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『愚息行状観察日記(30)=御母堂さま=』


※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


「おっ、御方さまっ!」

「ほほぉ~~」

“遠見の鏡”に写し出された光景に松尾が驚いて声を上げた。
よくよく見ると鏡の中の者ども、井戸の周囲に集まっていた法師や女退治屋、巫女、子狐妖怪も、皆、一様に驚愕(きょうがく)の表情を浮かべている。
まあ、無理もないか。
あの殺生丸が人間の小娘の前に膝をついているのだからな。
妾(わらわ)は既に見たことがあるが他の者達は初めて目にする光景であろう。
ンッ、いつ見たかだと。
ほれ、皆も覚えておろうが。
まだ天生牙が冥道残月破を纏っておった頃、冥道を拡げんが為、殺生丸が、妾(わらわ)に、その方法を教えろとこの城にやってきた時のことを。
あ奴のたっての頼みで冥道石を使って冥界の犬を呼び寄せてやったのだが。
冥界の犬は殺生丸の冥道残月破を喰らいながら冥道に呑み込まれもせず平然としておった。
まあ、あんな細い痩(や)せこけた三日月の冥道ではな。
現世の者ならばイザ知らず、冥界の者を呑み込むことは不可能だった。
挙句、冥界の犬め、小娘と小僧を呑み込んで冥道の中に逃げ込んでしまったのだ。
それで殺生丸も犬を追って冥道の中に踏み込む羽目となった。
あの時は、随分、驚かされたな。
極めつけの人間嫌いであった殺生丸が、人間の子供を二匹も伴って、我が城を訪問しただけでも驚きだったのに、あろう事か、それらを助けようとしたのだからな。
結果、天生牙の冥道は拡がりはしたのだが、冥界の邪気に触れ小娘が絶命してしまった。
か弱い人間の身に冥界の邪気は強すぎるからな。
冥界に入った途端、小娘は本当に呆気(あっけ)なく事切れてしまった。
にも拘らず一緒にいた人間の小僧の方はピンピンしておった。
不思議に思って後で小僧に聞いてみたら四魂の欠片で命を繋いでおると云う。
それを聞いて納得した。
つまり小僧は死人なのだ。
だから冥界の中にあっても何ら影響を受けない。
既に死んでおるのだからな。
冥界の主を斬り亡者どもを浄化して殺生丸は戻ってきた。
息絶えた小娘を隻腕に抱いてな。
フッ、妾(わらわ)を仇のように睨みつけておったわ。
余程、小娘が死んだのが許せなかったらしい。
事の成り行きに憤(いきどお)る殺生丸に道理を説(と)くは親の務め。
天生牙が死者を呼び戻せるのは一度きりと教えてやった。
殺生丸め、その事実に愕然としておったわ。
あの時、初めて、殺生丸は愛しい命を喪う怖れと悲しみを知ったのだろうな。
然も、己には、どうすることもできないときておる。
心底、途方に暮れておっただろうな。
筋金入りの頑固者ゆえ殆ど表情を動かしはせなんだが。
その代わりに従者の小妖怪が涙にくれておった。
アレの心情を代弁すると申してな。
こんな悲しいことはないとばかりに悲嘆にくれておったわ。
だから妾が冥道石を使い小娘が蘇生させてやった。
思い出すな、あの時、殺生丸は小娘が目を開き息を吹き返すのをジッと凝視していた。
するとな、急に気道が回復したせいか、小娘が咳き込んだのだ。
一度は完全に途絶えた気道が再び開いたせいだろうな。
咽(むせ)て苦しかったのだろう。
小娘は涙目だった。
そうしたら、何と、殺生丸の奴、徐(おもむろ)に小娘を寝かせた玉座に近付き、スッと膝を折って跪(ひざまず)いたのだ。
些(いささ)かも躊躇(ちゅうちょ)せずにな。
そして隻腕を伸ばし小娘の頬をソッと撫でてやったのだ。
妾(わらわ)は初めて見たぞ、あ奴が、あんなにも優しく他者に触れるのを。
凡(およ)そ、妖怪であれ何であれ、容易に他者に触れる事も触れさせもしない息子だった。
幼い頃から己の力に頼むところが強く並々ならぬ矜持(きょうじ)の高さを見せてきた殺生丸。
狷介孤高(けんかいここう)な気性も相(あい)まって母である妾(わらわ)は勿論、あれ程に慕っていた父親の闘牙にさえ滅多なことでは膝を屈しなかった。
その誇り高き男が、“戦国最強”とまで謳(うた)われた大妖怪が、何の力も持たぬ小さな人間の童女の前に跪(ひざまず)いているのだ。
あの小娘が殺生丸に取って如何なる存在であるのかが一目瞭然であろう。
前回に引き続き今回で二度目になるな。
それにしても、あの気位の高い殺生丸に、ああまでさせる事が出来るのは、きっと、後にも先にもあの小娘だけだろうな。
鏡に映る場景は、まるで誓約を交(か)わしているかのように厳(おごそ)かだった。
イヤ、事実、そうなのだろう。
“遠見の鏡”を通して見ているので殺生丸と小娘が何を喋っているのかまでは判らぬ。
だが、こうしているだけでも、見交わす殺生丸と小娘の間に結ばれた絆(きずな)の強さが目に見えるかのようだ。
神気が漂う。
それを感じ取ったのだろうか。
老いた巫女が殺生丸に向けて深々と頭を下げた。
申し出に対する承諾の印(しるし)だろう。
言の葉を越えた神聖なる契約の証(あかし)。
鷹揚に頷き踵(きびす)を返そうとする殺生丸に女退治屋が必死の形相で声を掛けた。
だが、殺生丸は振り向くことなく何か言い返したようだ。
泣き崩れる女退治屋を法師が抱きとめている。
という事はだ、我が息子殿は、あの女退治屋に『お咎めなし』の沙汰を下した訳だな。
ンッ、小僧も殺生丸に何か言っておるな。
小僧にも同様に言葉を返した殺生丸。
その後は、もう振り返ることなく小妖怪を伴って双頭竜に乗り、その場から姿を消した。
パサッ・・・
狗姫(いぬき)は“遠見の鏡”に布を掛け覆い隠した。
松尾が話しかけてきた。

