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『降り積もる思い(30)=獣郎丸と影郎丸=』

獣郎丸と影郎丸、悟心鬼の次に出てきた奈落の分身だ。
だがな、こいつらは今までの奴らに比べ飛び切り不気味な奴らだった。
まず最初に獣郎丸に出喰わしたんだが、その時、奴は鋼牙を追ってた。
夜目にも判る長い白い髪、青い瞳、役者装束。
だが、奴の口許を覆う轡(くつわ)と両腕を縛(いまし)める鎖が異様な感じだった。
獣郎丸の野郎、動く者は全て敵だとでも思っているのか、視線を俺に向けるなり急に襲い掛かってきやがった。
怖ろしく凶暴な野郎だったぜ。


チッ、鋼牙の奴、俺が獣郎丸に襲われてる隙にサッサと逃げ出しやがって。
相変わらず逃げ足だけは早かったな。
矢継ぎ早に繰りだされる獣郎丸の攻撃を躱(かわ)すこと二度、蹲(うずくま)る奴の背後に奈落が現われた。
胡散臭(うさんくさ)い狒々(ひひ)の毛皮を被った姿だ。
俺を見て獣郎丸の轡(くつわ)と鎖を解いてやる奈落。
シュ———バチバチ・・・バキッ!・・・カラン
轡(くつわ)と鎖が完全に外(はず)された。
次の瞬間、獣郎丸が本体である奈落の首を刎(は)ねた!
何の躊躇(ちゅうちょ)もせずにだぜ。
マア、用心深い奈落のことだ。
当然、ああなるのを予想してたんだろう。
案の定、首を落とされたのは本体じゃなく傀儡(くぐつ)だったんだけどな。
にしたって、本来なら味方である奈落の首を、ああも迷いなく打ち落とすかよ!?


敵ながら呆(あき)れたぜ。
おまけに、何だ、こいつ!?
口許からダラダラと涎(よだれ)を垂らしやがって。
餓鬼じゃあるまいに、みっともねえ!
顔面に一発喰れてやったんだが、スンナリと殴られやがった。
あの奈落の分身が、アッサリやられるのは妙だとは思ったんだが、邪魔者はトットと片付けとくに限る。
そう思って散魂鉄爪で一気に叩きのめそうとしたんだが・・・・。
クッ、獣郎丸の一撃と相殺されちまった。
互角!?
シュッ・・・・バシュッ!
目にも留まらぬ攻撃が俺の頬をかすめた。
血が滲(にじ)む。
どういうことだ、コイツ、腕が伸びるのか?
変化?
途惑いながらも応戦したんだが、やっぱり可笑しい。
届くはずのない距離で攻撃が入ってくる。
このままじゃ埒(らち)があかねえ。


堪り兼ねて鉄斎牙を抜いて獣郎丸の腕を切り落とした。
とそう思ったんだが、そんな感触はねえ。
どういうことだ!?
その時、後ろの地面から何かが飛び出して俺の土手っ腹に風穴を開けやがった。
バッ・・・・ドッ!
畜生、やられた。
違和感の正体が、やっと判った。
獣郎丸の前にボッと跳び降りた奇妙な物体。
回虫のような体に蟷螂(かまきり)みてえな鎌が付いてる。
小さな顔は獣郎丸とソックリだ。
奴が、もう1匹の敵、影郎丸だ。
獣郎丸と同時に生まれた双子のような存在で普段は獣郎丸の体内で眠ってるんだ。
成る程な、最初は獣郎丸1匹と思わせといて油断させ、ここぞという時に意表を衝いた攻撃を仕掛け相手を翻弄するって訳か。


正体を現した以上、もう見境なしに殺(や)ろうってのか。
二匹が別個に行動しはじめた。
獣郎丸と影郎丸の俊敏さは並じゃねえ。
弥勒が風穴で奴らを吸い込もうとするんだが相手が速過ぎて間に合わねえ。
奴らにとっちゃ格好の餌食(えじき)だ。
珊瑚も飛来骨で攻撃しようとしたんだが獣郎丸に弾かれちまった。
俺は俺で腹を喰い破られてたしな。
かごめが、俺を心配して駆けつけてきた処を神出鬼没な影郎丸に狙われちまった。
(しまった、万事休す!)と思った時、不意に鋼牙が現われて影郎丸を蹴り飛ばして、かごめから遠ざけてくれた。
フゥ~~~助かった・・・あん時だけは心の底から痩せ狼に感謝したぜ。
俊足を誇る鋼牙だ。
影郎丸だけでも相手してくれりゃ、コッチに勝機はある。
俺の相手は獣郎丸だ。


チョコマカと逃げ回る影郎丸、闘争本能のみで向かってくる獣郎丸。
クソッ、鉄砕牙が重くて思うように振り回せねえ。
唯でさえ、こっちゃ、腹を喰い破られて体力が落ちてるってのに。
長引かせると不利だな。
———タン
ゲッ、獣郎丸の野郎、鉄砕牙の刃の上に乗りやがった。
とんでもない平衡感覚だ。
そのまま距離を詰めて俺に圧(の)し掛かり胸元に噛み付きやがった。
バキッ、顔面を殴ったんだが、それ程、痛手を受けている風でもない。
畜生、こっちゃ、アチコチ血だらけだってのに。
鋼牙は鋼牙で、中々、影郎丸を仕留められない。
何せ、形(なり)が小さいうえに土ん中に身を隠せるからな。


バシッ、ドガッ!
ウワッ、左腕を切られた。
影郎丸だ。
クソッ、地中から跳び出して襲ってきやがった。
息吐く間もなく今度は獣郎丸が。
バキッ!
グワッ、又しても胸元を抉(えぐ)られた。
今度は爪でだ。
おまけに反動で木に叩きつけられちまった。
クッ、強烈だったぜ。
随分、痛め付けられちまった。
鋼牙は鋼牙で油断してたのか影郎丸の鎌で太股を切られるし。
チッ、役に立たねえ野郎だぜ。


そんな俺達を見て頃合だと思ったのか。
影郎丸の奴、かごめの肝を喰うと抜かしやがった。
許さねえ、誰が、そんな事させるかっ!
頭に血が上(のぼ)る。
気が付いたら片手で鉄砕牙を振り回して影郎丸の右の鎌を斬り捨ててた。
正気に戻ったら又ズシッと鉄砕牙が重くなったけどな。
影郎丸の方は土中に潜んで何時襲うってくるか判らないし。
とにかく目に付く獣郎丸だけでも片付けとかなくちゃな。


変幻自在の攻撃を仕掛けてくる影郎丸と獣郎丸。
こいつらに対抗するには、どうしても鋼牙と息を合わせる必要があった。
不本意じゃあるけどな。
この際、文句は云ってられねえ。
背に腹は変えられねえだろう。
それにしてもしぶとかったぜ、獣郎丸の奴。
鋼牙の蹴りを喰らっても顔色ひとつ変えやしねえ。
それ以前にも俺に何度か殴られてたってのにな。
これ以上、戦いが長引いたら、いくら頑丈な俺でも体がもたない。


そう感じてたら珊瑚が策を講じてくれた。
土の中に毒を沁み込ませて中に隠れてる影郎丸を誘(おび)き出してくれたんだ。
毒で動きが弱まってる影郎丸を鉄砕牙で斬ろうとしたら逆に獣郎丸の一撃を喰わされちまった。
畜生、以前なら軽々と振り回せたのに鉄砕牙が重い分、どうしても振りが鈍い。
その分、反応が遅れちまう。
クッ、胸元が血だらけだ。
さすがに堪(こた)えるな。
これ以上はヤバイぜ。
そんな俺を見て、鋼牙の奴、調子こきやがって。
自分一人で獣郎丸を殺(や)る気で向かっていきやがった。


だが、可笑しい。
影郎丸の気配が感じられない。
奴は何処だ!?
まっ、まさか?
鋼牙を止めようとしたんだが間に合わねえ。
こうなったら一か八(ばち)かだ。
一気に片を付けてやる。
鋼牙の後ろから鉄砕牙を振り下ろす。


思った通りだ。
影郎丸の奴、獣郎丸の腹ん中に治まってた。
ガボッ、影郎丸が獣郎丸の口から吐き出される。
鋼牙に影郎丸の鎌が振り下ろされる。
と思った刹那、俺と影郎丸の気配に気付いた鋼牙が神業に近い速さで飛びのく。
ゴッ、ババッ!鉄砕牙に分断される影郎丸と獣郎丸。
ザア・・・・霞のように獣郎丸と影郎丸が消え失せていく。
フゥ~~~~やっと終わったぜ。
手間かけさせやがって。
後で鋼牙がゴチャゴチャ文句いってたが、そんなもん、無視だ、無視。


 

