちょっかいかけたんだって」

吾作「悪たれどもっつうと、あれか。村長(むらおさ)んとこの一郎太と近頃よくとつるんでる洟垂(はなた)れの餓鬼どもか」

お花「そうそう、あの馬鹿どもったら、隣村への御用をいいつかったりんちゃんを袂橋んところで通せんぼしたんだってよ」

吾作「はあっ、何だってそんなことを?」

お花「そりゃ、決まってるだろ。りんちゃんの気を惹きたかったんだよ」

吾作「へっ?」

お花「鈍いねえ、あんた。一郎太は可愛いりんちゃんと仲良くなりたかったのさ。でも、あの年頃は、中々、素直にゃなれないからね。それで粋(いき)がって仲間と意地悪したんだよ」

吾作「あいつら、まだ十(とお)にもならない餓鬼じゃねえか」

お花「餓鬼は餓鬼でも男は男ってことさ。りんちゃんは鄙(ひな)には稀な器量よしだからね。早目に粉かけとこうってんだろ」

吾作「けっ、餓鬼が一丁前に色気づきやがって。それで、どうなったんだ?」


吾作がそう聞いた途端、女房のお花はゲラゲラと笑い転げた。
腹を抱えて大笑いである。
爆笑といってもいい。
笑いすぎて目尻には涙までにじんでいる。


お花「あははっ、そっ、それがさ、笑えるんだよ。殺生丸さまがいきなり現れて馬鹿どもをギロッとひと睨みなさったんだって。一郎太も連れの餓鬼どもも蛇ににらまれた蛙みたいにカチンコチンに固まっちゃってさ。あ~はっはっ、ほっ、ほうほうの体(てい)で逃げ出したらしいんだよお」

吾作「阿呆だな、あいつら」

お花「だよねえ。あはっ、あははは、ひい~っひっひっ、ひゃひゃひゃっ、あ~~笑いすぎて苦しいぃっ」


その後、しばらく、村では寄るとさわるとこの話が蒸し返され笑い話の種にされた。
一郎太と連れの悪戯仲間はそのたびにコソコソと隠れるように逃げ回ったそうな。
以後、村の若い衆の間で下の合言葉がひそひそと実(まこと)しやかに囁(ささや)かれるようになったという。


白銀のお殿さまには姫がござる。

姫には絶対に手をだすな。

出せば呪われ祟(たた)られる。

                    了


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『かごめ日記』⑧


※この画像は『妖ノ恋』さまの了解をえて公開しております。

そういえば、あたしが村に戻って半年ぐらいたった頃、妖怪が村を襲ったことがあったわ。
なんていったっけ、あの妖怪?
ね、ね、根っこ・・・そうだ、根の首よ。
地下に根をはりながら人の養分を吸い取る性質(たち)の悪い妖怪だったわ。
あの妖怪は、昔、桔梗が塚に封じたんだって。
まだ犬夜叉と出逢う前のことだって楓婆ちゃんが教えてくれたわ。
それでなのね、犬夜叉が根の首を知らなかったのは。


根の首が復活したのは山崩れで塚が壊れたせいだった。
復活した途端、根の首は片っ端から周囲の人を襲いはじめたわ。
襲われた人は養分をみんな吸いとられて骨だけの骸(むくろ)になっちゃうの。
しかも首を持ち去るのよ。
グロイわ、エグイわ、悪趣味だわ。
首ってことは頭、頭部のことよね。
それって『逆髪の結羅』を思い出させない?