「若さまは、あの女退治屋を許されたようでございますな、御方さま」

「どうやら、そのようだな。フフッ、あ奴も随分と丸くなったものよ」

「りん様のお陰でございましょうな」

「何はともあれ、これで、あ奴も心置きなく西国へ戻れるだろう」

「はい、それにしても長い放浪にございました。二百年に亘(わた)る国主の不在、正統なる主の御帰還に、さぞや西国の民草が安堵する事でございましょう」


※『愚息行状観察日記(31)=御母堂さま=』に続く
 

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『愚息行状観察日記(29)=御母堂さま=』



※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


「んっ?」
 

「どうされました、御方さま」
 

権佐の報告を受けてから狗姫は冥道石を手にズッと半妖と巫女の様子を窺(うかが)っていた。
狗姫の指示に従い“先見(さきみ)の巫女”白蛇の粋晶(すいしょう)に逢ってきた権佐。
具体的な日数こそ粋晶は教えてくれなかったが、ともかく半妖が戻ってくることだけは判った。
真円の冥道に呑み込まれた異形の巫女。
巫女を救う為、半妖が冥道に入ったのが三日前。
不意に冥道石を覗(のぞ)いていた狗姫(いぬき)が声を発した。
当然、筆頭女房にして狗姫の乳母でもある松尾が何事かと問いかける。
 

