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第五作目『瘴気』

邪見が毒ヘビに噛まれた。
琥珀とかいう、以前、奈落の手先に使われていた小僧の巻き添えを喰ったのだ。
忌々しい!
私が、りんに注意した舌の根も乾かぬ内に、このような面倒に巻き込まれおって。
奈落の分身、夢幻の百夜の放った瘴気に満ちた毒ヘビ。
毒消しの薬草を飲ませねばなるまい。
小僧が死のうが生きようが、どうでもいいが、りんが放っては置くまい。
それに、どうやら、百夜が小僧を拉致しようとしたのは、奈落にとって利用価値があるという事なのだろう。 
仕方がない、阿吽に乗せて移動させるか。
りんが、邪見と小僧を乗せた阿吽の手綱を操りながら、尋ねてきた。

「殺生丸さまっ、地念児さんの畑に行くの? いつか、邪見さまが毒虫に刺された時、薬草を教えてくれた人の所だよね?」 

確かに、あそこへ行くしかあるまい。
少々の毒ならば、普通の薬草で間に合うだろうが。
奈落の瘴気が仕込まれた毒では、あの半妖が栽培している特製の薬草でなければ効果が無かろう。
阿吽と並ぶように空を往く殺生丸の鼻腔に、不快な臭いが風に乗り漂って来る。
小僧・・・・琥珀とか言う名であったか。
まだ少年とはいえ、人間の男。
りんが、しきりに気に掛けているのも気に入らぬ。 
そもそも、あ奴は、奈落に操られて、一度、りんを殺そうとした。 
白霊山では、洞穴に迷い込んだりんを逃がそうとしたらしいが。 
ともかく、動けるようになり次第、犬夜叉達の処にでも厄介払いした方が良いだろう。 
邪見には・・・・治ったら百叩きの罰をくれてやる!
あ奴まで噛まれなければ小僧を地念児の畑まで連れて往かせたものを。
りんを小僧の側に居させる必要も無かったものを。
役立たずめ!
殺生丸は、先程から、己の心中に湧き出してくる感情に翻弄されていた。
未だ曾てないような激しい苛立ち。
このような気持ちは経験した事が無い。
その感情が、嫉妬と呼ばれる類のものである事を、殺生丸は、知らない。
数百年の彼の生において、そのような感情を持つ必要が一度も無かったが故に。
薬草畑の中に一軒だけポツンと建っている掘立小屋が、地念児の家だった。
阿吽を畑の外に留めると、りんは素早く降り立ち、小屋に向かって走りながら、殺生丸に叫んだ。

「殺生丸さま! りん、薬草を分けてもらってくるから! 邪見さま達を見ててねっ!」

私が、こ奴らをか? 
邪見は瘴気が効いてきたのか、まだ意識はあるようだが青息吐息の状態だ。 
小僧の方は意識を失ったままだ。
りんが、入り口に掛けられた筵(むしろ)を上げ、中を覗きこむと、以前と同じく山姥(やまんば)が居た。
横には、大きな体の妖怪が。
 
(この人が地念児さんかな?)

以前、りんが薬草を分けてもらいに来た時は、布団に潜り込んで出てこなかった地念児。
その為、地念児が、どんな姿をしてるのかサッパリ判らなかった。
今、目の前にいる半妖は、形こそ大きいが、全く危害を与えるような雰囲気がなかった。

(優しそうな人だな)

