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『降り積もる思い⑳=琥珀=』

弥勒と珊瑚の話が続いたな。
そんじゃ、琥珀のことについて話すとするか。
琥珀は珊瑚の弟だ。
今は強い退治屋になる為、諸国へ修行の旅に出てる。
考えてみりゃ、アイツら姉弟も、随分、辛い思いをしてきたんだよな。
奈落のせいで滅ぼされた退治屋一族の生き残り。
琥珀の場合は、桔梗の光のおかげで生き返るまで生き残りとさえ云えなかったな。
アイツは死人(しびと)だった。
ぶっちゃけて云うと白霊山での七人隊と同じ状態にあった。
七人隊の奴らも琥珀も四魂の欠片で命を繋いでたからな。
謂わば“生きた死人”ってとこだな。
四魂の欠片を取っちまえば、即、死体に逆戻りするって訳だ。
奈落が初めて四魂の欠片で生かした死人第一号、それが琥珀だ。
城の若殿に成りすました奈落の策略で呼び寄せられた退治屋たち。
珊瑚の話によると里でも指折りの手練ればかりだったらしい。
琥珀も頭領の跡継ぎ息子として初めて実戦に参加してた。
勿論、退治屋としての技量はミッチリ叩き込まれてたんだろうが、実際の妖怪退治には一度も参加したことが無かったらしい。
姉の珊瑚を始めとして頭領の父親、百戦錬磨の猛者どもに交じっての初めての戦闘だ。
謂わば初陣だったんだよな。
色々と経験を積ませようって父親の親心だったんだろうぜ。
何でもそうだが、初心者ってのは浮き足立つもんだ。
そんなガチガチに緊張した琥珀の心の隙に奈落が付け込んだ。
奈落の蜘蛛の糸に操られた琥珀は、父親を、仲間を次々と殺し、姉の珊瑚まで手に掛けたんだ。
挙句の果て、城の者たちに虫けらみたいに殺されちまった。
普通は、其処で話が終わるんだが・・・・。
奈落の野郎、琥珀を四魂の欠片で甦らせちまった。
然も、生前の記憶は封印したままでな。
おかげで、話が、随分、ややこしくなっちまったんだ。
珊瑚にとっちゃ、たった一人の可愛い弟だ。
何でも母親が早くに亡くなったせいで五つ年上の姉の珊瑚が母親代わりに育てたらしい。
珊瑚にしてみたら弟とは云っても息子みたいな存在だったんだろうな。
それを、奈落の奴、利用しやがった。
記憶のない琥珀を使って何の罪もない人里を襲わせたんだ。
妖怪退治屋として仕込まれてきた琥珀だ。
何の武術の心得もない村人じゃ一溜まりもなかっただろうぜ。
鋭利な妖怪退治用の鎖鎌で、アッという間に村人を一人残さず皆殺しにしちまった琥珀。
奈落の野郎、以前、蠱壺虫を使って、育ての親、夢心(むしん)を操り弥勒を葬ろうとしたが失敗してるからな。
今度は生かしておくと色々と面倒な珊瑚を、琥珀を利用して誘(おび)き寄せ片付けておこうってんだろう。
村人の全員殺害は、その為の撒(ま)き餌(え)だ。
ついでに鉄砕牙を奪った珊瑚を俺達が追いかけてくる事も計算済みだったろうぜ。
そうやって芋づる式に誘き寄せといて俺達全員の抹殺も図る。
一つの罠が更なる罠を誘発するって図式だ。
悪辣な奈落の考えそうなこった。
退治屋の里が滅ぼされ、今や、珊瑚に残された身内は琥珀しか居ない。
その、たった一人の弟が、憎んでも憎みきれない仇の奈落に操られ命じられるままに人を殺してる。
例え、それが、四魂の欠片で繋いだ仮初(かりそ)めの命だとしても、珊瑚が琥珀を取り戻したいと考えるのも当然だろうな。
奈落め、そんな珊瑚の肉親としての情を利用しやがった。
琥珀を餌に珊瑚に鉄砕牙を盗ませたんだ。
そうやって、まず俺から武器を奪った。
弥勒は手術したばかりで暫く風穴を使えない状態だし頼みにしてた珊瑚まで居ない。
殆ど丸腰に近い俺達を自分の城に誘い込み一気に始末しようって腹だ。
チッ、奈落め、全く汚い手ばかり使いやがる!
息せき切って現場に駆け付けてみれば、珊瑚は血塗れじゃねえか。
奈落の野郎、選(よ)りにも選(よ)って弟の琥珀を使って珊瑚を殺させる積もりだったんだ。
畜生、何処までも卑劣な野郎だ!
本気の本気で俺達を殺す気だったんだろう。
奈落の奴、初めて俺達の前に面を見せやがった。
その姿にしても、大方、誰かを乗っ取って奪ったもんだろうがな。
見た処、若い男、それも百姓や町人風情じゃねえ。
武家風の立派な衣装から推察するに、この城の若殿って感じだったな。
後で珊瑚に聞いてみたら、ヤッパリ、そうだった。
以前、退治屋一族が罠に嵌った城の跡取りらしい。
尤も、俺達が誘い込まれた城自体、“まやかし”だったがな。
怒り心頭に発するってのは、あのことだよな。
激怒した俺が奴に掴みかかろうとすれば、奈落め、長い黒髪を蛇のようにうねらせて俺を絡め取ろうとしやがった。
バキッ!
俺の一撃は奴の座っていた場所を破壊しただけだった。
そうこうする内に奴の髪は、そこらじゅうを覆い尽くし更に変化した。
髪が・・・そうだな、まるで、のたうつ蛇みてえな触手に変わったんだ。
襲い掛かってきた触手を爪で引き裂けば・・・・。
ジュッ! 瘴気だ!
腕に瘴気の跡が。
クソッ、半妖の俺でさえ、この有様だ。
こんな瘴気にやられちゃ人間のかごめや七宝、況して、ズタズタにされた珊瑚は一溜まりもない。
咄嗟に火鼠の上衣を脱いで、かごめと珊瑚、七宝に掛ける。
弥勒は法師だから、ある程度、自分で瘴気を防げるだろう。
一斉に襲い掛かってくる触手。
薙ぎ払えば薙ぎ払うほど、瘴気が撒き散らされる。
クソッ、切りがない。

「グッ!」「ガハッ!」「ゴホッ・・」「ゲホッ・・・」

こうした事態を見て弥勒の奴、手術したばかりの風穴を開こうとしやがった。
馬鹿野郎、自殺行為じゃねえか!
どうせ云っても聞かねえだろうから、手っ取り早く鳩尾(みぞおち)に一発喰らわせて黙らせといた。
奈落の奴、そんな俺達の様子を見て良いように嘲(あざけ)りやがって・・・。
そうした奈落の俺への嘲りに、遂に、かごめが、ぶち切れた。
激しい怒りとともに、かごめが矢を放った。
驚いたぜ、あん時は。
今迄、見たこともないような凄まじい破魔の矢の威力だった。
壱の矢は土蔵の中に隠れていた奈落の右腕を吹き飛ばし、周囲に立ち込めた瘴気まで浄化したんだ。
続いて、かごめが放った弐の矢は、頭部と僅かに胸部を残して奈落の体を完全に破壊。
正直、奴を仕留めたと思ったんだが・・・。
畜生、何処までもしぶとい野郎だぜ。
奈落め、大量の瘴気を放出して逃亡を図りやがった。
吹き付ける瘴気と強風、俺は、かごめを庇うのが精一杯だった。
珊瑚と七宝、それに弥勒は火鼠の衣を被(かぶ)ってたのが幸いした。
フ~~ッ、何とか、全員、無事だったぜ。
瘴気が消えた後、周囲の様子は一変してた。
城は跡形もなく消え失せ、俺達は廃墟と化した屋敷跡にいた。
何もかも、まやかしだったんだ。
奈落め、よっぽど逃げるのに必死だったらしい。
鉄砕牙を残していったのが、その証拠だ。
荒れ果てた廃墟の中、ポツンと鉄砕牙が地面に突き刺さってた。
それにしても、あん時は照れ臭かったな。
・・・・かごめの台詞。
俺を奈落が馬鹿にするから頭に来た・・・なんてな。
今迄、そんなことを云ってくれた奴は誰も居なかった。
何とも・・・・尻こそばゆいっつうか、その癖、内心、嬉しいっつうか。
不思議に心がポウッと暖かくなる心地だったぜ。
あいつ、何時も、そんな風に俺を大事に思ってくれてたんだな。
・・・・・かごめ・・・・・逢いてえ。

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『降り積もる思い⑲=蟲壺虫(ここちゅう)=』

そういや、珊瑚が仲間に加わってからというもの一段と野宿が減ってたよな。
何しろ、アイツは妖怪退治の専門家だからな。
あの日も化けネズミを退治してたっけ。
滅茶苦茶、臭い煙で獲物を燻(いぶ)しだし飛来骨で一撃。
ホイ、退治完了てなもんだ。
俺は臭いがキツイのに弱いんだ。
思い出すだに、気分が悪いぃぃぃ。
ンッ?弥勒が居ねえ。
何処、行ったんだ?と思ってたら・・・・。
七宝が教えてくれたんだが、ノコノコ女についてったらしい。
それも美人と聞けば、もう間違いねえ。
爺さんが美女に化けた奈落から風穴の呪いを受けたってのに。
チットモ懲りねえ一族だぜ。
あの野郎の女好きも筋金入りってか。
そんな訳で宿に戻ってきた弥勒に対する女どもの態度は冷たかった。
まあ、自業自得だな。
次の朝、弥勒の床は蛻(もぬけ)の殻。
何処へ行ったか見当もつかなかった。
おまけに奈落が俺達を見張ってたんだ。
追い詰めて倒したが、それは傀儡(くぐつ)だった。
・・・・・おかしい。
まるで、俺達を誘い出す、イヤ、何かから遠ざけるような妙な動きじゃねえか。
嫌な予感は当たるもんだな。
冥加じいが、昨夜の弥勒の様子を教えてくれた。
アイツ、風穴をジッと見つめて何か深刻そうにしてたらしいんだ。
だが、捜そうにも手がかり一つ残ってねえ。
どうすりゃいいんだ!
イライラする俺の前に現われたのは弥勒の子分のタヌキ、阿波の八衛門だ。
変化して空を飛んでる処を最猛勝(さいみょうしょう)に襲われて逃げてきた。
毒虫どもめ、俺を見た途端、サッサと退散していきやがった。
八衛門に詳しい事情を聞けば、弥勒の奴、ヤッパリ危ない目に遭ってやがる。
ザッと掻い摘んで話せばだな。
美人に釣られて付いて行ったは良いが、ソイツは大蟷螂(おおかまきり)が化けてたんだとよ。
チィッ、爺さんと同じ手に引っかかりやがって。
風穴でソイツを吸い込んだは良いが、前脚の鎌で風穴を切られちまった。
そんでもって怪我を治す為に育ての親の寺に戻った。
だが、寺の和尚(おしょう)は何者かに操られ、弥勒を殺そうとしてるってんだ。
普段の奴なら心配ないが、風穴を切られてる上に薬で身体の自由が利かないらしい。
クソッ、死ぬなよ、弥勒。
変化したヒョウタン型の八衛門に乗って、大急ぎで現場に掛け付けて見れば。
無数の妖怪どもが寺を取り囲んでるじゃねえか。
雑魚は珊瑚に任せて弥勒を探す。
大蟷螂(おおかまきり)やら有象無象の妖怪どもが飛び掛かる寸前じゃねえか。
危ない処だったぜ、全く!
鉄砕牙で奴らを斬り倒したはいいが、厄介な相手が登場してきた。
夢心、あの寺の住職で弥勒の育ての親だ。
あの老いぼれ、蟲壺虫(ここちゅう)なんぞに操られやがって。
チイッ、弥勒を育てただけあって相当な法力の持ち主だったぜ。
クソ坊主め、大数珠で俺を縛りやがった。
弥勒に頼まれたから殺す訳にもいかねえ。
鉄砕牙は老いぼれの法力で変化が解かれちまってるし。
そうこうする内にも妖怪どもは容赦なく襲い掛かってくる。
仕方ねえから散魂鉄爪で凌いでたんだが。
段々、体力の限界に来た。
何せ、大数珠が、俺の妖力を吸い取ってるんだ。
クソッ、何時まで持つか。
老いぼれめ、弱ってきた俺を見て好い気になりやがって。
首をねじ切るだと。
調子に乗ってんじゃねえ!
力を振り絞ってクソ坊主の首ねっこを捉まえた。
こっちこそ、手前の首をねじ切ってやる!
そう思ったんだが・・・・。
この夢心て坊主を殺しちまったら弥勒の風穴の傷を治せる者が居なくなるって云うじゃねえか。
そう聞いちまったら思わず手の力が緩んじまった。
老いぼれめ、そこを空(す)かさず一気に法力を強めやがった。
バチバチッ・・・・シュ~~
力が・・・抜けていく。
弥勒は風穴に傷を負い、俺は妖力を吸い取られ、にっちもさっちもいかねえ。
その上、妖怪どもの大軍団が襲い掛かってきたんだ。
絶対絶命の状況ってのは、あの事だよな。
弥勒の野郎、碌に身体の自由も利かねえ癖に、風穴を開きやがって。
見ろ、踏ん張りが利かないせいで体勢が崩れてるじゃねえか!
老いぼれなんぞに構ってる場合じゃねえ。
バキ! 一発、喰らわせて坊主を気絶させ弥勒の許へ急ぐ。
ジャッ・・・数珠で風穴を封印した。
妖怪どもめ、風穴が閉じたのを見て勢い込んで襲ってきやがった。

