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第十三作目★★「仇敵」の奈落バージョン★★  『洞察』 


髪も目も何もかも白い少女、神無が手に持つ鏡に映し出される情景は甚(いた)く男の興味を惹いた。
 
男の名は奈落。 
一見、何処ぞの若殿のように見える。 
品の良い面差し、身に付けた着物も高価な絹で織り上げられている。
 しかし、それは、仮の姿。 
その実体は、数多の妖怪を集合させ作り上げられた妖怪、いや、半妖、奈落。野盗鬼蜘蛛の身体を魂を繋ぎにして生み出された。
 
 
今の姿は、借態。 つい先頃、乗っ取った、この城の城主、人見蔭刀(ひとみかげわき)の物。
 
 
その証拠に、男の瞳は、血のように赤く、うねる黒髪は、それ自体、意思を持つかのようにザワザワと蠢いている。 
男の中に鳴り(なり)を潜めている妖怪どもの数を表すように。
 
 
 
 
 
鏡に映し出されているのは、白銀の長い髪を持つ青年を主とする一行。 
青年の名は殺生丸。
 
 
一見、女性かと見紛うほどの秀麗な美貌。 
だが、身に纏う凛冽なまでの妖気、牙拵えの妖鎧腰に差した二本の大刀。 
一本は紅い鍔、糸巻き拵えの柄、朱色の漆塗りの鞘に納められた日本刀、もう一本は、と言えば、驚く事に鞘が無い! 
剥き出しの白刃のまま腰に佩かれた諸刃の剣。
 
 
 
六尺(180センチ)豊かな長身、かの雅楽で謳われる古(いにしえ)の中国に実在した斉の国王蘭陵王(らんりょうおう)を思わせる堂々たる美丈夫である。 
誰しも目を奪われる麗姿。
 
 
奈落は、以前、青年に会った事がある。 
青年は、失った左腕の代わりを捜し求めていた。
 
 
半妖の異母弟、犬夜叉に、父の形見の宝刀、鉄砕牙で斬り落とされた左腕の代わりを。
 
 
犬夜叉・・・・鬼蜘蛛の終生の恋敵。 
儂の中の鬼蜘蛛が、魂を、妖怪どもに差し出してまで手に入れたいと願った巫女、桔梗の心を奪った男。
その半妖の父親だけとは言え、血の繋がった兄、殺生丸。 
尤も、兄の方は、その異母弟を一族の恥とあからさまに蔑んでいるようだが・・・・。
 
 
曾て、四魂の欠片を仕込んだ人間の腕と、毒虫、最猛勝の巣を貸し与えた妖怪。 
それも、其処らに居る雑魚妖怪ではない。
戦国最強と謳われる完全なる大妖怪、戦慄の貴公子とまで言われた男。
 
 
その殺生丸の一行に見慣れない存在が加わっている。 
人間・・・それも童女。
 
 
どういう事だ? 
あの大妖は何の積りで、あんな小娘を連れている? 
人間を忌み嫌っていた筈ではなかったのか? 
 
 
それが為に、人間の血が混じる半妖の異母弟、犬夜叉を蔑んでいたのではないのか? 
 
 
自分に逆らう者、向かって来る者に対しては、人間、妖怪の区別無く情け容赦せずに引き裂く冷酷非情な性情の持ち主であった筈。
事実、傀儡(くぐつ)を使わねば、儂とて例外ではなかっただろう。 
そんな男が、何故、人間の、それも童女などを連れているのだ・・・?
 
 
くくっ・・・・面白い! 
これは、使えるやも知れぬな。 
もしかしたら、とんでもない大穴を当てたのかも知れん。
 
 
あの童女が、あの大妖の弱点になるかも知れんではないか!!
 
 
四魂の珠の力のおかげで、分身を生み出す能力が身に付いた。
無の神無、風使いの神楽、悟心鬼獣郎丸、影郎丸。
だが・・・まだまだ、足りない。 
儂は、完全な妖怪になりたいのだ!
 
