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『愚息行状観察日記⑮=御母堂さま=』

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 ※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


狗姫(いぬき)の言葉に権佐と松尾の両名が反応した。
「では、やっと・・・」
「若さまの悲願が・・・」
両者の言葉に狗姫が頷き言葉を繋いだ。
「とはいえ、何時、現われるのかは、まだ判らん。だから、この“遠見の鏡”でズッと探っておるのだが。どうやら殺生丸が冥道残月破を失ったことは瞬(またた)く間に妖怪どもに知れ渡ったらしい。『悪事、千里を走る』とは良く云ったものだな。ここ数日、功名心に駆られた雑魚どもが引っ切り無しに挑んできよるわ。愚息の命と小僧の四魂の欠片を狙ってな。宛(あたか)も死骸に集(たか)る蝿(はえ)のようだ。煩いことよ」
掛け布を取り払い“遠見の鏡”を覗いた狗姫が声を上げた。
「何だ、こ奴は!?」
権佐と松尾も“遠見の鏡”を覗き込んだ。
鏡の中、殺生丸と男が対峙している。
奇妙な感じを与える男である。
容貌は、まず腰まである長い白髪、頬には一筋の妖線、何本もの妖線が走る腕、赤い瞳。
そして、何より三白眼から発散される強烈な悪意が見る者をしてたじろがせる。
見た目は人型であるが、右腕は三本の大きな鎌のような形状に変化した触手。
明らかに妖怪である。
三白眼の男の鎌状の触手が伸びてきた、瞬時に。
殺生丸の後方に控えていた人間の小僧を目掛けて。
小僧は双頭竜に飛び乗り、乗っていた小娘ともども空中に逃げ難(なん)を逃(のが)れた。
更に小僧を狙おうする男に殺生丸が挑みかかる。
岩をも砕く爪を武器にして。
だが、俊敏さを誇る殺生丸の攻撃さえ軽く躱(かわ)す三白眼の男。
それだけではない、隙を見て殺生丸の妖鎧に触手で穴を開けたではないか。
物音が、一切、伝わらないので何を云っているのかはサッパリ判らないが、あの男の様子、明らかに殺生丸を(あざけ)っておる。
この手の挑発に殺生丸が黙っているはずがない。
案の定、殺生丸は鎌状の触手を爪で薙ぎ払って懐に飛び込み男の胸元深く右手を突き入れた。
ヨシッ、これで三白眼の男は仕留めた。
心の臓を抉(えぐ)った上に殺生丸の毒を流し込めば如何なる敵といえども一溜(ひとた)まりも・・・。
何とっ!?
あの男、胸元を貫かれているというのに苦しそうな顔ひとつ見せん。
それどころか薄気味悪い笑みさえ浮かべておるではないか。
ムッ、三白眼の男の両腕が変化した!
片腕が三本、両腕にして六本もの鎌状の触手に。
六本の鎌が蟷螂(かまきり)のように殺生丸を挟(はさ)み千切り殺そうと狙う。
フゥッ、間一髪、逃れたぞ。
だが、殺生丸の右腕が焼け爛(ただ)れているではないか。
三白眼の男の胸元深く埋(うず)められていた右腕。
本来なら殺生丸の猛毒に侵されて奴は内部から溶け落ちるはず。
にも拘(かかわ)らず、三白眼の男は溶けるどころか逆に殺生丸の右腕に損傷を与えた。
ということは・・・あの男の毒の方が殺生丸の毒よりも強いというのか。
この眼で見たのでなければ信じられなかっただろうな。
妖界でも屈指の毒性を誇る化け犬が毒負けするなど。
一体、あ奴は何者なのだ?
またも鎌状の触手が殺生丸を襲う。
右肩を覆う毛皮が大きく抉(えぐ)られ焼け焦げた。
奴の狙いは殺生丸の右腕だな。
殺生丸は隻腕だ。
右腕さえ封じてしまえば戦闘能力を失う。
主(あるじ)の危機を見かねたのか人間の小僧が空中から三白眼の男に攻撃を仕掛けた。
小僧が投げた鎖鎌が男の頭にめり込む。
しかし、三白眼の男は痛みを感じておらぬのか。
全く意にも介さんようだ。
寧(むし)ろ、顔の周(まわ)りに飛び交う小虫風情(こむしふぜい)にしか感じておらぬだろう。
小僧、何をする気だ?
無謀にも小僧が双頭竜から跳び下りおった。
何か勝算でもあるのか。
あれでは三白眼の男の格好の餌食(えじき)になるだけではないか。
鎌状の触手が伸びて小僧の項(うなじ)付近に突き刺さった。
大方、四魂の欠片とやらが埋め込まれている場所だろう。
邪気にやられたのか。
小僧がガクリと項垂(うなだ)れた。
チッ、小僧め、余計な真似をしおって。
小僧を救う為に殺生丸が動けば否応(いやおう)なく隙が生じる。
そこに敵が乗じてくる。
アアッ、言わぬことではない。
小僧に伸ばした殺生丸の右腕が串刺しに!
「若さまっ!」
「殺生丸さまっ!」
両脇の松尾と権佐が悲鳴のような声を上げる。
無理もない。
あ奴が、こうまで追い込まれるところなど今まで一度も見たことが無いからな。
無残だな、三本もの触手が右腕に突き刺さっている。
それにしても、あの三白眼の男の体は、どうなっているのだ?
触手が見る間に大きく拡がっていくではないか。
まるで体内に何体もの妖怪を隠し持っているかのようだ。
通常の妖怪では有り得ぬことだ。
この危機的状況を、どう乗り切る、殺生丸!?