「てめえら、こっから先・・・一歩も通さねえ!!」

渾身の力を振り絞って鉄砕牙を振った。
ゴッ・・・・グワッ!
そしたら、アッという間に妖怪どもが消し飛んだんだ。
あん時は驚いたぜ。
以前、殺生丸が鉄砕牙の真の力を見せた時と同じだ。
『一振りで百匹の妖怪をなぎ倒す』
初めて鉄砕牙の本当の力を引き出せたんだ。
形勢悪しと見て逃げようとした壺使いは珊瑚が始末した。
壺使いが持ってた壺に和尚を操ってた蟲壺虫(ここちゅう)を吸い込んだ。
これで、もう大丈夫のはず。
ン~~ッ、老いぼれ坊主め、起きやがらねえ。
どうした?と思ったらグースカ寝てやがる。
クソッ、好い気なもんだぜ。
散々、手間掛けやがって。
弥勒の手当てが終わった。
坊主が俺を呼ぶんで付いてった。
そしたら、こう云ったんだ。
一刻も早く奈落を倒せってな。
風穴は以前よりも拡がってたらしい。
つまり、それだけ寿命が縮まったってこった。
弥勒の風穴は奈落の呪いで穿たれた。
だから、奈落さえ倒せば呪いは解ける。
神妙な気持ちで話を聞き終わった俺の目に飛び込んできたのは・・・・。
こんな時でさえ、珊瑚の尻を撫で回すのを忘れねえ弥勒の姿だった。
呆れた助兵衛根性だぜ。
当分、死にそうもねえと俺が思っても無理ねえだろう?


 

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『降り積もる思い⑱=似非(えせ)水神=』

ン~~と、珊瑚が仲間に加わってから最初に戦ったのが・・・・。
そうそう、思う出したぜ。
似非(えせ)水神だ。
大きな湖のほとりにある村。
その村じゃ大水が出る度に湖の水神に生贄(いけにえ)を捧げてきたらしい。
何でもそうしないと水神の祟りで村が滅ぼされちまうんだとさ。
俺達は、その生贄を運ぶ輿(こし)に出喰わしたんだったよな。
話を聞くと、どうも胡散臭い。
ソイツ、水神じゃなくて妖怪じゃねえのか?
そう思って退治してやろうと弥勒が話を持ちかけたら。
村の名主の野郎、剣もホロロに突っぱねやがった。
自分の子供が生贄にされようってのに矢鱈(やたら)迷惑そうで妙な態度だったな。
それもその筈、輿(こし)の中の子供は自分の子じゃねえ。
替え玉だったんだ。
あの名主、自分の子可愛さに使用人の子供を身代わりに仕立てやがった。
本当に呆れた馬鹿親だぜ。
息子の方は親と違って大分マシだったがな。
エ~~~ッと名前は・・・・太郎・・太郎。
そうだ、太郎丸とか云ったな。
アイツ、自分の代わりに生贄にされようとした友達を助けようとしてたんだ。
親父に似てクソ生意気な奴だったけどな。
イキナリ金品を投げ付けて俺達を雇ってやるとか抜かしやがってよ。
餓鬼のくせに偉そうにしてたから一発殴っといた。
動物の世界でもそうだが、どっちの立場が上かハッキリさせとかないとな。
太郎丸の案内で船で湖の中に潜入してみると。
見えてきた、見えてきた。
湖のど真ん中に、やけに立派な社(やしろ)が建ってるじゃねえか。
大門の前に門番が陣取ってやがる。
こちとら急いでんだ。
雑魚に構ってる暇はねえ。
手っ取り早く門番どもをブン殴って気絶させ先を急いだ。
内部に入り込んだら出て来る、出て来る。
次から次へ水神の手の者が刃向かってきやがった。
どいつもこいつも片っ端から殴って片付ける。
奴らは、みんな、鯉や沢蟹の化身だったからな。
殺すまでもない。
奥殿に辿り着くと、居た、居た、人喰い水神が。
俺は、奴は妖怪に違いないと思ってたからな。
鉄砕牙を抜いて確かめてやろうとしたんだ。
だが、あの野郎、神器を持ってやがった。
本物の水神が持つべき神器、雩(あまごい)の鉾(ほこ)。
鉄砕牙が神器に当たった途端、変化が解けちまった。
あの時は驚いたぜ。
後で判ったんだが、アイツは、やっぱり偽者だった。
但(ただ)し、神器の方は本物だ。
厄介な事にな、偽者でも神器を持っちまえば本物と同じ力を振るえるんだ。
似非(えせ)水神め、雩(あまごい)の鉾(ほこ)を使って俺達を瞬時に水の底に引き込みやがった。
あの時、水に流されて俺とかごめは逸(はぐ)れちまった。
運の悪いことに大岩が水に押し流されてきてな。
俺の頭にブチ当たったんだ。
それで俺は気を失って流されちまった。
気が付けば水神の社(やしろ)の外に浮かぶ小島の上にいた。
弥勒と珊瑚も一緒だ。
俺達を助けてくれたのは水神の眷属で鯉の化身達だった。
俺の意識が覚醒する際に聞こえてきた話によるとだな。
あの人喰い水神は、元々この湖に棲んでいた精霊で本物の水神に仕える身だったらしい。
それが、本物を騙して岩場に幽閉した挙句、神器、雩(あまごい)の鉾(ほこ)を奪って水神になり代わったんだとよ。
道理で神器が本物な訳だ。
とんでもねえ罰当たりだぜ。
本物の水神を助けるのは弥勒達に任せて俺は急遽(きゅうきょ)かごめ救出に走った。
駆け付けてみれば、正に間一髪!
似非(えせ)水神め、神器の鉾(ほこ)で、かごめを串刺しにする寸前だった。
フウ~~~危ない処だったぜ。
鉄砕牙で神器を受け止めたらヤッパリ変化は解けちまった。
チッ、偽者が持ってても神器の威力は本物だぜ。
似非(えせ)水神め、正体を見破られた途端、水中に身を隠しやがった。
あん畜生の本性は水蛇の化身だったんだ。
長い図体で人をグルグル巻きにしやがって。
爪で胴体を引き裂いてやったんだが。
野郎、俺を巻き込んだまま水中に潜りやがった。
あのまま水中で溺れさせる積もりだったんだろう。
クソッ、あの時、弥勒と珊瑚が本物の水神を連れてきてくれなかったら・・・・。
恐らく息が止まって御陀仏だったろうな。
いくら頑丈な俺でも魚じゃねえんだ。
水中じゃ息が出来ねえ。
岩屋にズッと幽閉されてたせいで形(なり)は小さくなってたが、流石は本物の水神だ。
耳飾り一つで周囲に溢れていた水を割っちまった。
『水切りの法』とか云うらしい。
唯、その後がなあ。
力を使い果たしたせいでチビ水神は寝ちまったんだ。
まあ、それは良い。
おかげで俺は息を吹き返したからな。
珊瑚が雲母(きらら)に乗って偽者の気を惹いてくれてた。
ヨシッ、その隙に俺は地道に野郎の身体をよじ登って偽者の頭の部分に辿り着いた。
神器の鉾さえ奪っちまえばコッチのもんだ。
鉾ごと腕を引き千切ってやったぜ。
ハッ、それまですかした神様面してたが、似非(えせ)水神め、神器を奪ったら本性が丸出しだ。
蛇野郎が、鉾を取り返そうとジタバタ悪あがきしやがって。
てめえ、往生際が悪いぞ。
一発、眉間に叩き込んで水中に落としてやった。
ド———————ン!
かごめの奴、俺が偽者と格闘してるってえのに。
俺の心配じゃなく『鉾』を渡せだあ?
チイッ、似非(えせ)水神が神器で呼んだ雨雲が竜巻を起こして村に迫りつつある。
こりゃ、早いとこ、雩(あまごい)の鉾(ほこ)を本物の水神に渡して竜巻を治めてもらわねえとな。
蛇野郎の口を無理矢理こじ開け『鉾』を投げる。
だが、偽者野郎が長い図体を利用して『鉾』が社(やしろ)に届くのを邪魔しやがった。
万事休すか?と思ったら太郎丸が『鉾』を取りに湖に飛び込んだんだ。
村を救いたい一心からだろう。
親父は、しょうもないが息子は大した者だぜ。
将来、村を背負って立つ名主に相応しいぜ。
太郎丸が『鉾』を掴んだ。
クソッ、蛇野郎め、まだ諦めてねえ。
長い胴体で太郎丸を弾き飛ばしやがった。
すかさず珊瑚が飛来骨で蛇野郎の胴体を両断した。
太郎丸の奴、気絶しながらも『鉾』を手離さねえ。
大した根性だぜ。
そのまま、湖の中に沈んでいく。
胴体を分断されながらも、あん畜生、まだ襲ってきやがった。
グズグズしてられねえ。
一気に片を付けるぜ。
鉄砕牙で蛇野郎の開いた口を、そのまま大きく引き裂いてやった。
野郎、そんなになっても、まだ死なねえ。
最後の締めは弥勒に任せた。
風穴で似非(えせ)水神を吸い込んで終わりだ。
後は太郎丸と鉾を回収してと。
神器を本物の水神に渡した。
水神は女神だった。
神器に触れた途端、オオッ、チビ水神がググンと大きくなった。
かごめよりもデカイぞ。
俺と比べても、そう大して変わらないくらの背丈だ。
水神が神器を荒れ狂う天に向けてかざし声を発した。

「雲切り!」

それと同時に幾つもの渦巻く竜巻がピタリと収まった。
見る間に雨雲は消え去り明るい陽射しが戻ってきた。
こうして村は壊滅状態から救われたって訳だ。
とんだ足止めを喰っちまったぜ。
ン~~何だよ、弥勒、その大荷物は?
ハアッ、太郎丸の親父に云った?
今回の件を村の衆に事細かに伝えましょうって。
・・・・お前、それって恐喝だろう。
弥勒の奴、当時も今も阿漕(あこぎ)なやり口は全然変わってねえな。



