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『珊瑚の出産⑭』


※この画像は『妖ノ恋』さまからお借りしてます。

りん:「かごめさま、もう戻ってこないのかな?」
りんが心配そうに呟(つぶや)く。
殺生丸さまに拾われる前、あんなに人間どもに酷い目に遭わされておったのに。
相変わらず心根の優しい奴じゃのう。
わしゃ、あ~んな口煩い女のことなど気にもならんがな。
寧(むし)ろ、清々するわい。
んっ? そういえば、りんは神楽も助けてやろうとしたことがあったな。
え~~と何時のことじゃったろうか?
ポン!(手を打つ音)
おお、そうじゃ、そうじゃ、思い出したぞ。
あれは殺生丸さまが奈落の心臓のありかを探っておられた頃のことじゃ。
以前、あの世とこの世の境にある父君の墓所で殺生丸さまが奈落と戦われたことがあったじゃろう。
おまけで犬夜叉達もおったがな。
あの時、殺生丸さまはある事に気付かれたのじゃ。
何故、奈落は身体を粉々に砕いても死なないのか?と。
そして、ある考えに辿(たど)り着かれたのじゃ。
彼奴(きゃつ)は何処(どこ)ぞに心臓を隠しておるのではないかと。
確かに、そう考えれば奴の『不死』も合点がいくわな。
事実、それを裏付けるかのように奈落の分身である神楽は胸を打(ぶ)ち抜かれても死ななかった。
あ、何で、そんな事を知ってるのか?じゃと。
実際にこの目で見たからじゃよ。
あの女、わしらの目の前で川にぶち落ちよった。
どうやら気を失っておったようでな。
いつもと様子が違っておったわ。
あのまま捨て置けば流されて土左衛門になりそうな勢いじゃったな。
殺生丸さまは「放っておけ」と仰(おっしゃ)ったんじゃが。
りんが神楽を助けようと川に入ってな。
足を滑らせ溺れかけたんじゃ。
わしゃ「これはいかん」と、すぐさま人頭杖を差し出して助けようとした。
じゃが、川底は思ったよりツルツルでな。
わしまでもが足を滑らせ溺れかける始末。
結局、殺生丸さまに助けていただく仕儀となった。
いやはや全くもって面目ない。
主の手を煩(わずら)わせるとは従者にあるまじき体(てい)たらくじゃ。
それにしても豪(えら)い目にあったわい。
浅瀬じゃからと甘く見たのが間違いであった。
お陰で殺生丸さまから拳骨を頂戴してのう。
特大のたん瘤(こぶ)をこさえる羽目になってしもうた。
ううっ、痛かったぞ!
ゴホッ、とっ、とりあえず話を戻す。
阿吽が川から、まず、わしとりんを助け、それから神楽を引き揚げてくれたんじゃ。
んっ、殺生丸さまじゃないのかって?
馬鹿者、なんと畏(おそ)れ多いことを、そんな訳あるかっ!
神楽のような下賤の女、助けてやっただけでも御(おん)の字じゃわ。
それでな、引き揚げたのはいいんじゃが、あ奴、胸の真ん中にデッカイ風穴が開いておったのよ。
本来なら心臓がある場所、つまり、即刻、絶命してもおかしくないほどの致命傷じゃった。
なのに見る見るうちに傷口がふさがっていってな。
そこへ浮かび上がる不気味な蜘蛛のような痣(あざ)。
イヤ~~魂消(たまげ)た。
なんとも面妖な出来事であったわ。

※『珊瑚の出産⑮』に続く


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『珊瑚の出産⑬』


※この画像は『妖ノ恋』さまよりお借りしてます。

とにかく、もう唖然、呆然、愕然とは正(まさ)しくあの事じゃ!
戦国最強と謳(うた)われ冷酷非情な大妖怪と怖れられた、あの殺生丸さまが、人間の、それも童女のりんに膝を折られたんじゃぞ。
前代未聞の椿事(ちんじ)じゃっ!
殺生丸さまにお仕えすること幾星霜、かれこれ百五十年以上になるが、あんな場面に出喰わしたのは初めてじゃ。
いやあ、もう今でも信じられん。
そもそも殺生丸さまという御方は途轍もなく矜持がお高い。
御母堂さまにさえ頭を下げん。
天空の城に出向いた時もそうだった。
冥道残月破を真円にする秘訣を聞きにいったにも関わらず挨拶ひとつされん。
それくらい徹底しておる御方なんじゃ。
だからな、判るじゃろう。
殺生丸さまが如何にりんを大事に思っておられるかが。


