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『愚息行状観察日記(26)=御母堂さま=』



※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


女退治屋は、小娘に防毒面を譲って、一人、猫又を急(せ)かし駆けていった。
アッという間に見えなくなった、その姿。
殺生丸達も同じように後に続こうとしたのだろう。
だが、何本もの触手が行く手を阻む。
まるで、女退治屋の後を追わせまいとするかのように。
ビッシリと前方を覆い尽くしているのは鋭い槍の穂先のように尖(とが)った巨大な触手。
以前のモノと比べれば、硬度も毒性も格段に高いのだろう。
周囲に瘴気が充満してきた。
ここが先途(せんど)と見切ったか。
遂に殺生丸が爆砕牙を抜いた!
雷(いかずち)の刃(やいば)が触手を斬る!
轟音とともに破壊されていく触手。
見る見るうちに道が開かれていく。
何度、目にしても凄まじい。
実に怖るべき破壊力だ。
一度(ひとたび)振るえば攻撃対象を文字通り粉々に粉砕し終えるまで持続する破壊効果。
爆砕牙だけが持つ特殊な破壊属性が津波のように速(すみ)やかに波及していく。
今、この瞬間にも、大蜘蛛の体内では休むことなく破壊が拡がっているのだろう。
背後に小娘と小僧を乗せた双頭竜を従え、殺生丸が先陣を切って走っていく。
ムッ、何だ!?
殺生丸が何かを踏みつけたぞ。
あれは、小妖怪ではないか!
あ奴、あんな処にまで来ておったのか。
ホッ、上手く双頭竜の鞍の辺りに蹴飛(けと)ばされおったわ。
 

「御方さま、今、若さまが踏みつけたのは従者の邪見殿では?」
 

「そのようだな」
 

「・・・・・」
 

先を急ぐ殺生丸を、尚も阻止せんとするのか、数本の触手が襲いかかってきた。
無駄なことを、諦めが悪い輩(やから)だな、奈落。
小娘を救出した以上、もう、殺生丸に爆砕牙を封印する理由はない。
これまで自重(じちょう)してきただけに、思う存分、爆砕牙を振るう殺生丸。
更に破壊が増幅されていく。
大蜘蛛の体内を悉(ことごと)く破壊しながら進む殺生丸。
遂に中核の奈落本体に辿り着いた。
半妖が、巫女が、法師が、女退治屋がいる。
仔狐は大玉に変化して空中に浮き半妖と巫女を乗せている。
猫又は法師と女退治屋を騎乗させている。
殺生丸は、勿論、自力で浮遊だ。
小娘と小妖怪、小僧は、双頭竜に騎乗している。
勢揃いだな。
決着の時がきたようだ。
あれが奈落の本体か。
不気味な奴だな。
殆ど頭部だけではないか。
何と、あ奴、爆砕牙の破壊から逃(のが)れるために体を切り離しおった。
オオッ、変化した!
肌色は、どす黒い焦げ茶色に、黒髪は白髪に、丸い耳は尖った妖耳へと変わった。
眼から直ぐ下を耳まで走る妖線。
最早、人とは呼べぬ容貌。
完全に妖怪と化したようだな。
瘴気の塊(かたま)り、瘴気弾を奈落が何発も撃ち出してきた。
半妖が冥道残月破を・・・。
何だ、あの冥道の形は!?
まるで刃(やいば)のようではないか。
 

「御方さま、あれも冥道なのでしょうか?」
 

「どうやら、そうらしいな。殺生丸のモノとは形が違う。恐らく、あれが鉄砕牙の真の冥道なのだろう」
 

刃の形の冥道が何発も奈落を襲う。
真円の冥道と違い攻撃範囲が格段に広い。
奈落を砕いているのだが、又、元のように復元していく。
四魂の玉の力か!?
下から瘴気弾が小娘達を狙って撃ち出されてきた。
無論、殺生丸が爆砕牙で破壊する。
だが、何かに気付いたのか。
殺生丸が小妖怪に下知(げち)を。
どうやら奈落の体内からの脱出を命じたようだ。
主の命に従い、急いで脱出を図る小妖怪。
そこへ外から瘴気弾が!
飛び道具が、それを打ち砕いた。
女退治屋の武器だ。
小娘が女退治屋に防毒面を返す。
小僧も法師に防毒面を譲った。
そして、小娘達は奈落の体内から脱出した。
女退治屋と法師は戦線に復帰していった。
尚も続く激しい攻防。
奈落の瘴気弾が乱れ飛ぶ、迎え撃つは半妖の冥道残月破、殺生丸の爆砕牙、女退治屋の飛び道具、法師の風穴。
あれほど冥道に砕かれ続けているというのに奈落は死なない。
 

「奈落め、しぶといな」
 

「御方さま、あ奴は、どうして死なないのでございましょう」
 

「多分、四魂の玉のせいだろうな。それにな・・・松尾」
 

「それに?」
 

「何かを待っているようなのだ。奈落めの、あの余裕の表情、一体・・・」
 

半妖が奈落を睨んでいる。
攻撃したいのに出来ないらしい。
何故だ!?
その時、殺生丸が奈落に迫り、問答無用(もんどうむよう)で一気に両断した。
崩れ落ちていく大蜘蛛の体。
外部に出てみれば・・・。
オオッ、人里に向かって落ちていこうとする大蜘蛛の体というより残骸。
雨のように降り注ぐ瘴気の塊り。
それらを風穴で必死に吸い込む法師。
地面に降り立った半妖が落ちてこようとする大蜘蛛を冥道残月破で攻撃した。
大蜘蛛の体は殆ど冥道に吸収された。
だが、完全には消滅しない。
渦を巻く巨大な瘴気の玉に変わった。
 


※『愚息行状観察日記(27)=御母堂さま=』に続く

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