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『降り積もる思い⑰=四魂の玉=』

かごめがアッチの世界に戻っている間に弥勒に聞かれた事がある。
今でも四魂の玉が欲しいか?と。
当時の俺は本物の妖怪になりたかったからな。
だから、躊躇することなく欲しいと答えたんだ。
そんな俺を諭すように弥勒が云った言葉。
四魂の玉の妖力を得る者は引き換えに心を失うのではないか。
今迄、そんなこと思いもしなかった。
唯々、完全な妖怪になりたかった。
そして、もう二度と誰にも半妖だなんて云わせない。
そればっかり考えてたぜ。
だから、四魂の玉を手に入れた後、どうなるかなんて考えたことも無かった。
更に、弥勒は、こうも云ったんだ。
四魂の玉を使って本物の妖怪になった時、俺が、かごめや七宝を喰い殺すかもしれないってな。
それを聞いた時は、内心、動揺したぜ。
そんなことは絶対に有り得ないと云いたかったが・・・・。
実際、どうなるのか判らなかったからな。
俺の四魂の玉に対する気持ちが微妙に変化し始めたのは、それからだった。
そして、決定的に変わったのが珊瑚に四魂の玉の由来を聞かせてもらってからだ。
退治屋の里、村の外れに存在する鍾乳洞の中。
所々、陽が洩れてくるせいで薄暗くはあるが、日中なら晴れてれば灯りは必要ない。
妖怪の亡骸を葬る場所なだけあって周囲には残骸の骨がゴロゴロしてやがる。
かなり不気味な場所だ。
その奥まった場所にあるアレを初めて見た時は、流石の俺もドキッとしたぜ。
一体、これは何なんだ。
無数の妖怪と人間が合体、イヤ、これは人が喰われてるとしか見えねえ。
壮絶な最期を思わせる木乃伊(みいら)。
見るからに異様な形状だった。
冥加でさえ知らなかった木乃伊の由来。
あの鍾乳洞の中で、あの木乃伊から四魂の玉は生まれた。
奈落を敵(かたき)と付け狙う同士として、新たに俺達の仲間に加わった退治屋の珊瑚。
珊瑚が、四魂の玉の由来を教えてくれるってんで、もう一度、俺達は、あの木乃伊のある鍾乳洞に入った。
まだ怪我が癒えてない珊瑚は俺が負ぶった。
しっかし、何度、見ても不気味な木乃伊だぜ。
その木乃伊を前に珊瑚が話してくれた事を説明するとだな。
木乃伊になってる無数の妖怪どもは、たった一人の人間、巫女を倒す為、寄り集まったんだとよ。
今から何百年も昔、貴族どもが世を治めていた時代の話だ。
戦や飢饉で世が乱れ人が大勢死んだ。
丁度、今みたいな時代だったってえこった。
妖怪どもは死体や弱りきった人間を喰らいながら、ドンドン数を増やしていったそうだ。
そんな状況の中、坊主や武将が妖怪退治に立ち向かったらしい。
中でも、翠子(みどりこ)って巫女は別格だった。
妖怪の魂を取り出して浄める術を使い、一度に十匹もの妖怪を滅する力を持ってたそうだからな。
エ~~ッと、弥勒がいうにゃ、この世の全ての物は四魂で出来てるんだとさ。
四魂は、まず荒霊(あらみたま)、和霊(にぎみたま)、奇霊(くしみたま)、幸霊(さきみたま)と有ってだな。
ウ~~ッ、それで、たっ、確か、荒霊が勇、和霊が親、奇霊が知、幸霊が愛を司ってだな。
そっ、それから、この四魂が正しく働いた一霊が・・・・そっ、そうだ!
直霊(なおひ)っつうんだ。
ン~~、そんでもって人心が正しく保たれるんだとよ。
それでだな、悪行を行えば、四魂の働きが邪悪に転んで・・・と。
エっ・・と、エ~~っと、そうそう、あん畜生、曲霊(まがつひ)になるんだ。
曲霊になっちまうと、ア~~、いっ・・・一霊は道を誤ってだな。
ダア~~~ッ、しち面倒臭え!
ぶっちゃけて云っちまえば、良いことすりゃ直霊(なおひ)に、悪いことすりゃ曲霊(まがつひ)になるってこったろうが!
ケッ、弥勒の説明は回りくどいんだよ。
いちいち勿体ぶりやがって。
とにかく、翠子ってえ巫女は四魂を浄化して妖怪どもを無力化する力を持ってた。
だから、妖怪どもは翠子を怖れ、命を狙い始めたんだ。
けど、翠子は滅茶苦茶、強い。
闇雲に襲っても即座に浄化されちまうのが落ちだ。
だから翠子の霊力に打ち勝つだけの巨大で邪悪な魂が必要だった。
そこで妖怪どもは考えた。
ありったけの知恵を絞った訳だな。
そうやって考えついたのが自分達を一つにくっつけちまおうって案だ。
一匹づつじゃ、どうしようもねえが、大勢、集めて一つになれば違うだろうってな。
そして、そういう場合、邪心を持った人間を“繋ぎ”に使うのが一番簡単で手っ取り早い方法なんだとさ。
珊瑚が指し示した木乃伊の場所。
良~~く見ると木乃伊の下の部分に男が見える。
アイツは、当時、翠子を秘かに慕っていたんだそうだ。
妖怪どもは、あの男の心の隙につけ込んで取り憑いた。
有象無象の妖怪が男の邪心を核に一つに纏まり巨大化した。
それを聞いた時、俺はゾッとしたぜ。
奈落が誕生した経緯(いきさつ)とソックリ同じじゃねえか!
そうやって一つに融合した妖怪どもと翠子は戦った。
戦いは、延々、七日七晩も続いたそうだ。
遂に力尽きた翠子は身体を喰われ魂までも吸い取られそうになったらしい。
だが、翠子は最後の力を振り絞って妖怪どもの魂を奪い取り、逆に自分の魂に取り込んだ。
そして、その混ざり合った魂を体外に弾き出した。
結果、翠子も妖怪どもも死んだ。
翠子が体外に弾き出した魂の塊り、それが四魂の玉なんだ。
それから、珊瑚が付け足した更に衝撃的な事実。
肉体は滅びはしたものの、翠子と妖怪達の魂は未だに戦い続けてるんだとよ。四魂の玉の中で!
驚いたな、まだ終わってないのか。
何百年もの間、戦いが繰り返されてきたと考えると・・・。
だとすると、玉の内部での戦いが外部での争いを誘発してる。
そうとしか思えねえ。
実に厄介な代物だぜ、四魂の玉ってのは。
それにな、四魂の玉ってのは持つ者によって良くも悪くもなる代物らしいんだ。
悪人や妖怪が持てば穢(けが)れが増し、清らかな魂を持つ者が持てば浄化される。
長い間、人間や妖怪どもの間を転々とした四魂の玉は、“浄化”と“穢れ”を何度も繰り返し、珊瑚の爺さんの代になって退治屋の里に戻ってきたんだそうだ。
つまり、俺が封印された五十年前の頃に遡る。
当時、四魂の玉は、酷く穢れてたらしい。
何でも退治した妖怪の中から出てきたらしいからな。
だから、桔梗に預けられたんだ。
霊力の高い巫女の桔梗に委ねて“浄化”してもらう為に。
そして、そのせいで奈落が生まれた。
桔梗が玉を浄化したから。
奈落は玉を穢したがっていた。
玉の内部の妖怪どもの魂が、それを望んだんだ。
桔梗の心を憎しみで穢し怨みの血を吸わせたがった。
その為に、俺と桔梗を罠に掛けた。
繰り返される悲劇。
四魂の玉が、そうさせてるんだと珊瑚が云ってたな。
アア、今だからこそ云える。
何もかも、その通りだったぜ。
俺達、みんな、四魂の玉に踊らされてたんだ。
とことん他者を利用して操る、あの奈落でさえもな。
イヤ、考えてみれば、奈落こそが最初から最後まで四魂の玉に操られてきたのかもな。
かごめが奈落との最後の戦いで問い掛けた言葉を思い出す。
『四魂の玉は、アンタの本当の望みを叶えてくれなかったのね』
奈落の、ひいて云えば鬼蜘蛛の真の望み。
それは、聞くまでもない。
野郎は桔梗を手に入れたかったんだ。
だからこそ、魂までも差し出して願ったんだ。
結局、奴の執着は利用されるだけだったけどな。
その奈落も、もう、この世に居ない。
桔梗の魂も、あの世に戻った。
四魂の玉も消えた。
あの時、全ての元凶である四魂の玉を滅して、かごめは、家族の待ってるアッチの世界に戻った。
そして、俺の方は、何か大きな力によって無理矢理コッチに引き戻された。
骨喰いの井戸は元通りになってた。
でも、もう前みたいにアッチの世界へ行くことは出来なくなってた。
かごめは、もう、コッチには戻ってこれないのかも知れない。
だけど・・・・俺は・・・・。
諦めきれないんだ・・・・どうしても!
かごめ・・・・かごめ・・・・俺は今も待ってる。
戻ってこい・・・・かごめ!



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『降り積もる思い⑯=珊瑚=』

今回は珊瑚について話すことにするぜ。
エ~~~と、珊瑚か。
確か、アイツは一番最後に俺達の仲間になったんだよな。
だから、どうしても話が、一番、最後になっちまう。
珊瑚は妖怪退治を専門に請け負う退治屋の里の長の娘だ。
母親は既に亡くなり父親と弟の三人家族だったそうだ。
俺達は七宝を除けば誰も彼も奈落に怨みのある奴ばっかなんだが・・・・。
珊瑚の場合は、特別に怨みが深いだろうな。
何しろ、親兄弟から一族郎党全てを奈落の汚い計略で殺されてるからな。
珊瑚自身だって本当は深手を負って死んでるはずだった。
だが、人間にしちゃ怖ろしく強い生命力と意思のせいだろう。
瀕死の重傷にも拘らず生き残っちまった。
そんな戦う事さえ覚束ない重傷の珊瑚を、奈落の野郎、又しても利用しやがったんだ。
選(よ)りにも選(よ)って俺が退治屋の里を全滅させた張本人だと珊瑚に吹き込みやがって。
あん畜生、てめえがそうだろうが!と突っ込みたいくらいだったぜ。
そんな訳で珊瑚は俺を敵だと思い込み、いきなり襲ってきたんだったよな。
あのデカイ飛来骨をぶん回してな。
かごめが云うにゃ、ありゃ、『ぶーめらん』って武器なんだとよ。
一度、投げても、回転して戻ってくるんだ。
こちとら、あんな飛び道具の武器は初めて見たからな。
魂消(たまげ)たぜ。
しかも、それを扱う珊瑚は女だ。
その点でも吃驚仰天だぜ。
アイツ、退治屋の里では男を差し置いて一番の手練(てだれ)だったらしい。
まあ、実際、珊瑚の戦いぶりを見てるんだ。
それも肯(うなず)けるけどな。
珊瑚は、女にしちゃ背は高いし力も強い。
あのデカイ飛来骨を軽々と扱ってるんだ。
おまけに相当な場数を踏んでるから度胸も良いと来てる。
下手な人間の男じゃ、まず太刀打ちできねえだろうな。
恐らく戦闘能力に置いちゃ、この時代でも指折りの腕利きだろうぜ。
奈落の奴、珊瑚を死ぬまで俺と闘わせる積もりだったんだ。
あの野郎の狙いは、俺と珊瑚の相討ち、悪くてもどちらかが死ぬのを期待してたんだろう。
退治屋の里が全滅するように仕向けたのは奈落だ。
真相を知れば珊瑚が敵と付け狙うのは手前(てめえ)だろうからな。
生かしておくにゃ危険な存在だ。
だからこそ珊瑚に四魂の欠片を仕込んでまで俺と闘わせようとしたんだ。
妖怪退治を専門としてきた一族の中でも一番の腕利きってのは伊達じゃなかったぜ。
珊瑚の奴、瞬時にコッチの弱点を嗅ぎ付けやがった。
チッ、咄嗟の判断力までズバ抜けてやがる。
俺の犬耳を見て即座に臭いに弱いと判断したんだ。
毒粉の臭い玉を投げ付け容易に接近できないようにした。
対する珊瑚は防毒面で防御してるから毒粉の中でも平気で戦える。
ケッ、用意のいいこった。
流石に戦い慣れてしてるぜ。
俺が珊瑚に苦戦してる間に弥勒は奈落と対峙してた。
弥勒は俺と互角に接近戦をこなすほどの腕前だ。
錫杖を武器に奈落に襲い掛かり刀を持った右腕を斬り落とした。
やった!と思ったのも束の間、斬り落とした腕は、刀を掴んだまま空中を飛び、かごめを狙う。
それを阻止しつつ珊瑚の飛来骨をも相手にしなきゃなんねえ。
目が廻るほど忙しかったぜ。
その上、鉄砕牙でボロボロにしたはずの奈落の右手が、隙を衝いて、かごめの首に掛かってた四魂の欠片を奪いやがった!
そのまま奈落の許に戻ったかと思うと見る見る再生していく右腕。
奈落の奴、斬っても斬っても元に戻るんだ。
畜生、一体、どういう体してやがんだ!
これじゃキリがねえぞ。
四魂の欠片を手に入れた途端、奈落の野郎、もう用はないとばかりに瘴気を撒き散らし退散を図りやがった。
だが、有り難いことに、運良く、猫又の雲母(きらら)が来てた。
雲母(きらら)は変化すれば巨大化して空を飛べる。
弥勒を背に乗せ奈落の追跡を助けてくれた。
俺は珊瑚の相手に忙しかったからな。
奈落に操られてると判ってるだけに、やっつけるのも駄目、痛め付けるのも駄目ときてる。
ダア~~~そうそう手を抜いて戦える相手じゃねえんだ。
下手に気を緩めたらコッチがやられちまう。
一気に片をつける積もりで鉄砕牙を珊瑚の足元に投げ付けた。
飛来骨の戻ってくる軌道を塞いだんだ。
そうして飛来骨を防いだら、珊瑚の奴、またも毒粉を撒きやがった。
だから、防毒面を引っぱがしてやった。
その場に居たら珊瑚まで、くたばっちまう。
ムンズと珊瑚の右腕を掴み毒粉が撒き散らされた場所から逃れる。
ムウ~~~助けてやったってえのに。
珊瑚の奴、俺の右腕に刀を突き立てやがった!
恩知らずめぇ~~(怒)
血だらけになってるってえのに。
怖ろしいまでの執念だったぜ。
その後、気を失った珊瑚とかごめを背に負ぶい奈落の後を追ったんだよな。
途中で珊瑚が気が付いたけど冥加じいが居たからな。
冥加と珊瑚が顔見知りだったのも幸いした。
これまでの事情を詳しく説明してくれたんで助かったぜ。
やっと誤解が解けた。
現場に駆け付けてみれば弥勒が腹を触手に貫かれてる!
死んじまったのか?と思ったら息を吹き返しやがった。
別段、腹に穴も開いてねえし、どうもなってなかった。
馬鹿野郎、まぎらわしい真似して心配かけやがって。
一発、殴っといた。
その後、気色悪い触手だらけの化け物じみた奈落を問い詰めて真相を引き出した。
野郎、案の定、退治屋の里の四魂の欠片が目当てだったんだ。
だから城に手練れどもを誘き寄せ、里の守りを手薄にした。
そうしておいてから妖怪どもに里を襲うように仕向けたんだな。
四魂の欠片を手に入れ、ついでに邪魔な退治屋も始末するってえ寸法だ。
相変わらず悪辣なやり口だぜ!
頭に来て奴の頭を鉄砕牙で刎ねたんだが。
奈落の奴、本体じゃねえ。
傀儡(くぐつ)だったんだ。
それに気付いた珊瑚の指示通り、胸を狙ったら術が解けて、みんな土くれに変わりやがった。
後に残ったのは髪の毛が撒きついた人形。
それが傀儡(くぐつ)の正体だった。
珊瑚の傷が癒えて起き上がれるまでに要した日数が十日。
色々と問い質してみたんだが、珊瑚の奴、奈落の手がかりになるような事は何一つ覚えてなかった。
どうやら奈落に暗示でも掛けられてたようなんだ。
チッ、本当に何処までも抜け目がない野郎だぜ、奈落め。
自分に繋がるような証拠は何ひとつ残さねえ。
唯、一つだけ収穫があった。
四魂の玉が、どういう理由で、この世に生まれたのか。
その謎が、珊瑚の説明によって判ったんだ。


