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『満月夜話⑤』最終回萌え作品③

考え込む刀々斎に、呼応するように冥加が答える。

「爆砕牙か。まさか、殺生丸様が、あの刀を物にされようとは思ってもみなんだぞ。鉄砕牙をも超える究極の破壊の刀。お館様でさえ手にする事は叶わなんだのに。やはり、殺生丸様が爆砕牙を手中にされたのは相応しい器量と慈悲の御心を備えられたからだな。だからこそ、一度は、犬夜叉様に鉄砕牙で斬られて失った左腕も再生した。」

「確かに殺生丸の変わりようは凄い。。だがな、冥加、奴を、そこまで変えた、りんは、もっと凄いと思うぜ。考えてもみろよ。かごめは、元々、犬夜叉と恋仲だった桔梗って巫女の生まれ変わりだから、大した霊力の持ち主だが、りんには、何の力も無いんだぜ。それどころか、赤ん坊に毛が生えたような童女だったんだ。だが、そんな無力なりんだけが、あの“冷酷無慈悲”が着物きて歩いてるような殺生丸に、慈悲の心を目覚めさせたんだ。驚天動地ったぁこの事だぜ。それだけじゃねえ。りんは二度も『死』を経験してるんだ。一度死んだってんなら、極々、数は少ないが全く居ない訳じゃない。天生牙が有るからな。十六夜様然り、琥珀然り、捜せば他にも居るだろ。でもな、『二度の死』ってのは、聞いた事がねえ。朴仙翁にも云われたんだが、俺は、この事を考えると、どうも、殺生丸とりんは前世でも因縁が有ったんじゃねえかって思っちまうんだ。イヤ、下手すると、前々世でも拘わりが有ったんじゃないかってな。」

冥加も、刀々斎の鋭い指摘に、それまでの認識を新たにして考え始めた。

「フム・・・そう云われてみると.。そうだな、実に摩訶不思議な存在じゃな、りんは。かごめは、骨喰いの井戸を通って別の世界から来たせいもあって、初めから不思議な存在だと、誰もが思う。だが、その実、もっともっと不思議な、驚くべき存在は、身近に存在していた。そういう事じゃな。」

刀々斎の話を聞いていた琥珀も、冥界で自分の経験した事をポツポツと喋り始めた。

「俺も・・そう思います・・刀々斎さま。俺が・・殺生丸さまや・・りんと・・一緒に・・・冥界に・・行った事は・・もう・・お話し・・ました・・よね。あの時・・天空の城で・・殺生丸さまの・・御母堂さまが・・冥道石から・・冥界の犬・・・を呼び出され・・たんです。その犬が・・俺とりんを・・呑み込んで・・冥道に・・逃げ・・込んだんで・・す。俺達を・・追って・・殺生丸さまも・・冥道に・・入られました。俺は・・四魂の・・欠片で・・命を繋いで・・いたから・・冥界の中でも・・平気だった・・けど・・生身の・・りんは・・冥界の・・邪気・・のせいで・・そのまま・・息絶えて・・しまいました。それを・・知った・・殺生丸様が・・どんなに・・衝撃を・・受けられ・・たか。天生牙を・・取り落と・・されたんで・・す。あの・・何物にも・・動じない・・誇り高い・・御方が・・・!そして・・その後・・りんを・・腕に・・抱いた・・まま・・天生牙・・を使って・・山のような・・数の・・亡者どもを・・浄化・・されたんです。俺・・あんな・・神々しい・・光景を・・初めて・・見ました。まるで・・神仏が・・本当に・・現れた・・ような。それと・・同時に・・冥道が・・大きく・・開いて・・俺達は・・天空の・・城に・・戻る事が・・出来ました。でも・・りんは・・息絶えた・・ままでした。そうしたら・・御母堂さまが・・冥道石を・・使って・・冥界に・・取り残され・・た・・りんの・・魂を・・呼び戻して・・くれたんで・・す。あの時・・の眩しい・・魂の・・光・・・凄い・・輝きでし・・た。俺・・奈落に・・操られて・・いた頃・・何度か・・人魂を・・見てるんで・・す。でも・・あんな・・凄い光を・・発する魂は・・一度も・・見た事が・・・有りません。きっと・・・りんの魂は・・・特別・・・なんだろうと・・思います。刀々斎・・さまの・・・仰った・・ように・・りんと・・殺生丸さま・・の間には・・・俺なんか・・には・・想像も・・出来ない・・何か・・不思議な・・繋がりが・・あるんじゃ・・ないかと・・思え・・るんです。」

琥珀の告白に、物識りの冥加が、自分なりの考えを口にする。

「“宿縁“じゃな。仏教で云う処の前世からの因縁、凡そ、この世の一切の事象は、一見、偶然のように見えるが、その実、全てが必然だと云う。恐らく、殺生丸様とりんは、前世でも深い拘わりが有ったのじゃろう。だからこそ、二度の死を得て、尚、りんは生きている。それに、琥珀よ、お主が、此処に、こうしているのも前世からの約束かも知れんぞ。本来なら、当に死んで肉体は土に還り、魂は、あの世に戻っている筈のお主が、今、こうして確かに生きている。何人もの人間、妖怪に助けられてな。これも仏縁のおかげと云っても良かろう。珊瑚にしても同じ事じゃ。お主と同じく、親兄弟、一族を、奈落の謀略により失うという過酷な運命を生き延びた珊瑚。その珊瑚が、奇しくも犬夜叉様と拘わり、助けられ、結果的に志(こころざし)を同じくする心強い仲間を得た。そして長く辛い戦いの果てに奈落を討ち果たし、弟であるお主をも取り戻した。珊瑚自身の強靭な意志有ればこそじゃが、だが、それとても、目に見えぬ神仏の御加護無くしては、事の成就は覚束なかっただろう。」

「アア、その通りだな、冥加。琥珀、おめえになら、多分、判るだろうが、犬夜叉達にゃ、まだピンと来ねえかも知れねえな。法師は、元々、坊主だから、こういう事は、お手の物だろうが。俺達みたいに長い間、生きてるとな、理屈じゃ説明できない不思議な出来事を何度も目にするんだ。そうするとな、段々、この世には、確かに『天の意思』ってもんが有るんだって事を実感するんだ。そういう目で見ると、今回、奈落が滅され、四魂の玉が消滅したのも、全てが巡り合わせで、目には見えねえ天の意思が大きく働いたんだろうと思えるのさ。まず、かごめが、この世界に引き寄せられ、四魂の玉を持ち込んだ。四魂の玉が、かごめを、この世界に引き摺り込んだと思いがちだが、それも、裏を返せば天の意思と解釈する事が出来るんだ。そして、五十年、続いてた犬夜叉の封印を解いた。それが、全ての始まりだ。あらゆる事が、其処から始まってんだ。」

刀々斎の話に、冥加が、説明を加える。

「目に見えぬ因果の糸に導かれておるのじゃ。前世からの因縁、今生(こんじょう)で生じた有縁(うえん)、それらが複雑に絡まりながら宿命を織り成していく。生きている以上、誰もが、否応無く、因果の糸に繋がっておる。これは、妖怪、人間に拘わらず、生物ならば、皆、そうじゃ。イヤ、それだけではない。あの世の者でさえ因果の糸から逃れる事は出来ん。曲霊が良い例じゃ。四魂の玉の中に五百年もの間、潜み、悪心を誘発し続けた悪霊。だが、奴とても、遂には、その報いを受けた。殺生丸様の天生牙によってな。因果応報とは正しくこの事じゃ。」

「何だか、妙に小難しい話になっちまったな。済まん、済まん。マア、とどのつまりが、ぶっちゃけて云えば、悪い心を抱かず真っ当に生きろってこった。その点、琥珀よ、おめえは大丈夫だ。常人には考えも付かない辛い運命に挫けず乗り越えてきたんだからな。」

惚(とぼ)けた風采の刀鍛治が、ポリポリと白髪(しらが)頭を掻きながら、退治屋の少年に言葉を掛ける。

「刀々斎・・・さま。」

「良く頑張ったな、さぞかし辛かっただろう。今日は、そんなおめえを労(ねぎら)ってやろうと思って来たんだが・・・・。結局、わしら老いぼれのの益体(やくたい)も無い話になっちまったな。」

