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『二人の巫女①』★11万打記念作品&最終回萌え作品②

かごめが戻ってきた。
三年ぶりに骨喰いの井戸を通って。
何と喜ばしい事だろう。
犬夜叉の涙ぐましいまでの執念が実ったのだろうな。
イヤイヤ、そうではない。
犬夜叉とかごめ、二人の思いが通じ合わなければ、このような奇跡は起こせまい。
それに、桔梗お姉さまの加護もあったのだろう。
かごめは、桔梗お姉さまの生まれ変わり。
巫女であった桔梗お姉さまの、今生(こんじょう)では、どう願っても叶わなかった犬夜叉との悲恋。
その悲願を、今度こそ叶えようとする大いなる天の意思を感じる。
察しの良い者は、もう気づいているだろう。
わしの名は楓、桔梗お姉さま亡き後、村を守ってきた老いたる妹巫女。
四魂の玉を巡る最後の熾烈な戦いは、犬夜叉の兄、殺生丸の加勢もあって、見事、宿敵、奈落を、この世から消滅せしめた。
しかし、奈落は、最後の力を振り絞って願を掛けていた。
それは、かごめを、四魂の玉に取り込まんとする卑劣な罠だった。
冥道残月破の妖力を取り込んだ奈落の分身、夢幻の白夜の刀。
本来、刀身が無いはずの白夜の刀に斬られたかごめは、奈落が消滅すると同時に現れた冥道に呑み込まれ消えてしまった。
然も、同時に骨喰いの井戸までもが消滅してしまったのだ。
すぐさま黒い鉄砕牙で冥道残月破を繰り出し、かごめの後を追った犬夜叉。
三日後、光の柱と共に、再び、出現した骨喰いの井戸を通って犬夜叉は戻って来た。
しかし、そこに、かごめの姿は無かった。
「かごめは無事だ。」
かごめの身を心配する我らに、犬夜叉が云ったのは、それだけだった。
それ以上、問いただす事を許さない雰囲気が、あの時の犬夜叉には有った。
当時の真相を、口の重い犬夜叉から聞き出せたのは、三年も経ってから、極々、最近の事だった。
漸く、他の者に喋る気持ちになったのだろう。
あれ以来、骨喰いの井戸は沈黙を続けていた。
以前のような、かごめの世界との行き来は、全く出来なくなってしまっていた。
それでも、諦められなかったのだろう。
この三年間、犬夜叉は、三日に一度は、井戸に入って試していたらしい。
実に凄まじい、涙ぐましいまでの執念だ。
七宝が、その事実を明らかにした。
しかし、それは同時に、七宝自身も犬夜叉と同じように、かごめに逢いたかった事を意味している。
犬夜叉と同じ程度、イヤ、下手をすると、それ以上の頻度で、七宝も骨喰いの井戸を覗き続けてきたのだろう。
そうでなければ、三日に一度などという回数が判るはずもない。
既に両親が他界している七宝に取って、心優しいかごめは、姉のような、イヤ、母にも等しき存在だったろうからな。
逢いたかったのだろうな、七宝も、かごめに。
イヤ、以前の事はどうあれ、とにかく、かごめが戻って来たのだ。
こんな目出度い事はない。
良かったな、犬夜叉。
照れ屋のお前は、あからさまに喜びを見せはしないが・・・・。
それでも、表情の、行動の端々に滲み出る抑えようとしても抑え切れない喜び。
お前が、内心、どんなに歓喜しているか、わしには痛いほど良く判るぞ。
かごめが戻ってきたので、村の衆に頼んで、仮ごしらえではあるが、急遽、二人の住む家を建てる事になった。
わしの家には、犬夜叉の兄、殺生丸から預かった、りんが居る。
いくら何でも、新婚夫婦と一緒では、何かと都合が悪いだろうからな、双方どちらにとっても。
かごめは、桔梗お姉さまの生まれ変わりだけあって、元々、並外れた霊力を有している。
いずれ、巫女として、わしの跡を継がせる事にしよう。
ヤレ、有り難い、これで、わし亡き後、村を守る者の心配が無くなった。
りんにも、巫女として中々の素質が感じられるが、あの親代わり、犬夜叉の兄、殺生丸が、絶対に承諾するまいだろうからな。
そんな訳で、かごめは、巫女修行の為、毎日、わしの家に通ってくる。
薬草の見分け方、煎じ方、お祓いの仕方など、かごめには、ミッチリと仕込んでやらねば!
この村では、巫女は、医者の代わりも務めている。
覚えねばならぬ事は、それこそ山のようにあるぞ、かごめよ。
それにしても、この村も、随分、賑やかしくなった物だ。
かごめが居なくなってからの三年間、様々な変化が、皆に等しく有った。
奈落の消滅と同時に風穴が消えた法師殿は珊瑚と所帯を持った。
今では、村に居を構えて、退治屋の仕事を請け負って生計を立てている。
珊瑚との間に、双子の女の子と、つい先頃、生まれたばかりの息子が居る。
あの調子では、これからも、まだまだ増えそうな気配だ。
法師殿、念願の子福者(こぶくしゃ)と云う訳だな。
村で生まれた子も多い。
戦乱の世とは云え、ここ数年は戦もなく、天候も穏やかで作物の実りも豊かだった。
いずれ、犬夜叉とかごめの間にも子供が産まれるだろう。
イヤ、下手すると、来年の今頃には産まれているかも知れんな。
そんな事を考えて思わず相好(そうごう)を崩していたら、りんが、不思議そうに訊いて来た。

