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『二人の巫女⑤』★11万打記念作品&最終回萌え作品②

「さて、それでは、家に戻って薬草の選り分けを続けよう。」

暫く泣き続けて、ようやく気分が落ち着いたらしいかごめに向かい、楓が、優しく声を掛けた。観音開きの戸を閉じただけで、そのまま、家に戻ろうとする楓に、かごめが、慌てて言葉を!

「鍵とか掛けなくて良いの?楓ばあちゃん、あんな凄いお宝の山を仕舞ってあるのに。」

「さっきも云っただろう、かごめ。りんの持ち物には、全て、呪(しゅ)が掛けられていると。この村の者は、みんな、その事を知っておる。だから、鍵を掛ける必要など全く無いのだ。」

「ウ~~ン、そうか。それもそうよね。仮に、持ち出したとしても、絶対に使えないんだもん。これ以上の盗難保険って他にないわよね。」

「村の者は、『呪(しゅ)』の事を知っておるが、余所者は、それを知らん奴が多いからな。この宝の山の存在を聞き付けて襲撃を掛けてきた野武士どもも居ったぞ。」

「エエッ! 本当に?」

「アア、この村は、普段は、犬夜叉に守られておるからな。それに、珊瑚や法師殿、七宝も妖術で加勢するから、彼奴らも容易に手を出せなかったのだが・・・。たまたま、退治屋の仕事で犬夜叉と法師殿が、村を空けた時が有ったのだ。更に、間が悪い事に、七宝までもが狐妖術の試験を受ける為に村を留守にしていた。その事を知った野武士どもめ、千載一遇の好機とばかりに、村を襲ってきおったのだ。近在の村々に比べれば、この村は、比較的、豊かだからな。それに、何より、奴らの狙いは、りんのお宝だったのだ。珊瑚が、戦おうとしたが、生憎、双子を妊娠中で、然も、産み月が間近だった。到底、戦える状態ではなかった。それでも、飛来骨を持ち出し、何とか、野武士どもを撃退しようとしたのだ。わしも弓を番(つが)えて戦う積りだった。そんな一触即発の臨戦態勢の中、兄殿が、不意に現れてな。野武士どもの親玉を、アッと云う間に片付けてしまったのだ。目の前で、塵も残さず、消え失せていく頭目を見て、残った奴らは、鬼でも見たように泡を喰って逃げ失せていきおった。それ以後、この村は、狗神に守護されていると、近在では、専(もっぱ)らの噂だ。」

「殺生丸は、爆砕牙を使ったのね。あの刀なら、敵を、完全に消滅させる事が出来るから。」

「その襲撃が切欠となって、兄殿は、今や、村の者から『狗神さま』と崇められている。その兄殿が、大切にしている、りんに至っては、『狗神の姫さま』と呼ばれて、村の者全員が、それはそれは丁重な扱いをするようになったのだ。」

「それでなのね。殺生丸が、この村を、頻繁に訪れても、誰も、驚かないし、怖がらないのは。」

「元々、犬夜叉の兄という事もあって、そう悪い印象は持たれてなかったからな。それに、何しろ、あの容姿だ。村の若い娘が、何人も恋わずらいに掛かってな。しかし、兄殿は、りん以外には、一切、目もくれようとはせんから、大抵の者が、その内、諦めるのだが。中には、諦めの悪い者も居ってな。愚か者が兄殿に迫ろうとしたのだ。それも、りんとわしの目の前で。」

「せっ、迫ったあぁぁぁぁぁ!!! あっ、あの殺生丸に!?! すっごい度胸ね。 怖いもの知らずと云うか、無謀と云うか・・・」

「あの馬鹿娘は、一生、忘れられん教訓を得ただろうさ。兄殿の逆鱗に触れおって。目の前で、半分、変化した兄殿の姿を見て、みっともない事に、腰を抜かしおってな。ハッ、りんは、平然としておった物を。大体、あの二人の仲に割って入れる者など居りはせんのだ。」

「そうね。それは本当だと思うわ。りんちゃんは、きっと、何が有っても、殺生丸を信じ抜くだろうし、殺生丸も、りんちゃんを守り抜く。あの二人を見ていると、こんなに強い『絆』が有るのかって感動しちゃうくらい。」