そうそう、それから、女退治屋の件についても話しておかんとな。
先程、りんの話に出てきた雌の赤子を二匹産んだ珊瑚とかいう女のことじゃ。
わしは全てが終わってから知ったんじゃが、あ奴、大蜘蛛の中での戦いの際、奈落の姦計にはまりおってな、りんを殺そうとしたらしいわ。
何でも瀕死の法師を救わんが為、やむなく、りんを犠牲にしようとしたと聞いたが。
とんでもない女じゃっ!
いくら好いた男(おのこ)の為じゃろうが、わしなら許せんな。
じゃが、その珊瑚をな、殺生丸さまが特に赦(ゆる)されてお咎めなしとされたんじゃ。
むぅ~~蚤(のみ)妖怪の冥加ではないが命冥加な奴よ。
昔の殺生丸さまなら問答無用で、即、瞬殺じゃったろうに。
う~む、殺生丸さま、冥界から戻られてから頓(とみ)に慈悲深くなられてのう。
まあ、それこそが亡き父君から示された天生牙の使い手としての条件だし、ひいては爆砕牙入手の為の布石でもあったんじゃが・・・。
くぅっ、殺生丸さま、邪見は感無量にございます。
思い起こせば御自分の刀を探し求め人界をうろつき廻った長の年月、ううっ、よくぞ、よくぞここまで辛抱なされました。
ヨヨヨッ、邪見は、邪見は、嬉しゅうございます~~~(涙)×(涙)


さて話を続けるぞ。(キリッ)
その後、わしは殺生丸さまに従い西国に入国した。
殺生丸さまにとっては実に二百年ぶりの御帰還じゃった。
西国は殺生丸さまの生国(しょうごく)、今は亡きお父上、偉大なる闘牙王さまが治めておられた国じゃ。
本来なら父君が身罷(みまか)られた時点で嫡嗣(ちゃくし)である殺生丸さまが即位されるはずであった。
しかし、あ~~その何だ、皆も知っておるだろうが、殺生丸さま、お父上の形見の鉄砕牙を捜す為に出奔されてしまってな。
その結果、何と二百年もの間、国主の座が宙に浮いてしまっておったという訳じゃ。
何という凄まじい執念、流石は殺生丸さま、刀一振りの為に二百年も人界をほっつき歩いておられたとは。
あ? その間、西国はどうなっとったか?じゃと。
そこは心配せんでもいい。
父君の股肱(ここう)の臣である尾洲殿と万丈殿の御両名がビシッと国許を固めておられたんじゃから。
御母堂さまも後見として天空の城から睨(にら)みを利(き)かせておられたしな。
まあ、多少の軋轢(あつれき)やゴタゴタはあったんじゃが、ここでは割愛しておく。
いや、端折(はしょ)るなといわれても、これが実際には色々とややこやしくて。
あれこれと説明が面倒なんじゃ。
だから、ここでは省(はぶ)かせてもらう。(キリッ)


※『珊瑚の出産⑭』に続く



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珊瑚の出産⑫



※この画像は『妖ノ恋』さまの了解を得て公開しております。


りんの話に邪見は得心した。
前々から不思議だと思ってはいたのだ。
どうして、かごめの姿が見えないのかと。
とはいっても、りんを楓に預けた後、邪見は主に従って西国に赴(おもむ)いた身。
人界にかかずらう余裕など全くなかった。
というか、ある訳がない。
ああ、もう黙っとれん!
口を出させてもらうぞ。