「やっと動き出したようだぞ、松尾。半妖が巫女を見つけた」
 

三日間、冥道石を凝視し続けていた狗姫が少し興奮気味に答える。
 

「オオッ、四魂の玉が消滅したぞ。終わったな。これで四魂の玉の因縁(いんねん)は断(た)たれた」
 

狗姫の言葉に松尾が応える。
 

「四魂の玉が出現したのは、確か、人の世を貴族が支配していた時代でございましたな。それから、かれこれ五百年、時は移(うつ)り今は侍(さむらい)の時代にございます。その間、人と妖怪、双方に働きかけ争いの種を蒔き続けてきた悪(あ)しき因縁の玉。こうなって良かったのではございませんか」
 

「そうだな。これで殺生丸も半妖も四魂の玉の因縁から解き放たれた訳だ」
 

徐(おもむろ)に狗姫は立ち上がり、“遠見の鏡”に掛けられていた布を取り去った。
狗姫の思念に反応して鏡面が揺れる。
暫く後に映し出されたのは見覚えのある人里。
奈落が滅したと同時に巫女が冥道に呑み込まれた場所。
そして巫女が消え失せた途端、井戸も消滅した場所だ。
驚いたことに井戸が戻っているではないか。
何事もなかったかのように。
松尾が驚きの声をあげる。
 

「御方さま、井戸が!」
 

「戻っておるな、元通りに」
 

再び出現した井戸から緋色の衣を纏う半妖が出てきた。
火鼠の毛で織った赤い童水干は否応なく目を惹く。
どうした事だ、半妖め、巫女を連れておらんぞ。
井戸の周囲に集まっているのは老いた巫女、法師、女退治屋、子狐妖怪、猫又、それに小僧。
半妖は一同に何かを告げ、そのまま、その場から逃げるように走り去った。
走り去った半妖の代わりに現われたのは殺生丸。
小娘と小妖怪を連れている。
 

「やはり来たか、殺生丸」
 

「御方さま、『やはり』とは、若さまが現われると予想しておられたのですか」
 

「まあな、奈落を滅した今、アレの最大の関心は小娘の事だろうし」
 

殺生丸が年老いた巫女と話をしている。
どうやら話がついたようだ。
小娘が殺生丸に縋って泣きじゃくっている。
 

「どうしたのでしょう、御方さま。りん様が泣いて若さまに何か訴えておられるようですが・・・」
 

「恐らく、殺生丸は、あの老いた巫女に小娘を預かるよう申し出たのだろうな」
 

「何故、そのような事を!」
 

「考えてもみよ、松尾。殺生丸は西国に帰還したら鼠どもの駆除(くじょ)に全力を挙げねばならんのだぞ。そんな処に小娘を連れ帰ったらば、即刻、鼠どもの餌食(えじき)になりかねん。小娘は殺生丸の唯一にして最大の弱点だからな。まして、脆弱なる人間の身、おまけに天生牙と冥道石で既に二度も生き返っておる。もし襲われ殺されでもしたら蘇生はできん。今度こそ確実に死ぬ。無理だな。どう考えても今の時点で小娘を西国に伴うなど危険すぎる。鼠どもを完全に放逐でもせん限り」
 

「だからでございますか。あの巫女に、りん様を託すと」
 

「そうだ。それに、小娘は人の仔だ。人として知らねばならん事が多々ある。人の事は人でなければ教えられぬものだ。それにな、あの村には半妖が住み着いておるらしい。半妖とはいえ闘牙の妖力を受け継いでおるのだ。その力は、人間は、勿論、並の妖怪の及ぶところではあるまい。半妖だけではない。あの退治屋と法師、人間としては尋常ならざる強さを有している。微力ながら子狐妖怪もいる。つまり、未だ乱世の人の世にあって、あの人里は、最強の用心棒達に守られた村という訳だ。そうした事情を考慮して殺生丸も小娘を託そうと思ったのだろうな」
 