「いえ、そんな事はないです。俺・・・俺・・・嬉しいです。有難う・・・ございます。」

ポツリと琥珀の目から涙が落ちた。
それは、杯の中に沈み、芳醇な酒と混ざり合い甘露となった。
朧(おぼろ)に霞(かす)む春の月が、柔らかな光で、少年と猫又、二匹の老妖怪を照らし続けていた。    了
                           2008.8/5.(火).公開◆◆



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『満月夜話④』最終回萌え作品③

「まあ、ともかく、御兄弟それぞれに、相応しい相手を見つけられて何よりじゃ。」

「ン~~~犬夜叉は、かごめと、ひっついて目出度し目出度しなんだろうが、殺生丸の方は、もうチッと待たにゃならんだろうな。りんは、年頃っつうには、まだ少し早いぜ。」

「何、人間の成長は早い。もう数年の辛抱じゃ。お館様が、初めて犬夜叉様の母君、十六夜様に出会われた時も、十六夜様は、まだ裳着(もぎ)も済ませてない幼子じゃった。」

「ダア~~ッ、んじゃ何か、冥加。殺生丸の“幼女好み”は、親譲りだってぇのか?」

「刀々斎、人(妖)聞きの悪い。『源氏趣味』と云わんかい。」

「ケッ、言葉を飾ったって中身は一緒だろうが。」

「そうかも知れんが、そう云ってしまっては身も蓋もない。」

「知るか!んでもって、殺生丸の奴、りんが成長するまで、セッセと人里に通って人間の男どもに牽制と威嚇をかまし続けるんか?ハア~~ご苦労なこった。昔の奴だったら、死んでも、そんな真似はせんかっただろうに。冥加、おめえの言い種じゃねえが、本当に変われば変わるもんだよなあ。」

「刀々斎さま・・冥加さま・・俺・・以前・・姉上に・・会いに村へ・・行った事が・・有るんです。その時・・りんが・・村の悪餓鬼ども・・に困らされてて・・助けようとしたら・・・・殺生丸さまが・・イキナリ現れて・・そいつらを・・睨み付け・・て追い払った・・んで・・す。」

「クゥ~~~ッ、殺生丸の奴、りんが心配で心配で堪らんのだな。あいつが、そんなに過保護だとは知らんかったぞ!」

「犬夜叉様も、かごめには、てんで弱いからのう。かごめが、涙のひとつでも流してみい。もうオロオロと慌てまくって。御兄弟揃って、自分の女には、からっきし弱いんじゃな。」

「本当に似た者同士の馬鹿兄弟だぜ。」

言いたい放題の話の合間にパチッと火の子が飛ぶ。
春とは云え、まだ夜は冷える。
焚き火に新しい薪がくべられた。
衰えかけていた火勢が勢いを取り戻す。
ミュ~~、猫又が、可愛らしい声で鳴き、琥珀の膝に乗ってきた。
そのまま心地良さげに膝の上に収まり、ゴロゴロと喉を鳴らし、眠り始めた。

「琥珀、キララ、珊瑚から借りてきたんか?」

「ハイ・・刀々斎さま・・・姉上が・・修行の旅に出る・・と云ったら・・一緒に・・連れて行くように・・と。」

「そうだな、珊瑚は、当分、あの村に法師と腰を据えるだろうしな。そうそう、どうだ、新しい鎖鎌の調子は?」

手元に置いた見るからに怖ろしげな形状の代物を、琥珀が、軽々と持ち上げて見せる。
これは、つい先頃、刀々斎に注文して作ってもらった琥珀の新しい武器である。
ジャラッ・・・鎌に付けられた鎖が鳴る。
以前の鎖鎌に比べ、何倍も大きい。
その分、殺傷能力も、重みも増している。

「そうですね・・・まだ・・少し・・使い慣れ・・・てませんが・・段々・・と手に馴染んで・・きました。」

「そうか、そいつは良かった。それにしても、琥珀よ。考えてみれば、おめえも随分、数奇(すうき)な運命だよな。」

「・・・数奇(すうき)?」

「だってよ、考えてもみろ。おめえは、一度、死んでるんだぜ。それを、奈落が、四魂の欠片を使って、おめえの命を今生(こんじょう)に繋ぎ止めた。謂わば、生きた死人だった。それが、桔梗の光によって、完全に生き返った訳なんだからな。」

「ハイ・・まさか・・・桔梗さまが・・俺の・・命を救って・・くれるとは思って・・ませんでした。俺の欠片は・・奈落の浄化・・に使う筈・・でしたから。」

「桔梗だけじゃねえ。おめえ、奈落の分身の神楽にも助けられただろう。それに、りんと殺生丸には確か二度も命を助けられてるんだったな。それを考えたら命を粗末にするんじゃねえぞ。」

「ハイ・・俺・・・以前は・・奈落を・・討ち果たせた・・ら・・何時・・死んでも良い・・・なんて思って・・ました。でも・・桔梗さま・・の光が・・俺を・・救って・・くれました。神楽も・・俺の事・・なんて・・放っておけば・・・良かったのに・・魍魎丸から・・庇って・・逃して・・くれたんです。それだけじゃない・・奈落に・・操られていたとは・・云え・・りんを・・殺そうとした・・俺を・・殺生丸さま・・は逃して・・くれたんです。夢幻の白夜に・・襲われた時も・・そうでした。瘴気の・・蛇に噛まれ・・そのまま・・だったら・・死んでた・・筈の・・俺を・・助けて・・くれたんです。桔梗さまも・・神楽も・・今は・・もう居ない・・けど・・あの二人に・・受けた恩・・それに・・りんと殺生丸さま・・に受けた・・御恩は・・生涯・・忘れま・・せん。」

「その気持ちを忘れない限り、お前は、道を誤る事はないじゃろう。それにしても、琥珀の話を聞いて改めて思ったんじゃが、殺生丸様の変わり様は本当に凄い。以前のあの方を知る者には、到底、信じられん話だろうな。」

冥加が、感慨深げに頷(うなず)く。

「それに・・俺だけ・・じゃないんで・・す。姉上も・・奈落との・・最後の戦い・・の時・・仕方が無かった・・とは云え・・りんを・・殺そうと・・したんです。夢幻の・・白夜の・・幻に騙され・・て・・・・。俺達・・退治屋・・姉弟は・・何度・・殺生丸さま・・に殺されたって・・可笑しくない・・事を・・してきたんで・・す。あの方に・・とって・・・何よりも・・誰よりも・・大事な・・りんを・・殺そうと・・したんです・・から。なのに・・俺達は・・今も・・許されて・・生きている。」

「そんな事が有ったんか。良く殺生丸に殺されずに済んだな、珊瑚。そうか・・・だから、爆砕牙も現れたんだな。奴の慈悲心が本物だから。」」

何時も惚(とぼ)けた顔の刀々斎が、真顔で考え込む。

                        2008.8/4.(月).公開◆◆


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『満月夜話③』最終回萌え作品③

「やはり、何と云っても、同じ父君の血を引く御兄弟じゃからな。」

「大体、犬夜叉が、鉄砕牙を手に入れたのも、かごめ絡みじゃなかったか?冥加。」

「ウムッ、そう云われれば、あの時、台座に突き刺さっていた鉄砕牙を抜いたのは、かごめだったな。殺生丸様は、勿論、犬夜叉様でさえも抜けなんだのに。」

「そんでもって、殺生丸が、天生牙を、やっと正しく使った時も、りんが、絡んでるしな。どうも、あいつら馬鹿兄弟は、自分の女、つまりは『守る者』を見つける事によって、運命が開けるようだな。犬夜叉にとっての『かごめ』然り、殺生丸にとっての『りん』然り。それまでは、奴らが、どう足掻こうが、運命の扉はビクともせんかった。そういう星の許に生まれてんだな。」