わしはな、殺生丸さまの国主就任に伴うあれやこれやの儀式やら折衝に追われ東奔西走する日々を送っておったんじゃ。
御母堂さまを始めとして西国の重役の方々への挨拶回りとか打ち合わせとか。
本当にもう目が回るような忙しさじゃったわ。
最近、やっと殺生丸さまの身辺が落ち着いてこられてな。
こんな風に、あれこれと詮索、あ、いや、思案する暇ができたのよ。
それでな、ふと気がついたんじゃ。
いつも犬夜叉にひっついとったかごめの姿を見かけん事に。


奈落が滅した後、突如、出現した冥道に呑み込まれたかごめ。
それを救おうと犬夜叉が冥道残月破を撃ち同じように冥道に潜り込んだのまでは覚えておる。
遠巻きに眺めておったからな。
ああっ? 断じて巻き添えにならんよう避難しとった訳ではないぞ。
わしゃ、阿吽を村外れに連れてっとったんじゃ。
何でかって?
あのな、村人が阿吽を見たら怖がるじゃろうが。
双頭の竜なんぞ見たこともない奴らばっかりじゃろうし。


まあいい、話を続けるぞ。
その後、犬夜叉とかごめがどうなったかは知らん。
わしとりんは殺生丸さまに従い、一旦、村から離れたからな。
そして三日後、再度、村を訪れた。
その時には消失したはずの骨喰いの井戸が元通りになっておったな。
あれには驚いた。
一体、どういう絡繰(からくり)かと訝(いぶか)しんだもんじゃ。


どもかく、犬夜叉は、あの胡散臭い井戸を通って村に戻ってきたらしい。
しかし、あの時はそれどころではなかった。
突然、殺生丸さまが、りんを楓に預けると仰(おお)せられてな。
わしゃ吃驚(びっくり)しとったんじゃ。
りんはりんで驚きつつも直ぐさま殺生丸さまに泣いて嫌だと訴えてな。
それは、もう大変だった。
あ~~ちょっとした愁嘆場じゃったな。
そりゃまあ、りんを手放すなんて殺生丸さまもよくよく思案なされた上での事じゃろうとは思う。
あんなにりんを大事にしておられたんじゃからな。
じゃが、りんにしてみれば殺生丸さまから見捨てられるようなもんじゃ。
そうそう簡単に納得はできんじゃろう。


思い返せば、殺生丸さまがりんを拾われた時、わしは単なる気紛れだと思うておった。
どうせ、その内、どこぞの村にでも捨て置かれるであろうとな。
ところがどっこい。
捨てるどころか、何度、りんが攫(さら)われようがキッチリしっかり取り戻してこられるわ。
世話こそわしに丸投げじゃが衣食住に不自由せぬようさり気なく配慮されるわと。
これまでの殺生丸さまからは考えられんくらい大事にされてのう。
御母堂さまにも訊かれたことがあるんじゃが、冗談抜きにりんは殺生丸さまの掌中の玉と云うてよかろう。
くうっ、従者のわしなんぞより、りんの方がよっぽど大切にされておったわい(涙)。
うっ、済まん、ちと取り乱してしもうた。


とっ、ともかくじゃ、殺生丸さまの話はりんにして見れば寝耳に水。
泣いて嫌だとごねるのも当然。
どうなることかとわしは案じておった。
するとな、信じられんことが起きたんじゃ。
殺生丸さまが、あの誰よりも誇り高き御方が、御母堂さまにさえ頭を下げられん御方が!
りんの前に膝を折られてな。
必ず逢いに来ると約束されたんじゃ。
もう驚愕を通り越して驚天動地(きょうてんどうち)じゃ。
わしゃ、もう、心底、魂消(たまげ)たぞ!


