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第十二作目『送り火』

「お盆」正しくは「盂蘭盆会(うらぼんえ)」の事。 
サンスクリット語の〝ウラバンナ〝を音訳したもの。 
江戸時代以前のお盆行事は、武家、僧侶、宮廷の上層階級で主に催されていた。
一般庶民に広まったのは江戸時代以降のようである。
りんは、久し振りに楓の村に遊びに来ていた。 生憎、かごめは、実家に戻って居なかったが。
犬夜叉も、かごめの後を追って居ない。 代わりに珊瑚と弥勒、七宝に楓が、出迎えてくれた。

「いらっしゃい、りんちゃん!」

「お邪魔します、珊瑚さん、弥勒さま、七宝、楓ばあちゃん」

相変わらず礼儀正しい童女である。 
禄に口を利かない保護者とは大違いである。 
可愛らしくペコリと頭を下げて挨拶する、りんとは、対照的に付き添ってきた小妖怪の方は、仏頂面である。

「それじゃ、日が暮れる頃には迎えに来るでな。忘れるでないぞ! りん。」

「うん、ありがとう。 邪見さま。」

双頭の竜、阿吽に乗って戻っていく邪見を見送るりん。
普段、人為らざる者と暮らす童女にとって、楓の村で過ごす時間は、想像以上に楽しく、時間はあっと言う間に過ぎていった。
日が傾き、夕暮れが辺りを赤く染める頃、邪見が、りんを迎えに来ようかという時刻になった。 
楓が、門口で、麻幹(おがら)、つまり、麻の皮を剥いだ茎を用意し火を熾(おこ)していた。

「楓ばあちゃん、何してるの?」

りんは、不思議に思って聞いた。

「これはな、送り火といって、ご先祖様や、亡くなった人達が、あの世に戻られる道を照らして差し上げるのだよ。 今日は、文月(七月の事)の十六日。盂蘭盆会(うらぼんえ)でこの世に戻って来られた魂が、帰っていかれるからね。」

楓が、りんにも判るように説明してやった。

「魂って、戻ってこられるの?」

驚いて、りんが、訊ねた。りんにとっては、初耳だった。
じゃあ、りんのおっ父やおっ母や兄ちゃん達も、戻ってきてるだろうか? 
・・・・もし、そうなら、会いたい! 会って話がしたい!!

「ああ、戻ってこられるよ。毎年、この盂蘭盆会(うらぼんえ)の時期にね。」

楓の脳裏に懐かしい女(ひと)の面影が浮かんだ。 
楓にとっては、姉であり母のような存在でもあった女(ひと)の姿。
(お姉様・・・・)誰よりも気高く美しかった姉は、そのまま自分の誇りでもあった。 
その姉が、非業の死を遂げ、五十年の歳月を経て死人(しびと)として甦った。
奈落との闘いに破れ、遂に、仮初め(かりそめ)の生から開放され、魂は、天に昇ったと犬夜叉から聞かされた。 
今も、その時の血のように赤い夕日を思い出す。
お姉様の魂が、この世から去り行く別れを惜しむかのような色だった。 
その後、奈落は、犬夜叉達によって滅せられた。
(お姉様、今は安らかに眠っておられますか? 皆、元気に暮らしておりますよ。)
楓は、心の中で、静かに亡き人に語りかける。 懐かしく優しい鎮魂(たましずめ)の言葉。
送り火に導かれ、黄泉路へと戻る死者の魂。 
元々、神職である楓には、この盂蘭盆会という行事は縁の無いものであった。
法師である弥勒によって、そうした行事を知ったのだ。
しかし、そうした死者を毎年、思い起こさせる行事は、桔梗への想いを浄化してくれるようで不思議と心に馴染み、村人達にとっても、同様であるらしい。
迎えに来てくれた邪見に、りんは、早速、頼んでみた。 以前、自分が居た村に行きたいと。

「いかん! いかん! こんなに日が、もう傾いてしまったというのに、今から、あんなに遠い処まで行くなんぞっ! それに、殺生丸さまが、既に戻っておられるかもしれん!!」