そう感じたりんは、地念児に向かって頼み込んだ。

「こんにちは、千年草の実を分けてください! 毒にやられて死にそうな人がいるのっ!」

「おめえ、以前、来た童(わらし)でねえか」
 
山姥が、りんに気が付いて声を掛けた。

「前に来た時は、千年草を教えてくれて有り難う! おかげで邪見さまは元気になったの。でも、今度は毒ヘビに噛まれちゃって、それに、もう一人いるのっ!!」

「確か、邪見とやらは妖怪だと、おめえ、言ってただな。 もう一人の方も妖怪か?」

「ううん、もう一人は人間なの。 毒ヘビに噛まれてから目を覚まさないの。」

「妖怪と人間、おめえも忙しい童(わらし)じゃな。 どっちに惚れてるんじゃ?」

山姥(やまんば)が、前に来た時と同じ『惚れる』という言葉を使った。
あの時、りんは、全然、意味が判らなくて、後で邪見に聞いてみた。
しかし、その言葉を聞くなり、邪見に、「絶対、その言葉を使うな!」と言われてしまった。
どうやら意味は(大好き)と同じらしい。

「どっちも好きだよ。 だから、死んで欲しくないの。」 

大真面目に答えるりん。

「何と、まあ、二股かけてるのか?」 

どうあっても、山姥は、『惚れる』に拘りたいらしい。

「二股? 二股って何?」 

りんには、又しても、良く判らない言葉だった。
流石に自分の母親に呆れた地念児が、言葉を挟んできた。

「おっかあ、その娘っ子には、まだ早すぎるだ。 それに、早く薬草を用意してやらねば。」

「何を言う! 地念児。 小さくても女子(おなご)は女子(おなご)じゃ。かくいう、わしだって、お前の親父殿と恋をした時は、この娘っ子よりは年嵩(としかさ)じゃったが うら若い乙女であったぞ!」
 
山姥が当時の事を思い出したのか、皺くちゃの頬をポッと赤らめながらフッと溜め息を吐いた。 
りんには、益々、訳がわからなかった???

「もうっ、そんな事は、どうでも良いから。 早く千年草を分けて欲しいの!」

「グズグズしてたら、邪見さま達が死んじゃうかもしれない!?!」

必死になって頼むりんに、地念児が優しく答える。

「安心するだ。 丁度、昨日、取ってきたばかりの分があるだ。」

「本当! 有り難う! でも、琥珀は、気を失ってるの。 どうやって、飲ませればいいのかな?」

それを聞いていた山姥が、歯の欠けた口で、ニイッと笑って教えてやった。

「そりゃ、勿論、口移しじゃな。」 

「口移しって、どうやるの?」

「薬を口に含んで、相手の口に流し込むのよ。 うひゃひゃっ。」

「ふ~~ん、それでいいの。」
 
純真なりんには、今ひとつ、良く判っていないらしい。
薬草をもらって当座の宿にしている打ち捨てられたお堂に戻ってきたりん。
邪見には、直接、薬草を手渡した。
以前と同じように自分で千年草を噛み砕き大急ぎで飲み込む邪見。
りんは、山姥(やまんば)に教えられた通りに、琥珀用に薬草をすり潰し液状にする。
その薬草汁を口に含み、りんが、口移しで琥珀に飲ませようとした、正に、その時、殺生丸が堂内に入ってきた。

「・・・・・・何をしている!?!」 

「あっ、殺生丸さま!」

「あっ、あのね、琥珀が、気を失ってるから、こうやって飲ませれば良いって教わったの。」

「やめろ!」

「へっ、何で???」 

りんには、何故、止められるのか判らない。

「・・・・鼻を摘んで口を開けさせれば良かろう。」

「あっ、そうか! そう言えばそうだね。」 

これを契機に殺生丸の機嫌が著しく悪くなったのは云うまでもない。 
因みに邪見は回復してから後でボッコボコにされたそうな。      了

                                        2006.5/24(水) 作成◆◆

《第五作目「瘴気」についてのコメント》

この作品「瘴気」は、奈落の分身、夢幻の百夜の放った瘴気に満ちた毒ヘビに噛まれた琥珀と邪見が、その後どうなったか?を妄想して作成しました。 
殺りんファンなら誰もが想像した事でしょう。
アニメに出てきた地念児と、その山姥母さんに出演してもらいました。
あの『惚れる』が、どうしても使いたかったので。 (笑)(●^o^●)(笑)

2006.8/9(水)★★★猫目石

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