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『降り積もる思い(29)=闘鬼神=』

悟心鬼に噛み砕かれた鉄砕牙。
茫然とする俺の前に三つ目の牛、猛々(もうもう)に乗った冥加爺が現われた。
そして直ぐさま俺に猛々に乗って刀々斎の許へ行けという。
鉄砕牙を打ち直してもらう為に。
マア、武器が無くちゃ困るからな。
俺は折れた鉄砕牙と破片をもってアイツの塒(ねぐら)がある山に向かった。
無残に噛み砕かれた鉄砕牙を見てビイビイ泣き喚く刀々斎。
フン、俺だって、内心、悪いとは思ってんだ。
ギャアギャア煩(うる)せえぞ。
泣いてる暇があったらサッサと打ち直せ。
そしたらよ、刀々斎の奴、繋(つな)ぎが要るっつうんだ。
ヘッ、繋(つな)ぎ?
何だろって思ってたら刀々斎が俺に口を開けろっつから大きく口を開けたら。
ゴキュッ!
ジィ~~~~~ン・・・・
あっ、あの爺、俺の左の犬歯をヤットコで抜きやがった。
いっ、痛いじゃねえか、この野郎!
頭に来て、一発、殴ったら、あのクソ爺、半日もありゃ生えてくると抜かしやがった。
ったく、確かにアイツの云った通りに半日もしたら新しい歯が生えてきたけどよ。
それにしても一言、歯を抜くなら抜くと断ってからにしやがれ。
鉄砕牙を打ち直すのに三日三晩かかるんだとよ。
俺は、ひとまず、仲間の許へ戻った。
明日には鉄砕牙が戻ってくる。
選(よ)りによって今宵は月のない晩、朔(さく)の日だ。
俺が月に一度だけ妖力を失う日。
白銀の髪は、お袋譲りの黒髪に、金色の目も黒い目に変化する。
爪も牙もない無力な人間になっちまう。
こんな時に襲われたら・・・・ひとたまりもねえな。
ひどく心許ないぜ。
そんな気分でいたら、かごめが話しかけてきた。
まだ本物の妖怪になりたいのかって。
そう訊かれて正直な話、俺はえらく途惑った。
初めて、かごめと逢った時、あの頃、俺は間違いなく本物の妖怪になりたかった。
その為に四魂の玉が欲しかったんだ。
でも、五十年前の俺と桔梗の悲劇の真相を知って目的が変わっちまった。
今は奈落を討ち果たす為に、かごめや仲間と共に四魂の欠片を追って旅をしてる。
本物の妖怪になりたいなんて望み、コロッと忘れてたぜ。
あの時、妖怪化して悟心鬼を引き裂いた時の俺は・・・・本物の妖怪だったんだろうか。
急に体が熱くなって・・・・。
俺は、純粋に獲物を引き裂くのを楽しんでいた。
喜びさえ感じてた。
俺は・・・・俺の心は・・・・
エエイ、今は、それどころじゃねえんだ。
とにかく今夜一晩やり過ごさねえと。
以前なら何処かにジッと身を潜め息を殺して敵に見つからないようにしてた。
でも、今は、かごめや弥勒、珊瑚に雲母(きらら)、七宝が居る。
仲間同士、集まって火を焚いて野宿だ。
ドンドン俺の秘密を知ってる奴が増えてる。
良いんだか悪いんだか。
ン~~~かごめが云うには良い事なんだろうぜ。
そうやって、色々と考えながら星を眺めてたら、おいでなすったぜ、厄介ごとが。
夥(おびただ)しい邪気を撒き散らしながら現われたのは短躯の妖怪。
髑髏(どくろ)を首飾りみてえにぶら下げてやがる。
不気味な野郎だな。
禿げ上がった額の上に盛り上がった瘤(こぶ)が角みてえだ。
奴が名乗ったところによると名は灰刃坊(かいじんぼう)、刀鍛治だとよ。
腕にしてるのは見るからに禍々しい邪剣、“闘鬼神”。
灰刃坊が云うにゃ闘鬼神は悟心鬼の牙から打ち起こした剣だそうだ。
つまり、悟心鬼の怨念まみれの剣ってこった。
フン、それなら、闘鬼神が俺の血を吸いたがるってのも道理だな。
悟心鬼を殺したのは俺だから。
ケッ、相手になってやるぜ。
飛び出していこうとする俺を庇って弥勒と珊瑚が飛び出す。
七宝とかごめは俺を引きとめようとする。
ゲッ、珊瑚が投げた飛来骨を、灰刃坊め、易々(やすやす)と闘鬼神で両断しちまいやがった。
なっ、何て剣だ。
そうか、鉄砕牙でさえ噛み砕いた悟心鬼の牙で出来た剣だ。
飛来骨ごとき何の造作もないってことだな。
それを見て取った弥勒が素早く攻撃対象を剣から使い手に切り替える。
法力を込めた御札を灰刃坊めがけ投げつけた。
狙い違わず灰刃坊の顔面に貼り付いた御札。
ジュッ・・・・
動きが止まった灰刃坊の顔面を弥勒が錫杖で思いっきりぶっ叩く。
ドサッ・・・倒れる灰刃坊。
頭をかち割られてるんだぜ。
普通なら勝負あったと誰もが思うだろう。
だがな、次の瞬間、灰刃坊の奴、立ち上がって攻撃してきたんだ。
どう見てもまともじゃねえ。
何かに操られてる。
そうか、敵は灰刃坊じゃねえ。
あの剣、闘鬼神だ。
灰刃坊が俺を挑発しやがる。
コソコソ女子供の後ろに隠れてるだと!
馬鹿にしやがって。
我慢ならねえ。
奴に向かっていこうとした矢先、ゴロロロ・・・雷の音が。
ズウウウウン・・・・地響きと共に刀々斎が三つ目の牛に乗って現われた。
見れば打ち直した鉄砕牙を抱えてるじゃねえか。
素早くひったくって自分の腰に差す。
ンッ、刀々斎の奴、灰刃坊と知り合いなのか。
弥勒も不思議に思ったんだろう。
どういう関係か聞いたら、これが、灰刃坊は刀々斎の弟子だってんだから驚いた。
尤も、とっくの昔に破門したらしいがな。
然も、その理由ってのが、またトンデモナイ。
灰刃坊の奴、一本の刀を作る為に、十人の子供を殺してるんだとよ。
血と脂を刀に練り込んで怨みの妖力を与える為にな。
こんな外道、生かしちゃおけねえぜ。
鉄砕牙を抜き放ち野郎と対峙する。
でも、妖力を失ってる今の俺じゃ鉄砕牙は変化しない。
エエイッ、迷ってる暇はねえ!
そのまま灰刃坊に打ち掛かる。
カカッ、ババッ!
何っ、組み合っただけで弾き飛ばされた!?
アチコチから血が噴き出す。
これは闘鬼神の剣圧か!?
倒れこんだ俺に灰刃坊が打ち込んできた。
それを鉄砕牙で受け止める。
カッ、何とか持ちこたえる。
変化はしないものの少しは頑丈になったらしいぜ、鉄砕牙。
ズタボロの俺を見て灰刃坊が余裕をかましてやがる。
だがな、そろそろ時間切れだぜ、灰刃坊。
夜明けだ、変化が始まる。
力が、妖力が戻ってくる。
ザワ・・・ミシ・・・爪が、牙が伸びる。
髪の色も目の色も変化する。
一気に鋭くなる嗅覚と聴覚、イヤ、五感の全ての感度が上がる。
そうだな、例えるならボンヤリとしか見えなかった風景が急にクッキリ見えてくるって感じかな。
脆弱な人間の能力を野生の本能が覆い尽くしていく。
力が漲(みなぎ)る。
半妖に戻った途端、脆弱な身体が変化して治癒能力が増し傷を治す。
瞬時に塞がり、もう跡形もない傷跡。
同時に鉄砕牙自体も細身のボロ刀から幅広の剛刀に変化する。
それは良い。
良いんだが・・・・重い!
なっ、何で、こんなに重いんだ!?
持ち上げるのさえ容易じゃねえんだぞ。
頭に来て刀々斎に理由を問い質したら、それは俺の牙の分だって答えやがった。
クソ~~~こんなんじゃ振るうことも出来ないじゃねえか。
そんな俺を見て灰刃坊が好機とばかりに突っ込んできた。
畜生、闘うしかねえ。
渾身の力を振るって滅茶苦茶重い鉄砕牙を肩で持ち上げ闘鬼神と打ち合う。
ギャン、カカッ、ギリ・・・・
互角か?と思ったが次の瞬間、灰刃坊の身体が切り裂かれバラバラと落ちていく。
シュ————地面に突き刺さった闘鬼神。
灰刃坊の右手だけが闘鬼神を握ったまま残っている。
闘鬼神の凄まじい剣圧に灰刃坊の身体が耐え切れなかったらしい。
灰刃坊に勝ったのは良い。
だがな、この鉄砕牙の異様な重さ、どう使えってんだ!
頭に来て刀々斎に喰ってかかったら、あのクソ爺、何て答えたと思う。
身体を鍛えろだあ!?
予想通りのアホな答えに、また一発、殴っといた。
全く碌でもねえ。
それはそうと使い手が死んだってのに闘鬼神の邪気は一向に消えない。
トンデモナイ置き土産をしてってくれたもんだぜ、灰刃坊。
俺達は、残った闘鬼神をどうしようかと相談し始めた。
その最中(さなか)、暗雲垂れ込める中からゴロゴロと響く雷鳴。
ドオオオン・・・・闘鬼神に稲妻が落ちた。
ジュッ・・・高熱に焼き尽くされる灰刃坊の右手。
ゴ————風を裂いて現われたのは双頭の竜に跨(またが)った殺生丸!
何故、コイツが此処に!?
だが、事情を聞けば、闘鬼神を灰刃坊に打たせたのは殺生丸だっていうじゃねえか。
然も、あの邪気塗れの闘鬼神を、殺生丸の奴、易々と御(ぎょ)しちまった。
生みの親の灰刃坊でさえ邪気に呑まれ命を落としたってのにだ。
クソッ、相変わらず底知れない強さだぜ。
闘鬼神を手中に収めるや、即座に、俺に勝負を挑んできた殺生丸。
確かめたいことが在るとか抜かしてな。
満足に振るうことさえ叶わない程、重くなった鉄砕牙。
圧倒的な不利を見越して、かごめが俺を止める。
ケッ、待ってくれって頼んで聞いてくれる相手かよ。
アイツとは何時だって顔を合わせりゃ闘うしかねえんだ。
クッ、おっ、重い。
スシリと手に堪える重みだ。
襲ってくる白刃を鉄砕牙を立てて躱(かわ)す。
重くて振るえねえからな。
そうしながらもビシビシと血が噴き出す。
さっきも経験したが闘鬼神の剣圧のせいだ。
こうなったら、一振り、一振りで決めないとやられる!
覚悟を決めて振るった一撃は殺生丸に軽々と受け止められちまった。
俺の方はビシビシとアチコチから血が噴き出してるってのに。
クソッ、殺生丸は涼しい顔で掠り傷ひとつ負ってない。
鉄砕牙を受け止めて瞬時に以前との違いを覚(さと)ったんだろう。
殺生丸の奴、少し鉄砕牙が重くなったのか?なんて聞いてきやがる。
馬鹿野郎、少しじゃねえっ!
俺が言い返すと同時に弾き飛ばされちまった鉄砕牙。
弾(はず)みで俺まで吹っ飛ばされた。
畜生、殺生丸め、相変わらずの馬鹿力だ。
俺の手を離れた途端、鉄砕牙が元のボロ刀に変化する。
エエイ、もう、あんな重い刀、要らねえ。
あれじゃ、どう頑張ったって勝てるものも勝てねえ。
丸腰で向かっていく俺に殺生丸がピタリと闘鬼神を向ける。
すると触ってもいないのに剣圧で吹き飛ばされた。
押し戻される身体、噴き出す血。
為す術もなく俺は草叢(くさむら)にうずくまった。
やられる!
そう思った瞬間、何かが、ゾワリと俺の中で蠢(うごめ)く。
悟心鬼を殺(や)った時と同じ感覚。
あのままだったら、妖怪化してたんだろうな。
でもな、あの時は、刀々斎が助け舟を出してくれた。
火吹きの術で周囲を火の海にして殺生丸の注意を逸らし、その間に、みんなで逃げた。
それ以後、闘鬼神は、魍魎丸に折られるまで殺生丸の愛剣になった。
唯な、あの剣は見るからに物騒だった。
何でかっていうとだな、普通、刀剣ってのは鞘と一対になってるもんだろ。
だがな、闘鬼神には鞘がねえ。
ギラギラした刀身が剥き出しになってた。
鞘を用意する前に灰刃坊が闘鬼神に取り憑かれちまったせいだけどな。
結果、灰刃坊は命を落とす羽目になった。
これまでの所業が所業だから、因果応報なんだろうけどよ。
とにかく、そういう訳で闘鬼神は抜き身のままだった。
そんな危ない剣を、殺生丸の野郎、全然、気にせず腰に差してやがったんだぜ。
フッ、考えてみれば殺生丸自身、以前は抜き身の剣みてえに怖ろしく危ない奴だった。
あんな危ない闘鬼神を扱えるのは、それ以上に危ない殺生丸だけだったってこったろうな。