「お願い! 邪見さまっ!! どうしても今日じゃなきゃ駄目なのっ!!!」

必死になって頼むりんの願いが通じたのか、邪見は、渋々、頼みを聞いてくれた。
阿吽に乗れば、人の足では、何日かかるか判らない距離も、僅か、一刻(三十分ほど)で済んだ。
りんが、以前、住んでいた村は、妖狼族の鋼牙によって率いられた狼どもによって、村人は全て噛み殺され、今では、住む人も居ない廃村となっていた。 
村外れまで行くと、見覚えのある廃墟が、目に付いた。 
身寄りを失い、孤児となった、りんが暮らしていたあばら家である。
門口で、りんは、楓に分けてもらった麻幹(おがら)に火打石で火を熾(おこ)した。
夕闇が迫る中、その小さな送り火は、まるで、蛍のように見えた。 
その火を見つめながらりんは、手を合わせ、心の中で、懐かしい家族に呼びかけた。 祈りが届くように。
(おっ父、おっ母、兄ちゃん達、りんは、元気にしてるよ。)
(みんなに会えないのは、寂しかったけど・・・・今は、寂しくないよ。)
(人間じゃないけど、殺生丸さまや邪見さま、阿吽と一緒に旅をしてるの。)
(だから、心配しないで。 りん、これからも、一生懸命、生きていくから。)
りん達が、廃村で送り火を焚いていた頃、殺生丸も、ここ暫く、塒(ねぐら)にしていたお堂に戻ってきていた。 
しかし、りんも邪見も、勿論、阿吽も居ない。このような事は、未だ曾て無い。
己が、りん達を待たせた事は、あっても、待たされた事は無い。 酷く不快な気分であった。
西国への帰還を決めた。 その為に、犬夜叉の仲間、特に、あの、かごめとかいう女に会いたがるりんの願いを聞き入れ、邪見を付けて、阿吽で行かせたのが、今日の朝だった。
一体、何をしている? 日が暮れるまでには帰れと言っておいた筈だ。 あの愚弟の住む村へ遊びに行かせたのが間違いであった! 
邪見め、何をしておるか!もう、完全に日が落ちているではないか!帰ってきたら如何してくれようか! 
元々、気短な主は、従者の帰りを待たず、地を蹴り、空を往く。 
嗅ぎ慣れた匂いを、風の中に捜し求めて・・・・・。
暫く、空を飛んでいる内に、捜していた匂いを、嗅ぎつけた。 
だが、あの村の方角ではない。
匂いを頼りに、飛び続ければ、見覚えのある場所が、目に入って来た。・・・・・此処は!!
闇の中に、小さな焚き火が、見える。 どうやら、りんも邪見も、阿吽も側に居るようであった。
音を立てずに、少し離れた場所に、静かに降り立つ。 
阿吽が、気付いたらしく、此方に双首を向けたが、黙っているように、目で制した。
りんは、一身不乱に手を合わせ、何事か祈っているらしい。 
焚き火に誘われたのか、蛍が、りんの周囲に集まってきた。 
気配に気付いた、りんが目を開け、蛍の光に、うっとりと微笑む。 
それは、確かに、幻想的な光景だった。
宵闇の中、あどけない童女の周りを飛び交う蛍の群れ。 
朧な光が、ゆっくりと点滅しながら回転していく。
その中心には、可憐な童女の姿。 儚い蛍の光に包まれ映し出される無垢な笑顔。
その笑顔が、たかが虫とは言え、己以外に、あれほど喜びに満ちた、りんの笑顔が、向けられている事が、妙に腹立たしかった。 
離れた場所から、姿を現し、りんに、呼びかけた。

「・・・りん!」

はっと此方に顔を向け、己の名を呼んだ。

「殺生丸さま!!」

満面の笑み。蛍が、驚いたのか、散り散りに、飛び去っていく。 
嬉しそうに己に駆け寄ってくる、りん。
主に気付いた邪見が、ビクビクしながら、様子を伺っている。 お叱りを覚悟しているのだろう。

