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珊瑚の出産⑧




阿吽に跨(またが)り殺生丸とりんは悠々と空を逍遥(しょうよう)する。
眼下には素晴らしい眺めが広がっている。
今が盛りの紅葉は錦の如く山野を飾り鄙(ひな)びた里を雅(みやび)に彩る。
まるで豪華な金糸銀糸で縫い取った紅の巻物を広げたかのような艶(あで)やかさだ。
この時代、いや遥か後の世まで人は殆んど一生を地べたに這(は)いつくばって生きるのが常。
そんな庶民は勿論のこと、大名や貴族でさえ及びもつかない高さから見下ろす絶景である。
最高の贅沢といっても過言ではない。

りん:「綺麗だね~~殺生丸さま」

殺生丸:「・・・」

りんがはしゃいで話しかける。
しかし普段から無口な大妖は黙して語らない。
とはいえ、それはいつものことなので大して気にもせずりんは喋り続ける。

りん:「邪見さま、どこらへんに落っこちたのかなあ?」

キョロキョロと下を覗(のぞ)いて緑色の小妖怪を捜す幼女。
余りにも身を乗り出すので今にも落ちそうだ。
粗忽者(そこつもの)の従者のせいでりんが落ちては堪(たま)ったものではない。
殺生丸は渋々ながら双頭竜に指示を出した。

殺生丸:「阿吽・・・高度を下げて邪見を捜せ」

ブルッ ブルル~~ッ

承知とばかりに阿と吽が低く嘶(いなな)く。
人が胡麻粒のようにしか見えない高さから徐々に高度を落としていく。
りんに負担をかけないよう、ゆるやかな螺旋を描くように空中を滑らかに降りる双頭竜。
急激に降下すると脆弱な人の身であるりんは耳鳴りをおこすのだ。
上空三十間(大体50mくらい、間《けん》=約1.818m)あたりの高さでひとまず停止。
そのままの高度を維持しつつジックリと周辺を見て回る。
これくらいの高さならりんの肉眼でも下の様子がよく分かる。

りん:「あっ、犬夜叉さまが!」

幼女の指さす方を見れば鮮明な紅の童水干が目に入ってきた。
確かに不肖の異母弟だ。
懐手(ふところで)の思案顔で歩いている。
犬夜叉が向かう先、それは恐らくあの場所だろう。
奴の匂いが濃厚に臭う、あの因縁の場所。

りん:「骨喰いの井戸にむかってるみたい」

殺生丸:「・・・」

りんが殺生丸を振り返り少し心配そうに訊(き)いてきた。

りん:「ねえ、殺生丸さま、かごめさま、戻ってくるよね?」

殺生丸:「・・・」

りん:「楓さまに聞いても難しい顔して『分からん』っておっしゃるの。法師さまもそう。七宝に訊いたら泣きそうな顔で『知らん!』って逃げちゃうし。かごめさま、どうして戻ってこないのかなあ?それとも戻ってこれないのかな?」


※『珊瑚の出産⑨に続く。



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