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『降り積もる思い(28)=悟心鬼(ごしんき)=』

悟心鬼(ごしんき)、アイツのことは忘れようったって忘れられねえ。
何しろ鉄砕牙を噛み砕いてくれたからな。
桔梗と逢ってから程なく一人の男が送り込まれてきた。
見れば傷だらけだ。
必要なことだけ喋ったかと思うと、その場に崩れ落ち溶けていった。
死臭で判っちゃいたが男は最初から死んでいた。
神楽の屍舞(しかばねまい)だ。
鬼・・・背中に蜘蛛・・・男の残した言葉から判断して奈落が生み出した三匹目の妖怪に間違いねえ。
男の残してきた臭いを追って辿り着いてみれば。
何なんだ、コイツは。
確かに見た目は鬼だな。
頭に二本の角を生やした醜悪な化け物だ。
如何にも強力な膂力(りょりょく)を振るいそうな三本爪の長い腕。
馬みてえな鬣(たてがみ)と尻尾。
背中には聞いてた通りに蜘蛛の痣(あざ)が。
大きく裂けた口には鋭い尖った歯がビッシリと生えてる。
あの歯で手当たり次第に人も獣も喰いまくるんだ。
悟心鬼はデカイ図体の癖に随分すばしっこかった。
そして何より驚かされたのが奴が相手の心を読めるってことだ。
参ったぜ、こっちが何を考えてるのか全てお見通しなんだからな。
風の傷を撃とうにも、悟心鬼の奴、軌道の中に入り込んできやがる。
畜生、これじゃ撃てねえ。
ならば、直接、たたっ斬ってやる!
そう思って振り下ろした鉄砕牙を、野郎、歯で受け止めやがった。
バキバキ! バキッ!
ゲエッ、鉄砕牙が噛み砕かれた。
茫然とする俺に悟心鬼が襲い掛かる。
悟心鬼の両腕に生えた鋭い刃のような棘(とげ)。
ズバッ、その棘に胸を切り裂かれ俺は倒れちまった。
あの時、俺の心を支配していたのは『死にたくねえ』って強烈な本能だった。
身体が熱くなって自分が自分じゃないような感覚が俺を圧倒してた。
ハッキリしない意識の中、俺は獲物を引き裂いて楽しんでた。
その後に起こったことは余り覚えてねえ。
気が付けば悟心鬼は倒され、俺もかごめに『おすわり』を喰らわされてた。
かごめが云うには俺は妖怪化してたらしい。
頬には妖線が走り爪は長く伸び目も赤く変化してたそうだ。
とにかく奈落の三匹目の分身は始末した。
だが、頼みの綱の鉄砕牙は折られちまった。
そして俺に倒された悟心鬼は意外な形で甦ることになる。
鬼の牙の剣、闘鬼神として。

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『降り積もる思い(27)=神無(かんな)=』

神無(かんな)か、アイツも神楽と同じ奈落の分身だった。
だが、同じ分身でも風使いの神楽とは似ても似つかないぜ。
何でかっていうとだな、まず、神楽は俺達と似たような年恰好だった。
そうだな、物慣れた感じこそあったが、年の頃は珊瑚やかごめと大して変わらないんじゃないか。
それに比べ神無の見た目は十歳そこそこだろう。
丸っきり餓鬼なんだぜ。
形(なり)も派手目の神楽とは、まるで違う。
ウ~~ン、何ていうか。
髪も髪飾りも衣装も肌の色も、とにかく何もかも真っ白なんだ。
色目ってもんが全くない。
まるで死装束(しにしょうぞく)だぜ。
そのせいか生気ってもんが殆ど感じられなくってな。
いっつも無表情で、それが却(かえ)って、不気味な感じなんだ。
感情を剥(む)きだしにする神楽とは、それこそ正反対だぜ。
後で判ったんだが、神無はな、『無(む)』その物だったんだ。
だから臭いは愚か気配も妖気すらもない。
おかげで、こっちは、やりたい放題やられてから、やっと気付く有様だった。
エ~~と、あれは・・・・そうそう、確か、小春って小娘を助けたのが切欠(きっかけ)だったな。
小娘とはいっても、もう餓鬼じゃねえ。
いっぱしの女になりかけって感じだった。
川で水汲みしてた珊瑚に、いきなり性質(たち)の悪い地付きの男どもが襲い掛かってきやがった。
女一人に大の男が何人も寄ってたかってだぜ。
ケッ、碌((ろく)でもねえ!
だから、俺が、そいつらを、ぶん殴ってやった。
マア、腕の立つ珊瑚のこった。
別段、俺が手を出さなくったって、どうってことなかっただろうがな。
どうも、ソイツら、誰かを追ってたらしい。
その誰かってのが小春で、珊瑚は間違えて襲われたって訳だ。
でもって、こっからがややこしい。
その小春って小娘と弥勒の間にゃ、三年前、チョッとした経緯(いきさつ)が有ったらしいんだ。
へッ、決まってるだろう。
例によって弥勒の奴が何時もの申し込みをしてたんだよ。
「私の子を産んでくれるか?」ってな。
呆(あき)れたもんだぜ、あの時、小春は十四だから、その三年前っていや、まだ十を過ぎたばっかの餓鬼じゃねえか。
ダァ~~~~ッ、本当に助平な野郎だぜ。
小春の話を聞くと、戦(いくさ)で親兄弟を失い油長者って金持ちに拾われ、毎日こき使われてたらしい。
その頃、弥勒と出会って例の申し込みをされたんだとさ。
まあ、そのままなら淡い思い出で終わったんだろうが。
油長者のドラ息子が小春に目を付けて手篭(てご)めにしようとしたんだとよ。
それを小春の奴、薪(まき)で、したたかにブン殴って気絶させてから逃げ出したそうだ。
ハハァ、馬に乗ってた、あのドラ息子が怪我してたのは、そのせいか。
とりあえず大まかな事情は判った。
だがな、いくら弥勒に惚れてるったって一緒には連れていけねえ。
唯でさえ卑劣な奈落と渡り合う危険な道中だ。
自分の身さえ守れない小娘じゃ足手まといになるだけだ。
下手すると奈落に利用して殺されるくらいが関の山だろうぜ。
そんな訳で小春にゃ悪いが、因果を含めて、人柄の良さそうな分限者(ぶげんしゃ)の家で雇ってもらえるよう弥勒が話をつけたんだよな。
異変は、そこで起こった。
突然、村の衆が総出で俺達を襲ってきたんだ。
何故だ、おかしい。
妖怪の臭いなんて、からっきし無かったんだぜ。
ザザザザザ・・・・
耳障りな羽音と共に現われたのは最猛勝(さいみょうしょう)!
奈落の毒虫、じゃあ、これは奈落の仕業か。
小春が危ない。
村長(むらおさ)の家に駆け付けてみれば小春が倒れてるじゃねえか。
珊瑚に小春とかごめを任せて俺と弥勒は村の衆の相手をする為に外に出た。
こいつら、操られてるから殺す訳にもいかねえ。
チィッ、手加減しつつも相手が多すぎる。
殴っても殴っても埒(らち)があかねえ。
そんな時、又してもアイツが、神楽が現われたんだ。
村の奴らを操ってるのは、こいつか!?
だが、直接、神楽に問い質してみても違うという。
そういえば、神楽の屍舞(しかばねまい)は死体しか操らない。
ってことは、村人を操ってるのは別の妖怪の仕業か!?
クソッ、ここは俺が相手をするしかねえ。
かごめ達は弥勒に任せた。
畜生、神楽の奴、村人を盾にしやがって。
おかげで、俺は風の傷を撃とうにも撃てない。
ひたすら風刃の舞を避け、神楽の隙を窺(うかが)うしかなかった。
そんな時、急に村人が人垣を解いたんだ。
正面にいるのは神楽だけだ。
こんな絶好の機会を逃すか。
ゴッ、喰らえ、風の傷!
渾身の力で鉄砕牙を振り切った。
あれで神楽も一巻の終わりの筈だった。
だが、その時、急に白尽くめの童女が神楽の前に立ちはだかったんだ。
あれは誰だ!?
童女が手に持っているのは鏡。
何をする積りだ?
カッ、閃光とともに戻ってきたのは俺自身の放った攻撃、風の傷。
ばっ、馬鹿な・・・・
風の傷に切り裂かれ血が噴き出す。
倒れた俺を嘲笑うかのように現われたのは奈落。
弥勒が俺を庇って前に立ったが、最猛勝がウジャウジャ飛び交ってる。
風穴を使えば最猛勝を吸い込んじまう。
すると猛毒が弥勒の身体を苛(さいな)む。
事実上、風穴は封じられちまってる。
朦朧とする意識の中、弥勒と奈落の声が聞こえる。
その結果、判ったのは、さっきの白尽くめの童女の名は神無(かんな)。
神楽と同じように奈落から生まれた妖怪で、神楽が【風】、神無が【無】なんだとさ。
だからなのか、臭いも気配も妖気すらなかったのは。
瀕死の俺を更に甚振(いたぶ)る積りだったんだろう。
奈落の野郎、わざと桔梗の名を持ち出しやがった。
俺の首を取って桔梗に見せるだと。
奈落に命じられた神楽が風刃で俺の首を狙う。
クッ・・・・身体が動かねえ。
どうすりゃいいんだ。
万事、休す!
その時、破魔の矢が、神楽の風刃を阻(はば)んだんだ。
かごめ・・・・生きてたのか。
よろけながらも矢を番(つが)え神無に狙いを定めるかごめ。
神無の鏡に村人と同様、魂を吸い取られてたんだ。
魂を吸い取られた人間は神無の意のままに動く操り人形になっちまう。
だが、かごめの魂は尋常の大きさじゃねえ。
吸い切れなかったらしい。
そんなかごめが気付いた衝撃的な事実。
四魂の欠片を奈落が持ってたんだ。
それも、一欠片や二欠片なんてもんじゃない。
殆ど球形になりかかってる大きな塊。
だから、奈落は妖力を増してたんだ。
自分で分身を生み出せるまでに。
だが、何より俺を驚かせたのは、そんなこっちゃねえ!
四魂の欠片を桔梗が奈落に渡したって事実だ。
かごめから桔梗は四魂の欠片を奪った。
それを桔梗は奈落に与えたってのか!?
何故だ? 何故、そんなことをしたんだ!? 桔梗!
奈落は俺たちの仇じゃねえのか!
かごめが神無の鏡に向けて矢を放った。
俺の風の傷のように、はね返されるかと思いきや、かごめの矢は鏡の中に呑み込まれた。
神無が、鏡で、かごめの残った魂を吸い取ろうとしてる。
シュ————ガタガタガタ・・・・
鏡が音を立て抵抗してる。
ピシッ・・・・遂に鏡に罅(ひび)が!
これ以上は無理と神無が判断したんだろう。
ブワッ、神無が鏡の中に吸い込んだ大量の魂を開放した。
シュ————・・・・ドオオオン
村人達に魂が戻った。
勿論、かごめにも。
そこで弥勒が一気に風穴を開いた。
奈落と分身の神楽、神無を吸い込む為に。
ゴォ~~~バキバキ・・・・
だが、一足遅かった。
奈落は分身達を引き連れ虚空に去った後だった。
あっけなく破られた風の傷。
そして憎い仇のはずの奈落に四魂の欠片を渡した桔梗。
判らない、桔梗の真意が掴めない。
お前は何を考えてるんだ。
村を後にした俺達は小屋を見つけて身体を休めた。
俺だけじゃなく珊瑚も怪我してたからな。
神無の鏡に、俺と同じように攻撃を返され、飛来骨を、まともに受けたんだ。
そんな悶々と悩む俺の前に、いきなり死魂虫(しにだまちゅう)が現われた。
桔梗が俺を呼んでる。
傷付いた身体に鞭打って俺は呼び出しに応じた。
死魂虫を従え俺の前に現われた桔梗。
四魂の欠片を奈落に渡したのは、やっぱり桔梗だった。
詰問する俺に動揺もせず答える桔梗。
何か、思惑があってのことらしい。
正直な話、あの頃の俺には桔梗が何をしようとしているのかサッパリ判らなかった。
それでも、奈落を憎い仇だと言い切った桔梗の言葉に嘘はないと感じた。
だから、桔梗を信じようと思ったんだ。
五十年前、俺が桔梗を信じられなかったばかりに奈落の罠に落ちた。
今度こそ、そんなヘマはしねえ。
クッ、奈落の野郎、俺たちを見張ってやがった。
分身の神楽が姿を潜めて俺と桔梗の様子を窺(うかが)ってたんだ。
勘のいい桔梗が破魔の矢で神楽を威嚇して追い払いはしたが。
クソッ、奈落め、油断も隙もねえ。
そして、ケガで思うように動けない俺たちに、畳み掛けるように次なる刺客を差し向けてきた。
第三の分身、悟心鬼を。
 