「言われてみれば確かに・・・」
 

「それにな、まだある。松尾、あの巫女を見よ」
 

「はい」
 

「年老いておろう、然も、巫女。そなたなら何を連想する?」
 

「そうでございますな。通常、巫女は神に仕える未婚の女性。あの老齢ならば親族も少のうございましょう」
 

「その通りだ。だからこそ、殺生丸は、あの巫女に小娘を託せる。男の影がないからな」
 

「ハッ? 御方さま、今、何と・・・」
 

「『男の影がない』だ。そなたも覚えておろう、松尾。昔から殺生丸は何かに執着すると、よほどの事がなければ諦めようとはせん性質(たち)だった。良い例が鉄砕牙だ。次期国主ともあろう者が西国を出奔、僅(わず)かな手がかりを頼りに二百年も人界を探し回りおってからに。アレが執拗なまでに執着した『力』の象徴である刀。だが、そうした刀への執着さえも、あの人間の小娘に比べれば何程のことはない。殺生丸に取って小娘は『唯一無二』にして『不可欠』の存在なのだ。その大切な小娘の身近に男の影が見え隠れでもしてみよ。アレが許せると思うか」
 

「無理でございましょうなぁ。これまでの若さまの行状から鑑(かんが)みて」
 

ようやく狗姫の言わんとすることに得心がいった松尾は頭を振り振り言葉を返した。
 


※『愚息行状観察日記(30)=御母堂さま=』に続く

 

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『愚息行状観察日記(28)=御母堂さま=』




※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


深い深い地の底に権佐は向かっていた。
有り体(てい)に言えば足から落下しているのである。
地下に続く一本道の穴の底に向かって。
こんな真っ直ぐな深い穴が自然に出来ようはずもない。
明らかに何者かの手によって穿(うが)たれた垂直の縦穴。
かれこれ半時(約一時間)ほど地に潜っただろうか。
不意に仄(ほの)かな光が見えてきた。
光が射すはずもない大地の奥深い場所。
まるで権佐の訪問を知っていたかのようにポォ・・・と淡い光が拡がりだした。
光苔(ひかりごけ)だ。
ポッカリと柔らかな光に包まれた空間が出現した。
権佐は落下する速度を意識的に緩(ゆる)めフワリと降り立った。
透き通った玉が見える、水晶だ。
それも生半可な大きさではない。
直径にして一間(いっけん=1.82m)はあろうかと思われる水晶玉。
巨大な水晶玉は底に紫の座布団を宛(あ)てがわれ黄金の台座に据えられている。
その水晶玉の前でとぐろを巻く白い大蛇が、徐(おもむろ)に首をもたげ眠たげに目を開けた。
白い大蛇の意識がユックリと覚醒する。
キン・・・と空気が張り詰めた。
血のように赤い目が権佐を見据える。
紅玉のように輝く澄んだ眼(まなこ)。
フッと厳しい雰囲気が和(やわ)らいだ。
白蛇の前に恭(うやうや)しく跪(ひざまず)き権佐は頭(こうべ)を垂れた。
直接、妖忍の頭の中に白蛇の言葉が響いてくる。
精神感応、心話、現代風にいうならテレパシーだ。
 

『久しいですね、権佐殿』
 

「ご無沙汰しております、先見(さきみ)の巫女、粋晶(すいしょう)さま。一別以来、かれこれ二百年ほどになりましょうか。夢見の眠りをお邪魔して申し訳ございません」
 

『フフッ、それは何時ものことでしょう。狗姫(いぬき)の御方さまは息災でおられますか?』
 

「ハイ、今日、ここに参りましたのも御方さまの命によります」
 

『となると・・・当代の西国王、殺生丸さまに関わる事柄ですね』
 

「ご推察通りにございます」
 

『それで、何が知りたいと。権佐殿も御存知のように私に答えられるのは未来に支障をきたさない瑣末(さまつ)なことのみ』
 

「ハッ、それはもう、重々、承知の上にございます。実は、殺生丸さまの弟御(おとうとご)である犬夜叉殿が冥道に踏み込んだまま戻ってこられないのです。果たして戻られるのでしょうか?また戻ってこれるとして、それは何時になるのでしょうか?」
 