「鉄砕牙は、元々、お館様が、犬夜叉様の母君、人間である十六夜様を守る為に作らせた刀だからな。当然、守る者の為でなければ発動せん。天生牙に至っては、敵を滅するどころか、完全なる“癒し”の刀じゃ。慈悲の心無き者には何の価値も見出せまい。そう考えると、お館様は、ご子息それぞれに、必要な者を見出す為の刀を残された訳だな。まるで、息子達の未来を予見したかのように。イヤ、もしかすると、本当に御存知だったのかも知れん。」

「かごめは、鉄砕牙を発動させ、りんは、天生牙を、イヤ、殺生丸の中に眠っていた慈悲の心を発動させたってこったな。」

「あの・・刀々斎さま・・・以前の・・殺生丸さまは・・・そんな・・に怖ろしい方・・だったんですか?」

酔いが、少し、醒めたのか、琥珀が、大分、シッカリした口調で話しかけて来た。

「琥珀よ、おめえは、りんと一緒の殺生丸しか知らんだろうから無理もないが。それ以前の殺生丸と来たら、全く容赦なしでな。“冷酷無慈悲”を、それこそ地で行ってたんだぜ。このワシにしたって、何遍、あいつに、危うく殺されそうになった事か。」

ポリポリと頭を掻きつつ琥珀の疑問に答えてやる刀々斎。
肩に担いだ大きな金槌が、如何にも刀鍛治らしい。

「ムウッ、刀々斎の云う通りじゃぞ、琥珀。殺生丸様は、西国のお世継ぎだけあって、幼い頃から徹底した帝王教育を受けてこられた御方じゃ。元々の性格もあったんじゃろうが、そのせいで、人一倍、矜持が高い。その上、強さに対して妄信的なまでの価値を見出しておられた。だから、弱者に対する情けなど欠片ほども持ち合わせておられんかった。人間など、当然、『虫けら』程度の認識じゃ。そんな殺生丸様が、唯一、尊敬しておられた父君が、人間である犬夜叉様の母君を救う為に命を落とされたんじゃ。畢竟(ひっきょう)、それが原因で、殺生丸様の人間に対する憎悪、嫌悪感は、一方ならぬ物があったのじゃ。」

冥加も、刀々斎に同意して答える。

「でも・・狼に・・かみ殺された・・・りんを・・救ったの・・も殺生丸さま・・ですよね。」

「ウムッ、そこの処が、良く判らんのじゃ。一体、どういう経緯(いきさつ)が有って、りんを助けたのか。邪見に聞いても、サッパリ、要領を得んしのう。マア、犬夜叉様に『風の傷』をお見舞いされた後だという事だけは確かなんじゃが。」

「冥加さま・・俺・奈落に・・操られていた頃・・りんを・・殺そうとした事が・・有るんです。本当なら・・殺生丸さまに殺されたって・・・チットモ・・おかしくない・・状況でした。なのに・・殺されずに・・放たれました。」

「フム・・・・やはり、りんに出会ってからの殺生丸様は、以前とは違うな。」

「だな。りんに会う前の殺生丸なら、問答無用で、即刻、“瞬殺”だろうぜ。あいつは、元々、おっそろしく短気なんだしよ。」

イモリの黒焼きをバリバリほお張りながら、刀々斎も、冥加に同意する。

「大体、奈落を追いかけるようになったのも、元はといや、りんが“拉致”されたせいなんだよな。それ以前に、チョッカイ掛けられたせいも有ったんだろうが。自分が保護してる『りん』に危害を加えられそうになった。奈落め、けしからん!落とし前付けてやるっ!てえ、丸っきり、餓鬼大将みてえな魂胆からなんだぜ。」

「殺生丸様も、結構、大人気ないのう。」

「馬鹿云ってんじゃねえよ、冥加。あいつは、スカした形(なり)や言葉遣いのせいで、一見、分別を弁(わきま)えてるように見えるがな。中身は、単細胞で喧嘩っ早い犬夜叉とドッチコッチの餓鬼なんだぜ。あいつらに比べれば、実際の年は下だろうが、法師の方が、遥かに精神的に大人ってもんだ。」

「ウ~~ム、そう云われれば返す言葉もないな。」

「とにかく、最終的に、犬夜叉は、冥道残月破を、鉄砕牙に取り込んで自分の物にしたし、殺生丸は、殺生丸で、左腕を取り戻し、爆砕牙を手に入れた。結局の処、全ては、お館様の望んだ通りになったってえ訳だ。」

「つまり、御二方とも、成長された。『大人』になったと云えるのだな、刀々斎よ。」

「そうだな。見た処、犬夜叉は、相変わらずの乱暴者だし、殺生丸も、以前と大して変わらん無愛想な奴だ。だが、確かに、何かが、変わった。犬夜叉は、かごめと拘わる事によって、今まで厭(いと)うてきた自分の半妖としての弱さを直視し、それを受け入れた。だが、それによって仲間を得、真の強さを手に入れた。殺生丸は、殺生丸で、りんと拘わる事により、慈悲の心を目覚めさせ、真の大妖怪に相応しい心情と力量を手に入れた。あいつは、なまじっか力が有り過ぎるばっかりに、あのままじゃ、力だけ、強さだけを追い求める愚か者で終わっちまっただろうからな。それでは、どうやったって、お館様を超える事は出来ん。」

                     2008.8/3.(日).公開◆◆
 

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『満月夜話②』最終回萌え作品③

「それはそうとよ、琥珀、おめえ、あれから珊瑚に顔を見せに村に帰ったか?」

刀々斎が、日頃の不義理を、鋭く琥珀に突っ込む。

「イエ・・何しろ・・そのぉ~~あの家・・狭い上にぃ~~家族が多く・・て。それにぃ~~姉上と法師・さまぁ~~仲が良い・・のはぁ~~有り難いんですが・・ああも・・目の前でぇ~~見せ付けられると・・正直・・・目のやり場に困りますぅ~~。」

「まあ、確かにそうだな。仲睦まじいのは結構なんだが、あんだけイチャイチャされると、独り者には却って目の毒だわな。じゃあ、珊瑚が、三人目の子供を産んだ事も知らねえな。」

刀々斎の発言に驚く琥珀。

「エエッ!まっ・・また・・産まれ・たんです・・かぁ~~」

「先日、わしが、犬夜叉様の様子を窺(うかが)いに村へ寄って来たんじゃ。上の双子は女子(おなご)じゃったが、今回、珊瑚が産んだ三人目の赤ん坊は男の子じゃ。あの調子だと、まだまだ、増えるな。」

ピョ———ン、冥加が、キララから、刀々斎の肩に跳び移り、話に乗り出してきた。

「つまり、おめえは、今や、二人の姪っ子と甥っ子が一人いる叔父さんっつう訳だ。まあ、精々、頑張れや。」

すかさず、刀々斎が、合いの手を入れる。
掛け合い漫才の呼吸である。
更に畳みかけるように、冥加が、今回、判明した衝撃的事実を告げる。

「それだけではないぞ。 何とっ! かごめが戻ってきたんじゃっ! 三年ぶりに骨喰いの井戸を通って!」

「エッ!そっ、それ・・・本当ですか!」

「勿論じゃとも!実に喜ばしい事じゃっ!ウウッ・・・犬夜叉様が、この三年間、どんなに、かごめに逢いたいと待ち焦がれておられたか。意地っ張りな御方ゆえ、絶対に、そんな素振りは、お見せにならなんだが・・・・。この冥加、犬夜叉様の僕として、こんなに嬉しい事はないわい。」

感極まったのか、冥加が、グスッと涙ぐむ。

「これで、もう、犬夜叉が、一人、ポツンと寂しそうにしているのを見ずに済むな。助かったぜ。元々、あいつらは、お神酒徳利みてえに、何時も、一緒だったからな。やっぱり、二人揃ってないと調子が狂うぜ。」