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『降り積もる思い⑮=桃果人=』

桃果人か・・・・チッ!
今、思い出しても胸くそ悪くなるぜ。
あん時は、ひどい目に遭った。
相変わらず俺達は四魂の欠片を捜して旅を続けていた。
あのクソ仙人と事を構えたのは、偶然、川に流れてきた生首を見ちまったせいだったな。
戦でも有ったのかと思いきや、その生首、傷口が全く無いんだ。
どう考えても可笑しいと思うだろう?
妖怪が絡んでる可能性は大だぜ。
ついでに四魂の欠片もな。
それで原因を探ろうと生首の流れてきた川を遡ったんだ。
川に沿い上流に向かえば向かう程、濃くなってくる霧。
その深い霧の中から声が聞こえてきたんだ。
「お——い」「おお——い」
誰かに呼びかける声だった。
その声を頼りに更に川を遡っていけば・・・。
川沿いに生えている一本の木に辿り着いた。
その木には生首がビッシリ生ってた。
まるで木の実みてえにな。
声は、その生首から出てたんだ。
かごめも七宝もビビッて俺に取り縋ってたな。
まあ、そりゃ、吃驚もするわな。
何しろ、生首が喋ってんだ。
こういう場合、話の聞き役は弥勒と相場が決まってる。
アイツは法師っつうだけあって話を聞きだすのが上手い。
そん中の首の一つから経緯(いきさつ)を聞きだしてみれば、みんな、仙人に喰われたって云うじゃねえか。
仙人が人を喰うだと!?
そんな馬鹿な話、聞いた事ねえぞ。
人喰い仙人とやらは『桃果人』と名乗ってるそうだ。
そうやって話を聞いてる最中だったな。
山の上の方から何か落ちてきたんだ。
カラカラ・・・パラパラ・・・ボン!
それは人骨だった。
所々、肉片がこびり付いた、まだ新しい骨。
その骨を木の根が地中にズズッと取り込んだ。
すると木の幹に何かが浮き出てきた。
人の顔?みたいな。
事情を話してくれた生首の爺さんが云うにゃ、それは桃果人に喰われた骨の主の顔なんだとよ。
暫くすると幹から果物が生(な)るように生首が生(は)えてくるらしい。
そうやって生えてきた生首の実は『人面果』と呼ばれ桃果人の不老長寿の薬になるってんだ。
ケッ、何て、けったくそ悪い話だ。
そんな野郎はサッサと片付けるに限るぜ。
今夜は朔の日だしな。
俺の妖力が消える前にケリを付けとかねえとな。
そう思って、かごめや弥勒達を置いて、俺一人、山の上に向かったんだ。
エセ仙人如き、大して手が掛かるまいと高を括ってたんだよな。
その甘さが、後で、とんでもねえツケとなって廻ってくるんだが。
フッ、あの頃は、まだ俺も青かったぜ。
切り立った山の斜面にへばり付くように建ってた仙人の屋敷。
あん畜生、桃果人は、見るからにブクブク肥え太った野郎だった。
この人喰い仙人が!
手っ取り早く倒しちまおうと鉄砕牙で斬り付けたは良いが、腹の肉にはね返されちまった。
ボヨヨ~~~~~~ン
畜生、一体、どうなってやがる?!
驚く俺に対し、桃果人の野郎、何をするのかと思えば。
杖を一振りして空中に花を撒き散らしやがった。
目くらましかと思ったが違ってた。
あれは相手を小さくする仙術だったんだ。
そんでもって小さくなった俺を鷲摑みにして、そのまんま口の中に入れ呑み込んじまった。
桃果人の腹ん中に呑み込まれた俺は、何とかして外に出ようとした。
悪戦苦闘って言葉がピッタリするくらいな。
だが、桃果人の体は中も外もブヨブヨしてて力一杯殴りつけてもビクともしねえんだ。
見れば胃の中の内容物が、ドンドン溶けて消化されてるじゃねえか。
グズグズしてると俺もコイツの胃の中で溶かされちまう。
悪い事に妖力が消えかけてた!
妖爪は消え、白銀の髪は黒く変色しかけてる。
そりゃ、もう、焦ったぜ。
無駄に時間を喰ったせいで朔の時間が来ちまったんだ。
半妖の時ならまだしも人間の身体じゃ直ぐにも溶かされちまう。
呑み込まれる時、鉄砕牙は一緒じゃなかった。
多分、外にあるんだろう。
手許には鞘しかねえしな。
こうなったら鞘で腹をブチ抜くしかねえ。
それで鞘で思いっきり突いてみたんだが、又しても、はね返されちまった。
火鼠の衣まで桃果人の胃液で溶け始めた。
もう、これまでかと諦めかけた時、鞘が反応したんだ。
ドクン・・ドクン・・てな。
以前にも有った。
鞘が呼べば鉄砕牙が戻ってきた事が。
ヨシッ、助かるかもしれねえ。

「来い、鉄砕牙!」

ドン! バウン・・・・
衝撃が伝わってきたが、はね返されちまったみたいだ。
クソッ、駄目だったのか?
ゴボボボ・・・・
ウワッ、胃液が逆流してきやがった。
鉄砕牙の衝撃を喰らった桃果人が胃の中の物を全て吐き出しやがったんだ。
おかげで俺も外に出れたって訳だ。
目の前には鉄砕牙が!
咄嗟に鉄砕牙で斬りつけたが今の俺は唯の人間だ。
妖力を失ってる。
鉄砕牙は変化しねえ。
元のボロ刀のままだ。
やっぱり、さっきと同じように桃果人の腹の肉にはね返されちまった。
勢い余って跳ね飛ばされた俺。
そんな俺の上に、デブ仙人め、弾みをつけて圧し掛かってきやがった。
ブクブク太ったデブ野郎の全体重が容赦なく掛かる。
ガハッ!
そのまんま血反吐を吐いて俺は気絶しちまった。
目が覚めてみれば、身体中、棘だらけの吸血蔓に巻きつかれてた。
桃果人め、俺の血を絞り取ってから塩漬けにして喰うとかほざきやがって。
この食欲魔人め!
怒りで熱くなる俺の目が四魂の欠片を捉えた。
かごめの四魂の欠片だ。
それが、どうして桃果人の臍(へそ)に押し込まれてるんだ。
かごめ、来てるのか?
デブ仙人の住処の何処かに・・・。
どうにかして、この吸血蔓から自由にならなくちゃ。
だが、もがけばもがく程、締め付けてきやがる。
バッ・・・ボタボタと血が滴る。
まったく嫌になるぜ。
これだから人間の身体は・・・。
クッ・・・血を流しすぎた。
目が霞んできやがった。
桃果人が俺を閉じ込めた部屋に入ってきた。
様子を見にきたのか。
バサッ・・・
奴が投げ出した服。
そっ・・それは・・・かごめの着物。
まっ・・まさか・・・
血相変えて、奴に、かごめをどうしたのかと聞けば。
あの野郎、かごめを喰ったなんて抜かしやがった。
俺は完全に頭に来た。
吸血蔓を絡みつかせたまま、デブ野郎に掴みかかろうとしたんだが。
ギシギシと軋む音がするだけで、どうしても蔓は切れない。
そしたら何かが蔓を吸い込む音が。
ギュ————・・・ミシッミシッ
後で判ったんだが、あれは弥勒が風穴を開いてたんだな。
渾身の力を込めて蔓を引き倒した。
ついでに蔓が絡んでた天井まで崩れてきやがった。
ドオオオン・・・ガラガラ・・・・
ようやく蔓から自由になったぜ。
瓦礫の下になった桃果人は気絶してるようだ。
待ってろ、かごめ!
直ぐにも桃果人の腹をかっさばいて・・・。
そんな俺に弥勒と七宝が話しかけて来た。
なっ、何だ、おめえ達、その姿!
桃果人に喰われる前の俺と同じ小人姿じゃねえか。
これまでの経緯(いきさつ)を弥勒と七宝から聞き出した俺は、かごめが捕まっている厨房へ急いだ。
息せき切って戸をブチ破って駆け付けてみれば・・・・。
かごめの奴・・・・素っ裸だった。
周囲には桃果人に仕える猿や狸やイタチの有象無象が。
そいつらは、皆、俺が来た途端、一目散に逃げてったが。
生きてた・・・・
ホ——・・・かごめは無事だった。
それを自分の目で確認した途端、安心して気が抜けてく。
とは言え、此処でジッとしてる訳にもいかねえ。
何時、あのデブ仙人が追ってくるとも限らねえしな。
とりあえず火鼠の衣を脱いで、かごめに着るように手渡した。
散々、俺の血で汚れてるが何も着ないよりはマシだろう。
とにかく妖力を失った今の俺じゃ、あのデブ仙人と、まともに遣り合えない。
悔しいが夜明けが来るまで奴から逃げるしかない。
かごめが外への出口を見つけてきた。
ゲッ、何だよ、この場所は!
下は断崖絶壁じゃねえか。
・・・・こんな所から、一体、どうやって逃げろって?
かごめと押し問答が始まりそうな気配の時、不意に背後から声が掛かった。
ギョッとしたぜ。
鉢植の牡丹らしき花から覗いているのは老人の顔だ。
今度は人面果じゃなく人面花かよ。
話を聞けば、ソイツは桃果人の師匠だったって云うんだ。
あの人でなし野郎、手っ取り早く仙術を手に入れる為に師匠を殺して喰っちまったんだ。
だが、不老長寿の秘薬の作り方だけは師匠の頭の中だった。
だから、鉢植えに仙人の頭だけ生かしてあるんだとよ。
チッ、全く何て外道だ!
戸を打ち砕いて部屋に入ってきた桃果人。
四魂の欠片が効いてきたのか。
醜くブクブク太った身体が岩石みたいに硬化してやがる。
奴の振るう杖から放たれる仙術も以前の花じゃねえ。
太くて硬い棘だらけの蔓に変わってやがる。