『犬夜叉殿? ああ、闘牙さまが人間の貴族の姫との間に儲(もう)けられた半妖の御子のことですね』
 

白蛇がソッと目を閉じた。
瞬時に、権佐の質問に対し、考え得る全ての可能性について思考を巡らせ検証を重ねているのだろう。
今この時にも熟考に次ぐ熟考が繰り返されているのは間違いない。
暫(しば)しの時の後、白蛇は静かに目を明けた。
煌(きら)めく紅(くれない)の瞳。
結論が出たらしい。
 

『・・・数日後に』
 

「ハッキリした日数は判らないのでしょうか?」
 

『権佐殿、先程の答えが私に答えられるギリギリです。御存知でしょう。未来について妄(みだ)りに言いふらしてはならぬと。因果の糸を徒(いたずら)に揺らすのは天に叛(そむ)く事なのだと』
 

「ハッ、浅慮(せんりょ)にございました。それでは、これにてお暇(いとま)致します。かように慌(あわただ)しい訪問の無礼の段、平(ひら)に御容赦下さい」
 

『殺生丸さまの許へ行かれるのですね』
 

「ハイ、爆砕牙出現により正式に西国王の地位に御就任いただく為にも早急に御帰還下さいますようにと、留守居役の尾洲様、万丈様、ご両名より申し付かっております」
 

権佐が礼を尽して去った後、白い大蛇は一頻(ひとしき)り回想に耽(ふけ)った。
脳裏に浮かぶのは、嘗(かつ)て在りし日のこと。
二百年前、西国の先代国主、闘牙王が身罷(みまか)った。
時を同じくして“先見の巫女”粋晶は最大の危機に遭遇していた。
先見(さきみ)、即ち、未来を視る能力を妖界の各国に狙われたのである。
長年、“先身の巫女”粋晶は先代の西国王、闘牙に擁護されてきた。
闘牙王の崩御に伴い後ろ盾を失った粋晶は今しも賊に拉致されようとしていた。
そんな粋晶を救ったのが権佐と松尾を連れた狗姫(いぬき)の御方だった。
忽(たちま)ち、賊を蹴散らし、闘牙王亡き後も“先見の巫女”粋晶は、西国の、イヤ、狗姫の御方の庇護の下(もと)にあると自ら宣言してくれたのである。
西国王妃、直々(じきじき)の宣言。
それが、どれほど強力な守護を意味するか。
闘牙王に匹敵するとまで云われた妖力の持ち主。
かてて加えて、その智略、縦横無尽とまで謳われた伝説の軍師“白銀の狗姫(いぬき)”。
今も鮮やかに当時の記憶が甦(よみがえ)る。
この場所で、これまで通り先見の夢見を許された粋晶は大恩ある御方に礼を述べていた。
 

『狗姫の御方さま、有難うございます』
 

「フッ、妾(わらわ)は闘牙の遺言に従ったまでに過ぎん。礼は要らんぞ」
 

『イエ、それでも、貴女(あなた)さまが遺言を反故(ほご)にしようと文句を言う者は誰ひとりとしていないはずです。にも拘らず私をお救い下さった。どうして感謝せずにおれましょうや』
 

「フフッ、そう思うなら、“先見の巫女”、粋晶よ。いずれ妾(わらわ)が知りたいと思う事が出てこよう。その時、そなたに取って差し支えない程度に答えてくれればよい」
 

『それだけで宜しいのですか?』
 

「ああ、充分だとも」
 

そう云って狗姫の御方は莞爾(かんじ)と微笑んだ。
妖界きっての美姫と称(たた)えられた彼の女(ひと)の微笑みは豪奢な華のように艶(あで)やかだった。
 

『狗姫の御方さま、西国に新しい時代が始まります。おめでとうございます。粋晶めは、この大地の奥深くより、ご嫡男、殺生丸さまの国主御就任を言祝(ことほ)がせて頂きます』