刀々斎も、人知れず、犬夜叉の心配をしていたらしい。
ポツリと述懐する。

「そう・・ですか。良かったぁ~~。犬夜叉さま・・・本当に・・良かったですねぇ~。」

琥珀も、かごめの事は、随分、気になっていた。姉の珊瑚の仲間というだけではない。かごめの霊力なくして奈落と四魂の玉の消滅は有り得なかったし、何より、かごめは、敬愛する今は亡き桔梗の生まれ変わりでも在る。更に、かごめは、犬夜叉にとって誰よりも大切な恋人だった。

「残るは、殺生丸と、あの嬢ちゃんだな。」

「刀々斎よ、それは、殺生丸様が、以前、連れ歩いていた童女の“りん”の事か?」

「アア、今は、村の長老でもある巫女の楓に預けられて暮らしてるそうなんだがな。おめえ、村に寄ったついでに見掛けたんじゃねえのか?」

「りんは・・・元気・・でしたか? 冥加さま。」

琥珀も気になるのだろう。遠慮がちに尋ねてきた。

「ウムッ、村に寄った時、チラッと目にしたんだが、随分、綺麗になっておったぞ。三年前に比べると、背も、大分、伸びておってな。イヤァ~~雛には稀な美少女じゃのう。後、三年もすれば、それはそれは、見目麗しい女子(おなご)になって引く手数多(あまた)は間違いなしじゃ。」

「ハッ! それじゃ、さぞかし、殺生丸が、近郷近在の男という男ども全てを警戒して神経を尖らしてるこったろうぜ。 冥加、おめえ、知ってっか? あの殺生丸が、この三年間、欠かさず、三日に一度は、あの嬢ちゃんに逢う為に、あの村に通い詰めてるってえ事を。」

「なっ、何と! そっ、そうなのか!?! あっ、あの大の人間嫌いだった殺生丸様がっ! ハア~~~変われば変わるもんじゃなあ。」

「俺もよ、つい先日、朴仙翁の処で聞いてきたばっかりなんだよ。あの樹仙の爺さん、おっそろしい情報通だぜ。自分が、あの場所から動けないもんだから、その分、鳥や獣を手懐(てなず)けて、アチコチの情報を、逐一、仕入れてんのさ。久し振りに世間話でもしてやろうと寄ってみたら、却って、こっちの方が驚かされる羽目になっちまってな。にしてもなあ、殺生丸の奴が、あのチッコイ嬢ちゃんに、其処まで真剣だとは思ってなかったぜ。エラク大事にしてるとは思ってたけどな。」

「りんは・・殺生丸さま・・に取って・・・特別・・でしたから・・・。」

琥珀が、以前、一緒に旅をしていた頃の事を思い出したのだろう。
ポツリポツリと喋り始めた。

「確かにな。琥珀、おめえから聞いた話じゃ、冥界まで取り戻しに行ったくらいだもんな。並大抵の執着じゃねえ事は確かだよな。大体、殺生丸が変わり出したのって、あの嬢ちゃんと拘わってからじゃねえのか?」

「俺が・・殺生丸さま・・のお供に・・加えて頂いたのは・・・。桔梗さま・・から離れて・・・奈落の分身・・夢幻の・・白夜に・・襲われたのを・・助けて貰った・・・時からです。それ以前・・の殺生丸さま・・の事は良く知りません。何でも・・邪見さま・・の云う事によると・・・りんは・・狼に襲われ・・て死んでた・・そうです。詳しい経緯(いきさつ)・は判りませんが・・殺生丸さま・・が・・天生牙を・・使って・・りんを・・・生き返らせ・・たんだと。」

「フ~~ン、多分、そん時、初めて、殺生丸が、天生牙を、本来の意味で使ったんだろうな。それまでは、単なる親父殿の“形見”としてお飾り同然の扱いだったもんな。」

「つまり、殺生丸様を変えたのは、童女の“りん“という訳だな。ンンッ、そう云えば、犬夜叉様が変わったのも、かごめと出会ってからではなかったか?」

冥加が、酒をチュ~~~と吸いこみながら、合いの手を入れる。

「ア”ッ、そうそう、思い出した! 此間(こないだ)、バッタリ、七宝と鉢合わせしたんだよ。狐妖術の試験の帰りだったらしい。その七宝がな、犬夜叉には内緒だって、コッソリ教えてくれたんだけどよ。殺生丸だけじゃねえ、犬夜叉もな、この三年間、ズ~~ッと、三日に一度は骨喰いの井戸に入っちゃ試してたらしいぜ。かごめに、何とか、もう一度、逢えないかってな。あの犬の馬鹿兄弟、仲悪い癖に、そういう処は、ソックリなんだよな。」

刀々斎が、グビリと酒を呷(あお)りつつ、殺生丸と犬夜叉を扱(こ)き下ろす。

                     2008.8/2.(土).公開◆◆



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『満月夜話①』最終回萌え作品③

陽が暮れた森の中、少し開けた草地でチロチロと燃える炎。
焚き火に炙られた魚から落ちた脂が焦げる。
ジュワッ、滲みだした脂の匂いが食欲をそそる。
程よく焼けた魚を串から外し、息を吹きかけ少し冷ましてやる。
そうしてから、見るだにに可愛いらしい子猫に焼き魚を与える少年。
猫なだけに猫舌を気づかったのだろう。

「ほら、キララ、魚が焼けたよ。一応、冷ましたけど、まだ、熱いかも知れないから、気を付けてお上がり。」

子猫? イヤ、単なる猫ではない。
尻尾が二股に分かれている。
世に言う、化け猫、『猫又』である。
一度(ひとたび)変化すれば、巨大化し、妖火を発し空を飛ぶ事が出来る。
目の前の少年の一人や二人、軽い物である。
少年とは云うものの、かなり背が高い。
成長期特有の若木のように伸びやかな肢体。
ピッタリと身体に張り付く不思議な装束が、少年の素性を物語っている。
明らかに少年は農作業に従事する百姓ではない。
武士のような形(なり)ではないが、戦闘仕様である事は間違いない。
寧ろ、機能面から云えば、遥かに性能が高いのではないだろうか。
スラリとしてはいるものの、鍛え上げた筋肉が、隙の無い身のこなしが、少年が戦いに生きる者である事を証明している。
それは柔和な優しい顔立ちには少し不釣合いな感じがする程に。
もう少し精悍な面構えだったら、青年と云っても充分に通るだろう。
少年と猫又が食事を終えた頃、中天にかかる満月を背景に飛行する何者かが近づいてきた。
即座に緊張して自分の得物を手にする少年、猫又も、何時でも変化出来るように身構えている。
少年が手にした武器が、これまた珍しい。
鎖鎌の一種なのだろうが、怖ろしく大きい上に、何とも不気味な形状をしている。
かなりの重量を感じさせる代物。
常人ならば、持ち上げる事さえ容易ではない筈。
なのに、少年は、軽々と掴み上げている。
日頃の鍛錬の賜物だろう。
奇妙な物体が近づいてくるに従い、少年と猫又は、警戒を解いた。
顔見知りの妖怪、刀鍛冶の刀々斎が、三つ目の妖牛、猛々に跨ってやって来たのである。

「よお、琥珀、元気か? 気持ちの良い月夜の晩じゃねえか。 チョックラ晩酌に付き合えや。」

「刀々斎さま、お久しぶりです。」

「わしも居るぞっ!」

良く目を凝らさなければ見えないような大きさのノミ妖怪、冥加も一緒らしい。
形に似合わぬ大きな声が、五月蝿く,、その存在を主張している。
ピョ———ン、刀々斎の肩から、より居心地の良いキララの毛皮の中へと鞍替えする冥加。
早速、猫又の美味しい血を頂く積もりなのだろう。
何時もながら、現金な態度である。
こうして妖怪と人間の珍妙な酒盛りが始まった。
大きな瓢箪から持参した器にトクトクと酒を注ぐと、それを、琥珀に勧める刀々斎。

