※この画像は『妖ノ恋』さまよりお借りしてます。
とにかく、もう唖然、呆然、愕然とは正(まさ)しくあの事じゃ!
戦国最強と謳(うた)われ冷酷非情な大妖怪と怖れられた、あの殺生丸さまが、人間の、それも童女のりんに膝を折られたんじゃぞ。
前代未聞の椿事(ちんじ)じゃっ!
殺生丸さまにお仕えすること幾星霜、かれこれ百五十年以上になるが、あんな場面に出喰わしたのは初めてじゃ。
いやあ、もう今でも信じられん。
そもそも殺生丸さまという御方は途轍もなく矜持がお高い。
御母堂さまにさえ頭を下げん。
天空の城に出向いた時もそうだった。
冥道残月破を真円にする秘訣を聞きにいったにも関わらず挨拶ひとつされん。
それくらい徹底しておる御方なんじゃ。
だからな、判るじゃろう。
殺生丸さまが如何にりんを大事に思っておられるかが。
そうそう、それから、女退治屋の件についても話しておかんとな。
先程、りんの話に出てきた雌の赤子を二匹産んだ珊瑚とかいう女のことじゃ。
わしは全てが終わってから知ったんじゃが、あ奴、大蜘蛛の中での戦いの際、奈落の姦計にはまりおってな、りんを殺そうとしたらしいわ。
何でも瀕死の法師を救わんが為、やむなく、りんを犠牲にしようとしたと聞いたが。
とんでもない女じゃっ!
いくら好いた男(おのこ)の為じゃろうが、わしなら許せんな。
じゃが、その珊瑚をな、殺生丸さまが特に赦(ゆる)されてお咎めなしとされたんじゃ。
むぅ~~蚤(のみ)妖怪の冥加ではないが命冥加な奴よ。
昔の殺生丸さまなら問答無用で、即、瞬殺じゃったろうに。
う~む、殺生丸さま、冥界から戻られてから頓(とみ)に慈悲深くなられてのう。
まあ、それこそが亡き父君から示された天生牙の使い手としての条件だし、ひいては爆砕牙入手の為の布石でもあったんじゃが・・・。
くぅっ、殺生丸さま、邪見は感無量にございます。
思い起こせば御自分の刀を探し求め人界をうろつき廻った長の年月、ううっ、よくぞ、よくぞここまで辛抱なされました。
ヨヨヨッ、邪見は、邪見は、嬉しゅうございます~~~(涙)×(涙)
さて話を続けるぞ。(キリッ)
その後、わしは殺生丸さまに従い西国に入国した。
殺生丸さまにとっては実に二百年ぶりの御帰還じゃった。
西国は殺生丸さまの生国(しょうごく)、今は亡きお父上、偉大なる闘牙王さまが治めておられた国じゃ。
本来なら父君が身罷(みまか)られた時点で嫡嗣(ちゃくし)である殺生丸さまが即位されるはずであった。
しかし、あ~~その何だ、皆も知っておるだろうが、殺生丸さま、お父上の形見の鉄砕牙を捜す為に出奔されてしまってな。
その結果、何と二百年もの間、国主の座が宙に浮いてしまっておったという訳じゃ。
何という凄まじい執念、流石は殺生丸さま、刀一振りの為に二百年も人界をほっつき歩いておられたとは。
あ? その間、西国はどうなっとったか?じゃと。
そこは心配せんでもいい。
父君の股肱(ここう)の臣である尾洲殿と万丈殿の御両名がビシッと国許を固めておられたんじゃから。
御母堂さまも後見として天空の城から睨(にら)みを利(き)かせておられたしな。
まあ、多少の軋轢(あつれき)やゴタゴタはあったんじゃが、ここでは割愛しておく。
いや、端折(はしょ)るなといわれても、これが実際には色々とややこやしくて。
あれこれと説明が面倒なんじゃ。
だから、ここでは省(はぶ)かせてもらう。(キリッ)
※『珊瑚の出産⑭』に続く
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