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『静観』

奈落が滅していく。
涸(か)れ井戸の上に浮かんでいるのは頭部のみ。
側に四魂の玉が浮かんでいる。
破魔の矢に射抜かれ、微かに音と光を放っている。
所有者と同じく『虫の息』と云った処か。
奈落が際限なく取り込んできた数知れぬ妖怪どもの体は爆砕牙が全て破壊した。
奴が頭部だけでも残っているのは四魂の玉の底知れぬ妖力のおかげだろう。
この殺生丸の爆砕牙を以(も)ってしても破壊できなかった四魂の玉。
・・・・怖るべき代物だな。
涸れ井戸の周囲を取り巻くのは犬夜叉達、そして、私とりん、邪見、琥珀といった顔触れだ。
瀕死の奈落が口を開いた。
何を云うのかと思えば・・・・。
四魂の玉に願を掛けただと?
それも己が死んだと同時に叶う願い?
かごめが夢幻の白夜に斬られた時に願った?
どのような願いにせよ、奈落のする事だ。
碌な物ではあるまい。
云い終わった途端、奈落は滅した。
跡形もなく消え失せたのだ。
予告通り、異変は起こった。
それも全く予期せぬ形で。
かごめの背後に出現した真円の冥道。
冥道に吸い込まれるように、かごめが消えた。
犬夜叉が必死に後を追いかけようとした。
だが、冥道は虚空に消え失せてしまった。
仔狐妖怪の話によると、夢幻の白夜は冥道残月破の妖力を吸い取った刀で、かごめを斬ったらしい。
成る程、それで冥道が出現した訳か。
異変は、それだけでは収まらなかった。
驚いた事に、涸れ井戸までもが、かごめと同じように消失していたのだ。
まるで切り取ったかのように井戸とかごめの匂いが消えている。
本体と同様、忽然と消えたのだ。
残っているのは微かな残滓のみ。
それも風のひと吹きで消え去るような頼りなさだ。
奈落が滅したのを確かめようとしたのだろう。
法師が右手の風穴を確かめる。
風穴は消滅していた。
奈落は本当に滅したようだ。
だが、四魂の玉は何処に?
犬夜叉が鉄砕牙を黒く変化させた。
冥道残月破を撃つ積もりであろう。
かごめは冥道に消えたのだ。
冥道に入って追いかける以外、手は無かろう。
刃型の冥道が出現した。
そのまま冥道の中に入った犬夜叉。
犬夜叉を呑み込んで冥道は閉じた。
自分の女のことだ。
後は奴が自力で何とかするしかあるまい。
最早、この場に留まる必要は何処にもない。
りんを右手で抱き上げ空中に浮かぶ。
邪見に一声かけたら慌てて毛皮に飛びつきおった。
法師や女退治屋、琥珀が、声を張り上げ私を呼んだが無視を決め込む。
奴らと馴れ合う積もりなど毛頭ない。
そのまま、りんを抱いて、空中を飛び去った。  了

※連作『決断①=来旨(らいし)=』に続く

 

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