「まあ、飲めや。こないだ、薬老毒仙の処に寄ったついでにくすねてきた酒だ。何、気にすんな。あそこにゃ売るほど酒が溢れてるんだ。」

「刀々斎さま、俺・・・酒を飲んだ事がないんです。」

「何っ! 酒を飲んだ事がないっ? 今時、珍しい少年ではないか、刀々斎。」

冥加がピョンピョン跳ねながら口を挟んできた。
キララが毛づくろいをする毎に、外へ跳ね飛ばされるのだが、凝りもせずに舞い戻る。

「琥珀よ。」

「はい。」

「おめえ、幾つになった?」

「はっ、はい、十四になりました。」

「十四か。人間なら、ソロソロ、元服しても良い頃だよな。琥珀、おめえは、強い退治屋になる為、修行してるんだろうが、酒を飲むのも修行の一環だぜ。人付き合い、イヤ、妖怪付き合いにも酒盛りは欠かせん。」

「そうなんですか?」

「おうよ、そうして酒を通して肝胆相照らす仲になるのよ。」

「確かに、大人の付き合いに酒は欠かせんな。」

「冥加、おめえは、そう云っちゃ、何時も俺の秘蔵のマタタビ酒をゴッソリ飲んでくよな。」

「まあまあ、それも付き合いの内、固い事を云うな、刀々斎。」

「刀々斎さま、それ、頂きます。」

意を決したのか、琥珀が、なみなみと注がれた酒の器を受け取り、一気に飲み干す。

「フゥ~~~」

「オオッ、良い飲みっぷりじゃねえか。 琥珀、おめえ、結構、いける口か?」

「なっ・・何だか・・身体がぁ~~フワフワしてぇ~~。きっ・・気持ちがぁ・・軽ぅ~~くなった・ような・・感じ・でぇ~~す。」

どうやら琥珀は、かなり酒に弱い性質(たち)らしい。
飲み終わった途端に、顔全体が、ポッと赤くなり、目もトロンとしている。
身体もフラフラして重心が定まらないらしい。

「アリャリャ、琥珀の奴、もう酔っておるぞ、刀々斎。」

「みてえだな、こりゃ、大分、酒に弱いようだ。」

「ウ~~~ム、そうじゃな、犬夜叉様並みの酒の弱さじゃ。」

「何だ、冥加、おめえ、犬夜叉が酔っ払った処を見た事あんのか?」

「ほれ、この前、珊瑚の飛来骨を修理する為に、薬老毒仙の許へ、皆を案内した事があったじゃろう。」

「アア、そういや有ったな。そんな事が。」

「その時、犬夜叉様が、薬老毒仙に、酒甕に突っ込まれてな。それで、意外に酒に弱い事が判ったのじゃ。」

「フ~~~ン、あいつは鼻が利くからな。それで、匂いに酔っちまったのかもな。その点、兄貴の方は違うぜ。昔、殺生丸が子供の頃、犬の大将に連れられて、わしの処に来た事があったんだがな。そん時、大将は、奥方から借りてきた“切れずの瓢(ふくべ)”を持参しておったのよ。」

「あの薬老毒仙から巻き上げた底無しの瓢箪か?」

「アア、どんなに注いでも注いでも酒が切れねえっつう飲兵衛(のんべえ)には夢のようなお宝よ。そこで、当然、わしと大将は酒盛りを始めたんだがな。殺生丸の奴、ニコリともせず無表情のまんま、無言で隣にジッと座ってんのよ。何とも窮屈な感じでな。それで、一丁、酒でも飲ましてみるかと思った訳だ。」

「フム、それで、どうなったのじゃ、刀々斎。」

「・・・・どうもならん。あいつ、全然、顔色も変えず無言のまんま、延々と酒を飲み続けたんだよ。酔っ払った素振りひとつ見せんでな。本当に、あいつは、今もそうだが、子供の頃から可愛げの無い性格だった。父親の大将とは似ても似つかん。そう云えば、犬夜叉の奴も、あんまり大将には似てねえな。切れると乱暴な処だけはソックリだが・・・。 ンンッ? そこん処は、兄貴の殺生丸も同じだな。」

「とにかく、犬夜叉さまと云い、殺生丸さまと云い、わがままで乱暴な事は、間違いないわい。」

酒が回ってきたのか、冥加も、云いたい放題、喋り始めた。

「いっ・犬・夜叉さぁま・もぉ~~わがまま・・なんでぇすかぁ~~?」

琥珀が、呂律(ろれつ)の回らない口調で話に参加してきた。
冥加が、得たりとばかりに答える。

「勿論じゃ。チョッと気に入らないと、す~~ぐ暴力を振るわれる。短気な処は、昔っから少しも変わらん。」

「やっぱりぃ~~御兄弟・・だけ・・あって・・・ヒック・・似てるんで・・すねぇ~~。殺生丸・・さぁま・・もぉ・何か・・気に入らな・・いと・・邪見さまぁ~~に・・暴力・・を振るわれ・・てましたぁ~~。」

「邪見か。あ奴は、自分から僕(しもべ)に志願しただけあって、殺生丸さまに心酔しておるからな。」

「冥加よ、おめえも、少しは奴を見習ったらどうだい? あの“御主人様命”の根性は見上げたもんだぜ。」

「馬鹿もん! 邪見は人頭杖を持っておろうが。 わしは、あいつと違って、武器ひとつ持っておらんのじゃぞ。危なくなったら、逃げるしか他に手は無いじゃろうが!」

「ン~~~でもなあ、おめえは、武器が有ったとしても逃げてると思うけどな。」

「なっ、何という・・・・。刀々斎よ、それじゃ、わしは、丸っきりの卑怯者じゃないか!」

「違うのか? 状況が不利と見るや、即、主人を見捨てて逃げ出す。おめえは、昔っから、そういう奴だと思ってたがな。」

「でもぉ~~前に・・殺生丸・・さまぁ~と犬・・夜叉さまがぁ~~死神鬼とぉ~戦ってる・・最中~冥加さまがぁ~飛び込んで・・いらっ・・しゃった事がぁ~有りました・・よ・・ね。」

「ありゃな、琥珀、法師に、無理矢理、札に乗せられて飛ばされたせいなんだぜ。」

「なっ、何を云うかっ、刀々斎! あっ、あの時はだな、わしが、自主的に乗り込んで・・・。」

「違うのか? あの後、おめえ、わしん処(とこ)にきて、散々、その事について愚痴ってったじゃねえか。」

「グッ・・・(そっ、そうだった。しまった!墓穴を掘った・・・)」

                             2008.8/1.(金).公開◆◆



 

「それはそうとよ、琥珀、おめえ、あれから珊瑚に顔を見せに村に帰ったか?」

刀々斎が、日頃の不義理を、鋭く琥珀に突っ込む。

「イエ・・何しろ・・そのぉ~~あの家・・狭い上にぃ~~家族が多く・・て。それにぃ~~姉上と法師・さまぁ~~仲が良い・・のはぁ~~有り難いんですが・・ああも・・目の前でぇ~~見せ付けられると・・正直・・・目のやり場に困りますぅ~~。」

「まあ、確かにそうだな。仲睦まじいのは結構なんだが、あんだけイチャイチャされると、独り者には却って目の毒だわな。じゃあ、珊瑚が、三人目の子供を産んだ事も知らねえな。」

刀々斎の発言に驚く琥珀。

「エエッ!まっ・・また・・産まれ・たんです・・かぁ~~」

「先日、わしが、犬夜叉様の様子を窺(うかが)いに村へ寄って来たんじゃ。上の双子は女子(おなご)じゃったが、今回、珊瑚が産んだ三人目の赤ん坊は男の子じゃ。あの調子だと、まだまだ、増えるな。」

ピョ———ン、冥加が、キララから、刀々斎の肩に跳び移り、話に乗り出してきた。

「つまり、おめえは、今や、二人の姪っ子と甥っ子が一人いる叔父さんっつう訳だ。まあ、精々、頑張れや。」

すかさず、刀々斎が、合いの手を入れる。
掛け合い漫才の呼吸である。
更に畳みかけるように、冥加が、今回、判明した衝撃的事実を告げる。

「それだけではないぞ。 何とっ! かごめが戻ってきたんじゃっ! 三年ぶりに骨喰いの井戸を通って!」

「エッ!そっ、それ・・・本当ですか!」

「勿論じゃとも!実に喜ばしい事じゃっ!ウウッ・・・犬夜叉様が、この三年間、どんなに、かごめに逢いたいと待ち焦がれておられたか。意地っ張りな御方ゆえ、絶対に、そんな素振りは、お見せにならなんだが・・・・。この冥加、犬夜叉様の僕として、こんなに嬉しい事はないわい。」

