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『降り積もる思い⑬=不気味な影=』最終回萌え作品⑤

五十年前に俺と桔梗を罠に掛けた奴がいる。
それも互いが互いに裏切られたと思い込ませる二重の罠だ。
怖ろしく手が込んでやがる。
一体、何の為に俺達を罠に嵌めたんだ?
どんな顔をしているのか?
今、何処に居るのか?
判らねえ。
謎だらけだ。
判っているのは、唯、奈落と云う名前と、それに妖怪だって事だけだ。
尤も、それだって弥勒から聞いて初めて判ったくらいだ。
弥勒にしたって、実際、奈落を見た訳じゃねえ。
奈落と闘ったのは弥勒の父親の父親、つまり弥勒の爺さんだからな。
その爺さんの話を弥勒の父親が聞き、その父親から弥勒は聞かされたって寸法だ。
又聞きの又聞きだな。
何しろ、五十年も前の話だ。
だが、俺は封印されてたせいかな。
何もかもが、つい、今し方、起きたばっかりのように生々しく感じるぜ。
そんでだな、とにかく、その奈落って奴が、殺生丸の裏で糸を引いてたそうなんだ。
俺が気が付いたら弥勒が教えてくれたぜ。
弥勒にタコ殴りされた邪見が嫌々吐いた事実によるとこうだ。
まず、四魂の欠片を仕込んだ人間の左腕。
あれは奈落が殺生丸に渡したんだとよ。
奈落の奴、それを殺生丸に渡して俺を襲うように仕向けたんだ。
それに毒虫、最猛勝(さいみょうしょう)の巣。
あれだってそうだ。
まるで弥勒の風穴を封じる為にあつらえたような代物だよな。
何故だ?
何故、そうまでして俺を陥れようとするんだ?
イヤ、俺だけじゃねえな、弥勒もだ。
判らねえ。
皆目、見当もつかねえぜ。
それでも、奈落が、始終、俺達を窺(うかが)ってるのは間違いねえ。
恐らく、今、この瞬間にもな。
物影にジッと身を潜めてるんだろうぜ。
ひっそりと気配を殺してな。
不気味だぜ。
正体が掴めない分、余計にな。
今回は奈落の差し金で襲ってきた殺生丸を何とか退ける事が出来た。
だが、次はどうだろう・・・・。
奈落のこった、どんな卑怯な手を使ってくるか。
俺は、かごめを守りきる事が出来るんだろうか。
今度だって凄く危ない目に遭わせちまった。
俺や四魂の玉と関わったばっかりに・・・・
もし、かごめが死んだら・・・・
駄目だ! 駄目だ!
そんな事になったら俺は自分を許せねえ!
だから、四魂の欠片を取り上げ、かごめをアッチの世界に帰した。
これで良いんだ。
かごめは、元々、アッチの人間なんだから。
アッチに戻れば命を狙われるような危ない目に遭わずに済む。
例え、もう二度と会えないとしても・・・・。
未練を振り払う為、井戸に木を突っ込んで出口を塞いどいた。
直ぐにも奈落を捜し出してブッ殺してやりたい!
やたら気が逸(はや)るぜ。
カッカする俺に対し、弥勒が冷静に今までの事情と経過を繋ぎ合わせ推測した。
俺と奈落は逢った事が有るはずだと。
確かにな、だが、逢ったとは云っても、それは奈落が桔梗に化けた姿だ。
丸っきり正体は判らない。
俺の、そんな言葉に対し弥勒が指摘する。
それが可笑しいと。
奈落を知らない俺が、何故、恨まれるのだと。
其処から弥勒が導き出した推論に驚かされた。
それは、俺が思いもしない考えだった。
奈落は桔梗と関わりが有ったのかも知れないという。
だとしたら・・・・。