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『降り積もる思い(26)=神楽=』

鋼牙の次は神楽か。
ウ~~~ン、神楽との出会いは鋼牙以上に最悪だったぜ。
何しろ俺に妖狼族殺しの濡れ衣を着せて鋼牙と殺し合いをさせたんだからな。
俺が頑丈だったから良かったものの、そうでなきゃ鋼牙にブッ殺されてたぜ。
鋼牙の奴、あん時は仲間を殺されて完全に頭に血が上(のぼ)ってたからな。
マア、無理もねえか。
妖狼族は狼を操る妖怪、本性は狼と同じだと珊瑚から聞いてる。
つまり、群れを、仲間を大事にする習性を持ってる。
鋼牙は若頭に選ばれただけあって仲間に対する気持ちが特別に強い。
その大事な仲間をブッ殺されたんだ。
殺された仲間の仇を取ろうとするのは当然だわな。
気に喰わねえのは、仲間を殺したのが俺だと鋼牙が信じこまされたってこった。
奈落の毒虫、最猛勝(さいみょうしょう)に誘導され俺達が辿り着いたのは不気味に静まり返った城。
そこで襲い掛かってきたのは殺された妖狼族どもの死体だった。
たまげたぜ、死体が襲ってくるのなんざ初めて見た。
だが、漂ってくる血の臭いは間違いねえ。
どいつもこいつも、たった今、殺されたばかりだ。
何か鋭い刃物で斬られたらしい。
辺りは血の海だった。
クソッ、死体だから斬ろうが殴ろうが向かってくる。
キリがねえ!
畜生、どうすりゃいいんだ!?
そう思ってたらパタッと死体の動きが止まった。
すると、計ったかのように次の瞬間、鋼牙が城に飛び込んできたんだ。
クソッ、嵌(は)められた!
俺達と同様、鋼牙も妖狼族も、ここに誘(おび)き寄せられたんだ。
だが、それを説明しようにも、あの時の状況じゃ、どうしようもない。
鋼牙は奈落の事なんざ全く知らなかったんだからな。
とにかく降りかかってくる火の粉は払うしかねえ。
チイッ、厄介だな。
鋼牙は奈落に騙(だま)されてる。
そう考えるとアッサリ殺す訳にもいかねえ。
勢い鉄砕牙を振るう腕も鈍(にぶ)る。
そんなコッチの気も知らないで鋼牙の殺意は本物だ。
ドガッ!ビシビシ・・・・
俺を狙った奴の一撃が地面を割る。
どういうこった、鋼牙の右腕の威力が以前より増してる。
てえことは、鋼牙の奴、また四魂の欠片を仕込んできたのか?
だが、実際には、それは真っ赤な偽物。
毒と瘴気の結晶だった。
しかも、時間が経てば経つほど毒が効いてくるって代物だったんだ。
鋼牙が俺を仕留めたと思ったんだろう。
初めて神楽が俺達の前に姿を現した。
奈落の分身、神楽。
紅白の派手な小袖(こそで)の片袖ぬぎ、耳飾り、頭頂で纏めた髪に挿した羽飾り、手には扇。
見た目は婀娜(あだ)っぽい遊び女(あそびめ)って感じの女だった。
だが、妖怪には間違いねえ。
耳が尖ってる。
何より、アイツからは奈落の臭いがプンプンしてた。
桔梗の仇、俺が、何遍、殺しても飽き足りねえ奴の臭いがな。
奈落の奴、神楽に命じて妖狼族を殺させ屍舞(しかばねまい)で死体を操ってたんだ。
俺が奴らを殺したように見せかける為にな。
そうやって俺と鋼牙を闘わせ、良くて相討ち、悪くても片一方の息の根を止める積りだったんだろうぜ。
痩せ狼め、神楽の屍舞(しかばねまい)を見て、ようやく自分が騙されてたってことに気付きやがった。
即、神楽に向かっていったみてえだが、偽の欠片の毒が効いてきたんだろう。
急に動きが悪くなったらしい。
そうやって獲物の自由を奪っといてジックリ料理する。
この手の込んだやり方、如何にも卑劣な奈落が企(たくら)みそうな計略だぜ。
神楽の最終的な狙いは鋼牙の両足に仕込んだ四魂の欠片だ。
絶対絶命の危機に追い込まれた鋼牙。
俺はといえば、痩せ狼に、腹に風穴開けられて気絶してた。
弥勒と珊瑚は奈落を捜しに城の中へ乗り込んで行っちまってたしな。
鋼牙の窮状を見るに見かねて、かごめが破魔の矢で神楽を狙ったらしい。
生憎、狙いは外したようだが。
神楽が、かごめに風刃(ふうじん)の舞を仕掛けてきた。
危ねえ、危ねえ、おちおち気も失ってられねえぜ。
鉄砕牙で神楽の風刃を薙(な)ぎ払う。
クソッ、右腕を鋼牙に折られたせいで左腕しか使えねえ。
神楽は風使いだった。
手に持った扇を使って周囲の風を意のままに操る。
ギュルルル・・・・
ウワッ、これは、この風は竜巻。
竜蛇(りゅうじゃ)の舞とか呼んでたな。
竜巻が蛇のような形になって突き刺さってきやがる。
なっ、何いっ、毒で身動きできない鋼牙を、かごめが安全な場所に移動させてる。
畜生、むかっ腹が立つが、ここは我慢だ。
風の傷を使いたいんだが妖気の裂け目が見えねえ。
クッ、この城の全ての風を神楽が支配してるせいだ。
つまり、巨大な妖気の塊(かたまり)の中に俺達はスッポリ覆われてるって訳だ。
ならば方法はある。
俺は、かごめに破魔の矢を俺に向かって撃つように命じた。
グズグズ説明してる暇はねえ。
一瞬、躊躇(ちゅうちょ)したかごめだが、すぐさま破魔の矢を撃ってきた。
破魔の矢が神楽の妖気を浄化していく。
神楽の風の支配を、瞬時、断ち切った。
ヨシッ、思った通りだ。
空白になった部分、裂け目に流れ込む妖気、そこに風の傷が出来る。
鉄砕牙の極意、風の傷の軌道。
ゴッ、左腕一本で思い切り鉄砕牙を振るう。
ガガガガ・・・ガガ・・ガガ・・ガガ・・・
ババッ!
風の傷が神楽を襲う。
やったか!?
イヤ、神楽の奴、まだ立ってた。
着物は無残に切り裂かれ、胸元を袈裟掛(けさが)けに斬られちゃいたがな。
チッ、右腕を使えなかった分、風の傷の威力が半減した。
流石に形勢不利と見て取ったんだろう。
神楽め、羽飾りをピッと取り出し大きく変化させた。
そして羽に乗って逃げていった。
だが、何よりも衝撃だったのは・・・・。
神楽の背中にある蜘蛛の痣(あざ)だった。
まるで火傷の跡のような。
以前、見た奈落の背中の蜘蛛と同じ。
鋼牙は偽の欠片に仕込まれた毒のせいで動けなくなっていた。
腕の色がドンドン変わっていく。
放っておけば死んじまっただろうな。
仕方ねえ、鉄砕牙で腕ごと叩き切って命だけでも助けてやろうとしたら。
かごめが破魔の矢で鋼牙の腕を突き刺し偽の欠片を弾き出したんだ。
ジュッ、キ———ン
見る間に鋼牙の右腕の色が元に戻っていく。
かごめのおかげで瘴気まで浄化されたらしい。
チッ、何処までも悪運の強い野郎だぜ。
鋼牙め、ボロボロの癖に最後まで減らず口を叩いて逃げていきやがった。
ひとまず痩せ狼のことはいい。
肝心なのは神楽が奈落の分身だろうってことだ。
奈落と同じ臭い、同じ背中の蜘蛛、これだけ証拠が揃えば、もう疑いようがない。
だが、分身を作れるのなら、何故、今まで、そうしなかったんだ?
その謎は、次に現われる神無(かんな)の登場によって明らかになる。