感極まったのか、冥加が、グスッと涙ぐむ。

「これで、もう、犬夜叉が、一人、ポツンと寂しそうにしているのを見ずに済むな。助かったぜ。元々、あいつらは、お神酒徳利みてえに、何時も、一緒だったからな。やっぱり、二人揃ってないと調子が狂うぜ。」

刀々斎も、人知れず、犬夜叉の心配をしていたらしい。
ポツリと述懐する。

「そう・・ですか。良かったぁ~~。犬夜叉さま・・・本当に・・良かったですねぇ~。」

琥珀も、かごめの事は、随分、気になっていた。姉の珊瑚の仲間というだけではない。かごめの霊力なくして奈落と四魂の玉の消滅は有り得なかったし、何より、かごめは、敬愛する今は亡き桔梗の生まれ変わりでも在る。更に、かごめは、犬夜叉にとって誰よりも大切な恋人だった。

「残るは、殺生丸と、あの嬢ちゃんだな。」

「刀々斎よ、それは、殺生丸様が、以前、連れ歩いていた童女の“りん”の事か?」

「アア、今は、村の長老でもある巫女の楓に預けられて暮らしてるそうなんだがな。おめえ、村に寄ったついでに見掛けたんじゃねえのか?」

「りんは・・・元気・・でしたか? 冥加さま。」

琥珀も気になるのだろう。遠慮がちに尋ねてきた。

「ウムッ、村に寄った時、チラッと目にしたんだが、随分、綺麗になっておったぞ。三年前に比べると、背も、大分、伸びておってな。イヤァ~~雛には稀な美少女じゃのう。後、三年もすれば、それはそれは、見目麗しい女子(おなご)になって引く手数多(あまた)は間違いなしじゃ。」

「ハッ! それじゃ、さぞかし、殺生丸が、近郷近在の男という男ども全てを警戒して神経を尖らしてるこったろうぜ。 冥加、おめえ、知ってっか? あの殺生丸が、この三年間、欠かさず、三日に一度は、あの嬢ちゃんに逢う為に、あの村に通い詰めてるってえ事を。」

「なっ、何と! そっ、そうなのか!?! あっ、あの大の人間嫌いだった殺生丸様がっ! ハア~~~変われば変わるもんじゃなあ。」

「俺もよ、つい先日、朴仙翁の処で聞いてきたばっかりなんだよ。あの樹仙の爺さん、おっそろしい情報通だぜ。自分が、あの場所から動けないもんだから、その分、鳥や獣を手懐(てなず)けて、アチコチの情報を、逐一、仕入れてんのさ。久し振りに世間話でもしてやろうと寄ってみたら、却って、こっちの方が驚かされる羽目になっちまってな。にしてもなあ、殺生丸の奴が、あのチッコイ嬢ちゃんに、其処まで真剣だとは思ってなかったぜ。エラク大事にしてるとは思ってたけどな。」

「りんは・・殺生丸さま・・に取って・・・特別・・でしたから・・・。」

琥珀が、以前、一緒に旅をしていた頃の事を思い出したのだろう。
ポツリポツリと喋り始めた。

「確かにな。琥珀、おめえから聞いた話じゃ、冥界まで取り戻しに行ったくらいだもんな。並大抵の執着じゃねえ事は確かだよな。大体、殺生丸が変わり出したのって、あの嬢ちゃんと拘わってからじゃねえのか?」

「俺が・・殺生丸さま・・のお供に・・加えて頂いたのは・・・。桔梗さま・・から離れて・・・奈落の分身・・夢幻の・・白夜に・・襲われたのを・・助けて貰った・・・時からです。それ以前・・の殺生丸さま・・の事は良く知りません。何でも・・邪見さま・・の云う事によると・・・りんは・・狼に襲われ・・て死んでた・・そうです。詳しい経緯(いきさつ)・は判りませんが・・殺生丸さま・・が・・天生牙を・・使って・・りんを・・・生き返らせ・・たんだと。」

「フ~~ン、多分、そん時、初めて、殺生丸が、天生牙を、本来の意味で使ったんだろうな。それまでは、単なる親父殿の“形見”としてお飾り同然の扱いだったもんな。」

「つまり、殺生丸様を変えたのは、童女の“りん“という訳だな。ンンッ、そう云えば、犬夜叉様が変わったのも、かごめと出会ってからではなかったか?」

冥加が、酒をチュ~~~と吸いこみながら、合いの手を入れる。

「ア”ッ、そうそう、思い出した! 此間(こないだ)、バッタリ、七宝と鉢合わせしたんだよ。狐妖術の試験の帰りだったらしい。その七宝がな、犬夜叉には内緒だって、コッソリ教えてくれたんだけどよ。殺生丸だけじゃねえ、犬夜叉もな、この三年間、ズ~~ッと、三日に一度は骨喰いの井戸に入っちゃ試してたらしいぜ。かごめに、何とか、もう一度、逢えないかってな。あの犬の馬鹿兄弟、仲悪い癖に、そういう処は、ソックリなんだよな。」

刀々斎が、グビリと酒を呷(あお)りつつ、殺生丸と犬夜叉を扱(こ)き下ろす。

                     2008.8/2.(土).公開◆◆


 

「やはり、何と云っても、同じ父君の血を引く御兄弟じゃからな。」

「大体、犬夜叉が、鉄砕牙を手に入れたのも、かごめ絡みじゃなかったか?冥加。」

「ウムッ、そう云われれば、あの時、台座に突き刺さっていた鉄砕牙を抜いたのは、かごめだったな。殺生丸様は、勿論、犬夜叉様でさえも抜けなんだのに。」

「そんでもって、殺生丸が、天生牙を、やっと正しく使った時も、りんが、絡んでるしな。どうも、あいつら馬鹿兄弟は、自分の女、つまりは『守る者』を見つける事によって、運命が開けるようだな。犬夜叉にとっての『かごめ』然り、殺生丸にとっての『りん』然り。それまでは、奴らが、どう足掻こうが、運命の扉はビクともせんかった。そういう星の許に生まれてんだな。」

「鉄砕牙は、元々、お館様が、犬夜叉様の母君、人間である十六夜様を守る為に作らせた刀だからな。当然、守る者の為でなければ発動せん。天生牙に至っては、敵を滅するどころか、完全なる“癒し”の刀じゃ。慈悲の心無き者には何の価値も見出せまい。そう考えると、お館様は、ご子息それぞれに、必要な者を見出す為の刀を残された訳だな。まるで、息子達の未来を予見したかのように。イヤ、もしかすると、本当に御存知だったのかも知れん。」

「かごめは、鉄砕牙を発動させ、りんは、天生牙を、イヤ、殺生丸の中に眠っていた慈悲の心を発動させたってこったな。」

「あの・・刀々斎さま・・・以前の・・殺生丸さまは・・・そんな・・に怖ろしい方・・だったんですか?」

酔いが、少し、醒めたのか、琥珀が、大分、シッカリした口調で話しかけて来た。

「琥珀よ、おめえは、りんと一緒の殺生丸しか知らんだろうから無理もないが。それ以前の殺生丸と来たら、全く容赦なしでな。“冷酷無慈悲”を、それこそ地で行ってたんだぜ。このワシにしたって、何遍、あいつに、危うく殺されそうになった事か。」

ポリポリと頭を掻きつつ琥珀の疑問に答えてやる刀々斎。
肩に担いだ大きな金槌が、如何にも刀鍛治らしい。

「ムウッ、刀々斎の云う通りじゃぞ、琥珀。殺生丸様は、西国のお世継ぎだけあって、幼い頃から徹底した帝王教育を受けてこられた御方じゃ。元々の性格もあったんじゃろうが、そのせいで、人一倍、矜持が高い。その上、強さに対して妄信的なまでの価値を見出しておられた。だから、弱者に対する情けなど欠片ほども持ち合わせておられんかった。人間など、当然、『虫けら』程度の認識じゃ。そんな殺生丸様が、唯一、尊敬しておられた父君が、人間である犬夜叉様の母君を救う為に命を落とされたんじゃ。畢竟(ひっきょう)、それが原因で、殺生丸様の人間に対する憎悪、嫌悪感は、一方ならぬ物があったのじゃ。」