「危ねえ!」
「きゃっ・・・」

かごめを庇ったせいで背中を棘にやられた。
クソッ、又しても、出血だ。
何処も彼処も傷だらけだぜ。
良心の呵責もなく、散々、人を喰らってきた化け物が!
こんなクソ野郎が人間だっただと?
馬鹿云ってんじゃねえ!
とにかく妖力が完全に桃果人の身体に溶け込む前に、四魂の欠片を取り戻さねえと。
喰われた人間の骨が入った大壺をぶつけて奴の注意を逸らす。
そして出来た隙に四魂の欠片を取り返そうとしたんだが。
畜生・・・奴の一撃を背後から喰らって吹っ飛ばされちまった。
ガシャ———ン!
ゲッ!
壊れた大壺から出てきたのは・・・・。
夥(おびただ)しい人面果と何かの液体。
人面花の仙人の爺さんが云うには、それは桃果人が作った不老長寿の秘薬のまがい物らしい。
だが、たちどころに怪我を治すくらいの効果は有るそうだ。
それを俺に飲めって云うんだ。
冗談じゃねえぜ!
そんな目覚めの悪い物、飲めるかよっ!
俺は、そんな物、飲まなくたって貴様みたいな外道に負けねえ!
奴の仙術、棘だらけの蔓を掻(か)い潜(くぐ)り、杖を奪い取ろうとしたんだが。
ドカッ!
桃果人の丸太のような一撃を喰らっちまった。
クッ、摑まっちまった。
野郎、グイグイと首許を締め付けてきやがる
畜生・・・・どうすりゃいいんだ。
そんな時、かごめが俺を助ける為、矢を射ようとしたんだ。
ビシ! ビイイイン・・・・
クソッ、弓が砕けちまった。
禄に手入れもしてなかったんだろう。
運が悪かった。
それを見た桃果人が、かごめに向かってトンデモナイ事をほざきやがった。
俺を片付けた後で、ゆっくり、喰ってやるだと!
このデブ野郎が、許さねえ!
咄嗟に蔓の棘を折り取って奴の左目に突き刺してやった。
ドカッ!
お返しに俺の右腕も折られちまったがな。
ボキッ!
左目を潰されたせいで桃果人の野郎、本気で頭に来たらしい。
ジワジワと俺を嬲(なぶ)り殺す積もりだ。
利き腕は折られちまったわ、非力な人間の身体だわ。
絶対絶命と思った時、かごめが背後から破魔の矢を桃果人に撃ち込んだんだ。
ドカ! シュ———・・・
さっき弓は折れちまったはずだ。
どうやって?と思ったら・・・。
仙人の爺さんが最後の力を振り絞って弓に変化してくれたんだ。
おかげで桃果人の臍に仕込まれてた四魂の欠片が押し出された。
そのまま外れて床に転げ落ちた。
キイ———ン
見る間に四魂の欠片の効果が薄れていく。
岩石並みに硬化してた奴の身体が元に戻り始めた。
仙人の弓は役目を終えたと同時にボロボロと崩れ落ち消えていった。
完全に頭に血が昇った桃果人め、今度は、かごめを標的に!
危ない! 逃げろ! かごめ!
かごめの後ろは断崖絶壁だ。
こうなったら一か八かだ。
ゴチャゴチャ考えてる暇はねえ!

「伏せろ、かごめ———っ!」

桃果人の背中に俺は思いっきり体当たりを喰らわせた。
ドカ!
そのまま勢い余って暗い崖下に落ちていく俺と桃果人。
気が付いた時、霧は出てたが辺りは明るかった。
夜が明けたんだ。
俺は人面果の木の上に寝てた。
傷口は粗方(あらかた)塞がり出血も止まってる。
折れた右腕はチョイと痛むくらいだ。
妖力が戻ってた。
桃果人の野郎は死んでた。
そりゃ、あれだけの高さから叩き付けられたんだ。
無理もねえか。
ンッ、下でピーピー泣き喚いてるのは七宝じゃねえか。
かごめと弥勒の声も聞こえる。
耳を澄まして様子を窺ってたら・・・・。
アイツら、好き勝手抜かしやがって。
かごめの奴なんか、俺を『馬鹿』だの『無茶』だの散々に云ってくれてたぜ。
尤も、あれは俺の事を心配する余りの言葉だった・・・けどな。
何時も、あんな風に心配してくれてたんだな、かごめ。



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『降り積もる思い⑭=再会=』

奈落との因縁が漸くハッキリした。
これ迄は奴の思惑に翻弄されてきた。
正体の判らない敵の攻撃を闇雲に受けるばかりだったんだ。
だが、事の真相が判明した今、それなりに奴に対応できる。
奈落との因縁、それは桔梗が村外れの洞穴に匿っていた鬼蜘蛛って男の話から始まる。
鬼蜘蛛は隣国で、散々、悪事を働き逃れてきた野盗だったそうだ。
何故、そんな奴を、巫女である桔梗が匿ったのか?
俺の疑問に楓ばばあが答えてくれた。
奴は全身に火傷を負い両足の骨が砕けていたんだとよ。
つまり、歩くことは愚か、身動きさえままならない状態だった訳だ。
成る程、そんなんじゃ、もう悪さは出来ねえよな。
そんな男が抱いた桔梗への激しい執着。
桔梗は俺と出会ってから霊力が弱くなっていたらしい。
この地に巣喰う妖怪どもを封じる事ができない程に。
そして、そうした妖怪どもは、鬼蜘蛛の桔梗への凄まじい妄執を利用した。
妖怪どもめ、自由な身体を与える代償に奴の魂を要求したんだ。
その結果、鬼蜘蛛の魂を拠り所にして数多の妖怪どもが融合し生まれたのが・・・奈落だ。
奈落の罠のせいで俺と桔梗は互いに憎しみ合い殺しあう破目になったんだ。
憎んでも憎みきれない終生の敵(かたき)、奈落。
奴も四魂の欠片を集めているんだ。
そして、四魂の玉を完成させようとしてる。
だったら、俺達が四魂の欠片を集めていれば、いずれ、必ず、何処かで奈落と出会う。
その時は、必ず、奴を仕留めて今度こそ桔梗の敵を討ってやる!
そう心に固く誓った俺だった。
だが、まさか、死んだと思っていた桔梗に再び逢うことになろうとは・・・・。
あの時は考えもしなかった。
例によって弥勒の口先三寸説法で立派な屋敷に上がり込んでいた俺達。
何でも、そこんちの姉姫が亡くなって死魂(しにだま)が狙われてるんだとか。
それで、死魂を妖怪に取られないように守ってくれと頼まれたんだっけ。
俺とかごめを部屋に残し、弥勒の奴、七宝を連れて、おびえてる妹姫を守りに行きやがった。
草木も眠る丑三つ時、かごめが俺に擦り寄ってきた。
死体を置いてある部屋に居るのが怖いんだとよ。
思わず勘違いしそうになっちまったぜ。
何がって・・・・うるせえ!
その時、いきなり死体が起き上がった!
口許から死魂が出てきた。
それを妖怪が持っていこうとしてやがる。
すかさず鉄砕牙でそいつを斬り捨てた。
取り合えず姫の死魂は無事だ。
呆気ないほど簡単に片が付いた一件だった。
だが、外を見れば半月の夜空を妖怪どもが飛び交っているじゃねえか。
奪ってきた死魂を集めて何処かへ運ぼうとしている。
やっと弥勒の奴が来やがった。
お多福の妹姫が取り縋り法衣が着崩れしてる。
野郎、一体、何してたんだ?
妖怪どもを追ったが見失っちまった。
次の日、河原で休息していたら今度は坊主の土座衛門を見つけた。
いや、実際は生きてたな。
そして、そいつの口から知ったんだ。
桔梗が、まだ、この世に居ることを。
死魂を集めていたのは桔梗だった。
どんな理由かはサッパリ判らなかったが。
更に驚いたのは、桔梗が成仏させようとした坊主の法力をはね返して逆に殺したって事だ。
殺された坊主は、そいつの師匠だったと云う。
あの時、裏陶(うらすえ)によって蘇った桔梗。
崖から落ちて死んだと思っていた。
・・・・まだ、この世を彷徨っているのか?
もし、そうなら俺はお前を救いたい。
弥勒達を置いて、一人、桔梗の許へ向かった俺。
陽が落ちてきた。
秋の夕べはつるべ落としだ。
アッと云う間に周囲が暗くなってきた。
幻想的な闇の中、フワフワと浮かぶ人魂、飛び交う妖怪。
後で知ったが奴らは死魂虫(しにだまちゅう)と云うそうだ。
そんな中、桔梗が居た。
昔のまま、俺が恋焦がれた当時の姿のままで。
何故、死魂を集めるのか問い質せば・・・・。
裏陶が作った桔梗の骨と土の体は、魂で満たしておかなければ上手く動かせないのだと云う。
桔梗の手が俺の頬を優しく撫でる。
ソッと重ねられた口付け。
触れた事さえ無かった桔梗の唇が柔らかく押し付けられる。
桔梗・・・・桔梗・・・・
俺は、今でも、お前を・・・・。
死人のお前に俺は何をしてやれる。
お前が望むなら、今、この場で殺されても構わない。
桔梗と抱きあったまま、俺の意識は途切れていった。
不意に飛び込んできた、かごめの声。
ボウと結界が霞み、見えてきたのは死魂の妖怪に捕われたかごめの姿。
咄嗟に鉄砕牙を抜き放ち、死魂虫を斬り捨てた。
闇の中、おぼろげな光を発して浮遊するように飛ぶ死魂虫。
数匹の死魂虫が桔梗を乗せて飛んでいった。
その姿は夢幻のように綺麗で、その癖、哀しげだった。
意識がハッキリすれば周囲の様子から何が有ったのかは容易に判断できる。
桔梗は俺を生きたまま、あの世に連れていこうとしてたんだ。
だけど、どうしても桔梗を憎めない。
俺の後を追って死んだ桔梗。
桔梗の思いが深ければ深い程、その痛みが胸に突き刺さって・・・。
とはいえ、それは俺の事情であって、かごめには関係ねえ。
イヤ、関係ないってこたねえんだろうが。
アアッ、もう、ややこしい!
とにかく、かごめは怒ってる。
畜生、どうすりゃいいんだ!?
何とか話をしようとしても『おすわり』攻撃で叩き臥せられるし・・・。
段々、腹が立ってきた。
何で、俺がビクビクしなきゃいけねえんだよ。
遂に堪忍袋の緒が切れた。
かごめの前に廻り込んで、取り合えず謝った。
多分、桔梗との口付けの事を怒ってるんだろうな。
そう云ったら、かごめの奴、喰って掛かってきたんだっけ。
『かごめに側に居てほしい』・・・・かごめに云った言葉。
『一日だってお前を忘れた事はなかった』・・・・桔梗に云った言葉。
ドッチが本当なんだって詰め寄ってきたんだ。
でも、俺に取っちゃ、ドッチも本当なんだ。
だから、正直に、そう云ったんだよな。
ハア~~~今、思い返すと、当時の俺って・・・・何て馬鹿なんだ。
少しは弥勒を見習っとくべきだったぜ。
何でもかんでも馬鹿正直に話せば良いってもんじゃない。
そういう人情の機微ってもんが、今なら、俺にもちっとは判る。
もし、かごめに俺以外に好きな男が居たら・・・・?
鋼牙の奴には、かごめは好意以外、何も抱いてなかったみたいだけど。
それでも、俺には我慢ならなかったっけ。
すまねえ、かごめ。
桔梗が、この世に戻っていた間、ズッと辛い思いさせてたんだな。
・・・・だからかも知れないな。
お前に会えない辛さをこんなにも我慢しなきゃならないのは。