※殺生丸がりんを楓に預ける件(くだり)は当サイトの第58作『決断』をご覧ください。


※『珊瑚の出産⑬』に続く。





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珊瑚の出産⑪


※この画像は『妖ノ恋』さまの了解を得て公開しております。


「殺生丸さまああああああああああぁあぁあぁあ」

けたたましい声が殺生丸の思索を断ち切った。
鬱陶しいダミ声が辺り一面に響き亘(わた)ってくる。
この声は・・・
眼下に目をやれば緑色の小妖怪が此処ぞとばかりに人頭杖を振りかざしつつ己の名を叫んでいるではないか。
矮小(わいしょう)な体躯の癖に声だけは矢鱈(やたら)とでかい邪見。
何とも騒々しい従者である。
だが、りんは喜んで声をかける。

りん:「邪見さま、良かったあ。生きてたんだね」

邪:「馬鹿者、当たり前じゃっ!」

殺生丸は素早く邪見の形(なり)から状況を見て取る。
従者のお仕着せ、海老茶の水干と烏帽子(えぼし)はボロボロの枯葉まみれになっていた。
かなり酷い目にあったようである。
とはいえこれだけ大きな声で喚けるのだ。
心配は無用だろう。
この小者(こもの)は妖力こそ大してないが昔から頗(すこぶ)る丈夫で長持ちなのが長所である。
その証拠に殴る蹴る踏みつける石をぶつけるなど思いつくままに仕置をしてきたが殆んど寝込んだり死んだ例(ためし)がない。
だからこそ、長年、己に仕えることが出来たといってもいい。
もう暫(しば)し、りんとの水入らずを楽しもうと思っていたが・・・
仕方がない。
拾い上げてやるか。

殺生丸:「阿吽、奴を引き上げろ」

ブルル~~ッ

双頭竜が承知とばかりに低く嘶(いなな)き降下する。
阿が従者をパクッと咥(くわ)え込み上昇する。
双頭竜の片割れに襟首を咥えられたままプラプラと宙に浮かぶ邪見。

邪:「こっ、こりゃっ、阿吽!何をするっ!?ちゃんと乗せんかっ!」

ギャイギャイと喚(わめ)く小妖怪が煩(うるさ)くなったのだろう。
阿が後方に向けて邪見をポイと放り投げた。

邪:「わわっ、どわああああああぁあぁあ」

放物線を描き双頭竜の尻尾あたりに落ちる邪見。
そこでハッシと阿吽の尻尾を掴み必死に鞍までズリズリと這(は)いあがってくる。
片手に人頭杖を持ちながらである。
中々に器用だ。
落ちたら命がない。
流石に死に物狂いである。
吐く息が荒い。

ゼッゼッ・・ハッ・ハッ・・

邪:「ひっ、ひいぃ~~っ、死っ、死ぬかと思ったわ」

りん:「でも、死んでないんだから凄いね、邪見さま」

邪:「だあ~~~~~~~~~~っ」

殺生丸:「煩い、黙れ」

邪:「ははっ!」

殺生丸に窘(たしな)められピタリと口を閉じる邪見。
しかし、下界に目をやった途端、又もや喋りだした。
どこまでも懲りないというか、何かあると喋らずにいられない性分である。
その何かは紅葉にも負けないほど鮮やかな真紅の童水干を身に纏う半妖の男。
云わずと知れた主の異母弟、犬夜叉である。

邪:「ややっ、殺生丸さま、ご覧ください。犬夜叉めが骨喰いの井戸に入っていきますぞ。何故あんな胡散臭い場所に?」

殺生丸:「・・・」

りん:「あのね、邪見さま、かごめさま、骨喰いの井戸を通ってこっちと御自分の国を行き来してたんだって。だから、犬夜叉さま、あの井戸に潜って試してるんだと思う」

邪:「試すって、かごめの国へ行こうとしてか?」

りん:「うん、前は犬夜叉さまも井戸を通ってあっちへ行けたそうなの」

邪:「前はって、今は出来んのか?」

りん:「井戸が閉じちゃったみたいなの」

邪:「ふ~~む、面妖な話じゃのう」


※『珊瑚の出産⑫』に続く。





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珊瑚の出産⑩



※この画像は『妖ノ恋』さまの了解を得て公開しております。


『骨喰いの井戸』、妖怪の死骸を放り込んでおけば何処(いずこ)ともなく消滅せしめるという怪(あや)しの井戸。
死骸が消滅するということは異界に通じていると考えていいだろう。
フン、実に胡散臭い場所だ。
私には関係ない事だと無視していたが・・・
確かに、あの場所は異様な匂いを発していた。
あれは私でさえ嗅いだことのない奇妙な匂いだった。
死人特有の骨と墓土の匂いでもない。
いうならば別の世界の匂い。
さしずめ『異界の匂い』とでもいうべきだろうか。