 
その為には、もっと、もっと、力が必要だ。
誰にも負けない程の強力な力がな。
 
 
 あの大妖の、殺生丸の身体を取り込めば完全なる妖力を得る事が出来る。 
くくくっ・・・これは、一つ、策を練る必要があるな。  
何しろ、あの大妖を罠に落とし込むのだ。二重三重の安全策を立てておかねばな。
幸い、格好の餌が、見つかった。 
これを利用しない手はあるまい。
 
 
 瘴気に満ちた城館の一室で、奈落は、奸智に長けた思考を巡らし始めた。
 
 
 
 
 
 
そんな仄暗い想いが自分を狙っているのも知らずに、りんは、今日も、自分の食料を調達する為に畑荒らしに精を出していた。
主の殺生丸から、自分の食い物は自分で取ってこい、と命じられているからだ。 
とは言っても、邪見がお供に付けられている。 
完全に放任されている訳では無い。
 
 
今日の獲物は瓜。 りんの大好きな甘い瓜である。 
出来るだけ大きくて良く熟れた物をもらっていこう。
畑荒らしが、悪い事だとは知っているけれど、盗んででも食べなければ死んでしまう。
 
 
だから、自分が食べられる分だけを、コッソリと頂戴していく。
人里が近くに無い場合は、食べられる茸や草に魚、木に生る果物を見つけ、飢えを凌いでいる。
尤も、以前、村に住んでいた時に比べれば、遥かに栄養状態も身なりも良くなってはいるが。 
村に住んでいた頃の方が、今よりずっと飢えていた。
身に着けていた着物も、それは粗末で、如何にもみすぼらしかった。
 
 
今、りんが身に着けているのは、邪見が手に入れてきた、紅白の格子に大小の円が鏤(ちりば)められた 麻の着物。 それを緑の帯で留めている。 
少し癖のある髪の一房を結んで垂らしている。
 
 
それは、何処にでも居そうな、それでいて何処にも居ない愛らしい童女の姿だった。
 
 
 
お供の邪見は、そんな、りんの様子を見ながら畑荒らしの見張りを続けていた。
 
 
(はあ~~何で儂が、こんな事をせねばならんのだ? 毎度毎度、りんの畑荒らしの見張りを。)
 
 
溜め息を吐きつつ心の中でぼやいていた、その時! 
強風が吹きつけて来た。
ゴオオオォ~いきなり目の前に現れたのは、神楽!
 
 
奈落の分身、風使いの神楽ではないか!
遊び女(あそびめ)のような姿。 髪は頭頂部に巻き込んで纏めている。 
尖った耳を飾る数珠状の耳飾り。
手にした扇で、風を起こし、竜蛇の舞い、屍舞い、風刃を使いこなす女妖怪。
 
 
 
「ふん・・・不用心だな、殺生丸の奴。 連れから目を離すとは。」
 
 
 
蓮っ葉な物言いと共に、連れ去られた、りん。 
あっという間の出来事だった。
 
 
 
 
 
 
邪見は、慌てて、主の許へ走った。 
一刻も早く、この事を、殺生丸様に知らせねば!
 
 
りんは、主の殺生丸が、どんな理由があるのかは知らないが拾い上げ保護している人間の養い仔。
 
 
その童女が、攫われたのだ。 
必死に駆けつけ事の次第をお話した途端に、闇の中に浮かび上がる狒々の毛皮を纏った不気味な奈落の姿。 
例の如く、毒虫、最猛勝の群れを引き連れて。
 
 
「ご安心ください、殺生丸様」

・・・・相変わらず慇懃無礼な物言いをする奴。
 
 
 
「願いを聞いて頂きさえすれば・・・りんという娘は無事にお返しいたします」

・・・戯言を。
 
 
 
「奈落・・・か。今度は何を企んでいる」

・・・・・どうせ禄な事ではあるまい。
 
 
 
「特別な事ではございません。 ただ、犬夜叉を殺して下されば良い」

・・・下衆が!
 
 
 
「ふっ、そんな事の為に、もってまわった事を・・・」

・・・・この私に指図するなど!
 