「楓さま、急にニコニコして、どうなさったの?」

三年の歳月は、かつての幼子を、少女と呼べる容貌に変えていた。
背は伸びたものの、相変わらず華奢で小柄なりん。
色白の肌に愛らしい面差し。
何よりも印象的なのが澄んだ大きな目だ。
黒曜石のように輝く瑞々しい瞳を、長い睫毛が綺麗に飾って、一層、魅力的に見せる。
「鄙には稀な美形」、この表現が、これ程、相応しい少女も他に居ないだろう。
普通の村娘が、どんなに身に付けようとしても身に付かない、ある種の神秘的な雰囲気が、りんには感じられる。

「フフッ、来年の今頃には、また、赤ん坊が産まれているかも知れないと思ってね。」

「エッ・・と、珊瑚さんは、赤ちゃんを産んだばかりだから、当分、子供は出来ないだろうし。今年中に赤ちゃんが産まれる予定の女(ひと)は村に何人か居るけど、来年の今頃・・・?」

「アッ、もしかして・・・犬夜叉さまとかごめさまの?」

「当たりだ、りん。あの二人は、三年も離れ離れになっていたから、その分、子供が出来るのも早いのではないかな。」

そんな噂の一組、対(つい)の片割れである、かごめが、パタパタと巫女装束をはためかせて慌ただしく駆け込んで来た。
村の朝は早い。陽が昇ると同時に一日の活動が始まる。
太陽の位置から判断すると、今の刻限は、早朝と云うには遅く、昼と云うには早すぎる時分だろう。

「お早う、楓ばあちゃん、りんちゃん。ご免なさい、遅くなって! 」

「アア、お早う、かごめ。」

「お早うございます、かごめさま。」

「かごめ、今日は、犬夜叉は、法師殿と一緒に、早朝から泊まりがけで退治屋の仕事に出かけるのではなかったのか?」

「ウン、その筈だったんだけど。犬夜叉ったら、昨夜(ゆうべ)から『泊りがけの仕事は嫌だ!明日は仕事を休む!』なんて駄々をこね出して。それを説得するのが大変だったのよ。おかげで、今朝は寝不足だわ、フワァ~~~ッ」

寝足りないのか、かごめが欠伸(あくび)を噛み殺す。
三年も離れ離れになっていたせいだろう。
かごめが、こちらに戻って以来、犬夜叉は、用が無い時は、片時も、かごめの側から離れようとはしない。

「子供じゃあるまいし、そんな我がまま聞いてられないって云ったら、『お前は俺と離れるのが、そんなに嬉しいのか?』って喚き出すんだもん。頭に来て『お座り』を連発してやったのよ。」

新米亭主の犬夜叉に憤慨するかごめに対し、思わず顔を見合わせて笑い出す楓とりん。
フォッフォッと楓は豪快に、りんはクスクスと可愛らしく。
かごめの伝家の宝刀、言霊の呪文「お座り」は、未だ健在らしい。
これが発動したが最後、どう足掻こうが、犬夜叉は、地面に叩き伏せられる事になる。

「ハハハッ、それでか。道理で、昨夜は、やけに地響きがすると感じた訳だ。」

「ンンッ、そうすると、かごめは、夜は家に独りきりなのか。では、今夜は、此処に泊まりに来ると良い。珊瑚と法師殿の家では手狭だろうしな。この村の男で、まさか、犬夜叉の女房殿に手を出すような命知らずは居らんだろうが、マア、一応、念の為だ。何、遠慮は要らぬ。わしとりんの二人きりだしな。」

「本当に良いの? 楓ばあちゃん、りんちゃん。」

「ハイ、かごめさま。是非、いらして下さい。」

「りんも、こう云っている。では、決まりだな。」

「じゃあ、遠慮なくお世話になります。有難う、楓ばあちゃん、りんちゃん。」

「ウムッ、それでは、今日は薬草の見分け方を教えてやろう。心して学ぶのだぞ、かごめ。」

「ハイ、先生。」

「ン? 何じゃ、かごめ、その先生・・・とやらは?」

「エッ!? まだ、こっちじゃ一般的な言葉じゃないの。じゃあ、お師匠さま!」

「宜しい。中々、殊勝な心がけだ。」
                             2008.7/19(土)公開◆◆

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