そういえば、あの女、かごめとやらの匂いもそうだった。
女の匂い自体は悪くなかった。
だが、女が身に纏(まと)う着物の匂いは余りにも異質だった。
匂いばかりではない。
あの女は見たこともない奇妙奇天烈な形(なり)をしていた。
女の身でありながら足を太腿まで顕(あら)わにする破天荒さ。
しかも、それを恥とも思っていないらしい。
慎(つつし)みの欠片もない破廉恥女。
加えて面と向かって私を侮辱する向こう見ずな気質。
何もかもが癇に障(さわ)る女だった。
だからだろう。
私は無意識にあの女を忌避(きひ)し排除しようとした。
未知なる匂いを纏う得体の知れない存在。


井戸が復活してからというもの、あの場所から犬夜叉の臭いが途切れたことはない。
村を訪問するたびに奴の臭いが新たについていた。
ということは・・・間違いない。
犬夜叉め、あ奴、三日に一度は井戸に潜り込んでおるな。
ああ、それと、いつも奴のまわりをウロチョロしている脆弱(ぜいじゃく)な仔狐妖怪、あ奴の臭いも近くに付着していた。
匂いの濃度からして、あの者も犬夜叉に負けず劣らずの頻度で井戸の周辺をうろついているようだ。
両名そろって健気(けなげ)なことよ。


しかし、見込みは殆んどあるまい。
何故なら井戸から異界の匂いが完全に消え失せている。
つまり異界と通じる道自体が閉じているのだろう。
犬夜叉も半妖とはいえ犬妖の端くれ。
私ほどではないが鼻が利(き)く。
だから、当然、奴にも分かっているはずだ。
異界の匂いがピクリともせぬ以上、どれだけ井戸に潜り込もうが無駄な足掻きだと。
それでも諦められぬのであろうな。
逢いたくて逢いたくて・・・
焦がれ焦がれて・・・
実(げ)に恋とは怖ろしきものよ。


※『珊瑚に出産⑪』に続く。


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珊瑚の出産⑨



※この画像は『妖ノ恋』さまの了解を得て公開しております。


犬夜叉の女、かごめとやらいう『巫女の失踪』。
それは殺生丸にも大いなる疑問だった。
奈落の仕掛けた罠により冥道に呑み込まれ消えた巫女。
それと同時に骨喰いの井戸なるものも消滅した。
何とも面妖なる出来事であった。
直(ただ)ちに犬夜叉が冥道残月破を放ち奴が冥道に入って巫女を追いかけたが。
よくよく考えてみれば奴は私と同じことをした訳だ。
冥界の犬に攫(さら)われたりんを私が躊躇せず追いかけたように奴も迷わず巫女を追った。
フッ、やはり我らは父を同じくする兄弟。
血は争えんということか。


その後、冥界で奴らに何が起きたのかは知らん。
我らには手の出しようもない異界での事。
それでも三日目に何やら異変が生じたことは臭いで察知できた。
というより唐突に臭いが元に戻ったのだ。
村に来てみれば井戸が忽然と元の場所に出現していた。
犬夜叉の姿は見えなかったが井戸の周辺には奴の臭いがしっかりと残っていた。
だが、巫女の匂いはなかった。
詰まる所、奴は井戸を通って戻りはしたが巫女は連れ戻せなかったということになる。