 
思い上がるな!下郎! 
瞬時に繰り出した爪で狒々の毛皮の頭部を刎ねた。
ザン!見る間に土くれに変わる傀儡(くぐつ)。 
如何にも用心深い奈落のやりそうな事。
 
 
臭いが洩れている。 
どうやら結界を開いたようだ。 
私に来てくれと招いているような物。
 
 
 
 
殺生丸が、歩を進める。 
迷う事なく目的地を目指して。 
行く先は、卑劣な奈落の城。
 
 
その様子を神無の持つ鏡で確認する奈落。 
(ふっ・・・乗ってきたな、殺生丸・・・)
 
 
あの大妖は、恐ろしい程に矜持が高い。 
他の者に指図されるなど我慢ならない気質を持っている。
 
 
童女を攫えば、必ずや、儂を殺さんと乗り込んで来るであろうと踏んでいたが・・・やはりな。
 
 
くくくっ・・・・もうすぐ。 
・・・・そう、間もなく、あの男が、やって来る。
この儂の身体の一部になる為にな。
あ奴を取り込めば、儂の妖力は、どれほど増す事か!
 
 
楽しみな事だ。 
四魂の珠も欲しいが、あの男の持つ比類ない強力な妖力も欲しい!
欲しければ、奪えば良い! 
力が欲しければ力を! 
見目麗しい容貌が欲しければ、その容貌を!
 
奪い取り、己の物にするのだ! 
指を咥えて、唯、物欲しそうに見ているなど弱者のする事。
 
 
そうやって、儂は、自分の力をより強大にする為に、数多の妖怪を己の身体の中に取り込んできたのだ。
何度も身体を作り変え、弱い部分を切り離し、更に強い妖怪を取り込んで、儂は、益々、強くなるのだ。 
誰にも邪魔はさせない! 
待っていろ、犬夜叉、いつか貴様を殺してやる。
儂の中の鬼蜘蛛が、そう望んで止まないのだ。
 
 
 
そして、いずれは、この、くだらぬ人間の心、卑しい鬼蜘蛛の魂をも切り捨ててやる。
 
 
今は、まだ繋ぎとして必要だがな。 
あの男の浅ましいまでの妄執が妖怪どもを繋ぎとめている。
 
 
あの巫女が・・・桔梗が欲しいという想いが凝り固まった鬼蜘蛛の妄念がな。
 
 
一旦は、もう頃合かと思い、この奈落から切り離してみたものの、そうすると妖怪どもが勝手に離れていこうとする。
 
仕方無く、もう一度、この身に取り込むしかなかった。
まだ、早すぎたのだ。
 
この身から切り離しておいた内に、奴め、生前の稼業を思い出したのか野盗の真似をして、散々、人を殺し、物を奪い取ったらしい。
 
 
顔まで手に入れていた。
顔を奪った男の無双という名前までも手に入れてな。
わざわざ、美形の顔を手にいれようとする処まで儂に似ている。
そうしている内に過去を取り戻したのか、桔梗の住んでいた村に己が桔梗に匿われ介抱されていた洞穴に辿り着いたのだ。
そして、完全に思い出したのだ。
自分が、何の為に、己の身を、魂を、妖怪どもに差し出したのかを。
 
何もかも全ては・・・。
あの巫女を、桔梗を手に入れようとしての行為だった事を。
それなのに、思惑は、全て外れ桔梗を手に入れるどころか逆に殺す羽目になってしまった。 
挙句の果て自分の心はこの奈落の心の底に封印され、五十年もの間、眠りについていた事を。
憎い恋敵の犬夜叉を見て殺そうと闘っていたらしいが、あの半妖に無双を殺されては儂が困る。 
そうそう簡単に殺されはしないだろうが早目に取り込むのが良策。
儂が、奈落と知り、無双め、儂を殺そうとしたが、元々、あいつは儂の一部。 
敵うはずもないものを。 
くくっ・・・呆気ないほどであった。
 
 
 
 
 
どうやら、客人が到着したらしい。 
お出迎えせねばなるまい。 
何しろ極上の妖力の持ち主だ。
わざわざ、儂に取り込まれに来てくれたのだ。 
礼を持って挨拶せねばならんだろう。
 
 
狒々の毛皮を身に纏い主殿に向かう。 
篝火(かがりび)に火を付ける。 
この城に満ちた瘴気に些かも影響を受けないのは、流石に、大妖怪。 
悠然と此方に歩を進めてくる。 
くくっ・・・大した自信だ。 
傲慢なまでの物言い。 
確かに妖力も容姿も並外れた御仁ではあるな。
 
 
 