とにかく、事情を楓ばばあに話して確かめるしかねえ。
何てったって楓ばばあは桔梗の妹だからな。
一番、桔梗の身近に居た。
アイツなら何か知ってるかも知れねえ。
楓ばばあに、これまでの経過を詳しく話して何か思い当たる事はねえか?と訊ねた。
その結果、驚くような事を楓ばばあが教えてくれたぜ。
桔梗が、野盗を匿(かくま)っていたとは・・・・。
野盗の名は鬼蜘蛛。
散々、隣国で悪事を働き逃れてきたらしい。
何故、そんな悪党を桔梗が匿ったのか?
そいつ、鬼蜘蛛は、全く動けなかったってんだ。
全身に火傷を負い、両足の骨は砕けてたらしい。
並みの人間なら、そのまま死んじまっても可笑しくない状態だぜ。
だが、奴は、それでも生きていたってんだ。
驚くような生命力だな。
然も、その野郎、桔梗に浅ましい思いを抱いてたらしい。
でも、だからって、そんな奴が、一体、奈落とどう結びつくんだ。
鬼蜘蛛は人間なんだろう。
奈落は妖怪だぜ。
桔梗が死んだ後、数日して子供だった楓が鬼蜘蛛の様子を見に行ったそうだ。
そしたら洞穴は完全に焼け落ちて何も残っていなかったらしい。
日も射さない薄暗い洞穴の中。
明かり取りの火は欠かせない。
その火が何かの拍子に燃えて動けない鬼蜘蛛は、そのまま火に巻かれたのだろう。
そして骨も残さず焼け死んだに違いないと当時の楓は思ったそうだ。
だが、それが真相ではないとしたら?
それを確かめる為、俺と弥勒、楓ばばあは、以前、鬼蜘蛛が匿われていたという洞穴に向かった。
洞穴の中に残っていたのは・・・・。
ボウボウの草むらの中、やけに目立つ草も苔も生えていない部分。
ソコは、嘗て、鬼蜘蛛が横たわっていた部分だと楓ばばあが云う。
それを聞いた弥勒が、法師として蓄えた知識の一環を披露してくれた。
妖怪が強烈な邪気を発した跡には、その後、何十年も草木一本とて生えぬのだと。
と云う事は、鬼蜘蛛は妖怪に取り憑かれたのか?
ンッ、何だ、急に匂いが。
俺の鼻が妙に甘ったるい香みてえな匂いを感知した。
薄暗い洞穴の中、ボウッと浮かび上がってきたのは・・・・桔梗!
血に塗れた無残な姿。
裏陶(うらすえ)によって蘇った時の姿のままだ。
俺への怨みに満ちた・・・・。
ドカッ!
弥勒が錫杖で何かを突いた。
それと同時にフッ・・・と桔梗の姿が消え失せた。
幻術!
錫杖に貫かれたものを見れば、それは腹に幻術の香を仕込んだ蜥蜴。
畜生、奈落の野郎!
俺達が、ここに来る事を見越してやがった。
居るんだ!
必ず近くに身を潜めてやがる!
もう間違いない。
鬼蜘蛛の邪悪な心と妖怪が・・・奈落が結びついたんだ。
そして、四魂の玉を手に入れる為に桔梗を死なせた。
やっと、奈落と鬼蜘蛛の結びつきに辿り着いた。
敵の正体が見え始めたと思った途端、何者かが襲ってきた。
狼? それも額に第三の目がある!
何なんだ! こいつら?
七宝を追ってきやがった。
散魂鉄爪で狼どもを引き裂いたは良いが・・・・。
クッ、殺生丸にやられた腹の傷が開いちまった!
狼どもの親玉らしき野郎が出張ってきやがった。
やたら頭がデッカイ奴だったぜ。
地獄の狼、狼野干(ろうやかん)とか名乗ってたな。
顔がデカイ分、口も大きい。
そのデカイ口から狼どもを吐き出すんだ。
一頭や二頭じゃねえ。
最初に闘った時は六頭も出してきやがった。
野郎、俺が手負いだって知ってやがった。