::【注釈】::
この後、権佐は、兄上に逢いに行きます。
西国帰還の話をする為に。
そう、第58作の小説『決断』へと続いていくんです。
話の流れから、どうしても、権佐が、誰から情報(犬夜叉が冥道から何時戻るか?)を入手したのか書かざるを得なくなりました。
そういう已(や)むに已(や)まれぬ事情から出来上がったのが“先見の巫女”の粋晶です。
久々のオリキャラ創作で、結構、苦労しました。 m( ̄o ̄)m


※『愚息行状観察日記(29)=御母堂さま=』に続く




 

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『愚息行状観察日記(27)=御母堂さま=』



※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


極限にまで膨張した瘴気が渦(うず)をまく大玉。
巨大な瘴気の渦玉が宙に浮いている。
奈落の成れの果て。
肉眼では見えないが、その中心に位置するだろう四魂の玉。
破魔の巫女が矢を番(つが)えた。
狙うは、唯ひとつ、瘴気の中に存在する小さな黒い禍玉(まがたま)。
全ての禍(わざわい)の源(みなもと)、四魂の玉。
撃った!
瘴気の大玉に向かい真っ直ぐ飛んでいく破魔の矢。
消えた!?矢が!?
一体、何処へ!?
次の瞬間、大玉が破裂した。
ギリギリで内部に留められていた瘴気が炸裂する。
四方八方に飛び散る瘴気の渦。
瘴気の渦が波のように巫女に襲いかかる。
半妖が巫女を抱えこみ急ぎ飛び退(の)く。
次第に薄れていく瘴気。
急激に場が収束していく。
視界に飛び込んできたのは頭部のみの奈落と矢で串刺しにされた四魂の玉。
古びた井戸の上に浮かんでいる。
破魔の矢に射抜かれたせいだろうか。
闇色に染まっていた四魂の玉が無色透明になっている。
もう体が残っていないのだろう。
奈落の頭部には脊髄が繋がるのみ。
虫の息だな、奈落は。
だが、あそこまで追い込まれながら、尚も、あ奴の表情に敗北は感じられぬ。
一体、何を話しているのだろう?
クッ、奈落と半妖どもの会話を聞けないのが、こうも、もどかしいとは。
遂に奈落が消滅した。
髪の毛一筋残さず奴は消えた。
まるで大気に溶け込むかのように。
だが、あ奴の最後の笑みは何を意味していたのだろう。
何!?
巫女の背後に真円の冥道が出現した。
息を呑む間もなく巫女が漆黒の冥道に呑み込まれる。
半妖が慌てて後を追ったが間に合わなんだ。
巫女を吸い込んだ冥道は掻き消すように消えてしまった。
奈落は、これを狙っていたのか。
 

「御方さま、四魂の玉が見当たりません。それに、井戸もです」
 

「ムッ、確かに。そなたの言う通りだな、松尾」
 

巫女の消失に茫然とする半妖と仲間達。
それだけではない、井戸までもが最初から無かったかのように消えていた。
つまり、あの井戸に意味があるということか?
その場にいる全員に拡がる戸惑いの表情。
異常な事態に、どうするのかと見ておったら、半妖め、鉄砕牙を抜き冥道残月破を撃ったではないか。
そして、冥道を出現させ、そのまま、冥道に飛び込んでいったのだ。
 

「フッ、やはり兄弟だな。殺生丸と同じように己(おの)が姫を助ける為、躊躇(ちゅうちょ)せず冥道に飛び込むか」
 

となれば殺生丸の時のように冥道石を使うしかあるまい。
如何に“遠見の鏡”といえど映せるのは現世のみ。
冥界に続く冥道の内部まで映すことは出来ん。
狗姫(いぬき)は冥道石を手に取り中を覗いてみた。
冥道が映る。
漆黒の闇色の冥道。
巫女は闇に捕らえられ虚空に浮いている。
気絶しているらしい。
目は固く閉じられている。
半妖の方はと念じれば、ボウッと冥道石が光り、別の場を映し出す。
フム、巫女を探し求めて闇の中、必死に駆けずり回っておるわ。
冥道石をジッと凝視していた狗姫は妙な違和感に気付いた。
この冥道・・・どこか可笑しいな。
冥界の犬も鳥も竜も出て来ない。
あれは冥界ではないのか!?
では、冥界ではないとしたら、何処だ?
もしかすると・・・イヤ、多分、間違いない。
あの冥道は四魂の玉の中に続いていたのだ。
そのまま冥道石で巫女と半妖の様子を観察し続けたが何の変化も起こらない。
 

