『珊瑚の出産⑯』 ※この画像は『妖ノ恋』さまよりお借りしてます。邪:「殺生丸さま、本当にかごめは何時(いつ)戻ってくるんでしょうな?」邪見はりんの疑問に重ねるように殺生丸に訊(き)いてみた。まあ、普段から饒舌(じょうぜつ)な主(あるじ)ではないから答えてもらえるとは思っていなかった。しかし、今はご機嫌がよろしいのだろう。即座に答えてくださったのだから。殺:「戻ってこないというより戻れないのだろう」り:「どうして戻ってこれないの? 殺生丸さま」殺:「閉じている」り:「閉じるって?」殺:「以前は行き来できたが今は出来ない。恐らく異界に通じる道が閉じているのだろう」り:「じゃあ、かごめさま、もう戻ってこれないの?」りんが悲しそうに訊(き)いてくる。犬夜叉や子狐妖怪の気持ちを思ってのことだろう。私は諭(さと)すように言葉を重ねた。殺:「今は閉じている。だが、ある日、通じるようになるかもしれん」そう、希望がない訳ではないのだ。すると、またしても邪見が余計な嘴(くちばし)を入れてきた。邪:「ということは、今日か明日、通じるかもしれんということでしょうか?」殺:「そうかもしれん。そうでないかもしれん」邪:「う~~む、分かったような分からんような。何やら禅問答のようですなあ」邪見め、黙っていればいいものを。こ奴はいつも賢(さか)しげに口を挟(はさ)んでくる。全く、何度、痛い目に遭わせても懲りん奴だ。そうか、また仕置いて欲しいと見える。ならば遠慮なくいくぞ。ガシッ!殺生丸は邪見の頭を鷲掴みにするや否や目にも留まらぬ早業で虚空に放り投げた。ブンッ!ビュ------------------------「ア”レ”エ”ェェェェ~~~~~~~~~~」あっという間に小さくなる従者の姿。濁声(だみごえ)の悲鳴も段々小さくなる。り:「あ、邪見さま、また飛んでっちゃった」殺:「気にするな。いつもの事だ」殺生丸は素知らぬ顔で阿吽の手綱を取った。そのまま村の上空を逍遥する。村人がそこかしこに散らばり農作業に勤(いそ)しんでいる。まるで胡麻粒のようだ。不意に鋭敏な嗅覚が風の中に不快な臭いを捉(とら)えた。草と土の匂い、それと混じり合う汗の臭い、まだ幼い童(わらべ)どもの匂い。この匂いはあの時の・・・眼下に目をやれば豆粒のような男童(おのわらわ)どもがワラワラと集まり此方(こちら)を見上げている。あ奴らは、以前、りんにチョッカイをかけておった小童(こわっぱ)どもではないか。殺生丸の脳裏に当時のことが思い浮かぶ。犬夜叉の帰還後、殺生丸は今後のことを思って隻眼の老巫女にりんを託した。あの老女ならば決してりんを粗略には扱うまいと思えたから。だが、どうにもりんの身が気に懸かった殺生丸は、敢(あ)えて西国への出立を遅らせ陰からりんを見守り続けた。するとどうだろう、或る日、村の小童どもがりんに嫌がらせを始めたのだ。咄嗟に姿を現し奴らを睨(ね)めつけてやった殺生丸。その結果、悪戯(いたずら)小僧どもは、やれ腰を抜かすわ、みっともなく小便を漏らすなどと無様(ぶざま)な醜態を曝(さら)したのであった。フン、だらしがない!女子(おなご)一人を大勢の男(お)の子が寄って集(たか)って虐めようなどと。なんという恥知らずな輩だ!ふむ、良い機会だ。この際、奴らに釘を刺しておくとしよう。二度とりんに手を出そうなどと思わぬように。殺生丸は手綱を引き双頭竜に指示を出した。「阿吽、下がれ、ゆっくりとな」※『珊瑚の出産⑰』に続く [12回]PR