その後、りんを老巫女に託し私は西国へ帰還した。
そして亡き父の跡を継ぎ長らく空位にしていた国主の座についた。
身辺の状況が著しく変わり奴と巫女のことを気にする暇もなかったのだが。
りんに逢う為、三日おきに村を訪ねるので自然とその後の状況を知ることとなった。
というより訊ねもしないのにりんが勝手に話してくるのだ。
骨喰いの井戸から出てきた犬夜叉は「かごめは無事だ」とだけ発したという。
それから察するに犬夜叉は奈落の罠から巫女を助けることは出来たらしい。
だが、巫女を連れ帰ることは出来なかったようだ。
その後、奴はその件については堅く口を閉ざし誰にも話そうとはしないらしい。
話したくないのであろうな、己(おのれ)の失態など。


※『珊瑚の出産⑩』に続く。



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珊瑚の出産⑧




阿吽に跨(またが)り殺生丸とりんは悠々と空を逍遥(しょうよう)する。
眼下には素晴らしい眺めが広がっている。
今が盛りの紅葉は錦の如く山野を飾り鄙(ひな)びた里を雅(みやび)に彩る。
まるで豪華な金糸銀糸で縫い取った紅の巻物を広げたかのような艶(あで)やかさだ。
この時代、いや遥か後の世まで人は殆んど一生を地べたに這(は)いつくばって生きるのが常。
そんな庶民は勿論のこと、大名や貴族でさえ及びもつかない高さから見下ろす絶景である。
最高の贅沢といっても過言ではない。

りん:「綺麗だね~~殺生丸さま」

殺生丸:「・・・」

りんがはしゃいで話しかける。
しかし普段から無口な大妖は黙して語らない。
とはいえ、それはいつものことなので大して気にもせずりんは喋り続ける。

りん:「邪見さま、どこらへんに落っこちたのかなあ?」

キョロキョロと下を覗(のぞ)いて緑色の小妖怪を捜す幼女。
余りにも身を乗り出すので今にも落ちそうだ。
粗忽者(そこつもの)の従者のせいでりんが落ちては堪(たま)ったものではない。
殺生丸は渋々ながら双頭竜に指示を出した。

殺生丸:「阿吽・・・高度を下げて邪見を捜せ」

ブルッ ブルル~~ッ

承知とばかりに阿と吽が低く嘶(いなな)く。
人が胡麻粒のようにしか見えない高さから徐々に高度を落としていく。
りんに負担をかけないよう、ゆるやかな螺旋を描くように空中を滑らかに降りる双頭竜。
急激に降下すると脆弱な人の身であるりんは耳鳴りをおこすのだ。
上空三十間(大体50mくらい、間《けん》=約1.818m)あたりの高さでひとまず停止。
そのままの高度を維持しつつジックリと周辺を見て回る。
これくらいの高さならりんの肉眼でも下の様子がよく分かる。

りん:「あっ、犬夜叉さまが!」

幼女の指さす方を見れば鮮明な紅の童水干が目に入ってきた。
確かに不肖の異母弟だ。
懐手(ふところで)の思案顔で歩いている。
犬夜叉が向かう先、それは恐らくあの場所だろう。
奴の匂いが濃厚に臭う、あの因縁の場所。

りん:「骨喰いの井戸にむかってるみたい」

殺生丸:「・・・」

りんが殺生丸を振り返り少し心配そうに訊(き)いてきた。

りん:「ねえ、殺生丸さま、かごめさま、戻ってくるよね?」

殺生丸:「・・・」

りん:「楓さまに聞いても難しい顔して『分からん』っておっしゃるの。法師さまもそう。七宝に訊いたら泣きそうな顔で『知らん!』って逃げちゃうし。かごめさま、どうして戻ってこないのかなあ?それとも戻ってこれないのかな?」


※『珊瑚の出産⑨に続く。



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珊瑚の出産⑦



※この画像は『妖ノ恋』さまの了解を得て公開しております。

邪見が指摘するまでもなく殺生丸はりんに纏(まと)いつく異臭に気付いていた。
犬妖の鋭敏な嗅覚が否応(いやおう)なく嗅ぎつけたのだ。
それも一つではなく異臭は二つ。
ひとつは出産によって珊瑚とかいう女退治屋の血と体液が混じり合ったもの。
もうひとつは云うまでもなく犬夜叉の体臭。
両方とも危険な臭いではない。
だが、心地よい範疇(はんちゅう)には決して入らない代物である。
特に犬夜叉の臭いは問題だ。
例え異母弟であろうと男は男。
りんに己以外の男の匂いが染み付くなど断じて許せるものでははない。
当然、殺生丸の心は波立ち弥(いや)が上にも苛立ちは募る。
そんな荒れ狂う主の心中も察せず従者は目の前でペラペラと賢(さか)しげに喋りちぎる。
抑えようもなく湧きあがる殺意。
秀麗な顔貌の眉間に刻まれた皺(しわ)は益々深まり・・・