「止(とど)めを刺しにきた!」

クソッ、あのデカ顔狼め、ふざけた台詞を吐きやがって。
だが、その言葉でハッキリした。
狼野干は奈落の手先だ。
奈落め、又だ。
又しても、自分では手を下さない積りだ。
弥勒が風穴を開いて狼どもを粗方(あらかた)始末した。
風穴の威力を見せつけ誰の差し金か吐かせようとしたんだが、生憎、まだ二頭、狼が残ってやがった。
散魂鉄爪で、そいつらを片付けた時、もう、奴の姿は見えなかった。
クソッ、逃げ足の速い野郎だ。
俺は直ぐにも奈落を捜しだす積りだったが、弥勒達に止められちまった。
殺生丸にやられた傷が開いてジワジワ出血してやがる。
そんな俺を、弥勒と楓ばばあが物置小屋に閉じ込めやがった。
ご丁寧に封印まで張ってな。
こん畜生! 出せ! 出しやがれ!
焦る俺を懇々と説得する弥勒。
云う事は判るが、こんな処でジッとしてられねえんだ。
一刻も早く奈落を捜し出してブッ殺してやりたい!
俺が、あんまり頑固なせいだろう。
弥勒の奴、遂に切れやがった。
いつもの丁寧な言葉使いじゃねえ。
不良の本性丸出しだ。
そんで俺をドカドカ容赦なく蹴りつけやがったんだ。
やめろ~~俺は怪我人なんだぞ。
怪我の手当てをすると弥勒と楓ばばあは出て行った。
仕方なく寝てたんだが、急に咳き込んだ。
ゴホ、ゴホ、ゲホッ!
血だ!
クソッ、殺生丸の爪の毒が、まだ腹の中に残ってやがる。
道理で怪我の治りも遅い訳だぜ。
あのまま済むとは思ってなかったが、狼野干め、やっぱり襲ってきたか。
弥勒と楓ばばあが小屋の前に結界を張ってるが、どれくらい持つか。
何だ?狼野干の野郎、前と全然、様子が違うぞ!
特に眉間の辺りから生い茂ってる蔦。
目は血走り口許からはダラダラと涎(よだれ)を流してる。
殆ど正気が無くなってるみたいだ。
狼どもは結界に阻まれて、それ以上、中に入ってこれない。
睨み合いの状態は一本の槍で破られた!
槍は楓ばばあを狙っている。
堪らず弥勒が動き槍を防いだ。
だが、それによって結界は破られた。
狼野干が物置小屋に突進してきた。
強力な両の拳で一気に小屋を破壊しやがった。
ヘッ、有難うよ、狼野干、お陰で外に出られたぜ。
礼の代わりに奴の鼻面に鉄砕牙をお見舞いしてやったぜ。
だが、俺の体は、やっぱり完全に回復してなかった。
クソッ、野郎の一撃を喰らって吹っ飛んじまった。
それと同時に懐に入れといた四魂の欠片が!
外に飛び出しちまった!
狼野干が四魂の欠片を奪おうとする。
其処に空(す)かさず走りこんだ七宝が四魂の欠片を拾い上げて逃げる。
四魂の欠片を掴んで逃げる七宝を狼どもが追い掛ける。
弥勒が風穴を開いて狼どもを吸い込もうとしたんだが。
ワ~~~ン・・・ザザザ・・・・
奈落の毒虫が大量に現れた。
クッ、弥勒の風穴が封じられた。
どうにもこうにも不味い展開だぜ。
狼野干め、引き裂いても引き裂いても狼どもを吐き出してきやがる。
キリが無いぜ、全く!
弥勒が云うには、野郎、四魂の欠片を使ってるらしい。
それで、その四魂の欠片を使ってる場所を正確に突けば倒せるそうだ。
だが、弥勒の眼力じゃ判らないんだとよ。
チッ、それじゃ、どうもならねえ。
かごめでなければ見えないだと!?
泣きごと云ってんじゃねえ!
アイツは、かごめは、もう居ねえんだ!
その時、匂ってきたんだ。
かごめの匂いが。
間違いない!
鉄砕牙を抜き放って邪魔な狼野干に一撃喰らわした。
その衝撃で、野郎、倒れやがった。
今は、お前何ぞに構ってる暇は無いんだ。
骨喰いの井戸へひた走る。
かごめ、何で戻ってきたんだ!?
井戸を塞いだ木に狼どもが集(たか)って中に入ろうとしてやがる。
その木を勢い良く引き抜きざま、襲い掛かってきた狼野干のデカ口に突っ込む。
ズズ~~~ン!
ヨシッ、今度こそ気を失って倒れやがったぜ。
井戸の中から、かごめが出てきた。
俺に走り寄り抱き付いてきたかごめ。
馬鹿野郎、何で戻ってきたんだ。
かごめに無事でいて欲しい。
そう思うからこそ、アッチの世界に帰したのに。
そんな俺にかごめは云う。
俺に会いたかったのだと。
・・・・そんな事を云ってくれた奴は、今迄、誰も居なかった。
嬉しかった。
俺とかごめが押し問答をしている間、楓ばばあが妙な事に気付いた。
毒虫が何時の間にか居なくなってたんだ。
あんなに煩いくらい群れていたのに。
かごめが怪しい気配に勘付いた!

