大雪(だいせつ)に物思う ※この画像は『妖ノ恋』様よりお借りしています。チラチラと雪が舞う。灰色の空から音もなく雪が降りしきる。雪を見るともなく眺めていた殺生丸は追憶の中に眠る父を思い出していた。殺生丸と犬夜叉の父、闘牙は、こんな風に雪が降る大雪(だいせつ)の頃に亡くなった。竜骨精との闘いで父は重症を負いながら身籠っていた犬夜叉の母を救わんが為、死地に赴いたのだった。当時は、何故、父があのような行動を取ったのかが解らなかった。いや、解りたくもなかったのだ。あのように脆弱で卑しき存在の人間の女に大妖怪たる父が想いを掛けるなど許せなかった。愚かというか血迷ったとしか思えなかった。だが、りんを拾い、共に旅をした。宿敵の奈落を討ち果たし隻眼の巫女にりんを托した今なら父の心を理解できるような気がする。「・・・父上」小さな呟(つぶや)きは舞い散る雪の中に消えた。意識を眼下の人界に戻す。白銀一色に染まった世界が眼に飛び込んでくる。今頃、りんを預けた人里も雪に覆われているだろう。寒さに凍えていなければよいが・・・早く荷を届けてやらねば。菰(こも)に包まれた荷の中身は鹿肉と百合根。厳しい寒さに負けぬようにと邪見が手配した精のつく食べ物だ。鹿皮は鞣(なめ)してから届けてやろう。殺生松は騎乗する双頭の竜、阿吽を急がせた。 [9回]PR