 
「わざと臭いを洩らし、城の場所を教え・・・・この殺生丸を招き入れるとはな」
 
 
 
「唯、お招きしただけでは、来て頂けそうにもなかったので・・・」

当然だ。
獲物を我が陣地におびき寄せる必要があったのだから。
くくっ・・・その為の仕掛けだ。まんまと掛かってくれたわ。
 
 
 
「尤も、お捜しの小娘は、此処には、おりませんがな・・・」

そう、別の場所に確保してある。
 
 
 
「何しろ、この城の瘴気の中では、人間は一瞬たりとも息が出来ぬ」

死なれては意味が無い。
 
 
 
「小娘は、城の外で、お預かりしています。今の処は、ご安心を・・・」

・・・状況次第だがな。
 
 
 
「奈落、貴様、私が、りんを助けに来たのではない事くらい判っているだろう」

勿論だとも。
 
「はい・・・殺生丸様は、人に指図されるのが大嫌いなご様子」

だからこそ、この罠を張ったのだ。
 
 
 
「言いなりに犬夜叉を殺すでなく、小娘を捜すでもなく・・・」

意固地なまでの、その態度。
 
 
 
「まず、この奈落を殺しに来ると・・・判っておりました」

全く、計算通りに動いてくれるわ。
 
 
 
「ふっ・・・まんまと私をおびき出したと言いたげだな・・・」

・・・何処までも小面憎い奴!
 
 
 
「用件は、後でゆっくり聞いてやろう。貴様が、生きていたらの話だがな。」

即、殺してくれる!
 
 
くくく・・殺生丸―――嫌でも、この奈落に力を貸してもらうぞ。
・・・お前の命を取り込んでな。
 
 
 
「くくく、殺生丸様、折角、ご足労頂いたのだ」

我が城に引きずり込む為に小娘をさらったのよ。
 
 
 
「この奈落・・・たっぷりとおもてなし致しましょう」

そう、ゆっくりと時間を掛けてな。
 
 
 
 
 
奈落が、身体の組み換えを終え、以前よりも増した妖力と、数多の妖怪の集合体の本性を曝け出す。
 
何本ものヌラヌラした不気味な触手、蟷螂の前脚の如き三対の手らしき物、百足のような胴体。
 
 
何とも醜悪にして、おぞましい、その正体。 
見るに耐えないほど、おぞましい姿とその臭気。
 
 
 
「ふっ、クズ妖怪の寄せ集め・・・奈落・・・それが貴様の正体か」

・・・話にならんな。
 
 
 
「正体・・・いいえ、この姿は・・・まだ途中でございます」

今から、お前を喰らってな。
 
まずは、触手を、お見舞いするとしようか。 
シャッ、ドガッ! フワリと攻撃を避ける殺生丸。
 
 
 
「ふん・・・目的は、この殺生丸の命か」

くくっ・・・流石に察しが良いではないか。
 
 
同時に何本もの触手を攻撃させる。 
その度に闘鬼神で斬り刻んでいく殺生丸。 
ズバッ!いいぞ、もっとだ!
 
 
斬り刻まれた肉片が辺りにバラバラと散らばる。 
もっともっと斬り刻め!
周囲を覆い尽くす程にな。

「きさま如きクズ妖怪・・・この殺生丸に指一本、触れる事は出来ん。」
 
 
「くくく・・・」

どうかな? 
そう言っていられるのも今の内だ。
もう少し、もう少しだ。
 
 
辺りに散らばっていた肉片が一つに集まり出し、殺生丸の左足を掴んだ! 
ザザッ! ビチッ!
 
 
更に執拗に続けられる触手の攻撃を斬撃する、ザン!
地面に落ちるかと思った肉片が意思を持つかのように殺生丸の左袖に絡み付く。 
バラバラ・・・・ビシッ!
 