イライラ・・イライラ・・イラッ(怒)!

ボカッ!

気がつけば殺生丸は渾身の力を込めて邪見を空高く蹴り飛ばしていた。
まったく空気を読まない下僕への意趣返しである。
緑色の小妖怪はアッという間に見えなくなった。
それと同時に殺生丸の胸の内の苛立ちも急速に収まった。


フン、邪見め。
相変わらず何と口の軽い。
私の不興を買っておきながら一向に気付かぬとは・・・。
迂闊(うかつ)者めが!
いつもの事ながら呆れるわ。
山の向こうで海よりも深く反省するがいい。
さて邪見の捜索を口実にりんと空中を散歩するか。


殺生丸は鞍の前にりんを乗せ阿吽に跨(またが)った。
鐙(あぶみ)に足をかける。
軽く手綱を引き阿吽に飛行の指示をだす。
双頭竜が妖雲を発生させ上昇を始めた。
そのまま一気に上昇気流にのり上空に落ち着く。
見下ろせば村どころか周囲を一望できる高さだ。
高度が上がった分、絶えず風がビュウビュウと強く吹き付けてくる。
瞬時に幼女から不快な臭いが消えた。
文字通りの雲散霧消である。
殺生丸の狙い通りに風がりんに纏(まと)いつく異臭を吹き飛ばしたのだ。

くしゅんっ!

りんが風の冷たさに震えて小さくクシャミをした。

ファサ・・・

殺生丸が自身の毛皮でりんの全身を包み込んだ。
密集した毛が冷気の進入を阻(はば)む。
白銀の毛皮から顔だけチョコンと出してりんが笑っている。
満面の笑顔だ。

りん:「ありがとう、殺生丸さま。凄~~く暖かい」

強大無比な大妖の口角が僅(わず)かに上がる。
殺生丸がりんだけに見せる微笑だ。
嫉妬深い男は己が匂いをりんに纏わせ満足気にほくそ笑んだ。


※『珊瑚の出産⑧』に続く。




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珊瑚の出産⑥



※この画像は『妖ノ恋』さまの了解を得て公開しております。

りんに誉(ほ)められ気をよくする緑色の小妖怪。
煽(おだ)てに乗りやすいというか実に分かりやすい性格である。
あるのか無いのかよく分からない鼻をググッと得意気にうごめかし邪見は胸を張った。
と次の瞬間、凄まじい衝撃を受けた。

ドゴォッ!

ビューーーーーーーーーーーーーーーーーーー

気がつけば鳥のように風を切り空高く飛んでいるではないか。
見る間に地上が遠くなる。
殺生丸に蹴り飛ばされたのだ。
見事な放物線を描き遥か彼方へと飛んでいく緑色の小物体。
元々、小さな身体はアッと言う間に塵のように小さくなっていく。

(あ”あ”ぁ”~~~~~~~~~~~~~~~~~)

邪見の悲鳴が次第に遠のいていく。

りん:「邪見さま、飛んでっちゃった」

ドンドン小さくなる姿にりんがポソッと呟く。
あまり驚いてない。
というのも慣れっこなのだ。
りんが殺生丸と共に旅をしていた頃、小妖怪は迂闊(うかつ)な失言を屡々(しばしば)重(かさ)ねては主の怒りを買っていた。
そして、その度に殺生丸から手厳しく折檻される邪見を、りんは目にしていた。