「誰かいる!四魂の欠片を持ってる。」

気配を覚られた何者かが動いた。
正体不明の影。
奴だ! 奈落!
瞬時の跳躍。
逃げようとした奴の前に先回りして道を塞ぐ。
背後は弥勒が固めてる。
こいつ、不気味な狒々の被り物で全身を覆ってやがる。
此処で見つけたが百年目。
逃がしゃしねえぜ。
息の根を止める前に洗いざらい喋ってもらう。
何故、俺と桔梗を罠に掛けたのかをな。
詰め寄る俺達に奈落が明かした驚くべき事実。
奴は、奈落は、鬼蜘蛛の魂と身体を依り代に数多の妖怪が融合して生まれたのだと。
信じ合う者を、俺と桔梗を互いに憎しみ合わせ殺し合わせる。
そうする事によって四魂の玉に怨みの血を吸わせる為に。
奴の計画じゃ、俺を封印した桔梗が、自分だけは生きながらえたいと願を掛ける筈だった。
だが、桔梗は四魂の玉を抱えて死んだ。
俺の後を追って死んだんだ。
桔梗! 桔梗! 桔梗!
その為に・・・そんな事の為に・・・俺と桔梗を罠に掛けたってのか!
許さねえっ!
腹の底から湧き上がってくる激しい怒り。
八つ裂きにしてやる積りで爪を振るったが・・・。
躱(かわ)された!
チッ、何て身の軽い!
弥勒が錫杖を投げる。
バシッ! 弾かれた!
袂(たもと)で半ば顔を覆い隠しているが、奈落が若い男である事は見て取れる。
ゴボッ・・・・
奈落の奴、身体全体から何かを吐き出した。
瘴気だっ! それも大量の!
何て瘴気の強さだ。
ジュ———バキバキ・・・
地面が、木が、アッと云う間に溶けてる。
だからって奴を逃すもんか。
クソッ、火鼠の衣でさえ溶け出した。
怖ろしく強い毒だ。
鉄砕牙を抜き放ち厚い瘴気を斬る!
ゴオ~~~~~~
驚いて逃げようとする奴の背中に鉄砕牙を!
ズドッ!
仕留めた!?
イヤ、違う、背中をかすっただけだ。
だが、奴の、奈落の背中に浮かび上がって見えたのは・・・・蜘蛛!
ザザザ・・・・シュ~~~~
そのまま瘴気に包まれ奈落は消えた。
野盗の鬼蜘蛛は全身に大火傷を負っていたと云う。
恐らく・・・あれは鬼蜘蛛の名残。
弥勒達の許に戻ってみれば狼野干の野郎が暴れだした。
頭を抱えて苦しんでやがる。
額に仕込まれた四魂の欠片が蔓をはびこらせてるんだ。
凶暴化してる狼野干に、かごめの奴、平気で近付きやがって。
馬鹿! 死にてえのかっ!
そんな俺にお構いなしに、かごめは狼野干の額に手を突っ込んだ。
そんでもって、何の造作もなく四魂の欠片を取り出しちまったんだ。
キ~~~~ン
拍子抜けするくらいアッサリとな。
おっ、俺達、何の為に、ああも必死に闘ってたんだ???
狼野干は能天気に挨拶なんぞして逃げていきやがった。
それにしても、やっと明らかになった五十年前の真相。
奈落、必ず追い詰めて桔梗の敵(かたき)を取ってやる!
もう、俺が、桔梗にしてやれる事は、それしかねえ・・・・
かごめが井戸に入っていく。
アッチに戻るのか。
桔梗の事は絶対に忘れちゃいけねえ。
でも・・・・・

「やっぱり・・・かごめに側にいて欲しい・・・・」

自分でも驚くほど素直に本当の気持ちが云えた。

 

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