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『降り積もる思い(25)=鋼牙=』

刀々斎の次となると鋼牙だな。
フン、痩せ狼か、あいつとの出会いは初っ端(しょっぱな)から最悪だったぜ。
何せ、あんにゃろうは人喰い狼どもの親玉だったからな。
後で判ったんだが、鋼牙の手下の狼どもが、りんを噛み殺してるんだ。
全くトンデモナイ野郎だぜ。
もし、アイツが、殺生丸とバッタリ出喰わしでもしたら・・・・。
良くて瞬殺、悪けりゃ嬲殺(なぶりごろ)しだろうぜ。
アン、珊瑚は許されてる?!
馬鹿いってんじゃねえっ!
珊瑚の場合は、のっぴきならない事情があった上に、りんに掠(かす)り傷ひとつ負わせてないんだ。
それに引き換え、鋼牙の場合は、殺生丸が容赦してくれる理由がコレっぽっちもないんだぜ。
考えてもみろよ。
噛み殺されてるんだぜ、りんは!
いくら天生牙で蘇生してるったって断末魔の恐怖と苦しみを経験してるんだ。
俺だって、もし、かごめが鋼牙の狼どもに噛み殺されたとしたら・・・。
飽くまでも仮の話だがな。
一切、容赦しねえ。
即刻、鋼牙の首を捻(ね)じ切るぜ。
殺生丸だって同じだろ。
アア、悪い、話を元に戻すか。
かごめが四魂の欠片の気配がするっていうから行ってみれば。
ウッ、村人が殺されてる。
それも、一人や二人じゃねえ。
村ごと皆殺しだ。
辺りには気に喰わねえ狼の臭いがプンプンしてたな。
かごめが云うにゃ四魂の欠片の気配が逃げてるみたいに感じてたらしい。
それもその筈だった。
四魂の欠片は妖狼族の若頭、鋼牙の両足と右腕に仕込まれてたんだからな。
あん畜生は本当にムカつく野郎だった。
いきなり人のことを『犬っころ』呼ばわりしやがって。
出会い頭から鉄砕牙を抜いて戦闘開始だ。
四魂の欠片を右腕と両足に仕込んでるせいで奴の動きは、やたら素早かった。
おまけに鋼牙の野郎、滅茶苦茶、勘が鋭いんだ。
風の傷を試してやろうとした瞬間、何かを感じ取ったらしく、アッという間に逃げ去りやがった。
取り残されたこっちが、思わずポカ~~ンとする程、切り替えが早かった。
とにかく四魂の欠片を持ってるとあっちゃ、奴を見逃す訳にもいかねえ。
俺達は鋼牙の後を追った。
山肌に沿った崖っぷちに奴の狼どもがいたな。
そのまま、とっ捕まえてやろうとしたら、何と崖の上で別の狼の一群が待ち伏せしてたんだ。
チィッ、しゃらくせえ、こんな奴らに俺がやられるとでも。
散魂鉄爪で当たるを幸い片っ端から引き裂いてやったんだが。
如何せん、数が多すぎる。
雲母に乗った弥勒や珊瑚も応戦するだけで手一杯だった。
このままじゃ、かごめが・・・・。
次の瞬間、四匹の狼どもが俺に飛び掛ってきた。
こいつら、このまま一緒に落ちる気か!?
そうしたら崖の側面に隠れていたんだろう。
いきなり鋼牙の野郎が現われて、横から、かごめを掻っ攫っていきやがった。
クソッ、あいつの目的は最初から、かごめだったんだ。
珊瑚が雲母に乗って鋼牙を追跡しようとしたが、生憎、鳥の化け物に邪魔されちまった。
鳥の化け物は極楽鳥とかいうらしい。
上半身は人型の妖怪で下半身は丸く膨らんだ腹に鳥の羽が付いてる。
ハッキリいってゾッとしない代物だぜ。
極楽どころか地獄の鳥って感じだったな。
その極楽鳥ってのが妖狼族や狼どもの天敵だったんだ。
クソッ、かごめを早く取り戻さないと。
幸い、七宝が、かごめと共に居た。
七宝の狐妖術『泣き虫キノコ』が鋼牙の行く先を教えてくれた。
息せき切って駆け付けてみれば、妖狼族が総出で極楽鳥どもと戦ってるじゃねえか。
鋼牙め、こんな修羅場に、かごめを連れ出しやがって。
かごめがケガでもしたら、どうするんだ!
許さねえ、ぶっ殺してやる!
片っ端から散魂鉄爪で邪魔な極楽鳥どもを薙ぎ倒した。
雲母に乗った珊瑚は飛来骨で応戦だ。
それに、こっちには弥勒も居るしな。
こういう数を頼んだ輩を片付けるにゃ風穴は持って来いだぜ。
極楽鳥どもは粗方(あらかた)弥勒が風穴で吸い込んだ。
残るは極楽鳥の親玉のみ。
そいつも四魂の欠片を持ってたんだ。
だから、鋼牙は奴を狙ってたし、極楽鳥の親玉も鋼牙を狙ってた。
互いが互いの四魂の欠片を虎視眈々と狙ってたって訳さ。
かごめを鋼牙が連れ去ったのだって四魂の欠片を見るかごめの力が欲しかったからなんだ。
ケッ、いい迷惑だぜ、全く。
それだけじゃねえ!
鋼牙め、『かごめに惚れた』とか抜かしやがって。
クククッ・・・もう我慢も限界に来たぜ。
一気に片付けてやろうと思ってたんだが、極楽鳥の親玉が鋼牙に殺された兄貴の仇を取ろうと物凄い勢いで突っ込んできた。
奴の狙いは鋼牙の命と四魂の欠片だ。
腹の方のデッカイ口に右手を咥えこまれた鋼牙。
四魂の欠片を仕込んだ右足の蹴りで何とか巨大な口から逃れたものの、右手の四魂の欠片は取られちまった。
鋼牙の奴、かなりの深手を負わされた上に空中に投げ出されて落ちてきた。
そして、弱った鋼牙を、化け鳥の親玉め、再度、上空から狙ってきやがった。
フン、弱っちい奴をやるなんざ俺の性分に合わねえ。
ここは一丁、俺の強さをジックリ妖狼族どもに拝ませてやるぜ。
ゴッ、鉄砕牙を一閃、『風の傷』だ。
ブワッ・・・バラバラ・・・・
バラバラに斬り裂かれ落ちてくる極楽鳥の親玉。
どうだ、見たか!
と後ろに目をやれば、なっ、何だ!?
かごめが鋼牙を抱いてるじゃねえか!
ガァ~~~~ン!
どっ、どうして、そんな奴を庇うんだ???
痩せ狼め、ヨロヨロしながら立ち向かってきやがった。
ハッ、ケガしてる癖に減らず口だけは相変わらずだったがな。
やっぱり、相当の痛手を被(こうむ)ってたんだろう。
鋼牙め、二・三歩でバタッと倒れやがった。
こういう危ない野郎は早いとこ潰(つぶ)しとくに限る。
散魂鉄爪で仕留める積りだったのに、かごめが、『おすわり』を発して俺を地面に叩きつけやがった。
その間に鋼牙の野郎は仲間に連れられてトットと逃げちまった。
どう考えても俺は納得できなかったぜ。
かごめの奴、あんな野郎を庇(かば)いやがって。
畜生、今、思い出してもムカムカする。
何の因果か、鋼牙とは、その後も何度か顔を合わせる羽目になるんだが。
大抵、こんな調子でな。
アイツの顔をみれば腹が立つ、罵(ののし)る、手が出るの連続だった。
図々しくって本当~~に頭に来る野郎だったぜ。