あれっ、覚えてないかな?
ほら、あたしが犬夜叉と出逢って間がない頃、襲ってきた妖怪よ。
見た目はナイスバディの可愛い女の子なんだけど、やることなすこと凄くエグかった。
四魂の欠片目当てに村の人を操って楓婆ちゃんを襲わせ大怪我させたの。
あたしと犬夜叉も襲われたのよ。
当時の犬夜叉は、まだ鉄砕牙をもってなかったから結羅には相当手こずったわ。
あたしとの仲もうまくいってなかったしね。
結羅の得物は死人の髪、それを操って敵を倒すの。
だから、髪を集めるために人を殺して頭を収集してたの。
ねっ、根の首とよく似てるでしょ。


それでね、根の首ってば、自分が封印されてから五十年以上たってるのを知らないの。
まあ、長い間、塚に封じられてたから仕方ないんだけどね。
だからって、あたしと桔梗を間違えて襲うなんて失礼しちゃうわ。
おまけに未だに四魂の玉があると思い込んで奪いにきたのよ。
馬鹿みたいでしょ、四魂の玉なんて、もうとっくに消滅してこの世に無いのに。
すっごく時代遅れというか傍(はた)迷惑な妖怪だったわ。


犬夜叉と弥勒さまは妖怪退治の仕事から帰るなり楓婆ちゃんの処に直行。
大事な話があるとかで三人でゴニョゴニョ相談してたわ。
あたしとりんちゃん、珊瑚ちゃんと子供達は弥勒さまの家で待機してたの。
そうしたら、お約束通りに根の首が襲ってくるじゃない。
勿論、珊瑚ちゃんが応戦したわ。
あの程度の雑魚妖怪、飛来骨の一撃で粉砕よ。
でも根が素早く地中にもぐったの。
まだ生きてる。
なんてしぶとい奴なの。


そこへ騒ぎを聞きつけた犬夜叉と弥勒さまが慌てて駆けつけてきたわ。
もう事情を隠しておけないと踏んだんでしょうね。
弥勒さまが一連の騒動について説明してくれたの。
もうっ、何でそんな大事なことを隠すのかしら。
いくら桔梗が関係してるからって。
犬夜叉ってば気にしすぎ!


このまま根の首を放置すれば村の人まで犠牲になりかねないわ。
あたしは以前のように犬夜叉に負ぶわれて根の首を捜しにでた。
りんちゃんと珊瑚ちゃん達は、そのまま家の中に。
というのも根の首の目的は四魂の玉と桔梗への復讐。
なら絶対にあたしを狙ってくる。
ここから離れたほうがいいと判断したの。


やっぱり襲ってきたわ、あいつ。
村のあちこちに根の首が出没、村の人が犠牲になるところだったわ。
でもね、幸い、琥珀くんが雲母(きらら)に乗って加勢してくれたの。
珊瑚ちゃんや弥勒さまも応戦。
でも、根が相手だけにキリがないの。
斬っても斬っても生えてくる。
土の中でドンドン増えてるのよ。
なんてしつこい奴なの。


これじゃ本体を叩かないといつまでも埒(らち)が明かない。
そう思ってたら破魔矢が!
楓婆ちゃんが桔梗の破魔矢を撃ってくれたの。
破魔矢が落ちた場所に反応して逃げる根の首。
逃がすもんですか!
追いかけようとしたあたしの足元から値の首が!
あたしを喰い殺そうと大きな口をあけて襲ってきた。
でも、間一髪、犬夜叉があたしを救出。
そのまま攻態勢にうつったわ。


やっと本体をあらわした根の首。
グロテスクだったわよ~~~
大小の目玉がアチコチについた巨大な根っこの化け物だったわ。
一番大きな目玉の周囲には刈り取った頭がぶら下ってて。
大きな口には鋭い歯というか牙がズラッと並んでた。

「四魂の玉ごと喰ってやる~~~」

なんて喚いて大口をあける根の首。
あたしは破魔矢を、犬夜叉が鉄際牙で風の傷をお見舞いしてやった。
風の傷で破壊され、あたしの破魔矢で浄化され、根の首は跡形もなく消滅していった。


ふうっ、これで無事解決。
うん、久し振りの妖怪退治だったわ。
でも、犬夜叉ってば桔梗のことを隠すなんて。
ちょっと心外。
もっと信用してほしいわね。
だからね、あれをいったの。

「おすわり」

地面に叩きつけられた犬夜叉。
ふふっ、あれいうのも久々。
凄く懐かしかったわ。


※⑨に続く

 

 



 