「かごめよ、それは、お主と犬夜叉、又は、珊瑚と法師殿にも云える事だぞ。そうした強い『絆』が有ればこそ、奈落を、四魂の玉を滅する事が出来たのだ。」

「・・・・楓ばあちゃん。」

「よくぞ、あの辛い戦いをやり遂げてくれた。本来なら出遭うはずもなかった前世と今生、桔梗お姉さまとお主、互いの存在が、互いに辛い思いを惹き起こす。だが、それから逃げる事なく、桔梗お姉さまの存在を受け入れ、尚且つ、守ろうとさえしてくれた。かごめよ、お主の、その強く優しい心こそが、桔梗お姉さまの魂を救ってくれたのだ。妹として、心から礼を云う。そして、今度こそ、桔梗お姉さまが望んで得られなかった、犬夜叉との将来を、その手にシッカリと掴んでおくれ。それだけが、老い先短い、わしの何よりの願いなのだ。犬夜叉と二人で幸せになれ、かごめ。」

「楓ばあちゃんっ!」

年老いた巫女の胸に若い巫女が泣きながら飛び込む。老巫女は、慈母のような微笑みを浮かべ、泣きじゃくる若い巫女を、あやすように抱きしめていた。御神木を通して降り注ぐ木漏れ日が、祝福を授けるかのように、二人の巫女を、穏やかに包み込んでいた。      了

                                                         2007.7/23.(水)公開◆◆




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『二人の巫女④』★11万打記念作品&最終回萌え作品②

「なっ、何? 何なの? これって、まさか・・・・」

「そう、その、まさかだ。兄殿、殺生丸が、この三年間に、りんに贈った品々だよ。」

外見は、チョッと小奇麗な程度の鄙(ひな)びた小屋、しかし、その中に、一歩、足を踏み入れてみれば、そこかしこに溢れる雅にして煌びやかな調度品の数々。
螺鈿(らでん)細工の櫛(くし)に豪華な丸鏡、瑪瑙(めのう)や鼈甲(べっこう)、珊瑚の簪(かんざし)、何枚もの艶やかな絹の着物に反物、色も模様も違う何本もの帯と髪を飾る錦の組み紐、それに、この時代には、非常に珍しい高価な磁器や上等な漆器まである。
素晴らしい細工が施された文机(ふづくえ)に何本もの箪笥(たんす)と長持。
都に住まう高貴な身分の姫君でさえ、果たして、これほど見事な品々を持っているかどうか?

「もう、目が潰れそう。楓ばあちゃん、これだけで一財産じゃない。やってくれるわね、殺生丸。」

「こんな鄙びた村には、上等すぎて不釣合いな品ばかりだろう。だが、あの兄殿にとっては、極々、普通のありふれた品々なのだろうな。」

「これを見たんじゃ、さっきの着物を盗んだ女(ひと)の気持ちが判らないでもないわね。それにしても、凄い。桁外れの質と量だわ。」

「何しろ、三年分だからな。まあ、いずれ、これらが、りんの嫁入り道具になる訳だ。それも考慮の上で選んだ品々ばかりだろう。」

「・・・・最初っから、りんちゃんを手離す気持ちなんか、これっぽっちも無かったんだ、殺生丸。」

「だな、この品々を見ると。実に兄殿らしいわ。言葉による意思表示は、何ひとつ無いが、兄殿の行動が、この見事な品々が、どんな言葉よりも、遥かに雄弁に、その揺るぎない想いを物語っておる。」

「本当に、りんちゃんが、大事なんだね。」

「アア、その通りだろうな、かごめ。りんを、心底、大切に思うからこそ、人里に預け、りん自身に、己の将来を決めさせようとしたのだ。りんは、一度、イヤ、実際には、二度、死んだ身だと聞いておる。最初、狼にかみ殺された時、兄殿に、天生牙で救われたそうだな。その時点で、りんの命は、兄殿の物だと云っても通るだろう。あれだけ、兄殿を慕っている、りんの事だ。あのまま、連れ歩いたとしても、一言も文句は云わなかっただろう。だが、それでは、明らかに、りんの為にならん。だからこそ、敢えて、この村に、りんを預けた。兄殿が、どれほど、りんの事を思っているか、この事からだけでも容易に窺い知れよう。」

「りんちゃんは、殺生丸に取って本当に大事な大事な『お姫さま』なのね。それにしても羨まし~~い。犬夜叉なんて、あたしに花ひとつ贈ってくれた験(ため)しが無いのに。」