「・・・・何故、此処にいる。」

まだ、不機嫌な気分が、収まらぬまま、りんに訊ねた。

「えっ・・・・うんと、あのね、楓さまの村から帰る時、送り火を焚いてらっしゃったの。」

「送り火って、死んだ人の魂が、あの世に、帰る道を照らしてあげるものなんだって。」

「それで、今日は、盂蘭盆会(うらぼんえ)の最後の日なんだって・・・・。」

「だから・・・りん、家族のみんなを、送ってあげたくって・・・・。」

殺生丸自身、盂蘭盆会の事は、知っていた。 
何と、人間どもは、感傷的な事よ、と以前ならば呆れ果てたであろう。 
しかし、今、童女の、真摯な眼差しを、見るにつけ、そのような冒涜的な言葉を思い浮かべる事は、出来なかった。 
りんの家族・・・・・夜盗に襲われ、一夜にして、りんを除く全員が殺されたと言う。 
一人、残されたりんは、余りの衝撃に言葉を失ってしまった。
幼く、口も利けない童女は、村の厄介者として、事ある毎に、虐げられていた。 
時として、人は、動物よりも残酷になる。 
事実、童女が、己に会いに来た時も、そうだった。 
明らかに殴られたのであったろう。 小さな顔が腫れあがり、血を滲ませ、歯も欠けていた。 
思い出すたびに腹立たしい! 幼いりんに、加えられた虐待の数々。
・・・もし、彼奴らが、今も生きているのなら間違いなく己の爪に掛けている事であろう。 
それとも、毒華爪の餌食にしておろうか。
物音に驚き、離れていた蛍が、また、舞い戻り、りんの周りを、飛び始めた。 ゆらゆらと。

「蛍って、死んだ人の魂なんだって、誰かから聞いた事があるの。」

「もし、そうなら、この蛍は、りんの家族かもしれないね。」

りんが、嬉しそうに微笑む。ゆらゆら、ゆらゆらと、りんの周りを舞う蛍。 
一瞬、童女の魂が、連れていかれるような気がして、蛍どもを、隻腕で、追い払った。 
例え、肉親の魂であろうと、りんの関心を惹くなど許さぬ!
 
「殺生丸さま?」

りんが、驚いて、訝しげに、己の名を呼ぶ。

「帰るぞ! 邪見!」

慌てて、下僕が、走り寄ってきた。 
どうにもムシャクシャする気分を静める為に、一発、喰らわせた。

「フギャッ!」

「ああっ、邪見さま!」

地べたに倒れた下僕に駆け寄り、りんが、助け起こしている。 
サッサとその場を立ち去り、阿吽を連れて来る。
阿吽に、りんを乗せ、ついでに邪見を放り投げる。 
己の機嫌の悪さを察したのか、双頭の騎竜は命ずるままに、大人しく帰路に着く。 
塒(ねぐら)に帰り着いても、不快な気分は消えなかった。
一体、何が、これ程までに、己を苛立たせるのか? 
以前、犬夜叉に、風の傷で、重症を負わされ、あの村に、ほど近い場所で倒れていた事か? 
又は、りんが、あの村の奴らに虐待されていたせいなのか?
・・・それとも・・・やはり、りんの笑顔が、己以外に、向けられていたからなのか?
目を瞑り、埒もない思考を、巡らしていると、りんの匂いが、近付いてくる。

「殺生丸さま、今日は、遅くなって、ご免なさい。」

己を怒らせたと思っているのか、りんが申し訳なさそうに謝る。 
宵闇の中、静まり返った大気に、童女の、柔らかな匂いが漂う。

「・・・次からは、気を付けろ」

ささくれ立っていた気持ちが、その匂いを嗅いだだけで不思議と収まってゆく。 
りんの、甘い、優しい匂い。今では、この匂いが、傍にあるのが当たり前になっている。 
・・・・そう、これからも、それは、変わらないだろうし変えるつもりも無い。
例え、西国に戻ろうとも、だ。 
りんを連れ帰れば、当然、頭の固い古狸どもが、喧しく騒ぎたてる事であろうが、構うものか。 
童女は、りんは、己の物であり、それに、異議を申し立てる事は、己に弓を引くに等しい事。 
逆らう者には、容赦なく、制裁を喰らわすのみ。
久方振りに戻ってきた闘鬼神の柄を握り締める。 
天生牙が、闘いに使えるようになるまでは常に己と共に数々の修羅場をくぐり抜けてきた歴戦の業物(わざもの)。

「あれっ! 殺生丸さま・・・それ、もしかして・・・闘鬼神なの?!」

りんが、目敏く気付いて驚きながら訊ねてきた。 
余程、驚いたのか? 目がまん丸になっている。

「・・・・そうだ。」

以前の闘鬼神には、鞘が、無かった。 
その為に、白刃が剥きだしになっており、禍々しさが、より一層、強調されていた。 
しかし、今は、朴仙翁の鞘に納められ、剣呑な妖気は、一切、感じられない。
 刀々斎が、打ち直したせいもあるだろう。