「このままでは埒(らち)が明かんな」
 

狗姫が焦(じ)れて呟(つぶや)いた。
その時、部屋の外から上臈(じょうろう)女房が狗姫(いぬき)に声をかけてきた。
 

「御方さま、権佐殿が参られました」
 

「権佐が? 通せ」
 

「失礼致します」
 

部屋の中へ権佐が入ってきた。
 

「丁度良い処に来たな、権佐」
 

「ハッ?」
 

「報告に来たのだろう。尾洲と万丈に頼まれ殺生丸に西国への帰還を促す為、人界へ向かうと」
 

「流石は御方さま、お見通しでございましたか」
 

「当然の帰結だな。爆砕牙が出現した以上、もう闘牙の遺言を守る必要はないからな。留守居役の両名が殺生丸に帰国を要請するだろうことは必定」
 

「仰(おっしゃ)る通りにございます」
 

「本来、国主が国元に不在など許される事ではない。だが、爆砕牙が出現するまでは断じて帰国を促してはならぬと先代国主である闘牙が遺言を残している。それに逆らうことなど家臣に出来よう筈もない。殺生丸は気付いてもおらんのだろうな。二百年もの間、あ奴が人界を彷徨う勝手気儘(かってきまま)が通ったのは亡き父のお陰であるなどと。その件は了承した。それでな、権佐、お主に人界へ赴(おもむ)く前に、ある処に寄ってもらいたいのだ」
 

「ある処とは?」
 

「先見(さきみ)の巫女の許へ」
 

狗姫はニヤリと笑って権佐に命(めい)を下(くだ)した。
 


※『愚息行状観察日記(28)=御母堂さま=』に続く

 

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『愚息行状観察日記(26)=御母堂さま=』



※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


女退治屋は、小娘に防毒面を譲って、一人、猫又を急(せ)かし駆けていった。
アッという間に見えなくなった、その姿。
殺生丸達も同じように後に続こうとしたのだろう。
だが、何本もの触手が行く手を阻む。
まるで、女退治屋の後を追わせまいとするかのように。
ビッシリと前方を覆い尽くしているのは鋭い槍の穂先のように尖(とが)った巨大な触手。
以前のモノと比べれば、硬度も毒性も格段に高いのだろう。
周囲に瘴気が充満してきた。
ここが先途(せんど)と見切ったか。
遂に殺生丸が爆砕牙を抜いた!
雷(いかずち)の刃(やいば)が触手を斬る!
轟音とともに破壊されていく触手。
見る見るうちに道が開かれていく。
何度、目にしても凄まじい。
実に怖るべき破壊力だ。
一度(ひとたび)振るえば攻撃対象を文字通り粉々に粉砕し終えるまで持続する破壊効果。
爆砕牙だけが持つ特殊な破壊属性が津波のように速(すみ)やかに波及していく。
今、この瞬間にも、大蜘蛛の体内では休むことなく破壊が拡がっているのだろう。
背後に小娘と小僧を乗せた双頭竜を従え、殺生丸が先陣を切って走っていく。
ムッ、何だ!?
殺生丸が何かを踏みつけたぞ。
あれは、小妖怪ではないか!
あ奴、あんな処にまで来ておったのか。
ホッ、上手く双頭竜の鞍の辺りに蹴飛(けと)ばされおったわ。
 