「マア、人それぞれだからな。尤も、兄殿は、人ではないから、そう云って良い物かどうか。そう嘆くな、かごめ。犬夜叉には犬夜叉にしか無い良い処が一杯あるだろうが。」

「まっ、まあね。」

「それに、物を贈った事はないかも知れんが。かごめ、犬夜叉が、お主を思う気持ちは、兄殿が、りんを思う気持ちに決して引けは取らんぞ。」

「エヘヘ・・・・そっ、そうかな。」

「もう、二度と逢えないかも知れない。そうと知りながら、三年間も、骨喰いの井戸に入り続けた犬夜叉の気持ちを思うと、わしは、涙が出そうになるぞ。時には、絶望しそうになった時も有っただろう。同じ三年間とは云っても、犬夜叉と兄殿とでは渇望の度合いが全く違う。兄殿の場合は、別段、相手が消え失せた訳ではないからな。逢いたいと思えば、何時でも逢えた。それに引き換え、犬夜叉の方は、お主に逢う事は愚か、声を聞く事も、まして、匂いを嗅ぐ事さえ出来なかったのだからな。」

「・・・・そうね、犬夜叉には、随分、辛い思いをさせちゃったわね。」

「そう思うなら、その分、犬夜叉に優しくしてやれ。あいつは、人一倍、寂しがり屋だからな。極めつけの強情っぱりでもあるから、、絶対に、人前では、そんな素振りを見せようとはしなかったが・・・。この三年間、ズッと寂しかった筈だ。例え、周りに、仲間の七宝や珊瑚、法師殿、それに、わしが居ても、その寂しさは埋められなかっただろう。恐らく、心に、ポッカリ、穴が開いたような気持ちを抱えて生きていたと思うぞ。」

「ウン、そうね、そうだよね。あたしも寂しかった。どうしても、もう一度、犬夜叉に逢いたかった。」

涙が、ポツリと、かごめの手に落ちた。犬夜叉への思い、現代に残してきた家族への思い、そんな様々な思いが、ゴッチャになって、心の中に溢れ、涙の川となって頬を伝う。

「アア、これこれ、泣くでない、かごめ。責める気は無かったのだ。」

「ウウン、教えてくれて有難う、楓ばあちゃん。」

                         2008.7/22.(火).公開◆◆


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『二人の巫女③』★11万打記念作品&最終回萌え作品②

「とにかく、そんな経緯(いきさつ)があって以来、りんを虐めようとする悪餓鬼は誰も居らん。あんな保護者が付いていてはな。下手にチョッカイ掛けたら、どんな目に遭わされるやら。」

「本当にそうね。それに、りんちゃんを虐めたら、楓ばあちゃんや犬夜叉、それに珊瑚ちゃんや弥勒さまが黙ってないだろうし。フフッ、りんちゃん、保護者が一杯で幸せね。」

「何しろ、あの兄殿から預かった大切な娘だ。何か、間違いでもあっては大変だからな。」

「それはそうと、ねえ、楓ばあちゃん、その衝立(ついたて)に掛かっている着物。それって、さっき、話に出てきた殺生丸から、りんちゃんへのプレゼント?」

かごめが、衣桁(いこう)に掛かっている、村の者が着るには上品過ぎる着物を、指差して云った。

「プレ・・・ゼント? かごめ、それは、どういう意味の言葉なのだ?」

「アッ、いけない。エッ・・・と、そうね、コッチの言葉に言い換えると『贈り物』または『貢ぎ物』かな?」

「『貢ぎ物』か。フム、云いえて妙だな。お主の察し通り、あれは、つい先日、兄殿が、りんに持ってきた新しい着物だ。」

「フ~~ン、一見、地味だけど、よくよく見ると凄く凝ったデザインだわ。生地も上等だし、流石は、殺生丸。良い処のお坊ちゃまなだけ有るわね。」

かごめが、その着物を手に取って手触りの良さを確かめていると、楓が、慌てて注意を寄こした。

「手に取るくらいなら良いが、羽織ったりしてはならんぞ、かごめ! トンデモナイ目に遭うからな。」

「エエッ! 楓ばあちゃん、それって、どういう意味なの!?!」

かごめが、手にした着物を、慌てて衣桁(いこう)に掛けなおす。

「兄殿が、りんに贈った品物はな・・・・全て、呪(しゅ)が掛けられているのだ。チョッと手に取るくらいなら、どうって事はないが。りん以外の者が、その品を使おうとしたが最後、掛けられた呪(しゅ)が発動して途轍もない衝撃を受けるようになっておるらしい。実はな、以前、りんの豪華な持ち物を羨んだ馬鹿な村の女が、わしらの目を掠めて、着物を自分の家に持ち帰った事が有ったのだ。前々から手癖が悪いと評判の女でな。盗んだ着物を家で羽織ってみたらしい。そうしたら、その女、村中に響き渡るような怖ろしい悲鳴を上げおって。何事かと、皆が、その場に駆け付けてみたら、よっぽど怖ろしい物でも見たのか、その女、盗んだ着物を纏ったまま、完全に白目を剥いて気を失っておったのだ。そうした事があってから、この村には、りんの物に手を出そうなどという不届き者は、誰一人として居らんのだよ。」

