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第七作目『天生牙』

偉大なる父上の牙から打ち起こされた二振りの刀の内、この殺生丸に遺された一振りの刀。
最強の存在として憧れ、目標としてきた父上が、私に託された天生牙。
譲り受けた当初は、どれほどの威力があろうかと単純に喜んだものであった。
しかし、この刀は・・・斬れぬ刀であった。 
クッ・・・とんだ、なまくら刀。
覇道を往かんとする己にとって笑止千万(しょうしせんばん)の代物であった。
だからこそ捜し求めた!
父上が遺した、もう一振りの刀を!
一振りで百匹の妖怪をなぎ倒す名刀、鉄砕牙の行方を追い続けた。
二百年もの間、あらゆる場所を旅し地中を探り続けた。
判っていたのは墓に、父上の骸(むくろ)に納められているという事だけだった。
そして探し当てた鉄砕牙は・・・半妖の異母弟、犬夜叉の右目に隠された黒真珠の中の墓にあった。 
長い年月、捜し求めた刀を遂に我が手に出来ると思ったのも、つかの間。
鉄砕牙には結界が施され、妖怪である私には持つ事さえ出来なかった!
それどころか半妖の弟が抜くのなら、まだしも、よりによって人間の小娘が台座から抜き放ったのだ! 
何と言う侮辱! 
許し難い人間の女は、我が毒華爪にて消滅させた筈であった。 
しかし、女は、生きていた。
鉄砕牙の結界によって守られたのだ。 
なお悪いことに、鉄砕牙は、その結界に犬夜叉を迎え入れたのだ。
本性の化け犬に変化し、半妖の異母弟を引き裂いてやろうとした我が左腕は、変化した鉄砕牙によって斬り落とされてしまった。 
失った左腕の代わりを捜す過程で奈落なる喰わせ者と出会った。
四魂の欠片を仕込んだ人間の腕と、毒虫、最猛勝の巣を借り受け、再度、犬夜叉から鉄砕牙を奪わんと試みたが・・・。
犬夜叉め、仲間の援護と捨て身の攻撃で、借り物の左腕をもぎ取り鉄砕牙を奪い返しおった。
鉄砕牙の結界に阻まれる以上・・・最早、手に入れる事は諦めねばならなかった。
だが、私には、武器が、新しい剣が必要だった。 
それ故、天生牙、鉄砕牙を打ち起こした希代の名工、刀々斎に新たなる刀を依頼したのであった。
この私が、殺生丸が、新しい刀を所望したというに・・・あ奴め、飽くまでも拒みおった。
それどころか・・・・あの半妖と、犬夜叉なんぞと、つるみおって・・・許せん!
一度は取り逃がしたが、二度目は、龍の腕を付け、犬夜叉ともども八つ裂きにしてくれようと乗り込んでいった。 
風の傷さえ見えていない未熟な犬夜叉。
奴を受け入れた鉄砕牙ごと叩き折ってやるつもりで。
それなのに土壇場で風の傷を会得した犬夜叉に又しても瀕死の重傷を負わされてしまったのだ。
どうやら天生牙の結界に守られていた・・・らしい・・・が。
気が付けば・・・私は森の中に倒れていた。 
動く事さえ・・・ままならない程の深手。
そんな時、近付いて来る気配があった。
獣の本能で牙を剥き威嚇したのは、みすぼらしい形(なり)をした子供。童女だった。
思えば、あれが、りんとの初めて出会いであった。 
やせこけた人間の小娘。
人間・・・脆弱な身体と小賢しい知恵を持った繁殖力ばかり強い生き物。
あの偉大な父上が、人間である犬夜叉の母を守らんが為に、己が命を犠牲にされた。
人間などに、そのような価値があるものか! 
露草の如き儚き命。
我らのように強大な力も無く、唯々、地に這いつくばって生きる卑しき者達ではないか。
何故、父上は、人間などに、犬夜叉の母などに思いを寄せられたのか!? 
何故!?何故!?
童女は・・・りんは・・・恐ろしげに変化しかけた私の形相にも逃げる事なく。
介抱しようと毎日やって来た。 
水を、食べ物を、携えて・・・己の食い扶持さえ、ままならぬ境遇であったろうに。
あの日・・・りんが顔をひどく腫れさせて、やって来た。 
明らかに誰かに殴られたのであろう。
様子を聞いてやったら・・・ひどく驚きつつも何とも嬉しそうな笑顔を見せた。
そう、我ら、妖には、眩しい程に顔を輝かせて。
その後、迎えに来た邪見と共に帰ろうとした私を、森の中に引き寄せたのは血と狼の臭い。
狼どもに噛み殺された童女の骸(むくろ)。
血溜まりの中に倒れた酷(むご)い姿。
一旦は、そのまま見捨てようとした。 
だが、小娘の笑顔が脳裏に甦り、何故か、そのまま捨て置けなかった。 
初めて己の意思で天生牙を抜き放った瞬間、天生牙の意思が発動した。
ドクン・・・生き物のように脈打ち、己に、この世ならぬ者どもの姿を見せた。
あの世からの使いか、餓鬼どもが童女の骸に纏(まと)わり付いていた。
成る程・・・こ奴らを斬れという事か。 
試してみるか――――天生牙の力を。
ザシュッ・・・!
餓鬼どもを斬り捨てる。 
半ば半信半疑で童女の骸を抱き起こしてみれば・・・おおっ!
トクン・・・トクン・・・小さな心臓が、再び、鼓動を刻み始めたではないか!
それ以来、童女は、りんは、我らと共にある。
次に、天生牙を振るう事になったのは、邪見、己が僕(しもべ)であった。
鉄砕牙を噛み砕きし鬼の牙を携え、刀々斎の曾(かつ)ての弟子、灰刃坊の許へ出向いた。
私の新たなる刀を打ち起こさせる為に。 
打ち上がった刀を取りにやった矢先に、それは起こった。
犬夜叉に殺された鬼の怨念に取り憑かれた灰刃坊に斬り殺されたのだ。
いつも一言多い無駄口ばかり叩く邪見ではあるが、既に百数十年も己に仕えてきた。
見捨てる訳にもいくまい。 
生き返らせてやったら、随分、感激しているようだった。
奈落との闘いが激しさを増す中、新しい剣は、中々に役に立ってくれた。
闘鬼神と名付けられた鬼の剣は、その後、魍魎丸に叩き折られるまで我が腰にあった。
そして、再び、天生牙を振るったのは天生牙自身の意思による物。
奈落の分身、白童子に首を斬り落とされたカワウソの妖怪、甘太なる者の父親の命を救う事になった。
あの世の境・・・父上の墓のある場所が関わってくるであろうと己に知らせる為に。
事実、奈落との次なる闘いの場所は、其処であった。
神楽に案内された火の国。
あの世に通じる入り口では、番人の牛頭、馬頭に対して、やはり、天生牙が役に立ってくれた。 
この世ならぬ者を斬る刀は、私の前に扉を開かせた。
神楽が、遂に裏切りの報いに奈落に瘴気を注がれ、息絶えようとした時にも、天生牙を使おうとしたが発動しなかった。 
それも天生牙の意思であろうな。
奈落の心臓、赤子の操る魍魎丸との闘いで叩き折られてしまった闘鬼神。
あの闘いでは、私も、多少の深手を負った。 
だが、それよりも、闘鬼神を、武器を失ったのは・・・痛かった。 
奈落と闘うには、どうしても、武器が、新しい刀が要るのだ。
内心、途方に暮れていた、顔には出さぬが。 
天生牙は闘いの場では全く役に立たぬ。
そんな時、旧知の刀工、刀々斎がやって来た。 
唯でさえ虫の居所が悪いというのに。
相変わらず癪に障る物言い・・・とぼけた面をしおって! 
引き裂いてくれようか・・・!
だが・・・奴の申し入れてきた事は。
俄かには信じ難い事だった。