『愚息行状観察日記⑯=御母堂さま=』に続く
 

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『愚息行状観察日記⑭=御母堂さま=』



 ※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


頷(うなず)いた松尾と権佐に向かい狗姫は話を続けた。
「とまあ、以上が、先日、この城を殺生丸が訪問した際の事の顛末(てんまつ)だ」
「それで御方さまは暇を見つけては“遠見の鏡”で若さまの動向を探っていらっしゃったのですね」
松尾が空かさず狗姫の行動を指摘した。
「まあな、この二百年、これといった動きがなかった殺生丸が、やっと本格的に動き出し始めたのだ。物事は、一旦、動き出すと坂から石が転げ落ちるように次々と動き出す。これは目が離せぬと、ここ最近、愚息の行動を覗いておったのよ。さすれば、この城を辞去した直後、今度は死に損(ぞこ)ないの死神鬼が、殺生丸に絡んできおったわ。大方、闘牙への怨みを息子である殺生丸に向けて晴らす積りだったのだろうが、お門違いも甚(はなは)だしい。死神鬼め、殺生丸を甚振(いたぶ)る為だろう。天生牙が鉄砕牙から切り離された刀だと暴露しおったわ。お陰で殺生丸が闘牙の真の意図に気付いてしまった。冥道残月破を完成させた上で天生牙を鉄砕牙に吸収させるという、アレに取っては屈辱的な目論見をな」
「若さまは、さぞかし憤(いきどお)っておられましたでしょうなあ」
「まあな、松尾。アレの矜持は昔から高すぎる程に高かったからな」
「それで、御方さま、殺生丸さまは、その事実を知って、どう決断されたのでしょうか」
「権佐よ、アレの気性を熟知しておるそなたなら、殺生丸が、どうしたか予測がつくであろう」
「ということは、冥道残月破ごと、そっくりそのまま弟御に天生牙を・・・」
「その通りだ。いずれ手離さねばならぬモノなら、もう一時も手許に置きたくなかったのであろう。例え、それが、どれ程の辛苦の果てに会得した技であろうと・・・な」
「当代さまは、文字通り、苦渋の決断をされたのですな」
「誰よりも誇り高い若さまらしゅうございます」
権佐と松尾が、各々(おのおの)感じたままを言葉にする。
両名とも殺生丸が幼い頃から仕えてきた生え抜きの家臣である。
その分、殺生丸に対する思い入れも強い。
「それでな、とどのつまり、冥道残月破は半妖の弟が持つ鉄砕牙に吸収された。だが、何故か、不思議なことに天生牙は鉄砕牙に吸収されず“癒やしの刀”として残ったのだ。まあ、それは別に構わん。問題は、殺生丸に絡んできた妙な男の事だ。そなた達も“遠見の鏡”で見たであろう、あの若衆侍。彼奴の敵とも味方ともつかぬ態度。それが気になって権佐に調べさせたのだ」