「ハア~~~ッ、凄い! 完璧な保険が掛けられてる訳ね。それにしても、殺生丸って、やる事なす事、そつが無いって云うか、驚いちゃうわ。『用意周到』って言葉が、ピッタリじゃない!」

「確かに。犬夜叉に比べると兄殿は先々にまで目端が利くようだな。だから、その分、犬夜叉と違って『誤魔化し』が、一切、利かん。全く、気が抜けん。兄殿に掛かれば、口先だけの輩など即座に見破ってしまうだろうて。」

「そうね、殺生丸を騙すのって容易じゃないわよね。何度か、奈落とも手を結んだように見えたけど、相手の話に乗ったように見えて、その実、自分の思うようにしか動かないんだもん。」

「頑固な処も犬夜叉とソックリのようだしな。」

「ウ~~ン、そうね、犬夜叉も言い出したら聞かないけど、殺生丸にも、そういう処が有るわね。頑固に鉄砕牙を諦めようとしなかったし。ねえ、楓ばあちゃん、こうして、色々、話してると・・・犬夜叉と殺生丸って凄く似てるんじゃない?」

「似てるのさ、兄弟だけあって本質的な処が。当人達は、絶対に、その事を認めようとはせんだろうがな。」

「それはそう、確かに。ねえ、楓ばあちゃん、この家の隣に小屋が建ってるけど、あれは何に使ってるの?三年前には無かったわよね。」

それを聞いた楓が、徐(おもむろ)に立ち上がり、無言で、かごめに、付いてくるように促した。
『???』と思いつつ、指示通りに、かごめが付いて行くと、楓が、その小屋に取り付けられている観音開きの戸を開け、中に入るように手で指図をした。
小屋の中に入ったかごめが、そこで見た物は・・・・。

                         2008.7/21(月)公開◆◆

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『二人の巫女②』★11万打記念作品&最終回萌え作品②

「オオ、そうだ。りん、仕事は、かごめが手伝ってくれる。今日は一日、好きに過ごして良いぞ。」

「エッ、でも、本当に良いんですか?楓さま。」

「アア、今日の仕事は薬草の選り分けだけだ。二人も居れば充分。それに、ソロソロ、今日辺り、あの御仁が、やって来る頃じゃないかね?」

楓の言葉に、りんの顔がパアッと華やいだ。
透き通るような白い肌に、ホンノリと桜色の朱が注して、何とも可憐で愛らしい。
同性のかごめでさえ、思わず顔が綻ぶような初々しさである。

「ハイ、じゃあ、失礼します。有難う、楓さま、かごめさま。」

二人の巫女に礼を云うと、愛らしい少女は、小鳥のように駆けていった。

「さて、それでは、まずは、薬草の見分け方から教えてやろう。かごめの世界では、色々と便利な道具や薬が有ったようだが、コッチには、そんな物はないからな。まず、自分達で薬草を栽培し、それを収穫。天日に晒して乾燥させ生薬にする。それから、その生薬を調合して用途に合わせて丸薬や膏薬を作り出さねばならん。冗談抜きに、お主が覚えねばならん事は山のように有るぞ。」

「ハ~イ、頑張ります、お師匠様!」

乾燥させた薬草を選り分けながら、楓とかごめ、二人の巫女の話が続く。
楓の薬箱には、ドクダミやセンブリ、ゲンノショウコ、ユキノシタ、ヨモギなどの生薬が、何時でも使えるように、キッチリと区分けされて入っている。
大部分が薬草だが、変わった処では、熊の胆(い)などが有る。
これは、山で、マタギ(=猟師)が熊を仕留めた際、譲ってもらった物である。
大層、苦い代物で、心臓や胃腸の弱った者に効果が高いらしい。

「楓ばあちゃん、さっきの話だけど、あの御仁って殺生丸の事?」

「勿論だ、かごめ、他に誰がいる。」

「ウ~~ン、正直な話、あの殺生丸が、態々(わざわざ)人里に出向いてくるって事自体、信じられないの。」

「かごめ、お主は此処に居なかったから知らんだろうが。殺生丸は、流石に、あの犬夜叉の兄なだけはあるぞ。犬夜叉が、この三年間、お主に逢いたいばっかりに、三日に一度は骨喰いの井戸に入っていたように、兄殿も三日おきにりんに逢いにやって来たのだ、それも必ず土産を携えてな。全く、浮気症の人間の男どもに爪でも煎じて飲ませたいような律儀さだったぞ。」

