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珊瑚の出産⑨



※この画像は『妖ノ恋』さまの了解を得て公開しております。


犬夜叉の女、かごめとやらいう『巫女の失踪』。
それは殺生丸にも大いなる疑問だった。
奈落の仕掛けた罠により冥道に呑み込まれ消えた巫女。
それと同時に骨喰いの井戸なるものも消滅した。
何とも面妖なる出来事であった。
直(ただ)ちに犬夜叉が冥道残月破を放ち奴が冥道に入って巫女を追いかけたが。
よくよく考えてみれば奴は私と同じことをした訳だ。
冥界の犬に攫(さら)われたりんを私が躊躇せず追いかけたように奴も迷わず巫女を追った。
フッ、やはり我らは父を同じくする兄弟。
血は争えんということか。


その後、冥界で奴らに何が起きたのかは知らん。
我らには手の出しようもない異界での事。
それでも三日目に何やら異変が生じたことは臭いで察知できた。
というより唐突に臭いが元に戻ったのだ。
村に来てみれば井戸が忽然と元の場所に出現していた。
犬夜叉の姿は見えなかったが井戸の周辺には奴の臭いがしっかりと残っていた。
だが、巫女の匂いはなかった。
詰まる所、奴は井戸を通って戻りはしたが巫女は連れ戻せなかったということになる。


その後、りんを老巫女に託し私は西国へ帰還した。
そして亡き父の跡を継ぎ長らく空位にしていた国主の座についた。
身辺の状況が著しく変わり奴と巫女のことを気にする暇もなかったのだが。
りんに逢う為、三日おきに村を訪ねるので自然とその後の状況を知ることとなった。
というより訊ねもしないのにりんが勝手に話してくるのだ。
骨喰いの井戸から出てきた犬夜叉は「かごめは無事だ」とだけ発したという。
それから察するに犬夜叉は奈落の罠から巫女を助けることは出来たらしい。
だが、巫女を連れ帰ることは出来なかったようだ。
その後、奴はその件については堅く口を閉ざし誰にも話そうとはしないらしい。
話したくないのであろうな、己(おのれ)の失態など。


※『珊瑚の出産⑩』に続く。



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