「闘鬼神は、折れちゃったって、邪見さまが言ってたけど、どうやって戻ってきたの?」

いつの間にか、邪見が、側に来て、耳を、欹てている。
心なしか、阿吽までもが、そうしている。

「・・・・刀々斎だ。」

詳しく説明してやるつもりなどない。 後は勝手に推測しろ。

「その鞘は、どうしたのでございますか?」

邪見が、口を、挟んできた。・・・・・鬱陶しい。

「そうだよ! 前は、鞘が、無かったもん! ねえねえ、どうしたの!?」

りんまで聞いて来る。

「・・・・朴仙翁。」

もう、喋る気は無い。睨み付ける己の眼光に、恐れを成したのか、下僕はコソコソと側から離れていく。 りんは、と言えば、闘鬼神を、嬉しそうに、見ている。

「闘鬼神が、戻ってきて、良かったね! 殺生丸さま。 勿論、天生牙だって、殺生丸さまにはあるけど。・・・・・やっぱり、闘鬼神が、一番、似合ってる!!」

「・・・何故、そう、思う?」

りんが、その考えを持つに到った理由を、知るために訊ねてみる。

「だって、天生牙は、凄い刀だけど・・・・必ず、相手を、冥界に送って殺しちゃうもん。」

「闘鬼神なら、敵を、やっつけても、殺さずに済ませる事が、出来るでしょ!」

図らずも、刀々斎と、同じ考え方を、りんが、するとは・・・・。 蒙を啓くとは、この事か。

「りん・・・・明日、西国に戻る事にした。 一緒について来るか?」

りんが、急な申し出に、驚きつつも、口ごもりながら、訊ねてきた。

「りんが、ついて行っても・・・・良いの?!」

「ああ・・・・当然だ。」

「嬉しい!」

小さな柔らかい身体が、己の胸元に抱きついてきた。 馨しい匂いが一層強まる。
りんが、生まれ持つ生得の匂い。 己が何よりも好む甘い柔らかな匂い。 
まだまだ、乳臭さは抜けきらないが・・・・それでも、その馨しさは、仄かではあるが、ずば抜けている。

「あのね、今日、楓さまが、送り火を焚いてたから、何してるの?って聞いてみたの。」

「そしたら、亡くなった人の魂が、この時期だけこの世に戻ってくるんだって教えてくれたの。」

「だから、りん、どうしても、あの村に行きたくなっちゃって・・・・・」

「おっ父やおっ母、兄ちゃん達に、りんは、元気だよって言いたかったんだ。」

「殺生丸さまや邪見さま、阿吽と一緒に居るから、寂しくないよって。」

「そうやって、心の中で、呼び掛けてたら、蛍が、まるで、あたしに、答えてくれるみたいに寄って来てくれたから・・・・・凄く嬉しかったの。」

「・・・・・・・・」

童女の、嘘偽りのない想いを聞きながら、己は、先程の、酷く、子供じみた振る舞いを恥じていた。
何の事はない・・・・己は、嫉妬していたのだ。 りんが、己以外の物に、気を取られている事に。
例え、それが、誰であろうと、りんの肉親であったとしても、許せなかったのだ!
この殺生丸ともあろうものが! 未だ曾て、このような感情を抱いた覚えは無い!
この腕の中の小さな童女に抱く、独占欲の激しさ。・・・・・呆れたものだな、殺生丸よ。
自嘲の声が、心の中から、響いてくる。 それほどまでに、この童女に執着しているのか!?
それ故にこそ、何度、攫われようとも、奪い返してきたのか。・・・・己の物を取り戻す為に。
腕の中の小さな身体の重みが、僅かに増した。 りんは、童女は、睡魔に捕らわれたのだろう。
瞼が閉じられ、小さな吐息が、柔らかな口唇から洩れている。 
童女を寝やすいように腕の中に抱き直して、己も、又、目を閉じる。 
掌中の珠、ふと、そんな言葉が、脳裏に浮かんだ。
堂の外では、蛍が、別れを告げるかのように、ゆらゆらと点滅しながら飛んでいた。 了
 
 2006.7/9(日) 作成◆◆

 
《第十二作目「送り火」についてのコメント》
 
メール友達のorca殿からのリクエスト作品です。 
丁度、原作で桔梗が昇天した頃の事でした。
 
「お盆」がテーマだったので、その辺りも絡めて作成致しました。 
自分でも、かなり気に入っている作品です。 
「闘鬼神再び」から繋がっています。
 
2006.8/10(木)★★★猫目石
 
 
                              

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