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『降り積もる思い(24)=刀々斎』

刀々斎・・・・か、何遍、思い返しても惚(とぼ)けた爺(じじい)だぜ、全く。
初めて会った時から、そうだった。
あれは奈落の幻影殺から生還して直ぐの事だったな。
俺達は、全員、無事だった。
桔梗に四魂の欠片を奪われはしたが・・・な。
とりあえず、俺は、それで良しとする積りだったんだ。
だけど、クソッ、外野が煩(うるさ)い。
あいつら、ヒソヒソ話どころか、こっちに丸聞こえじゃねえか。
畜生、まるで俺が惚れた女(桔梗)を庇(かば)ってるみたいに好き放題云いやがって。
かごめまで俺を疑ってやがった。
そう、あん時だったな。
刀々斎が、やって来たのは。
ゴ———・・・・・ドオオオン!
いきなり雷を落としやがって。
吃驚するじゃねえか!
妙ちきりんな三つ目の牛に乗って現われたのは、すっ呆(とぼ)けた顔をしたみすぼらしい妖怪爺(じじい)だった。
痩せこけたひょろ長い体にギョロ目、髪は後退して後ろで縛ってやがる。
僅かに残ったチョロ毛が、一筋、額から垂れてる。
ボロッボロの横縞の着物を纏った貧相な容貌の爺(じじい)だった。
そんでもって名乗ったかと思えば、即、俺に襲いかかってきやがったんだ。
肩に担いでた大きな金鎚(かなづち)を振るってな。
こんなヒョロヒョロ爺(じじい)、すぐさま叩きのめしてやると思ってたら・・・。
あんにゃろう、俺の鉄砕牙を、いともアッサリと押し戻してやがった。
再度、振りかぶった鉄砕牙を、今度は懐から取り出した革でハッシと受け止めた。
(一体、何者なんだ、この爺。 只者じゃねえ!)
そう思ったら、冥加の奴が飛び出してきてよ。
爺(じじい)が鉄砕牙を打った刀鍛治だってことが判った。
その刀鍛治がワザワザ何しに来たのかと訊けば。
刀々斎め、俺に鉄砕牙を持つ資格が無ければ叩き折るだと。
おまけに命を狙われてるから、そいつから自分を守れだあ?
何を、ふざけたこと抜かしてやがる!
そう叫ぶ間もなく現われたのは・・・・殺生丸!
見たこともない二つ頭の竜を駆って空からやって来た。
チイッ、まさか、爺(じじい)の命を狙ってるのが殺生丸だとは。
考えてみれば、刀々斎は鉄砕牙を打った刀鍛治だ。
どう頑張っても鉄砕牙が手に入らない以上、殺生丸が刀々斎に新しい刀を打てと要求するのは自然の流れだよな。
そして、その要求を拒んだ刀々斎を殺生丸が付け狙うのも当然っていえば当然の成り行きだ。
ケッ、どう転んでも闘うしかねえ。
鉄砕牙を抜き放って応戦したものの、畜生、殺生丸の身の軽さは半端じゃねえ。
易々(やすやす)と身を躱(かわ)された上、逆にコッチが鉄拳を喰らっちまった。
そこうこうする間にも、新しい刀を打てという殺生丸の言葉に説得されそうな刀々斎。
あのすっ呆(とぼ)けた爺(じじい)のことだ。
スンナリ殺生丸の言いなりになっちまうかも知れねえ。
そう思ってたら、意外なことに、刀々斎の奴、殺生丸の要望をキッパリと跳(は)ね除(の)けたんだぜ。
「やなこった」ってな。
そう云うなりプ~~と膨(ふく)れた口から紅蓮の業火を俺と殺生丸に向かって吹き出したんだ。
刀鍛治の妖怪だからな、あれは火吹きの術だろう。
だがな、もし火鼠の衣を纏ってなきゃ、俺は、あのまま炎に巻かれて御陀仏だったろうぜ。
アン?殺生丸か、あいつは、サッサと飛び退(の)いてたぜ。
ああいう時は、やたら要領が良いんだ、あいつは。
クソッ、何しやがる、このクソ爺(じじい)。
バキッ、焼け出された腹いせに刀々斎の頭を、一発、ブン殴っといた。
飽くまでも新しい刀に拘る殺生丸。
そんな殺生丸に向かって刀々斎が訛声(だみごえ)で喚(わめ)いたんだ。
「やかましいわ!だいたい、きさまには既に立派な刀を一口(ひとふり)与えてあるではないかっっ!」てな。
あれは初耳だった。
殺生丸が腰に差している刀、あれは天生牙とか云うらしい。
あの刀が親父の形見だとはな。
それも親父の遺言だってんだから。
そうしたら、殺生丸が怒る、怒る。
何で、ああも怒るんだ?
訳が判らねえ。
どうにも不思議だったが、刀々斎の奴には、チャンと理由が判ってるんだろう。
チャッカリしっかり逃げる算段をしてやがった。
ビュッ、ドカッ!大鎚(おおづち)で地面をぶっ叩いたと思ったら。
ビシビシ・・・ゴゴゴゴ・・・ゴボボボ・・・
ブワッ、地面から真っ赤な溶岩が湧き出してきやがった。
その隙に俺達は、サッサとその場から逃げ出したんだ。
ひとまず安全な場所に落ち着いてから刀々斎に殺生丸が怒る理由を訊いてみたんだが。
それがな、アイツが怒るのも無理ねえんだよ。
斬れねえ刀~~~~?
そんなんで、どうやって闘うんだよ。
刀々斎が云うにゃ、そもそも天生牙は闘う刀じゃなくて癒(い)やしの刀なんだとさ。
『強きものを薙ぎ払う鉄砕牙に対し、天生牙は弱きもの命を繋ぐ刀』とか。
つまり、死んだものを生き返らせることが出来る【お助け刀】らしい。
『真に人を思い慈しむ心あらば、天生牙で百名の命を救うも可能』
慈(いつく)しむ心って、あの殺生丸がか?
ヘッ、無理だな、そんなことは。
天地がひっくり返っても有り得ねえ。
成る程な、殺生丸が新しい刀を欲しがる訳だぜ。
そんで刀々斎の奴、そのまま俺たちに同行するのかと思ったら、『俺は弱い、当てにならん』とか抜かしやがって。
フン、こっちだって、あんなすっ呆(とぼ)けた爺(じじい)に用はねえ。
トットと何処へなりと行きやがれ。
そうしたら、刀々斎の奴、戻って来てムンズと俺の腰の鉄砕牙を掴みやがった。
んでもって俺には使いこなせないから鉄砕牙を叩き折るだあ?
ふざけんな、この爺(じじい)。
例によって、二・三発、頭に喰らわしてやった。
何ぞ仕返しでもするのかと思いきや、あの爺、アッサリ三つ目の牛に乗って走り去った。
ドドドドドド・・・・・ドドドドドドドド
と思ったら、またまた戻ってきた?
ドガッ!
ゲッ、せっ、殺生丸!
クソッ、追って来たのか。
刀々斎と牛は殺生丸の一撃の煽(あお)りを喰らって地べたに伸びてやがる。
チッ、殺生丸の奴、どうあっても見逃す気はねえらしい。
刀々斎は殺生丸に新しい刀を打つ気は毛頭ないそうだし。
こうなったら四の五の言わず決着つけるしかねえな。
鉄砕牙を抜いて殺生丸と対峙(たいじ)したんだが。
容赦なく襲い掛かってくる殺生丸の鋭い一撃。
奴が袖から出してきた左腕は・・・なっ、何だ、あの左腕は!?
鉄砕牙を受け止めてるじゃねえか。
バチバチ・・・バチバチ・・・火花が飛び散る。
妖怪? イヤ、違う、あれは竜の腕だ。
ザン、ジュッ・・・
クッ、頬を毒華爪が掠(かす)った。
パリパリ・・・・バチバチ・・・・
普通の妖怪の腕よりは丈夫だが、大分、痛んでるみてえだったな、竜の腕。
だが、殺生丸は、端(はな)っから鉄砕牙の盾代わりにさえなれば構わないと目論(もくろ)んでたんだろう。
余裕たっぷりで竜の左腕で鉄砕牙を受け止め右腕で攻撃を仕掛けてくる。
そして、こう、ほざきやがったんだ。
「きさまは風の傷さえ知らんようだからな」と。
風の傷・・・・何だ、それは!?
バキ、バキ、息も吐(つ)かせない猛攻だ。
クッ、クソッ、気を取られてたら胸に毒華爪を喰らって地べたに叩きつけられちまった。
ドガッ・・・・ドガガガガ
戦いの中の束の間の小休止。
『風の傷』の言葉に驚いた刀々斎が殺生丸に問い質してたな。

「おまえには“風の傷”が読めるのか!?」

刀々斎の質問に心外とばかりに答える殺生丸。

「当たり前だ。読み取ることなど造作もない」

“風の傷”ってのが鉄砕牙の極意らしい。
だが、どうすれば読めるんだ?
そうだ、以前、殺生丸が奈落に貰った人間の腕で鉄砕牙を振るった時、いとも容易(たやす)く百の妖怪を斬って捨てた。
たった一振り、虚空を斬り裂いただけで。
あれが“風の傷”だったのか。
そうこうする間にも容赦なく続く攻撃。
グッ、力が入らねえ。
さっき、腹に受けた殺生丸の毒華爪のせいだ。
ジワジワ毒が利いてきてるぜ。
俺の窮地を見かねた珊瑚が堪(たま)らず飛来骨で殺生丸を狙う。
すかさず飛来骨を鉄砕牙で叩き落す。
手出しさせる訳にゃいかねえ。
これは俺の闘いなんだ。
何としても“風の傷”を見つけてやる。
邪魔な竜の腕を渾身の力でもぎ取った。
だが、その隙に眼元を毒華爪が掠(かす)る。
目が・・・見えねえ!!
胸元に喰らった鉄拳で地面に叩きつけられちまった。
畜生、殺生丸め、馬鹿力で思いっきり殴りやがって。
その時、感じたんだ。
毒で目が見えなくなったせいで嗅覚と聴覚の機能が異様に高まってる。
近付いてくる殺生丸の妖気の渦と風のこすれる匂い。
風の匂いが違う!
そうか、妖気の流れがぶつかる所、それが風の裂け目。
この匂いが“風の傷”だ!
読めた!匂いの軌道!
これを斬れば殺生丸は死ぬ!
ゴッ、風の裂け目に鉄砕牙を振り下ろす。
ガガガガガ・・・・バババッ・・・・カッ・・・・・ゴ————
シュ—————
殺生丸の気配が消えた。
どうやら終わったようだった。
何しろ毒のせいで全く目が見えなかったからな。
後で刀々斎から聞いた話じゃ天生牙が結界を張って殺生丸を鉄砕牙の剣圧から守ったらしい。
つまり、俺が鉄砕牙の主人なように殺生丸は天生牙の主人だってこった。
闘いの後、刀々斎は鉄砕牙を研ぎなおして去っていった。
その後も何だかんだと世話になるんだが、あのすっ呆(とぼ)けた態度は変わらなかった。
流石に変わり身の早い冥加爺(みょうがじじい)と付き合ってるだけあるぜ。
一癖も二癖もありやがる。
マッ、『類は友を呼ぶ』って奴かな。

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『降り積もる思い(23)=幻影殺=』

『幻影殺』、卑怯者の奈落お得意の妖術だ。
奈落がビッシリと地面に張り巡らせた蔓のような触手。
そいつに触れたが最後、心の中の一番弱い部分を攻撃され絶望に打ちのめされて死んでいくんだ。
・・・・誰だって心の中に曝(さら)け出したくない思い出の一つや二つ有るもんだからな。
俺の場合は桔梗に封印された時の記憶だ。
奈落に連れ去られた桔梗。
あのまま放っとく訳にはいかなかった。
俺は一人で桔梗を助け出しに行く積りだった。
だけど・・・・弥勒を始め珊瑚や、かごめまでが一緒に助けに行くって云い出してチョッと押し問答になった。
その最中、奈落の毒虫、最猛勝(さいみょうしょう)が、まるで俺達を誘うかのように現われたんだ。
フン、実際、罠だったけどな。
最猛勝の後を追う途中、桔梗の僕(しもべ)死魂虫(しにだまちゅう)に出喰わした。
間違いない、桔梗は側にいる。
死魂虫が霧の中に入っていく。
まず、十中八九、奈落が罠を張ってるのは間違いねえ。
用心しつつも、そのまま、霧の中に突っ込んでいった。
周囲を見回せば、誰もいない。
かごめ、弥勒、珊瑚、七宝、雲母(きらら)、みんな、何処へ?!
バチバチバチ・・・ゴォ~~~
火? 気が付けば俺は炎に巻かれた村に居た。
村人が俺を見て憎悪に満ちた声を発する。
手には何時の間にか四魂の玉が。

「犬夜叉!」

矢が、破魔の矢が、俺を目指して飛んでくる。
放ったのは桔梗。
これは、あの日の、桔梗が俺を封印した時の記憶。
奈落の罠に嵌った俺たち。
悲痛な桔梗の言葉が、涙が、俺の心を締め付ける。
アァ、血だらけじゃねえか、桔梗。
そうだよな、お前は、俺の後を追って死んだんだ。
わかった・・・桔梗・・・・一緒にいこう・・・・
このまま抱き合ったまま二人で・・・・
桔梗を信じきれなかった俺、裏切られたのが悔しくて憎くて。
お前が俺の後を追って死んだことも知らなかった。
封印の矢は俺を、又、一人にした。
桔梗に出逢う前の孤独な日々。
誰も信じられず生きていた頃と同じ一人ぼっち・・・・。
一人・・・・違う!
俺には、かごめが居る。
かごめ、かごめは何処だ?!
俺が正気づいた途端、抱きついてた桔梗が変化した。
桔梗じゃねえ!
パキパキ・・・・バチバチ・・・・
俺の体に絡み付いていたのは蔓。
クッ、術が破れたのに気付いたせいだろう。
蔓が燃え始めた。
このまま焼き殺そうってんだな。

「畜生!」

こんな処で死んで堪るか!
絡みついた蔓を引きちぎって身体の自由を取り戻した。
何もかも幻だったんだ。
奈落の野郎、一番、触れられたくない心の傷を、ご丁寧にも再現してくれやがった。
幻術から目が覚めてみれば弥勒も蔓に絡まれてるじゃねえか。
爪で蔓を引き裂いて弥勒を自由にした。
俺と同じように弥勒も心の中の怖れを利用されてた。
この分じゃ珊瑚も同じだろう。
珊瑚は弥勒に任せて、俺は、かごめを捜した。
かごめの匂いを必死に追った。
辿り着いた先に見えたのは・・・・。
今にも地面の裂け目に落ちんとするかごめと、それを見下ろす桔梗。
まっ、まさか、桔梗、お前、かごめを?!
急いでかごめを引き上げる。
桔梗の手には、かごめの持っていた四魂の欠片が。
一体、二人の間に何が有ったんだ?!
地面の裂け目には奈落の瘴気が満ちてた。
あんな処に落ちたら跡形もなく溶かされていただろう。
まだ、他にも桔梗に問い質したいことが色々有った。
でも、桔梗は、何匹もの死魂虫に運ばれ、そのまま姿を消しちまった。
かごめの様子も可笑しかった。
妙に沈んだ感じで明らかに何か隠してる。
そしたら、かごめの奴、いきなり、「まだ、桔梗が好きなんでしょう?」とか云い出して。
こっ、こんな時に何云ってんだ!
俺はなあっ、お前の事を思い出したからこそ、奈落の掛けた幻術を破れたんだぞ。
かごめの手を掴んで、「とにかく、もうチッと俺を信用して・・・」と云いかけた処で邪魔が入った。
珊瑚と七宝を負ぶい飛来骨を回収した弥勒が、疲れた様子で俺達を見てたんだ。
そして、ボロッと一言。