殺生丸:「・・・放っておけ。その内、戻ってくる」

りん:「は~い、殺生丸さま」

殺生丸:「今日は阿吽を連れてきた。顔を見せてやれ」

りん:「はい」

少し歩いた場所に双頭の竜が繋がれていた。
殺生丸の騎乗する阿吽である。
りんの匂いに気付いて興奮しているのだろう。
二頭が交互に低く嘶(いなな)きをあげる。

ブルッ ブルッ ブルルル~~ッ

りん:「わあっ、阿・吽、久し振りだね」

そのまま、りんは双頭竜に抱きついた。
阿吽も嬉しそうにりんに頬ずりをする。
大層な懐きようである。
まるで主人に甘える犬のようである。
思えば幼女が旅に加わった最初から妖獣はりんに懐いていた。
非常に珍しいことである。
阿と吽は主人に似て大層気難しい。
気に入らない者には洟(はな)も引っかけない。
それどころか見知らぬ者には容赦なく威嚇し攻撃することさえある。
邪見など、従者になったばかりの頃は全く懐いてもらえず、散々、苦労している。
己の騎獣と戯(たわむ)れるりんに殺生丸が声をかけた。

殺生丸:「りん、阿吽に乗って空を飛んでみるか?」

りん:「えっ、いいの?」

殺生丸:「邪見の捜索もある。周辺を見て廻るとしよう」

りん:「はいっ!」

かくして殺生丸とりんは阿吽に同乗して晩秋の空中散歩へと出かけることになった。


※『珊瑚の出産⑦』に続く。


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珊瑚の出産⑤



※この画像は『妖ノ恋』さまの了解を得て公開しております。


りんが近づくにつれ邪見がクンクンと臭いを嗅ぎだした。
何か気になる臭いがするらしい。

邪見:「こりゃ、りん、お前、怪我でもしたのか?」

りん:「へっ!?」

邪見:「『へっ』ではない。微かだが、お前から血の臭いがするではないか」

邪見にいわれ、クンクンと自分の身体の匂いを嗅ぐりん。

りん:「血の臭い? あっ、そうだ、あたし、さっきまで楓さまと一緒にお産を手伝ってたの。だから血の臭いがしたんじゃないかな」

邪見:「お産だと。誰のじゃ?」

りん:「珊瑚さん」

邪見:「珊瑚? ああ、あの女退治屋のことか。そういえば、あの女、腹がでかかったな。そうか、子を産んだのか。となると父親は法師か」

りん:「うん、そうなの。それでね、お産が始まった時、法師さまはお仕事で村にいなかったんだけど七宝が飛んで教えてあげてね、慌てて駆けつけたんだって」

邪見:「仕事をおっぽり出してか?」

りん:「うん、でもね、後は犬夜叉さまに任せてきたんだって」

邪見:「犬夜叉にか?大丈夫か?あ奴に任せて。力まかせに家屋敷までぶっ壊したりせんかったじゃろうな」

りん:「大丈夫だったみたい。米俵を三俵ももらって帰ってきてたから」

邪見:「ほっ、相変わらずの馬鹿力じゃの。んっ?ということは、りん、お前、犬夜叉に会ったのか?」

りん:「うん、いきなり法師さまが現れて楓さまを連れてっちゃったから、あたし、道の途中で置き去りにされちゃって。そしたら、犬夜叉さまが茂みから出てきて一緒に珊瑚さんの家までついてきてくれたの」

邪見:「ふ~ん、そうか。して女退治屋が産んだのはどっちじゃ? りん、雄か?雌か?」

りん:「もう、邪見さまったら。犬猫じゃないんだから。女の子だったよ。それも双子なの。珍しいでしょ。ちっちゃいけど元気な子達でね。楓さまが云うには双子にしては大きい方なんだって」

邪見:「ふむ、人間は一度に一匹しか産まんのが普通じゃからな。それを二匹も産むんじゃ。母親の負担は大きい。その分、小さく産まれるのは自然の理(ことわり)じゃな」

りん:「へ~そうなんだ。邪見さまって物識りだね」

邪見:「うおっほん、まっ、それほどでもないがな」


※『珊瑚の出産⑥』に続く。



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