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小説第三十四作目『天剣』(兄上御出まし祈願作品)

長い長い時、二百年もの間、その刀は、微動だにしなかった。
主の腰に在るだけで、運命の時を待ち侘びつつ、唯、存在するのみだった。
天の雫が地に落ちて実を結ぶ日を静かに待っていた。
運命の輪が、緩やかに回転し始める、その日、その時を。
冥道残月破を譲り渡した以上、もう、この場に用は無い。
犬夜叉や刀々斎を振り返りもせずに殺生丸が足早に立ち去っていく。
その殺生丸を、りんが、琥珀が、邪見が、阿吽が、追いかけて行く。
一歩一歩、犬夜叉から、鉄砕牙から、遠ざかる毎に断ち切られていく冥道残月破への未練。
気が付けば、もう、陽は、傾きかけている。影が長い。
歩き続けて、既に一刻(=約
2時間)にもなろうか。
後に続く者達の息が上がり始めているようだ。りんの足取りが乱れ始めている。
必死に追い縋ってきたのだろう。息遣いが乱れて荒い。

ハッ・・ハッ・・ハア・・ハア・・ハッ・・ハア・・ハッ ドタッ! 
りんの足が、もつれて転んだようだ。

「キャッ!」   
                    

「りん!」

「りんっ!」

琥珀と邪見が、代わる代わる、りんの名前を呼ぶ。
琥珀が、りんに走り寄って助け起こそうとするのを遮る様に、殺生丸が、フワリと一歩で距離を詰め、隻腕で、りんを抱き起こす。
りんが、転んでもシッカリとその小さな手に握り締めて離さなかったのは・・・天生牙。
それを、りんが、私に差し出す。以前と同じ斬れない刀、“なまくら刀”、こんな刀を持ち歩いて、一体、何の役に立つと云うのだ。

「・・・このような刀、打ち捨ててくれば良い物を。」

「だって、天生牙は、殺生丸さまの刀だよ。」

「・・・敵を倒す事も出来ない“なまくら刀”だ。」

「そんな事言わないで! 天生牙は、“なまくら”なんかじゃない! 凄い刀だよっ! だって、だって、りんは、天生牙で殺生丸さまに助けてもらったんだからっ!」

りんの言葉にハッとした。そうだった・・・確かに。
天生牙は、りんと私を結び付けた刀。
思い返してみれば、天生牙は、常に“癒しの刀”であり、決して“破壊の刀”では無かった。
りんの命を此の世に呼び戻す為に初めて振るった時も、あの世への入り口での牛頭と馬頭との闘いにおいても、川獺の父親の命を救った時も、全てが“癒しの力”故に為せる業。
そして、風の傷から私を護り、魍魎丸との闘いでは、この世で最も硬い金剛石の槍、金剛槍破からさえも私を護り抜いてくれた。
天生牙、お前は、冥道残月破を手放したかったのか。
“癒しの力”と“破壊の力”は、本来、相容れぬ物。
況して、相手の骸さえ残さず冥界に送り込み、そのまま死に至らしめる殺戮の技。
非情極まりない必殺にして滅却の技。
だからこそ、父上は、母を通して、あのような言葉を残されたのかもしれない。
「慈悲の心を持って敵を葬らねばならぬ」・・・・ククッ、到底、私には無理だな。

そんな馬鹿げた真似が出来るのは、不本意ではあるが、やはり、犬夜叉しか居るまい。
そう思い到った時、初めて、殺生丸は、りんが差し出す天生牙を受け取り鞘に収めた。
あるがままの“癒しの刀”として。
パチリ・・・鍔鳴が、主の腰に戻った事を喜んでいるかのように心地良く鳴いた。
それを見て、りんが、心底、嬉しそうに笑った。
私を導く者、それは、天生牙でも、亡き父上でも無く、りん、お前なのかも知れない。
凡百の小賢しげな学究の徒が、偉そうに、ほざく世迷い言などよりも、りん、何も知らぬ、お前の無垢な魂が発する真知こそが、正しいのだろう。
私は、今も忘れない。
冥界に置き去りにされた、お前の魂が発した輝かしい光を。強く美しい輝きだった。

僅か数年しか生きていないお前の魂が、目も眩むような輝きを放っていた。
穢れなき無垢の魂、その純粋な輝きに、妖たる己は、惹かれ惹かれて、何時しか、焦がれる程に。
そして、その暖かな微笑みを、笑顔を、己のみの物と思い定めたのだ。決して側から離さぬと。
一方、邪見と琥珀は、そうした、りんと殺生丸との遣り取りを固唾を呑んで見守っていた。
邪見は、主の心中を推察し、内心、ハラハラしながらも、りんならば、殺生丸様の御心を鎮めてくれるだろうと期待し、片や、琥珀は、りんが殺生丸に及ぼす影響力の大きさに、改めて、驚きを感じていた。
退治屋の長の跡継ぎとして生まれ育った琥珀は、ごく普通の人間に比べれば、妖怪に対する知識も有る。
イザとなれば、武器を使いこなし闘う事も出来る。
それに対し、りんは、何の力も持たない童女でしかない。
だが、そんな、無力なりんだけが、絶大な妖力を有する大妖怪、殺生丸の心を動かす事が出来るのだ。
その信じ難い摩訶不思議な関係。
天と地。天は、字の如く、そのまま天界を示す。
地は大地を、即ち、人の住む人界を表す。
大妖怪闘牙王の残した二振りの剣の内、犬夜叉に遺された鉄砕牙は、地を制する剣。
大地を人界を制する剣は、人の血を持つ半妖の犬夜叉にこそ相応しい。
犬夜叉は、地の運命を持つ者。人と交わり人と共に生きていく運命。
その対極に位置する天生牙は、天を制する剣。
天は、神仙の住まう天界を意味する。それ故に、天生牙は、人間以上の存在、天の運命を持つ者、殺生丸にこそ相応しい。
“此の世ならざる者を斬る刀”は、人界の運命に縛られぬ者、世俗の理(ことわり)に囚われぬ者、人知を超えた存在が持つべき剣。
それぞれの運命に導かれるままに、地の剣は、地の運命を持つ者に、天の剣は、天の運命を持つ者の手に。                     了

《第三十四作目『天剣』についてのコメント》
ズバリ兄上の御出まし祈願作品です。拍手にて兄上が原作に戻ってこられたら私めも復帰する予定にしていたのですが・・・・今の処、御出ましになる気配が皆目、窺えず、かなり焦りが生じています。
それで、この小品にて雨乞いならぬ兄上の御出ましを祈願させて頂きます。  ◆◆猫目石

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