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かごめ日記⑦


※この画像は『妖ノ恋』さまの了解をえて公開しております。

そうそう、コッチに来て驚いたことがもう一つあったわ。
なんだと思う?
それがね、りんちゃんのことなの。
なんと、りんちゃんってば楓ばあちゃんと一緒に暮らしてたの。
これまた吃驚(びっくり)よね。


あたし、てっきり殺生丸が連れ歩いてるもんだとばっかり思ってたわ。
何でも殺生丸が楓ばあちゃんに頼み込んだらしいわよ。
りんちゃんを預かってくれって。
あの殺生丸が人間に頼みごとをするとはねえ。
まさしく『晴天の霹靂(へきれき)』だったわ。
それか『驚き桃の木、山椒の木』よね。


それにしても変われば変わるものねえ。
とても出逢って早々、あたしを殺そうとした冷血漢とは思えないわ。
あれっ、知らなかった???
殺生丸って昔は冷酷非情だったのよ。
妖怪だろうが人間だろうが気に障(さわ)れば情け容赦なくズバズバ殺しちゃうの。
もの凄~~くおっかない奴だったのよ。


あたしだって何度殺されそうになったことか。
犬夜叉だってそうよ。
お父さんの形見である鉄砕牙をめぐって何度も殺生丸に殺されかけたの。
その度に大怪我をして。
本当に傍(はた)迷惑な兄弟喧嘩だったわ。


犬夜叉と殺生丸って兄弟なんだけど昔はすっごく仲が悪かったのよ。
なんでかっていうと殺生丸は純血の妖怪だけど犬夜叉は半妖なの。
わかるでしょ、つまり、お母さんが違うのよ。
犬夜叉のお母さんは人間なの。
異母兄弟ってやつね。


だからかしら、殺生丸は犬夜叉をひどく蔑(さげす)んでたの。
卑しい人間の血が混じってるってね。
人間なんか目にするのも穢(けが)らわしいって感じだったわ。
それが今や平気で村に出没してバンバン姿を見せてるのよ。
あたしが驚くのも無理ないでしょ。


これは犬夜叉が楓ばあちゃんから聞いた話なんだけど。
りんちゃんを預かったのは人里にもどす訓練なんですって。
将来、どっちでも選べるようにって。
それって、りんちゃんに人里で暮らすか、殺生丸と暮らすかを選ばせるってことよね?
でも、殺生丸にりんちゃんを手放す気なんてあるのかしら???
あたし、絶対に無いと思うわ。


だって、しょっちゅう、りんちゃんに逢いにきてるのよ。
あの極めつけの人間嫌いだった殺生丸が。
それも、何かしらお土産を携えて。
やれ着物だの、帯だの、髪飾りだの、それはもう色々と。
おまけに、殺生丸が持参する品が、これまた、こんな鄙(ひな)びた人里では滅多に見られない上等な品ばかりなの。


もう、村の人達に交じると浮くのなんの。
だって、りんちゃんだけが色鮮やかで上等な着物を着てるんだもん。
あたしは現代にいたから別にカラフルな着物に驚いたりしないんだけどさ。
ろくに色目の着物をみたこともない村の人からみればお姫さまも同然よね。
そんな事情から、りんちゃんは、やっぱり特別扱いなの。
まあ、無理もないか。
あんな綺麗で強くておっかない大妖怪がついてるんだもんね。


りんちゃん、完全に殺生丸のお姫さまじゃない???
というか許婚(いいなずけ)扱い???
もう将来は殺生丸のお嫁さんコース確定でしょ。
りんちゃんはりんちゃんで殺生丸大好きだしね。
顔よし、頭よし、財力あり、完璧じゃない。
あんな婿がね(=婿さん候補)がついてるのよ。
りんちゃんに求婚する身の程しらずなんか出るもんですか。