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『降り積もる思い⑬=不気味な影=』最終回萌え作品⑤

五十年前に俺と桔梗を罠に掛けた奴がいる。
それも互いが互いに裏切られたと思い込ませる二重の罠だ。
怖ろしく手が込んでやがる。
一体、何の為に俺達を罠に嵌めたんだ?
どんな顔をしているのか?
今、何処に居るのか?
判らねえ。
謎だらけだ。
判っているのは、唯、奈落と云う名前と、それに妖怪だって事だけだ。
尤も、それだって弥勒から聞いて初めて判ったくらいだ。
弥勒にしたって、実際、奈落を見た訳じゃねえ。
奈落と闘ったのは弥勒の父親の父親、つまり弥勒の爺さんだからな。
その爺さんの話を弥勒の父親が聞き、その父親から弥勒は聞かされたって寸法だ。
又聞きの又聞きだな。
何しろ、五十年も前の話だ。
だが、俺は封印されてたせいかな。
何もかもが、つい、今し方、起きたばっかりのように生々しく感じるぜ。
そんでだな、とにかく、その奈落って奴が、殺生丸の裏で糸を引いてたそうなんだ。
俺が気が付いたら弥勒が教えてくれたぜ。
弥勒にタコ殴りされた邪見が嫌々吐いた事実によるとこうだ。
まず、四魂の欠片を仕込んだ人間の左腕。
あれは奈落が殺生丸に渡したんだとよ。
奈落の奴、それを殺生丸に渡して俺を襲うように仕向けたんだ。
それに毒虫、最猛勝(さいみょうしょう)の巣。
あれだってそうだ。
まるで弥勒の風穴を封じる為にあつらえたような代物だよな。
何故だ?
何故、そうまでして俺を陥れようとするんだ?
イヤ、俺だけじゃねえな、弥勒もだ。
判らねえ。
皆目、見当もつかねえぜ。
それでも、奈落が、始終、俺達を窺(うかが)ってるのは間違いねえ。
恐らく、今、この瞬間にもな。
物影にジッと身を潜めてるんだろうぜ。
ひっそりと気配を殺してな。
不気味だぜ。
正体が掴めない分、余計にな。
今回は奈落の差し金で襲ってきた殺生丸を何とか退ける事が出来た。
だが、次はどうだろう・・・・。
奈落のこった、どんな卑怯な手を使ってくるか。
俺は、かごめを守りきる事が出来るんだろうか。
今度だって凄く危ない目に遭わせちまった。
俺や四魂の玉と関わったばっかりに・・・・
もし、かごめが死んだら・・・・
駄目だ! 駄目だ!
そんな事になったら俺は自分を許せねえ!
だから、四魂の欠片を取り上げ、かごめをアッチの世界に帰した。
これで良いんだ。
かごめは、元々、アッチの人間なんだから。
アッチに戻れば命を狙われるような危ない目に遭わずに済む。
例え、もう二度と会えないとしても・・・・。
未練を振り払う為、井戸に木を突っ込んで出口を塞いどいた。
直ぐにも奈落を捜し出してブッ殺してやりたい!
やたら気が逸(はや)るぜ。
カッカする俺に対し、弥勒が冷静に今までの事情と経過を繋ぎ合わせ推測した。
俺と奈落は逢った事が有るはずだと。
確かにな、だが、逢ったとは云っても、それは奈落が桔梗に化けた姿だ。
丸っきり正体は判らない。
俺の、そんな言葉に対し弥勒が指摘する。
それが可笑しいと。
奈落を知らない俺が、何故、恨まれるのだと。
其処から弥勒が導き出した推論に驚かされた。
それは、俺が思いもしない考えだった。
奈落は桔梗と関わりが有ったのかも知れないという。
だとしたら・・・・。
とにかく、事情を楓ばばあに話して確かめるしかねえ。
何てったって楓ばばあは桔梗の妹だからな。
一番、桔梗の身近に居た。
アイツなら何か知ってるかも知れねえ。
楓ばばあに、これまでの経過を詳しく話して何か思い当たる事はねえか?と訊ねた。
その結果、驚くような事を楓ばばあが教えてくれたぜ。
桔梗が、野盗を匿(かくま)っていたとは・・・・。
野盗の名は鬼蜘蛛。
散々、隣国で悪事を働き逃れてきたらしい。
何故、そんな悪党を桔梗が匿ったのか?
そいつ、鬼蜘蛛は、全く動けなかったってんだ。
全身に火傷を負い、両足の骨は砕けてたらしい。
並みの人間なら、そのまま死んじまっても可笑しくない状態だぜ。
だが、奴は、それでも生きていたってんだ。
驚くような生命力だな。
然も、その野郎、桔梗に浅ましい思いを抱いてたらしい。
でも、だからって、そんな奴が、一体、奈落とどう結びつくんだ。
鬼蜘蛛は人間なんだろう。
奈落は妖怪だぜ。
桔梗が死んだ後、数日して子供だった楓が鬼蜘蛛の様子を見に行ったそうだ。
そしたら洞穴は完全に焼け落ちて何も残っていなかったらしい。
日も射さない薄暗い洞穴の中。
明かり取りの火は欠かせない。
その火が何かの拍子に燃えて動けない鬼蜘蛛は、そのまま火に巻かれたのだろう。
そして骨も残さず焼け死んだに違いないと当時の楓は思ったそうだ。
だが、それが真相ではないとしたら?
それを確かめる為、俺と弥勒、楓ばばあは、以前、鬼蜘蛛が匿われていたという洞穴に向かった。
洞穴の中に残っていたのは・・・・。
ボウボウの草むらの中、やけに目立つ草も苔も生えていない部分。
ソコは、嘗て、鬼蜘蛛が横たわっていた部分だと楓ばばあが云う。
それを聞いた弥勒が、法師として蓄えた知識の一環を披露してくれた。
妖怪が強烈な邪気を発した跡には、その後、何十年も草木一本とて生えぬのだと。
と云う事は、鬼蜘蛛は妖怪に取り憑かれたのか?
ンッ、何だ、急に匂いが。
俺の鼻が妙に甘ったるい香みてえな匂いを感知した。
薄暗い洞穴の中、ボウッと浮かび上がってきたのは・・・・桔梗!
血に塗れた無残な姿。
裏陶(うらすえ)によって蘇った時の姿のままだ。
俺への怨みに満ちた・・・・。
ドカッ!
弥勒が錫杖で何かを突いた。
それと同時にフッ・・・と桔梗の姿が消え失せた。
幻術!
錫杖に貫かれたものを見れば、それは腹に幻術の香を仕込んだ蜥蜴。
畜生、奈落の野郎!
俺達が、ここに来る事を見越してやがった。
居るんだ!
必ず近くに身を潜めてやがる!
もう間違いない。
鬼蜘蛛の邪悪な心と妖怪が・・・奈落が結びついたんだ。
そして、四魂の玉を手に入れる為に桔梗を死なせた。
やっと、奈落と鬼蜘蛛の結びつきに辿り着いた。
敵の正体が見え始めたと思った途端、何者かが襲ってきた。
狼? それも額に第三の目がある!
何なんだ! こいつら?
七宝を追ってきやがった。
散魂鉄爪で狼どもを引き裂いたは良いが・・・・。
クッ、殺生丸にやられた腹の傷が開いちまった!
狼どもの親玉らしき野郎が出張ってきやがった。
やたら頭がデッカイ奴だったぜ。
地獄の狼、狼野干(ろうやかん)とか名乗ってたな。
顔がデカイ分、口も大きい。
そのデカイ口から狼どもを吐き出すんだ。
一頭や二頭じゃねえ。
最初に闘った時は六頭も出してきやがった。
野郎、俺が手負いだって知ってやがった。

「止(とど)めを刺しにきた!」

クソッ、あのデカ顔狼め、ふざけた台詞を吐きやがって。
だが、その言葉でハッキリした。
狼野干は奈落の手先だ。
奈落め、又だ。
又しても、自分では手を下さない積りだ。
弥勒が風穴を開いて狼どもを粗方(あらかた)始末した。
風穴の威力を見せつけ誰の差し金か吐かせようとしたんだが、生憎、まだ二頭、狼が残ってやがった。
散魂鉄爪で、そいつらを片付けた時、もう、奴の姿は見えなかった。
クソッ、逃げ足の速い野郎だ。
俺は直ぐにも奈落を捜しだす積りだったが、弥勒達に止められちまった。
殺生丸にやられた傷が開いてジワジワ出血してやがる。
そんな俺を、弥勒と楓ばばあが物置小屋に閉じ込めやがった。
ご丁寧に封印まで張ってな。
こん畜生! 出せ! 出しやがれ!
焦る俺を懇々と説得する弥勒。
云う事は判るが、こんな処でジッとしてられねえんだ。
一刻も早く奈落を捜し出してブッ殺してやりたい!
俺が、あんまり頑固なせいだろう。
弥勒の奴、遂に切れやがった。
いつもの丁寧な言葉使いじゃねえ。
不良の本性丸出しだ。
そんで俺をドカドカ容赦なく蹴りつけやがったんだ。
やめろ~~俺は怪我人なんだぞ。
怪我の手当てをすると弥勒と楓ばばあは出て行った。
仕方なく寝てたんだが、急に咳き込んだ。
ゴホ、ゴホ、ゲホッ!
血だ!
クソッ、殺生丸の爪の毒が、まだ腹の中に残ってやがる。
道理で怪我の治りも遅い訳だぜ。
あのまま済むとは思ってなかったが、狼野干め、やっぱり襲ってきたか。
弥勒と楓ばばあが小屋の前に結界を張ってるが、どれくらい持つか。
何だ?狼野干の野郎、前と全然、様子が違うぞ!
特に眉間の辺りから生い茂ってる蔦。
目は血走り口許からはダラダラと涎(よだれ)を流してる。
殆ど正気が無くなってるみたいだ。
狼どもは結界に阻まれて、それ以上、中に入ってこれない。
睨み合いの状態は一本の槍で破られた!
槍は楓ばばあを狙っている。
堪らず弥勒が動き槍を防いだ。
だが、それによって結界は破られた。
狼野干が物置小屋に突進してきた。
強力な両の拳で一気に小屋を破壊しやがった。
ヘッ、有難うよ、狼野干、お陰で外に出られたぜ。
礼の代わりに奴の鼻面に鉄砕牙をお見舞いしてやったぜ。
だが、俺の体は、やっぱり完全に回復してなかった。
クソッ、野郎の一撃を喰らって吹っ飛んじまった。
それと同時に懐に入れといた四魂の欠片が!
外に飛び出しちまった!
狼野干が四魂の欠片を奪おうとする。
其処に空(す)かさず走りこんだ七宝が四魂の欠片を拾い上げて逃げる。
四魂の欠片を掴んで逃げる七宝を狼どもが追い掛ける。
弥勒が風穴を開いて狼どもを吸い込もうとしたんだが。
ワ~~~ン・・・ザザザ・・・・
奈落の毒虫が大量に現れた。
クッ、弥勒の風穴が封じられた。
どうにもこうにも不味い展開だぜ。
狼野干め、引き裂いても引き裂いても狼どもを吐き出してきやがる。
キリが無いぜ、全く!
弥勒が云うには、野郎、四魂の欠片を使ってるらしい。
それで、その四魂の欠片を使ってる場所を正確に突けば倒せるそうだ。
だが、弥勒の眼力じゃ判らないんだとよ。
チッ、それじゃ、どうもならねえ。
かごめでなければ見えないだと!?
泣きごと云ってんじゃねえ!
アイツは、かごめは、もう居ねえんだ!
その時、匂ってきたんだ。
かごめの匂いが。
間違いない!
鉄砕牙を抜き放って邪魔な狼野干に一撃喰らわした。
その衝撃で、野郎、倒れやがった。
今は、お前何ぞに構ってる暇は無いんだ。
骨喰いの井戸へひた走る。
かごめ、何で戻ってきたんだ!?
井戸を塞いだ木に狼どもが集(たか)って中に入ろうとしてやがる。
その木を勢い良く引き抜きざま、襲い掛かってきた狼野干のデカ口に突っ込む。
ズズ~~~ン!
ヨシッ、今度こそ気を失って倒れやがったぜ。
井戸の中から、かごめが出てきた。
俺に走り寄り抱き付いてきたかごめ。
馬鹿野郎、何で戻ってきたんだ。
かごめに無事でいて欲しい。
そう思うからこそ、アッチの世界に帰したのに。
そんな俺にかごめは云う。
俺に会いたかったのだと。
・・・・そんな事を云ってくれた奴は、今迄、誰も居なかった。
嬉しかった。
俺とかごめが押し問答をしている間、楓ばばあが妙な事に気付いた。
毒虫が何時の間にか居なくなってたんだ。
あんなに煩いくらい群れていたのに。
かごめが怪しい気配に勘付いた!