「御方さま、あの者は“夢幻の白夜”と申しまして奈落の手の者にございます」
「それは真か、権佐」
「ハイ、しかも、“夢幻の白夜”は奈落の分身にございました」
「分身とな?」
「ハッ、先程も御説明申し上げたように奈落は数多の妖怪どもの融合体。次から次へと妖怪を喰らい己が身に取り込んでは力を増幅させてきました。それが、先頃、ほぼ完成に近い四魂の玉を手に入れてからは、今度は分身を生み出すことまで出来るようになったのです。とはいえ、これまで生み出された分身は大半が犬夜叉殿に倒され、残りは奈落に殺されるか吸収されたりしました。今現在、残っているのは“夢幻の白夜”のみです」
権佐の話に疑問を感じた狗姫が口を挟む。
「権佐よ、奈落の分身を半妖が倒すのは判るが、何故、奈落が己の分身を?」
「分身だからこそでございましょう。奈落は猜疑心が強く誰であろうと容易に信用しません。そして、非常に用心深い。おまけに、この上なく奸智に長(た)けております。犬夜叉殿の例を見れば判るように一筋縄ではいきません。二重・三重の罠を張るという怖ろしく巧妙な手口を駆使します。策を弄し他者を陥れることを何とも思わぬ輩なのです。弱者を嘲笑い強者に阿(おもね)り、裏切りを常とする、それが奈落です。そうした奈落の気質を色濃く受け継いでいる分身です。相手が何者であろうと隙あらば何時なりと襲いかかってきましょう。本体だけは裏切らないという保証がどこにありましょうか。奈落自身が、その危険性を、誰よりも知り抜いているはずです」
「成る程な。では奈落なる輩(やから)は殺生丸を使って半妖を殺させる積りだったのだな。イヤ、下手をすると殺生丸もろとも兄弟の相討ちさえも企(たくら)んでおったのだろう」
「「何とっ!?」」
権佐と松尾の両名が衝撃を受け驚きの声を発した。
「半妖と闘う前に、奈落の分身である、その“夢幻の白夜”とやらが殺生丸に妙な鏡の欠片を渡しおったのだ。当然、奈落の差し金だろう。その鏡の欠片はな、敵の妖力を、そうさな、まるで鏡に映したかの如く奪い取ることが出来るのだ。その欠片を纏(まと)った天生牙は半妖の持つ鉄砕牙と見た目は全く同じに変化した。無論、鉄砕牙の技ごと奪ってな。兄弟同士の争いを見かねた者達が必死に闘いを止めさせようとしたのだが、そこへ、その若衆侍、奈落の分身が現われてな。頼みもせぬのに殺生丸と半妖を異次元に移動させたのだ。兄弟で殺し合わせる為にな。だが、事は奈落の思惑通りには運ばなかった。殺生丸は半妖を殺さず冥道残月破は首尾よく鉄砕牙に吸収された。全て闘牙の望んだままにな。後は、あの刀が出現するのを待つばかりよ」
 