冥加も、刀々斎に同意して答える。

「でも・・狼に・・かみ殺された・・・りんを・・救ったの・・も殺生丸さま・・ですよね。」

「ウムッ、そこの処が、良く判らんのじゃ。一体、どういう経緯(いきさつ)が有って、りんを助けたのか。邪見に聞いても、サッパリ、要領を得んしのう。マア、犬夜叉様に『風の傷』をお見舞いされた後だという事だけは確かなんじゃが。」

「冥加さま・・俺・奈落に・・操られていた頃・・りんを・・殺そうとした事が・・有るんです。本当なら・・殺生丸さまに殺されたって・・・チットモ・・おかしくない・・状況でした。なのに・・殺されずに・・放たれました。」

「フム・・・・やはり、りんに出会ってからの殺生丸様は、以前とは違うな。」

「だな。りんに会う前の殺生丸なら、問答無用で、即刻、“瞬殺”だろうぜ。あいつは、元々、おっそろしく短気なんだしよ。」

イモリの黒焼きをバリバリほお張りながら、刀々斎も、冥加に同意する。

「大体、奈落を追いかけるようになったのも、元はといや、りんが“拉致”されたせいなんだよな。それ以前に、チョッカイ掛けられたせいも有ったんだろうが。自分が保護してる『りん』に危害を加えられそうになった。奈落め、けしからん!落とし前付けてやるっ!てえ、丸っきり、餓鬼大将みてえな魂胆からなんだぜ。」

「殺生丸様も、結構、大人気ないのう。」

「馬鹿云ってんじゃねえよ、冥加。あいつは、スカした形(なり)や言葉遣いのせいで、一見、分別を弁(わきま)えてるように見えるがな。中身は、単細胞で喧嘩っ早い犬夜叉とドッチコッチの餓鬼なんだぜ。あいつらに比べれば、実際の年は下だろうが、法師の方が、遥かに精神的に大人ってもんだ。」

「ウ~~ム、そう云われれば返す言葉もないな。」

「とにかく、最終的に、犬夜叉は、冥道残月破を、鉄砕牙に取り込んで自分の物にしたし、殺生丸は、殺生丸で、左腕を取り戻し、爆砕牙を手に入れた。結局の処、全ては、お館様の望んだ通りになったってえ訳だ。」

「つまり、御二方とも、成長された。『大人』になったと云えるのだな、刀々斎よ。」

「そうだな。見た処、犬夜叉は、相変わらずの乱暴者だし、殺生丸も、以前と大して変わらん無愛想な奴だ。だが、確かに、何かが、変わった。犬夜叉は、かごめと拘わる事によって、今まで厭(いと)うてきた自分の半妖としての弱さを直視し、それを受け入れた。だが、それによって仲間を得、真の強さを手に入れた。殺生丸は、殺生丸で、りんと拘わる事により、慈悲の心を目覚めさせ、真の大妖怪に相応しい心情と力量を手に入れた。あいつは、なまじっか力が有り過ぎるばっかりに、あのままじゃ、力だけ、強さだけを追い求める愚か者で終わっちまっただろうからな。それでは、どうやったって、お館様を超える事は出来ん。」

                     2008.8/3.(日).公開◆◆



「まあ、ともかく、御兄弟それぞれに、相応しい相手を見つけられて何よりじゃ。」

「ン~~~犬夜叉は、かごめと、ひっついて目出度し目出度しなんだろうが、殺生丸の方は、もうチッと待たにゃならんだろうな。りんは、年頃っつうには、まだ少し早いぜ。」

「何、人間の成長は早い。もう数年の辛抱じゃ。お館様が、初めて犬夜叉様の母君、十六夜様に出会われた時も、十六夜様は、まだ裳着(もぎ)も済ませてない幼子じゃった。」

「ダア~~ッ、んじゃ何か、冥加。殺生丸の“幼女好み”は、親譲りだってぇのか?」

「刀々斎、人(妖)聞きの悪い。『源氏趣味』と云わんかい。」

「ケッ、言葉を飾ったって中身は一緒だろうが。」

「そうかも知れんが、そう云ってしまっては身も蓋もない。」

「知るか!んでもって、殺生丸の奴、りんが成長するまで、セッセと人里に通って人間の男どもに牽制と威嚇をかまし続けるんか?ハア~~ご苦労なこった。昔の奴だったら、死んでも、そんな真似はせんかっただろうに。冥加、おめえの言い種じゃねえが、本当に変われば変わるもんだよなあ。」

「刀々斎さま・・冥加さま・・俺・・以前・・姉上に・・会いに村へ・・行った事が・・有るんです。その時・・りんが・・村の悪餓鬼ども・・に困らされてて・・助けようとしたら・・・・殺生丸さまが・・イキナリ現れて・・そいつらを・・睨み付け・・て追い払った・・んで・・す。」

「クゥ~~~ッ、殺生丸の奴、りんが心配で心配で堪らんのだな。あいつが、そんなに過保護だとは知らんかったぞ!」

「犬夜叉様も、かごめには、てんで弱いからのう。かごめが、涙のひとつでも流してみい。もうオロオロと慌てまくって。御兄弟揃って、自分の女には、からっきし弱いんじゃな。」

「本当に似た者同士の馬鹿兄弟だぜ。」

言いたい放題の話の合間にパチッと火の子が飛ぶ。
春とは云え、まだ夜は冷える。
焚き火に新しい薪がくべられた。
衰えかけていた火勢が勢いを取り戻す。
ミュ~~、猫又が、可愛らしい声で鳴き、琥珀の膝に乗ってきた。
そのまま心地良さげに膝の上に収まり、ゴロゴロと喉を鳴らし、眠り始めた。

「琥珀、キララ、珊瑚から借りてきたんか?」

「ハイ・・刀々斎さま・・・姉上が・・修行の旅に出る・・と云ったら・・一緒に・・連れて行くように・・と。」

「そうだな、珊瑚は、当分、あの村に法師と腰を据えるだろうしな。そうそう、どうだ、新しい鎖鎌の調子は?」

手元に置いた見るからに怖ろしげな形状の代物を、琥珀が、軽々と持ち上げて見せる。
これは、つい先頃、刀々斎に注文して作ってもらった琥珀の新しい武器である。
ジャラッ・・・鎌に付けられた鎖が鳴る。
以前の鎖鎌に比べ、何倍も大きい。
その分、殺傷能力も、重みも増している。

「そうですね・・・まだ・・少し・・使い慣れ・・・てませんが・・段々・・と手に馴染んで・・きました。」

「そうか、そいつは良かった。それにしても、琥珀よ。考えてみれば、おめえも随分、数奇(すうき)な運命だよな。」

「・・・数奇(すうき)?」

「だってよ、考えてもみろ。おめえは、一度、死んでるんだぜ。それを、奈落が、四魂の欠片を使って、おめえの命を今生(こんじょう)に繋ぎ止めた。謂わば、生きた死人だった。それが、桔梗の光によって、完全に生き返った訳なんだからな。」

「ハイ・・まさか・・・桔梗さまが・・俺の・・命を救って・・くれるとは思って・・ませんでした。俺の欠片は・・奈落の浄化・・に使う筈・・でしたから。」

「桔梗だけじゃねえ。おめえ、奈落の分身の神楽にも助けられただろう。それに、りんと殺生丸には確か二度も命を助けられてるんだったな。それを考えたら命を粗末にするんじゃねえぞ。」

