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『降り積もる思い(26)=神楽=』

鋼牙の次は神楽か。
ウ~~~ン、神楽との出会いは鋼牙以上に最悪だったぜ。
何しろ俺に妖狼族殺しの濡れ衣を着せて鋼牙と殺し合いをさせたんだからな。
俺が頑丈だったから良かったものの、そうでなきゃ鋼牙にブッ殺されてたぜ。
鋼牙の奴、あん時は仲間を殺されて完全に頭に血が上(のぼ)ってたからな。
マア、無理もねえか。
妖狼族は狼を操る妖怪、本性は狼と同じだと珊瑚から聞いてる。
つまり、群れを、仲間を大事にする習性を持ってる。
鋼牙は若頭に選ばれただけあって仲間に対する気持ちが特別に強い。
その大事な仲間をブッ殺されたんだ。
殺された仲間の仇を取ろうとするのは当然だわな。
気に喰わねえのは、仲間を殺したのが俺だと鋼牙が信じこまされたってこった。
奈落の毒虫、最猛勝(さいみょうしょう)に誘導され俺達が辿り着いたのは不気味に静まり返った城。
そこで襲い掛かってきたのは殺された妖狼族どもの死体だった。
たまげたぜ、死体が襲ってくるのなんざ初めて見た。
だが、漂ってくる血の臭いは間違いねえ。
どいつもこいつも、たった今、殺されたばかりだ。
何か鋭い刃物で斬られたらしい。
辺りは血の海だった。
クソッ、死体だから斬ろうが殴ろうが向かってくる。
キリがねえ!
畜生、どうすりゃいいんだ!?
そう思ってたらパタッと死体の動きが止まった。
すると、計ったかのように次の瞬間、鋼牙が城に飛び込んできたんだ。
クソッ、嵌(は)められた!
俺達と同様、鋼牙も妖狼族も、ここに誘(おび)き寄せられたんだ。
だが、それを説明しようにも、あの時の状況じゃ、どうしようもない。
鋼牙は奈落の事なんざ全く知らなかったんだからな。
とにかく降りかかってくる火の粉は払うしかねえ。
チイッ、厄介だな。
鋼牙は奈落に騙(だま)されてる。
そう考えるとアッサリ殺す訳にもいかねえ。
勢い鉄砕牙を振るう腕も鈍(にぶ)る。
そんなコッチの気も知らないで鋼牙の殺意は本物だ。
ドガッ!ビシビシ・・・・
俺を狙った奴の一撃が地面を割る。
どういうこった、鋼牙の右腕の威力が以前より増してる。
てえことは、鋼牙の奴、また四魂の欠片を仕込んできたのか?
だが、実際には、それは真っ赤な偽物。
毒と瘴気の結晶だった。
しかも、時間が経てば経つほど毒が効いてくるって代物だったんだ。
鋼牙が俺を仕留めたと思ったんだろう。
初めて神楽が俺達の前に姿を現した。
奈落の分身、神楽。
紅白の派手な小袖(こそで)の片袖ぬぎ、耳飾り、頭頂で纏めた髪に挿した羽飾り、手には扇。
見た目は婀娜(あだ)っぽい遊び女(あそびめ)って感じの女だった。
だが、妖怪には間違いねえ。
耳が尖ってる。
何より、アイツからは奈落の臭いがプンプンしてた。
桔梗の仇、俺が、何遍、殺しても飽き足りねえ奴の臭いがな。
奈落の奴、神楽に命じて妖狼族を殺させ屍舞(しかばねまい)で死体を操ってたんだ。
俺が奴らを殺したように見せかける為にな。
そうやって俺と鋼牙を闘わせ、良くて相討ち、悪くても片一方の息の根を止める積りだったんだろうぜ。
痩せ狼め、神楽の屍舞(しかばねまい)を見て、ようやく自分が騙されてたってことに気付きやがった。
即、神楽に向かっていったみてえだが、偽の欠片の毒が効いてきたんだろう。
急に動きが悪くなったらしい。