『愚息行状観察日記⑮=御母堂さま=』に続く

 

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『愚息行状観察日記⑬=御母堂さま=』

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 ※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。

「小娘を抱いて殺生丸は現世に戻ってきた。あ奴、見た目は無表情だったが、内心、腸(はらわた)が煮えくり返っておったろうな。出来るものならば泣き叫びたいくらいの心情だったろう。だが、小娘の死という不測の事態を招いたのが己である事は、奴自身、百も承知。従って妾(わらわ)を責めることもならぬ。フフッ、己の不甲斐なさを怒りに摩(す)り替えて今にも喰い殺しそうな目でコチラを睨んでおったわ」
「御方さま・・・」
息子の苦悩を愉(たの)しんでいるような狗姫の言葉に松尾が責めるような目で見た。
言葉こそ発さないが権佐の心情も似たようなものらしい。
両者の非難を物ともせず狗姫は話を続けた。
「そこで、まず、妾(わらわ)は殺生丸に天生牙の効力が一度きりだという事を教えてやった。あ奴は勘違いしておったようだからな。天生牙さえ有れば何度でも死人を呼び戻せると。そんな風に考えること自体、不遜(ふそん)極まりない。命とは、殺生丸が考えるほど軽々しい物ではない。我ら妖(あやかし)には唯人(ただびと)にない力がある。されど万物を生み出す万能の神ではないのだ。殺生丸は命を軽く考えておったから、ああも簡単に他者の命を奪えたのだ。それを深く憂慮(ゆうりょ)したからこそ、闘牙は、あのような仕掛けを施しておいたのだろう。命を愛おしむこと、それを失う悲しみと怖れを殺生丸が知るように。それを知った時、初めて慈悲の心が生じる。天性牙は癒(い)やしの刀。何時(いつ)如何なる時であろうとも慈悲なくして振るってはならぬ。死人を呼び戻す時も敵を葬る時でさえもな。命の重さを知らぬ者に天生牙を持つ資格はないのだ。小娘の死によって殺生丸は骨身に沁みて感じたであろうよ。命の重さ、儚(はかな)さ、慈悲の心の何たるかを」
「それで、御方さま、そのまま童女は息絶えてしまったのですか?」
今度は松尾の代わりに権佐が口を挟んできた。
「権佐よ、妾(わらわ)は、それほど薄情ではないぞ。正直、殺生丸の涙を見てみたい気がせんでもなかったが、あ奴は筋金入りの強情っ張り。期待するだけ馬鹿を見る。すると供の小妖怪が大泣きしおってな。聞いてみれば主(あるじ)である殺生丸の代わりに泣いていると言うではないか。中々、見上げた僕(しもべ)根性だったな。そ奴の涙に免じて小娘の命を助けてやることにした」
「どうなさったのでございますか?」
童女の命を気遣う松尾が蘇生方法を狗姫に尋ねた。
冥道石を手に狗姫が説明する。
「この冥道石を使ったのよ。小娘は既に天生牙で甦ったことが有る身。他の方法でなければ効果がない。小娘の胸に冥道石を置いて冥界に置き去りにされていた命を呼び戻したのだ。(それにしても、あの時の光は尋常ならざる輝きだった。並みの人間の放つ光ではない。何なのだ。思い出す度(たび)に妙に気にかかる)」
「本当に良うございました。童女の命が助かって」
内心の疑問などおくびにも出さず狗姫は松尾に応えた。
「小娘が助かったのは良い。だがな、松尾、殺生丸の奴、小娘が目を開けた途端、どうしたと思う?すぐさま、小娘の側に寄り添い頬をソッと撫でてやったのだぞ。その上、今まで聞いたこともないような優しげな声で言葉まで掛けてやってな。あの朴念仁の殺生丸が、だぞ。信じられぬであろう。小娘を救ってやった妾(わらわ)には目もくれず、勿論、礼の一言もない。尤も、あの小妖怪が愚息の代わりに妾(わらわ)に丁重に礼を述べはしたがな。ともかくだ、人間の小娘一匹に、あの大騒ぎ。全く、我が息子ながら妙な処が父親に似てしまったものよ。どうだ、これで判ったであろう。童女が殺生丸の姫だと云うた妾(わらわ)の言葉。両名とも納得がいったか」
「「ハイ、確(しか)と」」
 

『愚息行状観察日記⑭=御母堂さま=』に続く

 