「ハハハ・・・・(毒入りの爪だったりして)」

「煎じると云えば・・・・かごめ、この『センブリ』は、『千振り』と書くのだが、何故、こんな名が付いているか判るかね?」

楓が乾した薬草の一種を手に取り、新米の助手、見習い巫女のかごめに問い掛けた。

「・・・・・??? 知らない。何か、意味があるの。」

「これはな、千回、煎じて振り出しても、まだ苦いという意味から付けられた名なのだよ。故に『千振り』と云う。」

「ヘエ~~~面白いね。チャンと意味が有って付けられてるんだ。」

「他にも、この『ドクダミ』などは、毒を矯(た)める、止める、という効果から、そう呼ばれる。また、別名、『十薬(じゅうやく)』とも云ってな。生の葉のまま、患部に貼って良し、煎じて飲むに良し、又は、丸薬にするも良しと、様々な用途に使える。謂わば万能薬に近い。因(よ)って『十薬』という別名が付いておる程だ。」

「フ~~~ン、そんなに色々な効果のある薬草だったんだ。『ドクダミ』って。知らなかった。実家の神社の日陰なんかで割と良く見かけたけど。アッ、そう云えば、ママが、お酒に漬けたりして保存してたわ。チョッとした腫れ物なんかに効果抜群だって。でも、これ、かなり臭うわね。犬夜叉の側では使わない方が良いかも。何しろ、珊瑚ちゃんの臭い玉で気絶するくらいだから。」

「そうだな。犬夜叉の奴、わしが薬箱を持ってる時は、出来るだけ、側に寄らないようにしておったな。『良薬、口に苦し』と云って、効き目が高い薬草ほど、臭いがキツかったり、苦かったりするからな。」

「云われてみると、そうね。良く効くお薬って、大抵、苦いもの。」

「苦いから効くのかも知れんな。それから、この『ゲンノショウコ』、主に下痢止めに使うのだが。これなどは、服用後、直ぐに効果が現れる処から、『現の証拠』と付けられている。別名が『たちまち草』、これも、たちまち効果が現れるという意味からだ。」

「現の証拠・・・・か。それにしても、あの殺生丸が、良く、りんちゃんを手離す気になったわよね。」

「そうだな、兄殿なりに色々と考えたのだろうさ。このまま、連れ歩いて良い物かどうか。りんは女の子だ。いずれ、成長すれば月の物も来よう。その時、男ばかりでは、どう対処すれば良いかも判らんだろうしな。それに、あのままでは、余りにも人との接触が少なすぎて、りんは、人でありながら人ではない存在になってしまっただろう。幼子の成長は早い。もう後数年もすれば、りんが、将来の伴侶として、人間の男を選ぶか、兄殿を選ぶか、選択する時が来るだろう。その時、どちらを選んでも、困る事のないようにようにとな。実に行き届いた心憎いばかりの配慮じゃないかね。尤も、それは、建て前で、これまでの兄殿の行動を見る限り、りんを手離す気は毛頭なさそうだがな。」

「それにしても、三日おきに逢いにくるなんて凄いわ、殺生丸。しかも、それを、ズット三年間も続けるなんて。犬夜叉も殺生丸も意思が強いのね」

「フッ、かごめよ、それは一応、目に見える部分だけだぞ。」

「エッ、実際は違うの?」

「犬夜叉は、七宝が見ていたから、実際、そうなんだろうが、兄殿の方は、イザ、人里にりんを預けてみたものの、心配で、最初の内は、ズッとりんの側に潜んでいたのではないかと思われる節が有るのだ。」

それを聞いた、かごめが、途端に目をキラキラさせ始めた。
元々、かごめは、現代っ子気質で、野次馬根性が、イヤイヤ、好奇心が、相当、強い。
何か、ワクワクするような話が聞けるのではないかという期待に胸を弾ませ、楓の方にグッと身を乗り出してきた。

「何? 何? 何か有ったの? 楓ばあちゃん。」

「ウムッ、これは、りんが、村に来て、まだ間がない頃の話なのだがな。かごめ、お主、りんに初めて会った時、どう思った?」

「どうって? まず、あの大の人間嫌いの殺生丸が、人間の、然も、小さな女の子を連れてるって事に、吃驚したわよ。正直、信じられないってのが本音だったわ。そうね、とっても可愛い子だなって思ったわ。あんまり可愛いから、もしかして、殺生丸が、攫(さら)ってきたんじゃないかって半分冗談で考えたくらい。」