(武器として天生牙を鍛え直す時が来た)

今まで天生牙が戦いに使えるなどと思いもしなかった。
斬れない刀・・・それ故、「なまくら刀」と呼び、腰に帯びはしたが、尊重した事も無い。
りんを冥府から呼び戻した時、初めて、この刀の価値に気付かされはしたが。
その天生牙が武器として生まれ変わる。
正直、我が心は、期待に満ちている。
癒しの刀、天生牙、あの世ならぬ者を斬る刀、どのような闘い振りを見せてくれることか。
打ち直された天生牙を抜き放つ。 
下段に構えて己が妖気に、刀の妖気を反応させる。
妖気に惹かれて鬼が出てきた。 
丁度良い、天生牙の試し斬りにしてくれる。
刀身に光が灯(とも)る。 
ポウッ・・・死者に対する手向けの花の代わりか道しるべか。
襲い掛かってくる鬼に一気に振り下ろす。 
ザン! 一瞬、遅れて・・・空間が裂ける! 
この世ならぬ、あの世への道・・・冥道が開く。
三日月型に裂けた空間に、鬼の身体が斬り裂かれて、あの世に持っていかれる。
その名も『冥道残月破』、冥道を斬り開き、文字通り、そのまま敵を冥界におくる。
今は、まだ三日月程度の裂け目だが、腕が上がれば、いずれは真円に近付き敵の身体を、そのまま、あの世に送る事が可能になるという。
遂に私は、望み続けた刀を手に入れた。 
父上の牙から打ち起こされた闘いの刀を。
やっと・・・それを手に入れられる心の状態に達したという事か。
刀々斎は言っていた。 
お前の心に足りなかった物が生まれたらしいと。
確かに魍魎丸が神楽を無駄死にと嘲った時、私は怒っていた。
死者を侮辱するとは・・・。 
神楽に対する哀惜の思いが、僅(わず)かながら確かに存在していた。
この技で、冥道残月破で、必ずや、奈落を討ち果たしてくれようぞ!
新たなる天生牙の誕生を、祝福するかのように、一陣の爽やかな風が吹き抜けて行った。 

                                                                          了  2006 .6/3 (土) 作成◆◆

《第七作目「天生牙」についてのコメント》

闘鬼神については二度も書いているのに天生牙については一度も書いてないのは片手落ちかな?と思い至り、急遽、書き上げました。 
原作での推移を見ても判るように非常に複雑な剣だと思います。

2006.8/10(木)★★★猫目石

 

 

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