そうやって獲物の自由を奪っといてジックリ料理する。
この手の込んだやり方、如何にも卑劣な奈落が企(たくら)みそうな計略だぜ。
神楽の最終的な狙いは鋼牙の両足に仕込んだ四魂の欠片だ。
絶対絶命の危機に追い込まれた鋼牙。
俺はといえば、痩せ狼に、腹に風穴開けられて気絶してた。
弥勒と珊瑚は奈落を捜しに城の中へ乗り込んで行っちまってたしな。
鋼牙の窮状を見るに見かねて、かごめが破魔の矢で神楽を狙ったらしい。
生憎、狙いは外したようだが。
神楽が、かごめに風刃(ふうじん)の舞を仕掛けてきた。
危ねえ、危ねえ、おちおち気も失ってられねえぜ。
鉄砕牙で神楽の風刃を薙(な)ぎ払う。
クソッ、右腕を鋼牙に折られたせいで左腕しか使えねえ。
神楽は風使いだった。
手に持った扇を使って周囲の風を意のままに操る。
ギュルルル・・・・
ウワッ、これは、この風は竜巻。
竜蛇(りゅうじゃ)の舞とか呼んでたな。
竜巻が蛇のような形になって突き刺さってきやがる。
なっ、何いっ、毒で身動きできない鋼牙を、かごめが安全な場所に移動させてる。
畜生、むかっ腹が立つが、ここは我慢だ。
風の傷を使いたいんだが妖気の裂け目が見えねえ。
クッ、この城の全ての風を神楽が支配してるせいだ。
つまり、巨大な妖気の塊(かたまり)の中に俺達はスッポリ覆われてるって訳だ。
ならば方法はある。
俺は、かごめに破魔の矢を俺に向かって撃つように命じた。
グズグズ説明してる暇はねえ。
一瞬、躊躇(ちゅうちょ)したかごめだが、すぐさま破魔の矢を撃ってきた。
破魔の矢が神楽の妖気を浄化していく。
神楽の風の支配を、瞬時、断ち切った。
ヨシッ、思った通りだ。
空白になった部分、裂け目に流れ込む妖気、そこに風の傷が出来る。
鉄砕牙の極意、風の傷の軌道。
ゴッ、左腕一本で思い切り鉄砕牙を振るう。
ガガガガ・・・ガガ・・ガガ・・ガガ・・・
ババッ!
風の傷が神楽を襲う。
やったか!?
イヤ、神楽の奴、まだ立ってた。
着物は無残に切り裂かれ、胸元を袈裟掛(けさが)けに斬られちゃいたがな。
チッ、右腕を使えなかった分、風の傷の威力が半減した。
流石に形勢不利と見て取ったんだろう。
神楽め、羽飾りをピッと取り出し大きく変化させた。
そして羽に乗って逃げていった。
だが、何よりも衝撃だったのは・・・・。
神楽の背中にある蜘蛛の痣(あざ)だった。
まるで火傷の跡のような。
以前、見た奈落の背中の蜘蛛と同じ。
鋼牙は偽の欠片に仕込まれた毒のせいで動けなくなっていた。
腕の色がドンドン変わっていく。
放っておけば死んじまっただろうな。
仕方ねえ、鉄砕牙で腕ごと叩き切って命だけでも助けてやろうとしたら。
かごめが破魔の矢で鋼牙の腕を突き刺し偽の欠片を弾き出したんだ。
ジュッ、キ———ン
見る間に鋼牙の右腕の色が元に戻っていく。
かごめのおかげで瘴気まで浄化されたらしい。
チッ、何処までも悪運の強い野郎だぜ。
鋼牙め、ボロボロの癖に最後まで減らず口を叩いて逃げていきやがった。
ひとまず痩せ狼のことはいい。
肝心なのは神楽が奈落の分身だろうってことだ。
奈落と同じ臭い、同じ背中の蜘蛛、これだけ証拠が揃えば、もう疑いようがない。
だが、分身を作れるのなら、何故、今まで、そうしなかったんだ?
その謎は、次に現われる神無(かんな)の登場によって明らかになる。

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