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『愚息行状観察日記⑫=御母堂さま=』



 
※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


「それで、御方さま、冥界の犬に呑み込まれた子供達は、どうなったのでございますか?」
狗姫(いぬき)の話を聞いたせいだろうか。
松尾は、殺生丸が大事にしているという人間の童女の安否が気になるらしい。
狗姫に話の先を続けるよう急(せ)かした。
「殺生丸は冥界の犬を癒しの天生牙で斬り捨て子供達を救出した。だがな、小娘の息は間もなく止まってしまった。無理もない。儚(はかな)い人間の身、まして脆弱(ぜいじゃく)な雛鳥にも等しい幼子(おさなご)が冥界の邪気に耐えられるはずもない。そんな小娘に対し、小僧の方は、何故か冥界の中でもピンピンしておったな。生身の人間では、到底、有り得ぬことだ。不思議に思って、後で、その事について小僧に問い質してみた。すると四魂の欠片で命を繋いでいると申してな」
権佐がピクリと『四魂の欠片』という言葉に反応した。
「四魂の欠片・・・やはり、その人間の小僧も奈落と何らかの関わりがあるようですな」
「だろうな。そうでなくば殺生丸が傍に置くはずもあるまい。話を続けるぞ。息を吹き返さない小娘にさしもの殺生丸も、どうすればよいのか困り果てておった。そこへ冥界の常闇(とこやみ)が押し寄せ小娘をかっ攫っていったのだ。冥界を支配する主(ぬし)の許へな。そうそう、あの時だったな、妾(わらわ)が冥道石を使って現世への道を愚息に開いてやったのは。なのに、殺生丸め、折角の母の親切を完璧に無視しおった。昔からそうだった。あ奴は本当に可愛げがない」
そこへ松尾が、すかさず合の手を入れる。
「御方さま、お腹立ちはご尤(もっと)もですが、ここは話を先へ進めて下さいませ」
「ム・・・判った。冥界の奥へ踏み込んだ殺生丸と小僧は、小娘を右手に掴んだ巨大な冥界の主(ぬし)を見つけたのだ。周囲は積み上げられた死人どもが山を成す荒涼たる風景でな。見るだに芬々(ふんぷん)たる死臭が漂ってきそうであった。冥界の主は小娘を死人の山に放り込む積りだったのだろう。それを見て取った殺生丸が素早く天生牙を抜き放ち冥界の主を腕ごと斬って捨てたのだ。天生牙に斬られたせいで冥界の主は消滅。小娘を掴んでいた腕も霞(かすみ)のように消え失せた。落ちてくる小娘は殺生丸が天生牙を握ったまま右腕で抱き上げた。あの世の使いどもの首魁(しゅかい)である冥界の主(ぬし)を斬ったのだ。当然、小娘は目を開けるはずだった。なのに、一向に小娘は目覚める気配がない。これは流石に可笑(おか)しいと思ってな。殺生丸が連れていた小妖怪に訊いてみたのだ。もしかして小娘は天生牙で既に甦った事があるのでは?と。案の定、小妖怪の答えは妾(わらわ)が予測した通りであった。殺生丸は知らなんだようだな。天生牙で死者を呼び戻せるのは唯一度きりだと。どうあっても目覚めない小娘に絶望したのであろう。殺生丸が天生牙をポロリと取り落としおった。刀の成長の為に冥界に踏み込んでおきながらな。取り落とされた天生牙は、そのまま冥界の地面に静かに突き刺さった。天生牙の刀身がボウと朧(おぼろ)に光を放ち始めた。するとな、物音ひとつしなかった周囲の死人の山が反応し始めたのだ。ザワザワと生きておるかのように蠢(うごめ)きだしたのよ。山が、イヤ、死人どもが地滑りのように雪崩(なだ)れ込み、天生牙の周囲、つまりは殺生丸と小娘の周りを取り囲んだのだ。その様は、あたかも亡者どもが天生牙に縋(すが)っているかのようであったな。イヤ、事実、縋っていたのであろう。救われたい成仏したいと。その様相に何かを感じたのだろう。殺生丸が小娘を抱いたまま膝を折って天生牙を拾い上げ天に向けて掲げたのだ。一際、眩しい清浄な輝きが天生牙からあふれ出し昏(くら)い冥界を照らし出した。亡者どもが浄化の光に導かれ静かに消滅していった。あれこそ慈悲の光であろうな。亡者どもが完全に浄化されたと同時に冥道が開いた。以前の痩せこけた三日月とは大いに違う。真円でこそないが、それに近い形にまで拡がっていた。そこから小娘を抱いた殺生丸と小僧が現世に戻ってきたのだ」
「それで、御方さま、童女は、どうなったのでございますか?」
「慌てるな、松尾、それを今から話す」

