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『愚息行状観察日記⑬=御母堂さま=』

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 ※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。

「小娘を抱いて殺生丸は現世に戻ってきた。あ奴、見た目は無表情だったが、内心、腸(はらわた)が煮えくり返っておったろうな。出来るものならば泣き叫びたいくらいの心情だったろう。だが、小娘の死という不測の事態を招いたのが己である事は、奴自身、百も承知。従って妾(わらわ)を責めることもならぬ。フフッ、己の不甲斐なさを怒りに摩(す)り替えて今にも喰い殺しそうな目でコチラを睨んでおったわ」
「御方さま・・・」
息子の苦悩を愉(たの)しんでいるような狗姫の言葉に松尾が責めるような目で見た。
言葉こそ発さないが権佐の心情も似たようなものらしい。
両者の非難を物ともせず狗姫は話を続けた。
「そこで、まず、妾(わらわ)は殺生丸に天生牙の効力が一度きりだという事を教えてやった。あ奴は勘違いしておったようだからな。天生牙さえ有れば何度でも死人を呼び戻せると。そんな風に考えること自体、不遜(ふそん)極まりない。命とは、殺生丸が考えるほど軽々しい物ではない。我ら妖(あやかし)には唯人(ただびと)にない力がある。されど万物を生み出す万能の神ではないのだ。殺生丸は命を軽く考えておったから、ああも簡単に他者の命を奪えたのだ。それを深く憂慮(ゆうりょ)したからこそ、闘牙は、あのような仕掛けを施しておいたのだろう。命を愛おしむこと、それを失う悲しみと怖れを殺生丸が知るように。それを知った時、初めて慈悲の心が生じる。天性牙は癒(い)やしの刀。何時(いつ)如何なる時であろうとも慈悲なくして振るってはならぬ。死人を呼び戻す時も敵を葬る時でさえもな。命の重さを知らぬ者に天生牙を持つ資格はないのだ。小娘の死によって殺生丸は骨身に沁みて感じたであろうよ。命の重さ、儚(はかな)さ、慈悲の心の何たるかを」
「それで、御方さま、そのまま童女は息絶えてしまったのですか?」
今度は松尾の代わりに権佐が口を挟んできた。
「権佐よ、妾(わらわ)は、それほど薄情ではないぞ。正直、殺生丸の涙を見てみたい気がせんでもなかったが、あ奴は筋金入りの強情っ張り。期待するだけ馬鹿を見る。すると供の小妖怪が大泣きしおってな。聞いてみれば主(あるじ)である殺生丸の代わりに泣いていると言うではないか。中々、見上げた僕(しもべ)根性だったな。そ奴の涙に免じて小娘の命を助けてやることにした」
「どうなさったのでございますか?」
童女の命を気遣う松尾が蘇生方法を狗姫に尋ねた。
冥道石を手に狗姫が説明する。
「この冥道石を使ったのよ。小娘は既に天生牙で甦ったことが有る身。他の方法でなければ効果がない。小娘の胸に冥道石を置いて冥界に置き去りにされていた命を呼び戻したのだ。(それにしても、あの時の光は尋常ならざる輝きだった。並みの人間の放つ光ではない。何なのだ。思い出す度(たび)に妙に気にかかる)」
「本当に良うございました。童女の命が助かって」
内心の疑問などおくびにも出さず狗姫は松尾に応えた。
「小娘が助かったのは良い。だがな、松尾、殺生丸の奴、小娘が目を開けた途端、どうしたと思う?すぐさま、小娘の側に寄り添い頬をソッと撫でてやったのだぞ。その上、今まで聞いたこともないような優しげな声で言葉まで掛けてやってな。あの朴念仁の殺生丸が、だぞ。信じられぬであろう。小娘を救ってやった妾(わらわ)には目もくれず、勿論、礼の一言もない。尤も、あの小妖怪が愚息の代わりに妾(わらわ)に丁重に礼を述べはしたがな。ともかくだ、人間の小娘一匹に、あの大騒ぎ。全く、我が息子ながら妙な処が父親に似てしまったものよ。どうだ、これで判ったであろう。童女が殺生丸の姫だと云うた妾(わらわ)の言葉。両名とも納得がいったか」
「「ハイ、確(しか)と」」
 

『愚息行状観察日記⑭=御母堂さま=』に続く

 

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