 
くくく・・・斬り刻んだ分だけ、貴様は儂の肉片に包まれていく。そして・・・儂の一部にな。
 
 
 
 
何だ! この気配! 異変が走る!! 
( 誰だ!? 城の外に儂の結界を傷つける者が・・・)
 
 
 
 
 
「神楽、行け!」

櫓の辺りで儂と殺生丸の闘いを見ていた神楽に命じる。
 
一度は裏切ろうとした神楽ではあるが、あれだけ脅してある。 
当分は、妙な真似はするまい。
尤も、心臓を握られていては逃げる事も出来ないだろうがな。
 
あの女は、自由に憧れ気儘(きまま)に動き過ぎる。
 
 
 
「来客か、奈落・・・その者は気の毒だな。折角、尋ねてきたというのに・・・」
 
 
「生きた貴様に会う事は叶わん!」

この殺生丸が殺してくれるわ! 
闘鬼神で斬り刻んでな!!
 
 
ザシュッ! ドガガッ! 
シュウ~~シュウ~~~ボタボタッ! 
肉片がこぼれ落ちる。
(まもなく、この奈落の肉塊に喰われ・・・儂の体の一部になる!
 
もうすぐ! もうすぐだ!! あの妖力が儂の物になるのだ!
 
 
この気配! 向かってくる。 神楽め、仕留めそこねたか。
まあ、いい、仕上げを急ぐか。
 
 
 
「奈落よ・・・城の外が気になるようだな。」

何やら起きているようだ。
結界が揺らいでいるのか。
 
 
 
「殺生丸様・・・ゆっくりと、お相手している時間は無くなった」

・・・サッサと済ませねばな。
 
 
「貴方様の、その完全なる妖怪の、お力・・・全て、この奈落が喰らわせて頂く」

ザザザッ!肉片が、触手が、一気に、殺生丸を包み込み、覆い隠す。
やった!・・・・後は、取り込むのみよ。
 
 
 
 
 
次の瞬間、計画の完遂に酔い痴れる間もなく邪魔者が闖入(ちんにゅう)してきた。
 
 
 
「犬夜叉・・・」

半妖が喚きながら、馬鹿の一つ覚えのように風の傷を放ってきた。

「ちっ!」

急いで結界を張る。
 
 
(何・・・儂の結界が・・・)
無双を取り込んだ際は充分に防ぎ得た筈の風の傷が、結界を儂の結界を崩した!
 
本体にまで損傷が出ているではないか! 
くっ・・・何と言う事だ!!
 
 
その上、取り込んだ筈の殺生丸までもが、肉塊の中から出て来てしまった。
 
 
誤算だった・・・犬夜叉が、此処まで攻め込んでくるとは・・・。
とんだ計算違いだ・・・・。
 
 
 
「くくく、犬夜叉、貴様、結界を斬れるようになったのか」

全く、驚かせてくれるではないか。
 
 
不味い! 
犬夜叉だけなら、まだしも、殺生丸までも相手にするには、分が悪すぎる。
 
 
殺生丸が、弟を、出し抜いて、一瞬、早く、斬り込んできた。 
ザン! ドカッ! ゴボッ!
溢れ出す瘴気に一旦、引く兄弟。
その隙に本体を瘴気の渦で包み、最猛勝と共に空へ逃れる。
 
 
 
「殺生丸様・・・今日の処は、退散致します」

無理は禁物だ。
此処は、ひとまず逃げるが上策だな。
 
 
時間を稼ぐ為の手は、打ってある。
まさか、使う事になるとは思わなかったがな。
 
 
 
「馬鹿が・・・私から逃れられると思っているのか」

ザア・・ミシミシ・・妖気が変化(へんか)し始める。
 
怒りのままに変化(へんげ)しようとする殺生丸を、押し止めたのは、奈落が、投げつけた次なる台詞。
 
 
 
「くくく、殺生丸様。変化して儂を追うよりも、お連れの小娘を早く迎えに行かれた方が良い。りんは、今・・・琥珀という者と一緒に居る。」

儂の意のままに動く琥珀という小僧とな。
 
 
 
「それが、どういう事か・・・犬夜叉・・・貴様になら想像がつくだろう・・・」
 
 
 
 
 
 
 
くくく・・・これで、殺生丸は、足止めが出来た。 
これまでの、あの男なら一切、躊躇する事なく儂を追って来るだろうが。
 
今の殺生丸なら、小娘を迎えに行く筈。
琥珀には、小娘を殺せと暗示を掛けておいた。
 
琥珀が、あの小娘、りんとやらを殺せば、殺生丸は、琥珀を殺そうとするだろう。
犬夜叉の仲間、珊瑚の弟である琥珀。
 
当然、犬夜叉は、琥珀を殺させまいと殺生丸と闘う事になる筈だ。 
どうだ? 儂の計画は!?
 
