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『散華(さんげ=桔梗=)』(二十万打お祝い作品)



※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。

ピシッ・・・ピシピシッ・・・ビシッ!
奈落の瘴気に穢(けが)され体がひび割れていく。
この体は仮初(かりそ)めの容れ物。
私の魂を納める為に、鬼女、裏陶(うらすえ)が骨と土から焼きあげた擬(まが)い物。
血は通っていない。
生身ではない。
それでも痛みは感じる。
このままでは私の体は崩れ落ちる。
私を救う為に、かごめが梓山に向かった。
霊廟に奉納されている弓を取りに。
犬夜叉と二人残され、お堂に籠(こ)もっていた。
だが、不意に感じた異変。
琥珀が危ない!
助けに行かねばっ!!
巫女たる私が使役する二体の式神、胡蝶と飛鳥が消えた。
間違いなく奈落の手の者の仕業(しわざ)。
お堂から飛び出し犬夜叉とともに琥珀の許へと急行した。
もし、琥珀が奈落の手に落ちたら・・・・。
今の私では琥珀を守れない。
欠片が穢される。
急いでくれ、犬夜叉。
そんな私の目に飛び込んできた異様な光景。
樹木が半円を描くようにスッパリと斬り取られていた。
まるで大きな鎌で刈り取ったかのようだ。
その大きさと形状から考えても尋常ではない。
どう考えても人間の仕業(しわざ)とは思えない。
犬夜叉は、ココで琥珀の匂いが途切れているという。
一体、誰が・・・・奈落か?
クッ、瘴気が拡がっている。
ビシッ!
またしても体がひび割れた。
ひとまず梓山へ急ぐしかない。
ギシ、ギシ、パン!
何と・・・手に持っていた弓が砕けてしまった。
バラバラと砕け散り、最早、使い物にならない。
悪い予感がする。
もしや、かごめの身に何か?
梓山に辿り着けば、麓(ふもと)には法師殿や退治屋、鋼牙に子狐妖怪が待機していた。
かごめのみが梓山に導かれたようだ。
さもありなん、梓山の精霊は人を試す。
幻を見せ心を惑わすのだ。
こうなった以上、私にはどうすることも出来ない。
私を救えるのは、かごめだけ。
そして、救うか救わないか・・・・決めるのもかごめだ。
梓山がざわめいた。
中で何が起きているのか。
恐らくは、かごめが決断を下したのだろう。
だが、私は動けない。
犬夜叉が、かごめを迎えに行った。
ゴオ・・・・
奈落が来ている。
押し寄せる邪気。
大気が揺らぐ。
せめて、鋼牙だけでも逃がしたい。
頼む、逃げてくれ、鋼牙。

「鋼・・・牙・・・逃げろ・・・」

それでも誰一人として逃げようとはしない。
みんな見えないのか。
この蜘蛛の糸が。
ドン・・・ドンドン!
奈落が吐き出す蜘蛛の糸に、みんな絡め取られてしまった。
巨大な糸玉に包まれたまま梓山から遠ざかっているようだ。
ある程度、霊山から離れ頃は良しと見たのか奈落が蜘蛛の糸を切り離した。
私は捕らえられ奴の腕の中に。
奈落は左腕で私を抱き右腕は犬夜叉から奪った金剛槍破の腕に変化させている。
このまま息絶える私を見届けようというのか。
落ち着け、この状況では、ジタバタしてもどうもならない。
考えろ、何故、奈落は、あの場で攻撃してこなかったのだ。
もしや・・・そうか、かごめは弓を手に入れたのだ。
奈落の悪意の籠もった蜘蛛の糸を断ち切って。
だから、奈落は、梓山から、かごめと犬夜叉から離れようとしたのか。
私が思索を巡らす間にも戦闘は続いている。
鋼牙が奈落に挑んでいる。
愚かな・・・鋼牙、このまま四魂の欠片を取られたら、おまえは無駄死に・・・。
何・・・あれは!?
鋼牙の足の欠片が物凄い勢いで浄化されている。
これは、翠子の魂の意思なのか!?
そうか、琥珀の清浄な欠片が使えない今、鋼牙の欠片を代わりに。
このまま鋼牙の欠片を奈落が取り込めば、この場で一気に奈落を滅することが出来る。
そして、そのことに奈落は、まだ気付いてない。
奈落が弱らせた獲物を甚振(いたぶ)るかのように私に喋りかけてきた。