「だろう。わしやお主でさえ、そう思うのだ。それが、同じ年頃の男の童だったら、尚更だろうな。りんは子供とは云え、とびっきりの器量良しだ。早速、村の餓鬼大将に目を付けられてな。あの年頃の男童の行動は判るだろう。好きな子を、態(わざ)と困らせて関心を惹こうとするのだ。マア、幼稚といえば幼稚なんだが。りんが、わしの用で川向こうの村の者に薬を届ける為、川に架かっている橋を渡ろうとした事があったのだ。その時、悪餓鬼どもが、橋の前で通せんぼをしてな。橋を渡りたかったら、土下座しろとか何とか、無理難題を、りんに突き付けたのだよ。りんが困り果てていたら、物陰から、兄殿が、ヌッと現れてな。ギリッと、そいつらを睨(ね)めつけたのさ。後は、もう、どうなったか、判るだろう。腕白坊主どもは、蜘蛛の子を蹴散らすように、一目散に逃げて行ったそうだ。」

「ヒエ~~~ッ、あっ、あの殺生丸に睨みつけられたの!?! その男の子達も可哀相に(トラウマにならなきゃ良いけど・・・・)。 あたしでさえ、あいつの真剣な睨みは心臓に悪いってのに。」

「兄殿が出張らなければ、あの小妖怪、邪見が、人頭杖を振り回す気、満々だったらしいぞ。」

「ゲッ、人頭杖って、あの超強力火炎放射器!」

「何だ、かごめ、その超強力・・・火炎・・何たらとは?」

「アッ、エ~~と、炎を吐きまくる杖って事。」

「ウム、そうだな、人里で、そんな物騒な物を振り回されては困る。」

「それじゃ、殺生丸ったら、邪見と二人がかりで、ズッと、物陰に隠れて見張ってた訳? すっごい過保護!」

「マア、そうだろうな。あの犬兄弟は、揃いも揃って自分の女を守ろうとする気持ちが怖ろしく強い。かごめよ、お主は、気付いてないようだが、犬夜叉だって相当な物だぞ。」

「ヘッ、そっ、そうなの?」

「とまあ、そんな訳でな、どうやら、兄殿は、物陰に気配を潜めて、ジッと身を隠していたらしい。そうでなければ、ああも都合良く出てはこれまいからな。」

「ねえ、楓ばあちゃん、その話ぶりを聞いてると、まるで本当に見てたみたい。」

「見てたのさ、わしではなく琥珀が。雲母(きらら)に乗って上空から事の一部始終をな。珊瑚に逢う為に、久し振りに村にやって来る途中だったらしい。」

「成る程、琥珀くんが雲母(きらら)に乗ってね、納得。アッ、そう云えば、琥珀くん、元気?その後、どうしてるの?」

「琥珀は、強い退治屋になる為、修行の旅に出ておる。随分、背が伸びて逞しくなったぞ。前回、見た時は、確か、珊瑚の背を越していたな。」

「エエ~~ッ! 珊瑚ちゃんって、確か、あたしよりも背が高かったわよね。じゃあ、あたし、琥珀くんに追い越されちゃったんだ。ガァ~~~ン!ショック!」

「あの年頃の男子は、筍(たけのこ)のように、少し見ぬ間にドンドン成長するからな。もう数年もすれば、法師殿や犬夜叉と肩を並べる程になるだろうて。最初、困っているりんを見かけて、琥珀自身が、悪餓鬼どもを懲らしめようと思ったそうだ。そうしたら、キララを降下させようとした矢先に、兄殿が割って入ったという訳だ。」