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『愚息行状観察日記⑪=御母堂さま=』

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「左腕を失いながらも、尚、殺生丸さまは鉄砕牙を諦めようとはなさいませんでした」
「そうだろうな。あ奴は一旦こうと決めたら、まず退(ひ)うとはせん。トンデモナイ頑固者だ」
「そんな当代さまに甘言をもって近付いたのが奈落にございます。四魂の欠片を仕込んだ人間の腕を殺生丸さまに差し出し犬夜叉殿と闘うように仕向けたのです」
「フム、奈落とやらの誘いに乗ったか。あれの性格なら面白い趣向とでも思ったのであろう」
「左様にございます。しかし、その企みは犬夜叉殿に退(しりぞけ)けられ成功しませんでした。そして、三度目、当代さまは竜の左腕を繋(つな)いで挑まれました」
「我が息子ながら実にしつこい奴だな。好い加減、諦めればよいものを」
「三度目は、遂に、犬夜叉殿が風の傷を会得されまして、まともに喰らっていれば当代さまの御命は無かったでしょう。しかしながら、この時は天生牙が初めて結界を張って殺生丸さまを守りました。当代さまは瀕死(ひんし)の重傷を負われたものの御命だけは何とか取り留めたのでございます」
権佐の話を聞いて狗姫が溜め息を吐いた。
「ハァ・・・本当に馬鹿息子だな。そんな事をしておったのか。呆(あき)れて物が言えん」
「天生牙は当代さまを闘いの場から少し離れた森の中にお連れしました。そこで殺生丸さまは、りんという人間の童女と出会われたのです」
「その小娘ならば知っておる。つい先日、あ奴が、この城を訪れた時に見た。冥道残月破の冥道を拡げる為に乗り込んできおってな。その際、極めつけの人間嫌いであったはずの殺生丸が人間の子供を二匹も連れておった。何の間違いかと最初は思ったが。餌にでもするのかと殺生丸に訊けば即座に否定しおった。ならば単なる気紛れかとも思ったのだが、それも違っておった。小僧の方は確かに殺生丸に臣従しておったようだが、小娘の方は・・・ム~~~何と云えばよいのか。やはり、こう云うしかあるまい。あれは姫だ、殺生丸のな。肝心の小娘が幼すぎて、今はアアだコウだとは言えんが、まず間違いなかろう」
「御方さま、それは真(まこと)にございますか」
筆頭女房の松尾が驚いて口を挿(はさ)んできた。
「ああ、十中八九(じゅっちゅうはっく)間違いない。近い将来、あの小娘は殺生丸の妻になるだろう。少なくとも殺生丸はその気だろうな」
「まあまあ、何とした事。若さまが、この城を御訪問なさった時、不在だったことが悔やまれてなりません。松尾、一生の不覚にございます」
「アア、あの時、そなたは用があって西国へ行っておったな」
「もし、若さまが姫君をお連れしていると知っておりましたならば、不肖の身ながら、この松尾、万難を排してでも城に詰めておりましたものを」
「マア、そう落胆いたすな、松尾。いずれ逢う機会も巡ってこよう」
「コホン、話を続けて宜しゅうございますか」
権佐が女同士の話に割って入った。
「ンッ、すまん、すまん、ついつい内輪の話に夢中になった。続けてくれ、権佐」
「その童女を奈落が、イエ、配下の者が攫ったことが有るのです。目的は当代さまの力を取り込むことにありました」
「取り込むとな?」
「奈落は数多の妖怪の融合体、目を付けた妖怪を己が体の中に溶かし込み妖力を奪うのでございます。そうですな、判りやすく言えば文字通り『喰らう』のでございます」
「ホッ、さすれば奈落とやらはトンデモナイ悪食(あくじき)だな」
「無論、当代さまは奈落のような下賤(げせん)の輩に取り込まれたりはしませんでしたが。奈落の奴め、その腹いせからか、卑怯にも童女を自分の配下の者に殺させようとしたのです」
「成る程、それで殺生丸が奈落を仇と付け狙うようになったのだな」
「左様でございます」
「あの殺生丸が、そんな事をされて黙っているはずがない。あの小娘は殺生丸に取って天生牙よりも大切な存在なのだからな」
「おっ、御方さま、それは、どういう意味でございましょうか?」
松尾が狗姫の発した言葉に驚き疑問を投げかける。
「言葉通りの意味よ、松尾。先程も申したように愚息は冥道残月破の冥道を拡げるために、この城にやって来た。だから、妾(わらわ)は闘牙から預かった、この冥道石を使って冥界の犬を呼び出したのだ。そうするように闘牙から言付かっておったからな」
首から下げている首飾りの冥道石を手に狗姫が先日の事情を知らない松尾と権佐に説明する。
「殺生丸の操る冥道残月破の冥道は痩せ細った三日月のような形でな。到底、真円からは程遠い代物だった。あれでは、あ奴が納得せぬのも道理。冥界の犬にも全くの効果無しだった。すると何を思ったのか、冥界の犬め、人間の子供を二匹とも呑み込んで冥道へと逃げ込んだのだ」
「それで、若さまは、如何されたのでしょうか?」
「フッ、殺生丸の奴はな、躊躇(ためら)いもせず冥道に踏み込んでいこうとしおったわ」
「「何とっ!」」
「流石に妾(わらわ)も、それは予想しておらなんだ。だからな、一応、止めはしたのだ。だが、あ奴、妾(わらわ)に何と答えたと思う。『犬を斬りに行くだけだ』だぞ。ハッ、見え見えではないか。殺生丸が冥道に入ったのは断じて犬なんぞのせいではない。小娘を救う為よ。小僧は、まあ、ついでといった感じだったがな」
 

『愚息行状観察日記⑫=御母堂さま=』に続く

 

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