「御方さま、今、若さまが踏みつけたのは従者の邪見殿では?」
 

「そのようだな」
 

「・・・・・」
 

先を急ぐ殺生丸を、尚も阻止せんとするのか、数本の触手が襲いかかってきた。
無駄なことを、諦めが悪い輩(やから)だな、奈落。
小娘を救出した以上、もう、殺生丸に爆砕牙を封印する理由はない。
これまで自重(じちょう)してきただけに、思う存分、爆砕牙を振るう殺生丸。
更に破壊が増幅されていく。
大蜘蛛の体内を悉(ことごと)く破壊しながら進む殺生丸。
遂に中核の奈落本体に辿り着いた。
半妖が、巫女が、法師が、女退治屋がいる。
仔狐は大玉に変化して空中に浮き半妖と巫女を乗せている。
猫又は法師と女退治屋を騎乗させている。
殺生丸は、勿論、自力で浮遊だ。
小娘と小妖怪、小僧は、双頭竜に騎乗している。
勢揃いだな。
決着の時がきたようだ。
あれが奈落の本体か。
不気味な奴だな。
殆ど頭部だけではないか。
何と、あ奴、爆砕牙の破壊から逃(のが)れるために体を切り離しおった。
オオッ、変化した!
肌色は、どす黒い焦げ茶色に、黒髪は白髪に、丸い耳は尖った妖耳へと変わった。
眼から直ぐ下を耳まで走る妖線。
最早、人とは呼べぬ容貌。
完全に妖怪と化したようだな。
瘴気の塊(かたま)り、瘴気弾を奈落が何発も撃ち出してきた。
半妖が冥道残月破を・・・。
何だ、あの冥道の形は!?
まるで刃(やいば)のようではないか。
 

「御方さま、あれも冥道なのでしょうか?」
 

「どうやら、そうらしいな。殺生丸のモノとは形が違う。恐らく、あれが鉄砕牙の真の冥道なのだろう」
 

刃の形の冥道が何発も奈落を襲う。
真円の冥道と違い攻撃範囲が格段に広い。
奈落を砕いているのだが、又、元のように復元していく。
四魂の玉の力か!?
下から瘴気弾が小娘達を狙って撃ち出されてきた。
無論、殺生丸が爆砕牙で破壊する。
だが、何かに気付いたのか。
殺生丸が小妖怪に下知(げち)を。
どうやら奈落の体内からの脱出を命じたようだ。
主の命に従い、急いで脱出を図る小妖怪。
そこへ外から瘴気弾が!
飛び道具が、それを打ち砕いた。
女退治屋の武器だ。
小娘が女退治屋に防毒面を返す。
小僧も法師に防毒面を譲った。
そして、小娘達は奈落の体内から脱出した。
女退治屋と法師は戦線に復帰していった。
尚も続く激しい攻防。
奈落の瘴気弾が乱れ飛ぶ、迎え撃つは半妖の冥道残月破、殺生丸の爆砕牙、女退治屋の飛び道具、法師の風穴。
あれほど冥道に砕かれ続けているというのに奈落は死なない。
 

「奈落め、しぶといな」
 

「御方さま、あ奴は、どうして死なないのでございましょう」
 

「多分、四魂の玉のせいだろうな。それにな・・・松尾」
 

「それに?」
 

「何かを待っているようなのだ。奈落めの、あの余裕の表情、一体・・・」
 

半妖が奈落を睨んでいる。
攻撃したいのに出来ないらしい。
何故だ!?
その時、殺生丸が奈落に迫り、問答無用(もんどうむよう)で一気に両断した。
崩れ落ちていく大蜘蛛の体。
外部に出てみれば・・・。
オオッ、人里に向かって落ちていこうとする大蜘蛛の体というより残骸。
雨のように降り注ぐ瘴気の塊り。
それらを風穴で必死に吸い込む法師。
地面に降り立った半妖が落ちてこようとする大蜘蛛を冥道残月破で攻撃した。
大蜘蛛の体は殆ど冥道に吸収された。
だが、完全には消滅しない。
渦を巻く巨大な瘴気の玉に変わった。
 


※『愚息行状観察日記(27)=御母堂さま=』に続く

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