「誰かいる!四魂の欠片を持ってる。」

気配を覚られた何者かが動いた。
正体不明の影。
奴だ! 奈落!
瞬時の跳躍。
逃げようとした奴の前に先回りして道を塞ぐ。
背後は弥勒が固めてる。
こいつ、不気味な狒々の被り物で全身を覆ってやがる。
此処で見つけたが百年目。
逃がしゃしねえぜ。
息の根を止める前に洗いざらい喋ってもらう。
何故、俺と桔梗を罠に掛けたのかをな。
詰め寄る俺達に奈落が明かした驚くべき事実。
奴は、奈落は、鬼蜘蛛の魂と身体を依り代に数多の妖怪が融合して生まれたのだと。
信じ合う者を、俺と桔梗を互いに憎しみ合わせ殺し合わせる。
そうする事によって四魂の玉に怨みの血を吸わせる為に。
奴の計画じゃ、俺を封印した桔梗が、自分だけは生きながらえたいと願を掛ける筈だった。
だが、桔梗は四魂の玉を抱えて死んだ。
俺の後を追って死んだんだ。
桔梗! 桔梗! 桔梗!
その為に・・・そんな事の為に・・・俺と桔梗を罠に掛けたってのか!
許さねえっ!
腹の底から湧き上がってくる激しい怒り。
八つ裂きにしてやる積りで爪を振るったが・・・。
躱(かわ)された!
チッ、何て身の軽い!
弥勒が錫杖を投げる。
バシッ! 弾かれた!
袂(たもと)で半ば顔を覆い隠しているが、奈落が若い男である事は見て取れる。
ゴボッ・・・・
奈落の奴、身体全体から何かを吐き出した。
瘴気だっ! それも大量の!
何て瘴気の強さだ。
ジュ———バキバキ・・・
地面が、木が、アッと云う間に溶けてる。
だからって奴を逃すもんか。
クソッ、火鼠の衣でさえ溶け出した。
怖ろしく強い毒だ。
鉄砕牙を抜き放ち厚い瘴気を斬る!
ゴオ~~~~~~
驚いて逃げようとする奴の背中に鉄砕牙を!
ズドッ!
仕留めた!?
イヤ、違う、背中をかすっただけだ。
だが、奴の、奈落の背中に浮かび上がって見えたのは・・・・蜘蛛!
ザザザ・・・・シュ~~~~
そのまま瘴気に包まれ奈落は消えた。
野盗の鬼蜘蛛は全身に大火傷を負っていたと云う。
恐らく・・・あれは鬼蜘蛛の名残。
弥勒達の許に戻ってみれば狼野干の野郎が暴れだした。
頭を抱えて苦しんでやがる。
額に仕込まれた四魂の欠片が蔓をはびこらせてるんだ。
凶暴化してる狼野干に、かごめの奴、平気で近付きやがって。
馬鹿! 死にてえのかっ!
そんな俺にお構いなしに、かごめは狼野干の額に手を突っ込んだ。
そんでもって、何の造作もなく四魂の欠片を取り出しちまったんだ。
キ~~~~ン
拍子抜けするくらいアッサリとな。
おっ、俺達、何の為に、ああも必死に闘ってたんだ???
狼野干は能天気に挨拶なんぞして逃げていきやがった。
それにしても、やっと明らかになった五十年前の真相。
奈落、必ず追い詰めて桔梗の敵(かたき)を取ってやる!
もう、俺が、桔梗にしてやれる事は、それしかねえ・・・・
かごめが井戸に入っていく。
アッチに戻るのか。
桔梗の事は絶対に忘れちゃいけねえ。
でも・・・・・

「やっぱり・・・かごめに側にいて欲しい・・・・」

自分でも驚くほど素直に本当の気持ちが云えた。

 

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『降り積もる思い⑫=接触=』最終回萌え作品⑤

弥勒が旅の一行に加わってから野宿が減った。
塒(ねぐら)を探す段になると、いっつも都合良く辺りで一番立派な屋敷の上空に不吉の雲が垂れ込めるんだ。
そして、弥勒の野郎が、何だかんだ上手い事、屋敷の者を言いくるめて、その日の宿を確保する。
今日も今日とて、その算段で今夜の宿にありついた。
どう考えても胡散臭い!
思い切って弥勒に問い質してみれば、野郎、シレッとした顔で「嘘も方便」とか抜かしやがった。
あっ、呆れたぜ。
こいつは、何時も、こんな事をしてきたのか。
・・・・ヤッパリ不良だ、こいつ。
改めて、そう思った時、かごめの奴が四魂の欠片の気配がすると云い出したんだ。
急いで外に飛び出せば、巨大な鬼が、コッチに向かってくるじゃねえか。
そして、鬼の右肩には殺生丸が!
(生きていたのか!)
喜べば良いのか、悲しめば良いのか、正直、複雑な心境だったぜ。
従者の邪見も傍に居る。
鬼の肩からフワッと跳び下りる殺生丸。
次の瞬間には、もう眼前に居た。
クッ、瞬時に間合いを詰めてきやがる。
畜生、相変わらず油断も隙もねえ。
性懲りもなく、また鉄砕牙を狙ってきやがった。
鉄砕牙を抜き放って、一撃、お見舞いしてやったんだが・・・・。
軽々と躱(かわ)されちまった。
それだけじゃねえ!
片手で大きく振りかぶった俺は右腕を掴まれちまった。
殺生丸の爪から毒が放出される。
ジュ———ッ
猛毒で腕が溶かされいく。
アイツは、それで俺が鉄砕牙を手離すと思ってたんだろうが。
ケッ、誰が手離すかよ!
左腕を添えて逆に奴を真っ二つにしてやる積りで押し返した。
一旦、後ろに飛び退(の)いた殺生丸。
今度は右肩から掛けている毛皮を伸ばしてきやがった。
毒でやられている俺の右腕は握りが甘くなってる。
バシッ!
クッ、鉄砕牙を弾かれちまった。
慌てて取りに走れば、殺生丸の奴、左手で鉄砕牙を掴みやがった!
どっ、どうして持てるんだ?!
結界に拒まれるんじゃなかったのかよ!
驚く俺やかごめを尻目に、殺生丸の奴、鉄砕牙の真の威力を見せてやるとか云って、邪見に命じて鬼に山から妖怪どもを追い出させたんだ。
現れた夥(おびただ)しい数の妖怪。
そいつらを鉄砕牙の一撃で薙ぎ倒しちまった。
唯の一撃でだぞ!
おまけに山まで消し飛んじまった。
信じられないような鉄砕牙の力を見せ付けてくれたぜ。
そんな中、かごめが、俺達の間に割って入った。
普通の人間なら女が割って入れば事が収まりやすいんだがな。
生憎、殺生丸は人間じゃないし、女を殺す事さえ屁とも思わない輩なんだ。
下手に割って入ると怪我どころか殺されるぞ。

「どいてろ、かごめ」

そう云って、かごめを庇って前に出れば、弥勒の奴が出しゃばってきやがった。
「犬夜叉一人では無理です」とか、何とか抜かしてな。
ダア~~~ッ! うるせえ!
俺の前に出るんじゃねえっ!
俺と弥勒が押し問答していると邪見がしゃしゃり出てきやがった。
この場は自分に任せてくれとかゴチャゴチャとな。
殺生丸は様子見をする積りらしい。
邪見が鬼を嗾(けしか)けてきた。
チッ、ここは、やる気満々の弥勒に任せるか。
弥勒が封印の数珠を解いた。
ゴオ~~~~~~~ッ
風穴が猛烈な風切り音を発し周囲の物を何もかも呑み込もうとする。
鬼の右腕も見る間に呑み込まれていく。
だが、弥勒が否(いや)でも風穴を閉じざるを得ない代物を殺生丸が投げた。
地獄の毒虫、最猛勝(さいみょうしょう)の巣。
ブワッと湧いて出てきた虫どもが先を争って風穴に入り込む。
吸い込んだ虫の毒にやられたのか。
弥勒が風穴を閉じて蹲(うずくま)っちまった。
毒虫どもが襲ってくる。
チッ、こんな虫ども、散魂鉄爪で引き裂いてやるぜ。
一応、鬼は倒したが、肝心の殺生丸は、どうもなってない。
鉄砕牙も奪われたままだ。
不味い! 
殺生丸が鉄砕牙を振るう気だ。
ここは何としても止めないと!
毒でやられた傷口に爪を立て血を滲ませる。
飛刃血爪で殺生丸の気を逸らす。
その隙にへたり込んだ弥勒を抱えて倒れた鬼の体の陰に隠れる。
そこに居た七宝に弥勒の介抱を任せた。
殺生丸が鉄砕牙を振るった。
鬼の体が千切れて吹き飛ばされる。
その残骸に紛れて飛び出し殺生丸の前に躍り出る。
鉄砕牙は鞘で受け止めた。
ググッ・・・・力と力の押し合いだ。
殺生丸が鉄砕牙を引いて振りかぶろうとした。
ゴッ、風が、さっきのトンデモナイ一撃を見舞おうとする殺生丸。
俺に襲い掛かろうとする鉄砕牙に何かが当たった!
カッ! ガガガッ・・・
変化が、鉄砕牙の変化が解けた!
矢だ! かごめの破魔の矢が鉄砕牙の変化を解いたんだ!
かごめが矢を番(つが)えて殺生丸に狙いを定めている。

「殺生丸! 次は左腕をぶち抜くわよ!」

左腕? 何の事だ?
かごめが次の矢を放った。
躱(かわ)された!
三の矢を放とうとする。
駄目だ! かごめ逃げろ!
かごめに襲い掛かろうとする殺生丸を必死に止める。
俺の一撃は奴の顔を掠(かす)め傷を一本付けた。

「速いな・・・その女のことになると・・・」

この時、殺生丸が吐いた台詞。
確かにな、否定はしない。
俺は、かごめが絡んでくると反応速度が格段に上がるようだ。
とにかく、かごめを避難させないと。
こんな危ない場所に置いとけるか。
それに、かごめのおかげで、何故、殺生丸が鉄砕牙を持てるのか判ったぜ。
妖怪の殺生丸は、本来、鉄砕牙を持てない筈なんだ。
なのに、持ってるってえ事は、その左腕は奴の腕じゃねえ。
アイツの左腕は俺が斬り落としたからな。
間違いねえ、今、鉄砕牙を掴んでいる左腕は人間の腕だ。
それを四魂の欠片で繋いでるんだ。
つまり、その腕をぶん取っちまえば奴はもう鉄砕牙に触ることも出来ない。
おまけに四魂の欠片まで付いてくるってえこった。
一石二鳥だぜ!
そう思って左腕を狙ったんだが・・・・。
フッ・・・俺の爪を躱(かわ)す殺生丸。
ドガッ!それどころか、俺は右顔面に一撃もらっちまった。
畜生、奴の毒で右頬が爛(ただ)れてるぜ。
何とかして奴の左腕をもぎ取ろうとするんだが。
クソッ、殺生丸の奴、チョコマカ逃げやがって。
俺を嬲(なぶ)ってるのか!
クッ、今度は左肩に毒華爪を喰らっちまった。
シュッ・・・見るに見かねたかごめが破魔の矢を!
バコッ! 殺生丸の妖鎧を砕いた!
殺生丸の気が削がれた。
ドガッ! 奴の一瞬の隙を突いて、どてっ腹に一発、お見舞いだ。
だが、次の瞬間、殺生丸の奴、俺の首を掴んで、かごめに向かって放り投げたんだ。
ドカッ! ズザザザ——ッ
起き上がって見れば、何てこった!
かごめを下敷きにしてるじゃねえか!
かごめ、しっかりしろ!
よくも、よくも、かごめまで。
許さねえぞ、てめえ!
毒にやられ苦しい息の中、弥勒までが乗り出してきた。
女にさえ情け容赦しない殺生丸のやり口に我慢できなくなったらしい。
風穴を開こうとするんだが止めさせた。
あの毒虫の巣が、まだ近くに有るんだ。
かごめを弥勒と七宝に任せ殺生丸と対峙する。
鉄砕牙を振らせたら最後だ。
その前に、奴が完全に振り切る前に止めるんだ。
ビシビシと当たる風に耐えつつ間合いを詰める。
アイツの懐に飛び込むんだ。
ゴオッ!凄まじい風が発生する。
完全に振り切ってないってのに、この威力だ。
もし、そうなったら全員が皆殺しだ。
捕らえた!
鉄砕牙を持つ左腕を掴んだぞ!
渾身の力で鉄砕牙を振ろうとする殺生丸を押し止(とど)めた。
ギリギリ・・・ギリギリ・・・ズ・・ズズッ・・・
弥勒、七宝、何、ボサッと見てるんだ!
早く逃げろ!