「くくく、よく見ていろ、桔梗。きさまは何もできぬまま四魂の玉は、また一歩、完成に近付く」

奈落に気付かせてはならない。
鋼牙の欠片が浄化されていることを。
奴の気を逸らさねば!

「ふっ、ならば急ぐことだな・・・。犬夜叉とかごめは、すぐソコまで来ている」

「なに・・・・?」

「奈落、きさまが、ワザワザ私たちを梓山の麓から引き離したのは、あの場に居続けるのが危ないと思ったから——。気付いているはずだ。かごめが、既に、きさまの悪意の蜘蛛の糸を断ち切っていることを」

そう、奈落、きさまは判っているはず。
お前の今までの行動は全て、綿密な計算の下、為されてきたのだから。

「かごめが・・・蜘蛛の糸を断ち切っただと・・・。何故、そう思う」

「きさまと私が・・・蜘蛛の糸で繋がっているからだ。だから判る。きさまの蜘蛛の糸の先に、かごめは居ない」

「ふっ・・・」

奈落が鋼牙に向けて瘴気を放った。
触手に捕らえられ奈落の内部に引きずりこまれかけている鋼牙。
そうだ、奈落。
そのまま鋼牙の欠片に触れろ。
鋼牙の欠片は奈落、きさまと同時に———糸で繋がった私をも浄化する。
私が力を取り戻し翠子とともに奈落を浄化すれば———鋼牙の命も救えるはず。
奈落、私は死なない。
汚らわしいきさまの腕に捕らえられたまま死ぬものか!
触手が鋼牙の欠片に・・・・触れた!
カッ!一瞬、眩しい光が走り奈落をも浄化するかと思えた。
だが、瞬時に奴は身の危険を覚(さと)ったのだろう。
即座に鋼牙の欠片から触手引きを離した。
私の目論見は潰(つい)えた。
我が身を侵食する穢れは祓(はら)えず奈落から逃げることも出来ない。
バキバキバキ・・・・この身に喰い込むのは奈落の腕が変化した金剛石の触手。

「くくく・・・そうだな、桔梗・・・きさまとわしは蜘蛛の糸でつながっている」

「だから———伝わってきた。わしに対する憎しみと軽蔑と———犬夜叉への未練がな」

ギシ・・・触手が喰い込んでくる。
こうなってまでも心に浮かぶのは愛しい面影。
(犬・・・夜叉・・・)