それでも殺生丸が村に頻繁に顔をだす意味は?
あれ、どう考えても威嚇と牽制よね。
何の???って。
そんなの決まってるでしょ。
りんちゃに手をだすなってことよ。


三年ぶりに会ったりんちゃんは随分と大きくなってたわ。
村の暮らしにもすっかり馴染んでるようだし。
楓ばあちゃんとの仲もよくて二人が一緒にいると本物の祖母と孫みたいなの。
りんちゃんって、元々、可愛い娘だったんだけどね。
衣食住が安定したせいか、益々、肌艶がよくなって凄く綺麗になってたわ。
本当に美少女って感じなの。
あと数年もしたら間違いなく凄い美女になるでしょうね。
殺生丸が焦るはずだわ。

 

※⑧に続く


 


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『かごめ日記』⑥


※この画像は『妖ノ恋』さまの了解をえて公開しております。

高校の卒業式の後、あたしは謝恩会に出席。
友達との別れを惜しんだの。
みんな、それぞれ進路が違うからね。
思いっきり食べたり喋ったり楽しい時を過ごしたわ。
今、思い返してみると、あれは本当にみんなとのお別れだったのね。


そして次の日、あたしは久し振りに骨喰いの井戸をのぞきこんだの。
目にうつったのはいつもと同じ涸(か)れ井戸の底。
色々な思いが胸にあふれて思わず目をつむっちゃった。
そして願ったの。

(犬夜叉----逢いたい)

感じるはずのない風が井戸の底から吹いてきて。
目をあければ、そこにあったのは晴れ上がった青い空。

(・・・信じられない)

(つながったんだ、アッチに)

あたしの様子に何かを感じたママが側にきて・・・
そして井戸の底をのぞいて全てを察してくれたの。

「そらが・・・」

「ママ・・・私・・・」

あたしが何をいおうとしたのかママは直ぐに察してくれた。
これは骨喰いの井戸があたしにくれた最後のチャンス。
多分、井戸をくぐれば、もう二度と戻ってこれない。
でも、もう、あたしは決めてたんだ。
四魂の玉を滅した時、犬夜叉とともに生きるって。
だから、あたしは・・・
ママは涙ぐみながら笑ってソッと背中を押してくれた。

「それでいいのよ」

ごめんね、ママ、ろくに親孝行もできずにコッチにきちゃって。
あれから四年、あたしは元気に暮らしてるよ。
草太、爺ちゃんとママを頼むね。
あんたが日暮神社の跡をつぐのよ。
大変だろうけど頑張ってね。
あたしはコッチでうちの神社の初代になるから。
そう考えたらストンと納得できた。
ああ、そうか、そうだったのかって。


そうして、あたしは犬夜叉のいる世界に戻ってきたの。
三年ぶりに村に戻ってみれば色々なことが少しづつ変化していた。
まずは七宝ちゃん、村の外に修行にいくことが多くなったわ。
いっぱい修行してお父さんのように立派な狐妖怪になるんだって。
つい先日出かけたばかりだから、当分、戻ってこないでしょうね。


でも、何といっても、あたしが、一番、驚かされたのは珊瑚ちゃんよ。
なんと三年間で三児の母になってたの。
凄いわ、もう吃驚(びっくり)仰天よ。
双子の女の子と生まれたばかりの男の子。
かわいかったわよお。
それが今やお転婆なお姉ちゃん達と泣き虫な坊やに成長。


あっ、でも、珊瑚ちゃんのお腹が大きいから、そろそろ四人目が産まれるんじゃないかしら。
凄いわ、弥勒様。
この調子だと、まだまだ増えそうよね。
夫婦仲はいいみたい。
弥勒さまが浮気しなければ・・・ね。


それから珊瑚ちゃんの弟の琥珀くん。
彼は強い退治屋になるため修行の旅にでてるんですって。
猫又の雲母(きらら)が一緒だから安心ね。
ちっとも帰ってこないって珊瑚ちゃんがぼやいてたわ。

 

11歳だった琥珀くんも今じゃ18歳。
現代だったら高校生か大学生よね。
でも、戦国時代のコッチじゃ立派な大人の仲間入りだわ。
会うたびに大きくなって今じゃ完全に見上げるほどなの。
もしかすると犬夜叉よりも大きいかも???


※⑦に続く

 

 

 


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