「・・・・お話は、お済で?」

「え”」

完全に二人だけの世界に入っていた俺達は、思いっきり間抜け面をしてたと思う。

                                   了





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『降り積もる思い(22)=巫蠱(ふこ)=』

巫蠱(ふこ)の術・・・・か、今、思い返しても胸くそが悪くなるような代物だぜ。
傷の癒えた珊瑚と地念児の薬草で瘴気から回復した雲母(きらら)を連れて旅を再会した俺たち。
勿論、目的は四魂の欠片と奈落の探索だ。
とは云っても、これといった当てが有る訳じゃねえ。
とりあえず、四魂の欠片を捜しつつ怪しげな処を片っ端から虱(しらみ)潰しに潰していく。
そうすれば、その内、否(いや)でも奈落にぶち当たるだろうって算段だ。
奈落は四魂の欠片を欲しがってたからな。
偶然、通りかかった村でのことだった。
その村では、空から妖怪の残骸が降ってきて大いに難儀していた。
何せ、残骸とはいえ、邪気の塊りみてえな代物だからな。
そのせいで、年寄りや子供、弱い者からバタバタ倒れてるって話だった。
困りきった村人たちは、法師の弥勒を見て、もっけの幸いとばかりに妖怪退治を頼んだって訳だ。
そんな頼み事、無視する積もりが、弥勒の野郎、チャッカリ御礼の銭まで貰ってやがった。
いっ、何時の間に・・・・。
仕方がねえ、サッサと邪気の素を始末して先に進もうと思ってたら・・・・。
珊瑚が、気になることを云い出した。
それ程、強い邪気を発する妖怪が奈落の他にいるのか?ってな。
そう云われてみると、確かにそうだ。
もしかすると、それも奈落のせいかも知れねえ。
とにかく、周辺で瘴気を発してる場所を探して取り除く必要があった。
俺の鼻を頼りに邪気の元を探っていくと、瘴気の源は険しい山の中にあった。
辺りは、草木一本、生えてない。
瘴気のせいだな。
山の中腹に作られた大掛かりな巫蠱(ふこ)の檻(おり)。
奈落を追い求める俺たちは、思いがけなくも奴の仕掛けた罠に踏み込んでいた。
尤も、奈落自身も、俺たちを引き込む気は全く無かったみたいだけどな。
物識りの弥勒から聞いた話じゃ、巫蠱(ふこ)の術ってのは、まず、一つの器の中に毒虫や蜥蜴(とかげ)、蛙(かえる)や動物を入れて殺し合わせる。
そして、最後に残った者が蠱毒という生き物になるっていうトンデモナイ呪術だ。
奈落の奴、それを、妖怪相手に仕掛けやがった。
あれは如何にも怪しげな雰囲気を発する穴の入り口だったな。
入り口周辺は組み込まれた丸太で出来てる。
明らかに人の手で作られた物だ。
たかが妖怪退治に全員が雁首(がんくび)揃えて行くこともねえ。
俺と弥勒、男二人で充分だ。
そう思って、かごめと珊瑚は入り口で待機させといた。
中に入ってみると、くり抜かれた坑道が続いてる。
どうやら、此処は何かの廃坑の跡みてえだ。
武蔵の国は製鉄が盛んだからな。
かごめの持ってた、エ~~と、『カイチュウデントウ』とかいう道具で周囲を照らしてみる。
ンッ、弥勒が、へたり込んで今にも戻しそうじゃねえか。
邪気に当てられたらしい。
チッ、だらしねえな。
俺には、この程度の瘴気、どうってことねえが、弥勒の奴は、そうもいかねえらしい。
ズウウウウウン・・・
物音がする。
何かいる、それも一匹じゃねえ。
弥勒を背負って音のする方へ直行してみた。
近付くに従い、微かに光が見えてきた。
それは、巨大な空洞への入り口だった。
天井部分に穴が開いていて光は其処から漏れている。
ゴ~~~ゴボゴボ・・・・ゴボボボ・・・・
水の音がする。
目を凝らしてみれば下の方に溜まっているのは妖怪の残骸じゃねえか。
ザザザザザ—————
その残骸が、見る間に合体して二匹の妖怪が水面から起き上がった。
そして、闘い始めた。
異様な眺めだったぜ。
そいつらの体は明らかに他の妖怪どもの寄せ集めだった。
勝敗は、あっけなく付いた。
すると負けた奴の体が勝った方の体に混ざっていくじゃねえか。
アイツら、なっ、何なんだ?!
勝ち残った最後の一匹が、俺達の気配に気付いた。
ギロッとコチラを睨んで喚きやがった。

「そこに、まだ一匹いるな!!」

ヘッ、気付かれたか。
確かにな、俺も、半分、妖怪だからな。
まあ良い、相手してやるぜ。
こいつが邪気の素だ。
つまり、こいつを、やっつけちまえば用は片付く。
鉄砕牙を抜き放ち斬り付けた。
だが、流石に最後まで生き残っただけあるぜ。
躱(かわ)しやがった。
チッ、しぶといぜ。
中々、簡単には仕留められねえ。
弥勒が叫んでやがる。
アア? 何だって?
『刀をひけ』だあ、馬鹿云ってんじゃねえ!
闘わなけりゃ殺されちまうぜ。
そしたら、弥勒が、俺を説得するために巫蠱(ふこ)の術についてを説明し始めたんだ。
この巨大な空洞が何百という妖怪どもを闘わせる器だってことをな。
殺して殺し合って最後に残った一匹が蠱毒(こどく)って生き物になるらしい。
もし、コイツと闘って勝ったとしても、俺の身体と奴が融合しちまうんだとよ。
クッ・・・だからって他に手はない。
逃げ場は、何処にもないんだ。
その時だ。
ごちゃ混ぜの妖怪と俺が闘ってる最中に桔梗が現われたんだ。
何故、桔梗が此処に?!
ブワッ・・・・桔梗の中から死魂(しにだま)が抜け出した。
死魂が、奴の、ごちゃ混ぜ妖怪の中に吸収されていく。
引き寄せられるように桔梗が空洞に落ちてくる。

「桔梗!」

桔梗に気を取られた一瞬の隙を衝いて、ごちゃ混ぜ野郎が、俺を弾き飛ばした。
クソッ、油断した。
野郎、桔梗を取り込もうとしてやがる。
させるか!
鉄砕牙で奴の右腕を斬り落とした。
なのに、野郎、斬り落とした部分から新たに腕を!
違う、腕じゃない!
あれは、百足(むかで)だ。
百足(むかで)の胴体部分。
あの野郎から桔梗を守らなくちゃならねえ。
弥勒が叫んでる。
熱くなるな、だと。
そんな事、気にしてられるか!
弥勒の方に目をやれば、側に、かごめが。
かっ、かごめ、居たのか。
・・・・畜生、今は闘うしかねえんだ!
ギャン、ドガッ!
ごちゃ混ぜ妖怪の触手から、かごめが桔梗を庇った。
何時の間にか、かごめが、穴の中に降りてきて桔梗を助けようとしてたんだ。
この野郎、桔梗に加え、かごめまで。
許さねえ!
斬り殺してやる積りで鉄砕牙を振り下ろした。
ごちゃ混ぜ野郎は相当な打撃を蒙(こうむ)ったようだった。
更に、もう一撃と振りかぶった鉄砕牙に破魔の矢が!
桔梗だ。
鉄砕牙の変化が解ける。
シュ———・・・
破魔の矢は、そのまま、天井に向かい、穴に施された封印を突き破った。
ゴォ~~~~充満してた邪気が消えていく。
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・ザザザザ・・・・ゴォ~~~~~
空洞の中に留められていた何もかも、ごちゃ混ぜ妖怪が、殺された妖怪の残骸が、外部に吸い出されていく。
クソッ、こっちまで一緒に引っ張られてるぜ。
かごめは側にいたから抱きかかえた。
だが、桔梗は!?
それに何処に向かっているんだ?!
ごちゃ混ぜ妖怪の向かう先は・・・・。
一人の男が見えてきた。
あれは・・・・・
奈落?!
だが、奈落は、かごめの破魔の矢で体を破壊された筈。
バキッ!
ごちゃ混ぜ野郎が、奈落を引き裂いた。
だが、体に見えた部分は傀儡(くぐつ)。
本体は、やはり、かごめに破壊され、頭部と胴体の上部のみ。
そんな状態で何をする気だ?!
シュルルル~~~バシッ!
奈落が僅かに残った上体部分から触手を伸ばし、ごちゃ混ぜ妖怪を捉えた。
すると、見る間に、ごちゃ混ぜ野郎を取り込み始めたんだ。
ミシッ!バキバキバキッ!
ザワ・・・・奈落の髪が不気味に揺らめく。
ザザザザザ・・・・バキバキバキッ!
目の前で、ごちゃ混ぜ妖怪が、一緒に付いてきた妖怪どもの残骸が、吸収され一人の男の体に収束していく。
何てこった。
奈落の野郎、こうやって自分の新しい体を作ってたんだ。
カッ!バチバチッ!
咄嗟に鉄砕牙を抜き放ち斬り付けたが阻まれた。
畜生、結界を張ってやがる。
ゴオオォォォ~~~~・・・・・シュ————
憎んでも憎みきれない仇が、其処にいた。
目の前で見ていなければ信じられない。
あんな大量の妖怪が、一人の男の体に成り代わったなどと。

「!?」

桔梗が、奈落の側に倒れていた。
あろう事か、奴が、奈落が、桔梗に触れた!
抑え切れない憤怒が湧き上がる。

「てめえ、薄汚ねえ手で桔梗にさわるな!」

闇雲な怒りに駆られ俺は桔梗を取り戻そうとした。
だが、奈落め、大量の瘴気を放出して桔梗を連れ去っちまった。

「桔梗————っ!」

クソッ、為す術(すべ)もなく奴が桔梗を連れて飛び去るのを見送るしかなかった。
雲母(きらら)は側に居なかったし、俺に飛行能力は無いからな。
あの時ほど自分が飛べないのが恨めしいと思った事は無いぜ。