「言っただろう、桔梗・・・」

「きさまは犬夜叉に会えぬまま、憎いわしの腕の中で死んでいくと」

その時、犬夜叉が憤怒に燃え叫びながら飛び込んできた。
鉄砕牙で奈落の金剛石の触手に斬り付けた。
かごめも来ている。
梓山の霊廟から受けた弓で矢を射ようとしていた。
だが、今は、その時ではない。
(待・・・て・・・)
言葉を発さず唇の動きだけで我が意を伝える。
鉄砕牙が変化した。
鱗(うろこ)が刀身にビッシリ浮かんでいる。
あれは・・・?
そうか、竜鱗(りゅりん)の鉄砕牙というのか。
犬夜叉が奈落の左腕を竜鱗の鉄砕牙で斬った。
ガガッ!
金剛石の腕が断ち切られた。
しかし、すぐさま再生し始める・・・・違う。
ビシビシッ!
ブワッ・・・・ゴオォォ・・・
奈落の体が開いた。
犬夜叉の竜鱗の鉄砕牙が効いているのか。
それと鋼牙の欠片が奈落に及ぼした影響。
暗黒の深い闇の中、黒い輝きが見える。
あれは四魂の玉だ。
もう少しで完成する。
残るのは鋼牙の両足に仕込まれた欠片と琥珀の三つのみ。
犬夜叉が四魂の玉ごと奈落を斬ろうと向かう。
それを阻止せんとしたのだろう。
奈落が私を解放した。
落ちていく私を助けようと犬夜叉が奈落から離れた。
その隙に体を閉じていく奈落。
犬夜叉の代わりに鋼牙が奈落に向かっていく。
翠子の意思に沿って、奈落を浄化された欠片に触れさせ、この場で一気に滅せんとの思惑だろう。
駄目だ、鋼牙、そのまま進めば奈落の思う壺。
奈落は四魂の玉を持っていない。
かごめも気付いたのだろう。
飛び出した鋼牙を止めようと必死に声をかけている。
触手が鋼牙を捕らえた。
このままでは奈落に取り込まれてしまう。
だから犬夜叉に鋼牙を助けに行かせた。

「行け・・・鋼牙を救え・・・」

五雷指で触手を断ち切ろうとする鋼牙。
だが、大量の瘴気を浴びせられては身動きさえ出来なくなる。
あのままでは鋼牙は金剛石の腕に包まれ奈落に呑み込まれてしまうと誰もが危惧していたはず。
しかし、法師殿が捨て身の覚悟で風穴を開き鋼牙の周囲に充満する瘴気を限界まで吸い出してくれた。
そうした援護に呼応するように鋼牙自身も内部から五雷指を発動させた。
カカッ、ドガッ!
更に弱くなった部分を犬夜叉が鉄砕牙で斬り付け突破口を開いた。
穢れた四魂の玉は私の懐にある。
奈落が咄嗟の判断で私の中に隠したのだ。
通常の私なら楽々と四魂の玉の穢れを浄化できただろう。
なれど、今の私は身動き一つままならない。
かごめが谷間に横たわる私を見下ろす場所にいる。
破魔の弓で狙い撃つには絶好の位置。
ここが戦いの先途、呼ぼう、死魂虫(しにだまちゅう)を。
目を瞑り一心に呼びかける、我が忠実なる僕達に。

(来い、死魂虫、我が僕! 疾(と)く駆け付けよ!)

何匹もの死魂虫が私の召喚に応じて飛んできた。
来たか、カッと目を見開き、かごめに合図を送る。

(今だ、かごめ、撃て!)

奈落が、こちらの意図に気付いた。
直ぐさま触手を伸ばし、かごめの足場を切り崩しにかかった。
だが、落ちかかるかごめを空中で死魂虫の集団が抱き留め支える。
バキバキ!ザア・・・今度は触手を私に向けてきた奈落。
四魂の玉を奪い返す気だ。
かごめが矢を射た。
破魔の弓が速いか、触手が先に到達するか。
ドッ、一瞬の差で破魔の弓が私の懐の四魂の玉を射抜いた。
カッ・・・浄化!
霊力が発動する。
私が持てる限りの霊力で破魔の弓を奈落に向ける。
弓の先には四魂の玉が刺さっている。
ゴッ、キィィ–——ン

(行け! 奈落を滅せよ!)