「フ~~~ン、姫を助ける騎士(ナイト)登場って訳ね。それも、二人も!キャッ、素敵!」

「何だ、かごめ、そのナイトとやらは?」

「ウウン、こっちの話。気にしないで、楓ばあちゃん。」

                          2008.7/20.(日)公開◆◆


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『二人の巫女①』★11万打記念作品&最終回萌え作品②

かごめが戻ってきた。
三年ぶりに骨喰いの井戸を通って。
何と喜ばしい事だろう。
犬夜叉の涙ぐましいまでの執念が実ったのだろうな。
イヤイヤ、そうではない。
犬夜叉とかごめ、二人の思いが通じ合わなければ、このような奇跡は起こせまい。
それに、桔梗お姉さまの加護もあったのだろう。
かごめは、桔梗お姉さまの生まれ変わり。
巫女であった桔梗お姉さまの、今生(こんじょう)では、どう願っても叶わなかった犬夜叉との悲恋。
その悲願を、今度こそ叶えようとする大いなる天の意思を感じる。
察しの良い者は、もう気づいているだろう。
わしの名は楓、桔梗お姉さま亡き後、村を守ってきた老いたる妹巫女。
四魂の玉を巡る最後の熾烈な戦いは、犬夜叉の兄、殺生丸の加勢もあって、見事、宿敵、奈落を、この世から消滅せしめた。
しかし、奈落は、最後の力を振り絞って願を掛けていた。
それは、かごめを、四魂の玉に取り込まんとする卑劣な罠だった。
冥道残月破の妖力を取り込んだ奈落の分身、夢幻の白夜の刀。
本来、刀身が無いはずの白夜の刀に斬られたかごめは、奈落が消滅すると同時に現れた冥道に呑み込まれ消えてしまった。
然も、同時に骨喰いの井戸までもが消滅してしまったのだ。
すぐさま黒い鉄砕牙で冥道残月破を繰り出し、かごめの後を追った犬夜叉。
三日後、光の柱と共に、再び、出現した骨喰いの井戸を通って犬夜叉は戻って来た。
しかし、そこに、かごめの姿は無かった。
「かごめは無事だ。」
かごめの身を心配する我らに、犬夜叉が云ったのは、それだけだった。
それ以上、問いただす事を許さない雰囲気が、あの時の犬夜叉には有った。
当時の真相を、口の重い犬夜叉から聞き出せたのは、三年も経ってから、極々、最近の事だった。
漸く、他の者に喋る気持ちになったのだろう。
あれ以来、骨喰いの井戸は沈黙を続けていた。
以前のような、かごめの世界との行き来は、全く出来なくなってしまっていた。
それでも、諦められなかったのだろう。
この三年間、犬夜叉は、三日に一度は、井戸に入って試していたらしい。
実に凄まじい、涙ぐましいまでの執念だ。
七宝が、その事実を明らかにした。
しかし、それは同時に、七宝自身も犬夜叉と同じように、かごめに逢いたかった事を意味している。
犬夜叉と同じ程度、イヤ、下手をすると、それ以上の頻度で、七宝も骨喰いの井戸を覗き続けてきたのだろう。
そうでなければ、三日に一度などという回数が判るはずもない。
既に両親が他界している七宝に取って、心優しいかごめは、姉のような、イヤ、母にも等しき存在だったろうからな。
逢いたかったのだろうな、七宝も、かごめに。
イヤ、以前の事はどうあれ、とにかく、かごめが戻って来たのだ。
こんな目出度い事はない。
良かったな、犬夜叉。
照れ屋のお前は、あからさまに喜びを見せはしないが・・・・。
それでも、表情の、行動の端々に滲み出る抑えようとしても抑え切れない喜び。
お前が、内心、どんなに歓喜しているか、わしには痛いほど良く判るぞ。
かごめが戻ってきたので、村の衆に頼んで、仮ごしらえではあるが、急遽、二人の住む家を建てる事になった。
わしの家には、犬夜叉の兄、殺生丸から預かった、りんが居る。
いくら何でも、新婚夫婦と一緒では、何かと都合が悪いだろうからな、双方どちらにとっても。
かごめは、桔梗お姉さまの生まれ変わりだけあって、元々、並外れた霊力を有している。
いずれ、巫女として、わしの跡を継がせる事にしよう。
ヤレ、有り難い、これで、わし亡き後、村を守る者の心配が無くなった。
りんにも、巫女として中々の素質が感じられるが、あの親代わり、犬夜叉の兄、殺生丸が、絶対に承諾するまいだろうからな。
そんな訳で、かごめは、巫女修行の為、毎日、わしの家に通ってくる。
薬草の見分け方、煎じ方、お祓いの仕方など、かごめには、ミッチリと仕込んでやらねば!
この村では、巫女は、医者の代わりも務めている。
覚えねばならぬ事は、それこそ山のようにあるぞ、かごめよ。
それにしても、この村も、随分、賑やかしくなった物だ。
かごめが居なくなってからの三年間、様々な変化が、皆に等しく有った。
奈落の消滅と同時に風穴が消えた法師殿は珊瑚と所帯を持った。
今では、村に居を構えて、退治屋の仕事を請け負って生計を立てている。
珊瑚との間に、双子の女の子と、つい先頃、生まれたばかりの息子が居る。
あの調子では、これからも、まだまだ増えそうな気配だ。
法師殿、念願の子福者(こぶくしゃ)と云う訳だな。
村で生まれた子も多い。
戦乱の世とは云え、ここ数年は戦もなく、天候も穏やかで作物の実りも豊かだった。
いずれ、犬夜叉とかごめの間にも子供が産まれるだろう。
イヤ、下手すると、来年の今頃には産まれているかも知れんな。
そんな事を考えて思わず相好(そうごう)を崩していたら、りんが、不思議そうに訊いて来た。