 
例え、巡らした策謀が完遂されずともあ奴らを闘わせ、互いに憎しみ合わせるのだ。 
互いの敵意がある限り手を結ぼうなどと考えもしないであろう。
 
 
殺生丸ならば、ともかく、犬夜叉如き、まだまだ恐れるに足りない。
だが、あいつらが、手を結ぶと厄介な事になる。 
そうさせぬ為にも、琥珀という手駒が必要だったのだ。
 
 
各個撃破、戦略上、これほど有効な手は無い。 
常に、各個人とのみ闘う。 
決して力を合わせるような切っ掛けを与えてはならぬ。
それにしても・・・まさか、あの犬夜叉が、結界破りの力を付けてこようとは。
今後の事も考えねばならん。
 
今のままでは、まだまだ力が不足している。
 
 
 
暫く身を潜めねば・・・あいつらには考えも付かないような場所で更なる妖力の強化を図るのだ。
 
 
 
何処にある? そんな場所は!? 
考えろ! 
誰もが、思いつきもしない場所。
探すのだ。あいつらの盲点を突くような場所を。
フッ、いっそ聖域にでも篭(こも)るか!?
 
 
その為の手立ては?! 
待てよ、そう言えば・・・あの迷える亡者の魂。
生前は、白新上人とか言われ、聖人として崇め奉られてきた坊主。
使えるな、我が闇の領域に取り込んでやろう。
 
 
 
今度こそ! 誰にも、そう、あの殺生丸にさえ優るとも劣らない力を!! 
いや、殺生丸さえも凌駕するほどの力を!
この世の全てを支配できる程の強大な妖力をな。
 
 
それにしても・・・今回は、思わぬ収穫があった。 
何一つ、弱みなど見つからぬと思っていたあの大妖に、あんな弱点が、あったとはな。
クククッ・・・今後の参考になるわ。
 
 
人間の小娘・・・りん、とか言ったな。 
あれほど、冷酷非情と怖れられた大妖怪が、人間など虫ケラぐらいにしか思っていない男が。
 
事実、儂は、目の前で、あの男に容赦無く引き裂かれる人間、野盗どもを見た。 
何の躊躇い(ためらい)もなく、表情ひとつ変える事もなくな。
 
 
人間だけではない。 
妖怪だとて同じ事。 
あの男に、逆らう者、刃向かう者、一切が、あの爪の餌食になってきたのだ。
そんな男が、何故、あんな人間の小娘、童女などを連れ歩くのだ?!
どう考えても、可笑しい(おかしい)ではないか!?
呆れる程、他者に全く頓着しなかった男が人間の、しかも女とも言えぬ小娘に、いやいや、小娘どころか、赤ん坊に毛の生えたような童女を。
 
 
儂を殺す事よりも優先して、助けに駆け付けるとはな。 
くくっ・・・全く退屈させぬ御仁ではないか。
 
 
あの童女こそが、あの大妖怪、殺生丸の唯一にして最大の弱点という訳だ。
 
 
これを、利用せぬ手は無いな。 
あの男の性格上、ここまで、己を馬鹿にした儂を見逃す筈もない。
必ず、追って来る。
犬夜叉達も、当然、血眼になって、我が行方を捜している事だろう。
 
 
暫し、儂の代わりに闘う者達を見つけねば・・・誰が良かろう?
生者では、限界があろうな。
四魂の欠片を使って死者でも甦らすとしようか。
ククッ・・・楽しみな事よ。                     
                                                   了
 
 
                                                                                     2006.7/22(土)作成◆◆
 
 
 
 


《第十三作目「洞察」についてのコメント》
 
 
奈落のキャラソン「落日」が気に入ってジャンジャン掛けて聞いている内に奈落視点で
書きたくなって一気に仕上げた作品です。 
「仇敵」の奈落バージョンです。 
殺生丸に次ぐイケメンとして現在お気に入りのキャラクターの奈落。 
その内・・・白霊山崩壊についても書きたいなあ~と考えてます。

 
 
 
2006.8/10.(木)★★★猫目石

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