死魂虫に援護された破魔の弓が奈落の厚い瘴気の雲を掻い潜る。
弓に寄り添うように護っていた死魂虫達が瘴気に焼かれボロボロと崩れ落ちていく。
・・・・すまない、お前たち。
四魂の玉の内部に穢れが侵食し始めた。
それでも破魔の弓は奈落の胸元に到達した。
ドン! 激しい衝撃音。
バチバチ・・・ガガガ・・・・
霊力が奈落を内部から破壊している。
その影響で邪気が弱まったのだろう。
鋼牙が犬夜叉に助けられ奈落から脱出していく。
だが、逃げる鋼牙に奈落の触手が追い縋る。
キィ———ン・・・触手に鋼牙の両足の欠片をもぎ取られてしまった。
これで四魂の玉は、ほぼ完成した。
残るは唯ひとつ、琥珀の欠片のみ。
玉の中で尚も激しく鬩(せめ)ぎあい、ぶつかり合う私の霊力と奈落の邪気。
互いが互いを呑み込まんと死力を尽くして闘っている。
バチッ、バチバチ・・・バババッ・・・もがき苦しむ奈落。
だが、私には判っている。
この戦いは、もう先が見えている。
やはり、奈落に穢された私の霊力では・・・・。

「かごめ・・・後は・・・おまえが・・・」

四魂の玉の内部に邪気が拡がる。
邪気に染まった黒い四魂の玉を懐に奈落が力を取り戻す。
ジュッ・・・・奈落が破魔の弓を焼き尽くした。

「最後の欠片・・・琥珀の・・・光を守れ・・・かごめ・・・おまえにしか・・・出来ないことだ」

そう・・もう・・・お前にしか出来ない。
私は・・・ここで力尽きる。
間もなく・・・この体は崩れ落ちるだろう。
これ以上・・・魂を留めておけないのだ。
私の言葉に、かごめが戸惑っている。
バキバキッ!奈落が空中から触手を伸ばしてきた。
私に最後の止(とど)めを刺そうというのだろう。
バッ!かごめが躊躇(ちゅうちょ)せず私の上に覆い被さった。
こんな時でも私を庇(かば)ってくれるのだな、おまえは。
触手は犬夜叉が鉄砕牙で叩き切った。
捨て台詞とともに奈落は虚空に姿を消した。
傍(かたわ)らにあるのは梓山の弓、かごめが命がけで取ってきてくれた破魔の弓。
かごめ、おまえに託す。

「もう・・・おまえの物だ・・・」

戦いは終わった。
残照が辺りを照らしだす。
赤い赤い夕焼け。
陽が落ちる。
次第に暗くなっていく。
かごめが泣いている。

(泣くな・・・かごめ・・・私の魂は救われた・・・)

星が見える。
瞬(またた)く間に天空一杯に星が輝く。
・・・・静かだな。
私の心は凪いでいた。
犬夜叉の腕に抱かれながら言葉を交わす。

「やっと・・・ただの女になれた・・・」

私の頬を伝って犬夜叉の涙が落ちる。
一滴・・二滴・・・温かい。
哀惜に満ちた涙。
泣いてくれるのか、犬夜叉。

「初めて見た・・・犬夜叉・・・お前は・・そんな顔をして泣くんだな・・・」

「桔梗・・俺は・・・俺は・・おまえを救えなかった!」

「・・・・おまえは・・・来てくれた・・・」

「それでいい・・・」

そう、これでいいのだ、犬夜叉。
やっと・・・五十年前に出来なかった別れを告げることが出来る。
複雑にもつれ合った前世の因縁が解けていく。
犬夜叉、もう一度、おまえに会いたかった。
只の女としておまえと一緒に暮らしたかった。
そんな私の願いを天は聞き届けてくれた。
かごめは私の生まれ変わり。
私がなりたかったもう一人の私。
かごめが私の望みを叶えてくれる。
犬夜叉と口付けを交わした。
最初で最後の口付け。
(犬夜叉・・・)
フッ・・・・器(うつわ)が完全に朽ちた。
ああ・・・魂が解き放たれる。
在るべき場所に還る時がきた。
死魂虫に導かれ魂が天に昇る。
遠ざかる下界に最後の願いを祈るように手向(たむ)けた。
(かごめ・・・犬夜叉を頼む・・・・)

         了

2009.12月10日.(木).作成

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