「楓さま、急にニコニコして、どうなさったの?」

三年の歳月は、かつての幼子を、少女と呼べる容貌に変えていた。
背は伸びたものの、相変わらず華奢で小柄なりん。
色白の肌に愛らしい面差し。
何よりも印象的なのが澄んだ大きな目だ。
黒曜石のように輝く瑞々しい瞳を、長い睫毛が綺麗に飾って、一層、魅力的に見せる。
「鄙には稀な美形」、この表現が、これ程、相応しい少女も他に居ないだろう。
普通の村娘が、どんなに身に付けようとしても身に付かない、ある種の神秘的な雰囲気が、りんには感じられる。

「フフッ、来年の今頃には、また、赤ん坊が産まれているかも知れないと思ってね。」

「エッ・・と、珊瑚さんは、赤ちゃんを産んだばかりだから、当分、子供は出来ないだろうし。今年中に赤ちゃんが産まれる予定の女(ひと)は村に何人か居るけど、来年の今頃・・・?」

「アッ、もしかして・・・犬夜叉さまとかごめさまの?」

「当たりだ、りん。あの二人は、三年も離れ離れになっていたから、その分、子供が出来るのも早いのではないかな。」

そんな噂の一組、対(つい)の片割れである、かごめが、パタパタと巫女装束をはためかせて慌ただしく駆け込んで来た。
村の朝は早い。陽が昇ると同時に一日の活動が始まる。
太陽の位置から判断すると、今の刻限は、早朝と云うには遅く、昼と云うには早すぎる時分だろう。

「お早う、楓ばあちゃん、りんちゃん。ご免なさい、遅くなって! 」

「アア、お早う、かごめ。」

「お早うございます、かごめさま。」

「かごめ、今日は、犬夜叉は、法師殿と一緒に、早朝から泊まりがけで退治屋の仕事に出かけるのではなかったのか?」

「ウン、その筈だったんだけど。犬夜叉ったら、昨夜(ゆうべ)から『泊りがけの仕事は嫌だ!明日は仕事を休む!』なんて駄々をこね出して。それを説得するのが大変だったのよ。おかげで、今朝は寝不足だわ、フワァ~~~ッ」

寝足りないのか、かごめが欠伸(あくび)を噛み殺す。
三年も離れ離れになっていたせいだろう。
かごめが、こちらに戻って以来、犬夜叉は、用が無い時は、片時も、かごめの側から離れようとはしない。

「子供じゃあるまいし、そんな我がまま聞いてられないって云ったら、『お前は俺と離れるのが、そんなに嬉しいのか?』って喚き出すんだもん。頭に来て『お座り』を連発してやったのよ。」

新米亭主の犬夜叉に憤慨するかごめに対し、思わず顔を見合わせて笑い出す楓とりん。
フォッフォッと楓は豪快に、りんはクスクスと可愛らしく。
かごめの伝家の宝刀、言霊の呪文「お座り」は、未だ健在らしい。
これが発動したが最後、どう足掻こうが、犬夜叉は、地面に叩き伏せられる事になる。

「ハハハッ、それでか。道理で、昨夜は、やけに地響きがすると感じた訳だ。」

「ンンッ、そうすると、かごめは、夜は家に独りきりなのか。では、今夜は、此処に泊まりに来ると良い。珊瑚と法師殿の家では手狭だろうしな。この村の男で、まさか、犬夜叉の女房殿に手を出すような命知らずは居らんだろうが、マア、一応、念の為だ。何、遠慮は要らぬ。わしとりんの二人きりだしな。」

「本当に良いの? 楓ばあちゃん、りんちゃん。」

「ハイ、かごめさま。是非、いらして下さい。」

「りんも、こう云っている。では、決まりだな。」

「じゃあ、遠慮なくお世話になります。有難う、楓ばあちゃん、りんちゃん。」

「ウムッ、それでは、今日は薬草の見分け方を教えてやろう。心して学ぶのだぞ、かごめ。」

「ハイ、先生。」

「ン? 何じゃ、かごめ、その先生・・・とやらは?」

「エッ!? まだ、こっちじゃ一般的な言葉じゃないの。じゃあ、お師匠さま!」

「宜しい。中々、殊勝な心がけだ。」
                             2008.7/19(土)公開◆◆

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