「走れ———っ!」

殺生丸の左腕は封じたが右手はガラ空きだ。

「敵に背中をさらすとは!」

ドスッ! ズッ・・・
野郎、毒を持つ右手で俺の土手っ腹に風穴を開けやがった。
凄まじい苦痛が俺を襲う。
だが、そんな事に構っちゃいられない。
力任せに奴の左腕をもぎ取って鉄砕牙を取り戻す。
ヨシッ、これで、もう殺生丸は鉄砕牙に触る事すら出来ない。
ガクッ、膝が落ちる。
クソッ、力が抜ける。
立っている事さえ出来ないとは・・・
目が・・・霞む。
畜生・・・気が・・遠くなって・・・きやがった。
死んでも・・鉄砕牙は・・・渡さ・・ね・・え・・・

「犬夜叉———っ!」

かごめが俺を呼ぶ声が聞こえる。
無事・・・なんだ・・な・・・良かっ・・・た・・・
そのまま俺は鉄砕牙を構えたまま気を失ったらしい。
気が付けば俺は弥勒の子分、阿波の八衛門狸の背に乗ってた。


 

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『降り積もる思い⑪=弥勒=』最終回萌え作品⑤


「私の子を産んでくだされ」

このふざけた台詞が弥勒の決まり文句だ。
アイツは、この台詞を、チョッと美人と見れば誰彼構わず見境なく掛けまくる男だった。
一応、坊主の癖にな。
(・・・流石に男には云わなかったけどな)
如何にも女好きの助兵衛法師だって判るだろう。
思い出すだに頭に来るぜ。
弥勒の野郎が、俺達に初めて粉かけてきた日の事を。
何処で嗅ぎ付けたんだか知らないが、かごめの持ってる四魂の欠片を狙いやがって。
(実際は、偶然、山中の温泉でかごめの四魂の欠片を見たせいである。しかし、これは死ぬまで黙っていた方が良い秘密だろう。犬夜叉やかごめは勿論、もし、珊瑚にバレでもしたら・・・)
狸妖怪を使って俺達を襲わせた、イヤ、俺をだな。
その隙に、かごめを攫おうとしたんだ。
と云うより四魂の欠片を奪って逃げやがった。
盗られた四魂の欠片を追って町へ出かければ・・・・。
あの野郎、のん気に遊郭なんぞに上がり込んで女遊びしてやがった。
その上、乗り込んで行った俺を無視して、かごめにチョッカイ掛けやがって!
何処までもふざけた奴だったぜ。
唯、アイツは並みの人間じゃなかった。
この俺の太刀筋を全て受け流すなんざ、只者とは思えない。
それだけじゃない。
弥勒の野郎は、トンデモナイ武器を右手に隠し持っていた。
風穴、弥勒の右手にはポッカリ穴が開いてたんだ。
その穴は、何でも吸い込んじまうんだ。
馬だろうが、人だろうが、妖怪だろうが、お構いなしにな。
弥勒の話を聞けば、四魂の欠片を集めるのは、ある妖怪を捜し出し滅する為だと云う。
風穴は、その奈落とか云う妖怪の呪いで穿たれたんだそうだ。
それも弥勒本人じゃなく、父親の父親、つまり祖父に掛けられた呪いのせいだってんだ。
話は五十年ほど昔に遡(さかのぼ)る。
弥勒の祖父は、その奈落って妖怪と闘ったらしい。
聞けば、その奈落、人の姿を借りるってんだ。
出逢うたびに違う人間の姿だったとはな。
驚くぜ、そりゃ、生半可な相手じゃねえ。
弥勒の祖父と奈落の最後の闘いじゃ、奈落の奴、見目麗しい女性(にょしょう)の姿で現れたそうだ。
この弥勒の祖父だ。
さぞかし筋金入りの女好きだったろうぜ。
結果、封印の札ごと右手に風穴を穿たれたって訳だ。
その時に掛けられた呪いが未だに効力を放っている。
弥勒の右手の風穴が、その証拠だ。
風穴は、年々、大きくなり吸い込む力も強くなっているそうだ。
そして、いずれは、弥勒自身も風穴に呑まれるのだと云う。
良く、そんな事を平気な顔でサラッと話せるもんだぜ。
そう思って話を聞いている内に驚くような事実が明らかになった。
五十年前、奈落は、四魂の玉を手に入れかけたってんだ。
四魂の玉を守っていた巫女を殺して!
巫女! 桔梗に間違いない!
そいつだ! 
そいつが桔梗と俺を罠に掛けたんだ!
鬼女、裏陶(うらすえ)によって無理矢理この世に蘇らせられた桔梗の魂。
互いが互いに裏切られたと思い込んでいた五十年前の悲劇。
その事実の一端が明らかになった。
俺達に二重の罠を仕掛けた張本人の名が判明したんだ。
必ず捜し出して落とし前を付けてやる!
話の成り行き上、一緒に旅をしようとかごめが云い出しやがった。
だが、俺は、こんな奴とつるむ気は毛頭ないぜ。
俺の目の前で平然とかごめを口説くような生臭坊主とはな。
その積りだったんだが、何故か、力を合わさざるを得ない事件に出遭った。
侍どもが軒並みやられてる場所に出喰わしたんだ。
それも一人残さず肝を取られてる。
これは、どう見ても尋常な戦の跡じゃねえ。
間違いなく妖怪の仕業だ。
それも雑魚妖怪じゃねえ。
恐らく四魂の欠片の力を使ってるに違いねえ。
俺は四魂の欠片を弥勒に渡す気持ちなんぞ全く無かったからな。
その場所で弥勒と別れたんだが・・・・。
後で、また、ヒョッコリ出逢う羽目になるんだな。
戦場跡、累々たる屍が転がる血生臭い臭気と腐敗臭の漂う無残な場所。
そんな場所で血溜まりの中に輝く四魂の欠片を手に入れた地獄絵師、紅達。
奴は、四魂の欠片を持ち帰り墨に溶かし絵を描いたんだ。
血と人間の肝を混ぜてな。
そしたら紙に描いた妖怪が命を得た。
紙から抜け出し実体を持って動き出したんだ。
それに味を占めた紅達の奴、片っ端から人を殺して肝を取るようになったらしい。
鼻の利く俺は臭いで紅達を捕まえたんだが・・・・。
アイツ、自分が描いた鬼を懐から出して逃げやがった。
鉄砕牙で鬼を斬ったのは良いんだが・・・・。
墨と血と肝の凄まじい臭気に当てられて俺は気絶しちまった。
クソッ、俺は鼻が利く分、酷い臭気に弱いんだ。
それで、かごめの奴、勝手に弥勒を捜し出して協力を頼んだんだ。
弥勒の野郎、早速、金持ちの家に入り込んでやがった。
例によって口から出まかせの説法でも使ったんだろうぜ。
アイツは口から先に生まれたんじゃないかって思うくらい口が上手いからな。
其処んちのお大尽の姫さまが、どうやら妖怪に憑かれてるらしい。
何でも夜な夜な怖ろしい夢を見るんだそうな。
妖怪が現れ見知らぬ屋敷に連れていかれ、一人ポツンと部屋に置いていかれるんだとか。
其処で誰かがジッと自分を見つめている視線を感じるらしい。
どうやら弥勒が依頼を受けた件と俺達の追ってる妖しい絵師とは繋がりが有るようだ。
その夜、待ち構えていたら、案の定、来やがった。
妖怪どもに轢(ひ)かせた妖しい牛車が!
血と肝と墨の臭い、あの絵師と同じ臭いがする。
妖しい牛車が何処へ行くのか。
突き止める為に七宝が姫に化けて乗り込んでいる。
辿り着いたのは一軒の粗末な家。
俺達の事に勘付いたんだろう。
絵師の野郎、絵から夥(おびただ)しい数の妖怪どもを実体化させ俺達を襲わせたんだ。
ケッ、全部、たたっ斬ってやるぜ!
そう思ってたんだが・・・・。
クソッ、鬼の血の臭気に又も当てられ俺は腰砕けになっちまった。
そんな時、弥勒に助けられたんだ。
一気に何十何百もの妖怪を風穴に吸い込んで始末しやがった。
畜生、こんな奴に助けられるなんて!
自分の不甲斐なさに歯軋りしたくなったぜ。
そんな矢先、絵師の奴、弥勒の風穴を見て流石にヤバイと思ったんだろうな。
空を飛ぶ蛇のような妖怪に乗って逃げようとしたんだ。
跳び付いて絵師から四魂の欠片を取り上げる!
野郎、また絵から妖怪を出してきやがった。
だが、そうも何度も同じ手を喰うか!
斬るのが駄目なら殴る!
バキ!バキ!バキ!
片っ端から殴って邪魔者を片付ける。
最初っから、こうしてりゃ良かったぜ。
残るは絵師だけだ。
大人しく四魂の欠片を渡すかと思いきや・・・・。
あん畜生、まだ抵抗しやがった!
自分が乗ってる蛇妖怪の口を俺に向けさせ、火焔を吐き出させたんだ。
燃え盛る紅蓮の炎、並みの人間なら骨も残さず焼き尽くされただろう。
だが、俺は人間じゃない! 半妖だ!
それに俺の着ている火鼠の衣は少々の炎なんぞ屁とも思わない代物だ。
炎に巻かれても死なない俺を見て恐れを為したんだろうか。
絵師の奴、四魂の欠片が入った竹筒を差し出そうとした。
だが、奴の性根は何処までも腐っていたようだ。
まだ悪足掻きしやがった。
蛇妖怪の頭は三又に分かれている。
その内、自分が乗ってる頭以外の二つの頭を使って俺に噛み付かせたんだ。
グッ! もう許さねえ!
力任せに殴って蛇妖怪をやっつける。
もう飛ぶ力が残っていない蛇妖怪から跳び降りて、まだ逃げようとする絵師。
怖ろしい執念だぜ。
背負っていた葛籠(つづら)は壊れちまった。
中から奴が描いた絵がアチコチ散らばってる。
それでも、まだ逃げようとする絵師。
四魂の欠片が入った竹筒を持って。
だが、遂に命運の尽きる時が来た。
奴は跳び下りた際、額を負傷して血を流していた。
その血の臭いが竹筒の中の墨に潜む魔性を呼び起こしたんだ。
竹筒から溢れ出した墨。
血と肝の混じり合った墨が絵師を襲う。
ザン! 竹筒を握っていた左腕が!
魔性の墨に切り落とされた!
シュ———ブクブク・・・・
見る間に墨に喰われていく絵師。
最後に残ったのは俺が掴んだ右腕のみ。
・・・馬鹿野郎、だから、早く手離せと云ったのに。
足元に転がった巻物の中に姫の絵姿が有った。
あの絵師は、姫に懸想してたんだな。
こうして地獄絵師の一件は終わりを告げた。
そして、何故か弥勒の奴は、俺達と行動を共にするようになったんだ。


 

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