                        了


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『降り積もる思い(21)=地念児=』(15万打お祝い作品)

奈落との戦いで負傷した珊瑚と雲母(きらら)。
取り分け、雲母(きらら)の状態は思わしくなかった。
無理もないぜ。
あの毒と瘴気の塊りみてえな奈落に、もろに噛み付いたんだもんな。
飼い主の珊瑚の枕元にグッタリと蹲(うずくま)って如何にも具合が悪そうだった。
そのまま放っておく訳にもいかず、冥加じじいに、どうしたら良いか訊いてみた。
そしたら、毒消しの薬草が有るそうじゃねえか。
その薬草を手に入れる為、かごめと二人、薬草畑まで出かけたんだったな。
其処で出逢ったのが、半妖の地念児と母親だ。
今、思い出しても、そりゃあ強烈な印象だったぜ。
アァッ? 違う、違う、地念児じゃねえ。
母親の方だ。
何しろ、あの婆(ばばあ)のご面相ときたら、誰が見たって山姥(やまんば)と勘違いするに違いねえからな。
その癖、よくよく話を聞けば、婆(ばばあ)の方が人間だってんだもんな。
俺は、地念児が半妖と聞いたから、てっきり、父親が人間で、母親の方が妖怪なんだろうと思ってたぜ。
後で聞いたら、かごめも、そう思ったらしい。
そんでもってだ、あの婆(ばばあ)、見た目に反して、えらく心は乙女なんだ。
地念児の父親と出逢った時のことを話す様子ときたら、もう、何つうか・・・・。
妙齢の娘みてえにポッと頬を赤らめてよ。
聞いてる俺たちの方が、こっ恥ずかしかったぜ。
これがな、そうだな、かごめや珊瑚辺りが、やるんなら様になるんだろうが。
皺(しわ)くちゃの婆(ばばあ)が、やってみろ。
何とも云いようがない代物だぜ。
それでだな、息子の地念児ってのが、半妖の癖に、やたら気が弱いんだ。
村の奴ら、そこに付け込んで、散々、地念児親子を虐めてたらしいぜ。
地念児の身体中に残ってる古傷、あれは、そのせいだろう。
チョコッと怒鳴りつけ、小石を投げられただけで、地念児の奴、泣き喚いて家に戻りやがるんだ。
あんなデカイ形(なり)して、まるで小さな餓鬼みてえだ。
拍子抜けするったらないぜ。
それで、自分よりもズッと小さい母親に助けを求めるんだ。
まあ、あの婆(ばばあ)の方が、見かけは山姥(やまんば)候(そうろう)で如何にも強そうだけどな。
悪いことに、その頃、村の周辺に人間の腸(はらわた)を喰う妖怪が出没してな。
三人目の被害者が出たばっかりだった。
村の奴ら、その犯人が地念児だと勝手に決めつけちまってたんだ。
何の証拠もないってのにな。
槍や刀、ありったけの武器を総動員して退治しようって話になってたのさ。
そうなると、何時ものことだが、かごめのお節介が始まってだな。
何時の間にか本当の犯人を捕まえようって流れになっちまったんだ。
毒消しの薬草を貰った手前、こっちも、そのまんま、知らん顔するって訳にもいかなくてよ。
仕方ねえ、こうなったら乗りかかった船だ。
かごめを地念児親子の処に残して、俺は一人、人喰い妖怪を追跡した。
殺された村人に人喰い妖怪の臭いが付いてたからな。
臭いを頼りに地中に隠された妖怪の巣を見つけ出した。
だが、其処は、蛻(もぬけ)の殻、妖怪は一匹もいなかった。
残ってたのは、孵(かえ)ったばかりの卵の殻。
・・・・てえことは、親妖怪が、子供達を狩りに連れ出したんだ。
人間の腸(はらわた)の味を教える為に。
そして、狩り場は、当然、村だ。
人喰い妖怪の子供が人間の味を覚えたが最後、あの村は、一人残らず食い尽くされちまう。
かごめが危ねえ!
全速で村へ取って返した。
戻ってみれば、村の奴ら、地念児の家を襲ってるじゃねえか。
地念児親子の住んでた小屋が燃えてる。
馬鹿野郎、何を勘違いしてやがる!
おまけに人喰い妖怪が子供達を引き連れて村の男どもを襲ってた。
つまり、奴ら、お食事のまっ最中って訳だぜ。
既に、村の男が二人、喰われて御陀仏だ。
ケッ、身をもって、自分たちの間違いを思い知るって感じだったな。
子供妖怪どもは、俺が、散魂鉄爪で仕留めた。
どうやら、かごめは、地念児が助けてくれたらしい。
親妖怪と地念児が闘ってる。
あの気の弱い半妖の地念児が。
手助けしようかと思ったら、婆(ばばあ)が止めるんだ。
地念児ひとりで闘わせろってな。
それを尻目にコソコソと逃げようとする村の奴らを足止めしてやった。
てめえらが虐めてた地念児が、本当は、どんなに強いか。
その目で、確(しっか)と見届けやがれ!
見せてやれ、地念児、お前の真の力を。
周囲の者が、全員、息を呑んで見守る中、遂に、力の均衡が破れた。
ブチブチ・・・・ブワッ!
地念児が、強力(ごうりき)で人喰い妖怪を引き裂いたんだ。
ズウウウウウゥン・・・・
地響きを立てて崩れ落ちる人喰い妖怪。
フン、大した怪力だぜ。
これで、もう、村の奴ら、怖がって、お前ら親子を虐めたりしねえだろう。
トトト・・・・地念児、なっ、何してんだよ?!
そいつら、村の奴らはな、寄ってたかって、お前ら親子を殺そうとしたんだぞっ!
そんな奴らに薬草を分けてやったりして!
ダァ~~おめえって奴は何処まで優しいんだよ。
チッ、好きにしな。
あの時は、急いでたんで、そのまま、別れたんだが、本当に呆れたぜ。
地念児の奴、トコトンお人好しなんだ。
その後、消えた奈落を追跡する途中、もう一度、薬草を貰いがてら地念児親子の許に立ち寄る機会があった。
あれから、結構、村の者とも上手くやってるようだったな。
その際、地念児親子に聞いたのが、小さな娘っ子、つまり幼女が、妖怪の毒消しの薬草、千年草を貰いにきたって話だ。
今、思い返してみると、ありゃ、りんの事だったんだな。
丁度、あの頃、殺生丸も、俺たちと同様、奈落を追ってたからな。
状況がピッタリ一致する。
妖怪の毒消しの千年草か、そりゃ、どう考えても邪見のこったろうぜ。
まかり間違っても、殺生丸じゃねえな。
大体、殺生丸自身が、体内に猛毒を保持してるんだ。
少々の毒なんぞ平気の平左だろうからな。
だとすると邪見に間違いねえだろう。
ン? そういや、殺生丸は、あん時、最猛勝(さいみょうしょう)を追ってたっけ。
てえことはだ、邪見の奴、毒虫、最猛勝にやられたんだな。
それで、りんが、ワザワザ地念児の処に出向いて、妖怪の毒消し、千年草を貰いに行ったと。
俺と殺生丸は、例によってチョッとした小競合(こぜりあ)いをしてたしな。
フンフン、成る程な、そう考えると辻褄(つじつま)が合ってくるぜ。
聞かせてもらった話にピッタリ符号する。
三年前、爆砕牙と左腕を手に入れた殺生丸が、曲霊(まがつひ)を追う為に、りんと邪見を楓ばばあの許に十日ほど預けたことが有った。
その時、かごめと弥勒が、これ幸いとばかりに、アレコレ邪見とりんから聞きだしたんだよな。
あの二人は何だかんだと好奇心が旺盛だからな。
尤も、そのおかげで、随分、色々な疑問が解消したことも確かだけどよ。
ンンッ? アァ~~ッ! そうだ、思い出した!
りんの奴、もう一度、地念児親子の処に行ってるんだ。
以前、琥珀が、瘴気を持つ毒蛇に噛まれたことが有ったんだ。
差し向けたのは、奈落の最後の分身、夢幻の白夜だ。
あの頃の奈落は、鋼牙の欠片も手に入れ、四魂の玉を、ほぼ完成させてた。
残るは琥珀の欠片のみだったからな。
だが、その琥珀の欠片は、桔梗の光に守られ清浄に保たれてる。
下手に取り込んだら、完成間近の四魂の玉が、一気に浄化されちまう怖れがあった。
だから、瘴気まみれの蛇を琥珀に噛みつかせ、ジックリ欠片を汚(けが)そうって算段だ。
もう少しで奈落の思惑通りになるはずだった。
だが、其処に邪魔が入った。
夢幻の白夜に、殺生丸が、冥道残月破を喰らわしたんだ。
生憎、躱(かわ)されたけどな。
殺生丸にしてみりゃ、気に喰わない奈落の臭いがするってんで斬りに行っただけのこったろうが。
俺達に取っちゃ、天の助けだったぜ。
もし、殺生丸が、琥珀を助けてくれなかったら・・・・。
それを考えると、ゾッとするぜ。
アァ、済まねえ、話が横道に逸れちまったな。
元に戻そう。
エ~~と、何だったっけ?
そうそう、白夜が仕掛けた瘴気の蛇のことだったな。
そいつらに琥珀だけじゃねえ、邪見まで、ついでに噛まれやがったんだ。
あの馬鹿、きっと、蛇に噛まれた琥珀の側にノコノコ近付いてったに違いないぜ。
奈落の分身、夢幻の白夜が仕掛けた瘴気まみれの蛇。
そりゃ、かなりの猛毒だろう。
チョッとやソッとの毒消しじゃ利きそうもないぜ。
そうなってくると、やっぱり、地念児の薬草でないとな。
とまあ、そうした事情から、りんは二度も毒消しの薬草を貰いに地念児の処へ行く羽目になったのさ。
おまけに、りんが、人間と妖怪、両方の毒消しを貰いに行ったもんだから、あの夢見がちな婆(ばばあ)、またまた、妙な想像をしやがって。
信じられるか、りんが人間と妖怪の二股掛けてると思ったんだぜ!
あんなチビっこい奴に二股もクソもあるか。
大体、色恋だって理解してるとは思えねえぞ。
それだけじゃねえ、あの婆(ばばあ)、りんに、とんでもない事を吹き込んだんだ。
琥珀が気絶してるなら口移しで薬草を煎じた汁を飲ませろってな。
りんは純真だからな、婆(ばばあ)に云われた通りにしようとしたらしい。
だが、そうする直前に、殺生丸が現われて、既(すんで)のところで止めたって訳だ。
フゥ~~~ッ、危ねえ、危ねえ。
あのクソ婆、てめえが、どんなに危ない橋を渡ってたのか気付いてねえんだろうな。
下手したら怒り狂った化け犬に殺される処だったんだぞ。
全く、しょうもない万年乙女の惚れ心に教えてやりたいぜ。     了


2009.2/5.(木).作成 ◆◆猫目石

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