「ハイ・・俺・・・以前は・・奈落を・・討ち果たせた・・ら・・何時・・死んでも良い・・・なんて思って・・ました。でも・・桔梗さま・・の光が・・俺を・・救って・・くれました。神楽も・・俺の事・・なんて・・放っておけば・・・良かったのに・・魍魎丸から・・庇って・・逃して・・くれたんです。それだけじゃない・・奈落に・・操られていたとは・・云え・・りんを・・殺そうとした・・俺を・・殺生丸さま・・は逃して・・くれたんです。夢幻の白夜に・・襲われた時も・・そうでした。瘴気の・・蛇に噛まれ・・そのまま・・だったら・・死んでた・・筈の・・俺を・・助けて・・くれたんです。桔梗さまも・・神楽も・・今は・・もう居ない・・けど・・あの二人に・・受けた恩・・それに・・りんと殺生丸さま・・に受けた・・御恩は・・生涯・・忘れま・・せん。」

「その気持ちを忘れない限り、お前は、道を誤る事はないじゃろう。それにしても、琥珀の話を聞いて改めて思ったんじゃが、殺生丸様の変わり様は本当に凄い。以前のあの方を知る者には、到底、信じられん話だろうな。」

冥加が、感慨深げに頷(うなず)く。

「それに・・俺だけ・・じゃないんで・・す。姉上も・・奈落との・・最後の戦い・・の時・・仕方が無かった・・とは云え・・りんを・・殺そうと・・したんです。夢幻の・・白夜の・・幻に騙され・・て・・・・。俺達・・退治屋・・姉弟は・・何度・・殺生丸さま・・に殺されたって・・可笑しくない・・事を・・してきたんで・・す。あの方に・・とって・・・何よりも・・誰よりも・・大事な・・りんを・・殺そうと・・したんです・・から。なのに・・俺達は・・今も・・許されて・・生きている。」

「そんな事が有ったんか。良く殺生丸に殺されずに済んだな、珊瑚。そうか・・・だから、爆砕牙も現れたんだな。奴の慈悲心が本物だから。」」

何時も惚(とぼ)けた顔の刀々斎が、真顔で考え込む。

                        2008.8/4.(月).公開◆◆




考え込む刀々斎に、呼応するように冥加が答える。

「爆砕牙か。まさか、殺生丸様が、あの刀を物にされようとは思ってもみなんだぞ。鉄砕牙をも超える究極の破壊の刀。お館様でさえ手にする事は叶わなんだのに。やはり、殺生丸様が爆砕牙を手中にされたのは相応しい器量と慈悲の御心を備えられたからだな。だからこそ、一度は、犬夜叉様に鉄砕牙で斬られて失った左腕も再生した。」

「確かに殺生丸の変わりようは凄い。。だがな、冥加、奴を、そこまで変えた、りんは、もっと凄いと思うぜ。考えてもみろよ。かごめは、元々、犬夜叉と恋仲だった桔梗って巫女の生まれ変わりだから、大した霊力の持ち主だが、りんには、何の力も無いんだぜ。それどころか、赤ん坊に毛が生えたような童女だったんだ。だが、そんな無力なりんだけが、あの“冷酷無慈悲”が着物きて歩いてるような殺生丸に、慈悲の心を目覚めさせたんだ。驚天動地ったぁこの事だぜ。それだけじゃねえ。りんは二度も『死』を経験してるんだ。一度死んだってんなら、極々、数は少ないが全く居ない訳じゃない。天生牙が有るからな。十六夜様然り、琥珀然り、捜せば他にも居るだろ。でもな、『二度の死』ってのは、聞いた事がねえ。朴仙翁にも云われたんだが、俺は、この事を考えると、どうも、殺生丸とりんは前世でも因縁が有ったんじゃねえかって思っちまうんだ。イヤ、下手すると、前々世でも拘わりが有ったんじゃないかってな。」

冥加も、刀々斎の鋭い指摘に、それまでの認識を新たにして考え始めた。

「フム・・・そう云われてみると.。そうだな、実に摩訶不思議な存在じゃな、りんは。かごめは、骨喰いの井戸を通って別の世界から来たせいもあって、初めから不思議な存在だと、誰もが思う。だが、その実、もっともっと不思議な、驚くべき存在は、身近に存在していた。そういう事じゃな。」

刀々斎の話を聞いていた琥珀も、冥界で自分の経験した事をポツポツと喋り始めた。

「俺も・・そう思います・・刀々斎さま。俺が・・殺生丸さまや・・りんと・・一緒に・・・冥界に・・行った事は・・もう・・お話し・・ました・・よね。あの時・・天空の城で・・殺生丸さまの・・御母堂さまが・・冥道石から・・冥界の犬・・・を呼び出され・・たんです。その犬が・・俺とりんを・・呑み込んで・・冥道に・・逃げ・・込んだんで・・す。俺達を・・追って・・殺生丸さまも・・冥道に・・入られました。俺は・・四魂の・・欠片で・・命を繋いで・・いたから・・冥界の中でも・・平気だった・・けど・・生身の・・りんは・・冥界の・・邪気・・のせいで・・そのまま・・息絶えて・・しまいました。それを・・知った・・殺生丸様が・・どんなに・・衝撃を・・受けられ・・たか。天生牙を・・取り落と・・されたんで・・す。あの・・何物にも・・動じない・・誇り高い・・御方が・・・!そして・・その後・・りんを・・腕に・・抱いた・・まま・・天生牙・・を使って・・山のような・・数の・・亡者どもを・・浄化・・されたんです。俺・・あんな・・神々しい・・光景を・・初めて・・見ました。まるで・・神仏が・・本当に・・現れた・・ような。それと・・同時に・・冥道が・・大きく・・開いて・・俺達は・・天空の・・城に・・戻る事が・・出来ました。でも・・りんは・・息絶えた・・ままでした。そうしたら・・御母堂さまが・・冥道石を・・使って・・冥界に・・取り残され・・た・・りんの・・魂を・・呼び戻して・・くれたんで・・す。あの時・・の眩しい・・魂の・・光・・・凄い・・輝きでし・・た。俺・・奈落に・・操られて・・いた頃・・何度か・・人魂を・・見てるんで・・す。でも・・あんな・・凄い光を・・発する魂は・・一度も・・見た事が・・・有りません。きっと・・・りんの魂は・・・特別・・・なんだろうと・・思います。刀々斎・・さまの・・・仰った・・ように・・りんと・・殺生丸さま・・の間には・・・俺なんか・・には・・想像も・・出来ない・・何か・・不思議な・・繋がりが・・あるんじゃ・・ないかと・・思え・・るんです。」

琥珀の告白に、物識りの冥加が、自分なりの考えを口にする。

「“宿縁“じゃな。仏教で云う処の前世からの因縁、凡そ、この世の一切の事象は、一見、偶然のように見えるが、その実、全てが必然だと云う。恐らく、殺生丸様とりんは、前世でも深い拘わりが有ったのじゃろう。だからこそ、二度の死を得て、尚、りんは生きている。それに、琥珀よ、お主が、此処に、こうしているのも前世からの約束かも知れんぞ。本来なら、当に死んで肉体は土に還り、魂は、あの世に戻っている筈のお主が、今、こうして確かに生きている。何人もの人間、妖怪に助けられてな。これも仏縁のおかげと云っても良かろう。珊瑚にしても同じ事じゃ。お主と同じく、親兄弟、一族を、奈落の謀略により失うという過酷な運命を生き延びた珊瑚。その珊瑚が、奇しくも犬夜叉様と拘わり、助けられ、結果的に志(こころざし)を同じくする心強い仲間を得た。そして長く辛い戦いの果てに奈落を討ち果たし、弟であるお主をも取り戻した。珊瑚自身の強靭な意志有ればこそじゃが、だが、それとても、目に見えぬ神仏の御加護無くしては、事の成就は覚束なかっただろう。」

「アア、その通りだな、冥加。琥珀、おめえになら、多分、判るだろうが、犬夜叉達にゃ、まだピンと来ねえかも知れねえな。法師は、元々、坊主だから、こういう事は、お手の物だろうが。俺達みたいに長い間、生きてるとな、理屈じゃ説明できない不思議な出来事を何度も目にするんだ。そうするとな、段々、この世には、確かに『天の意思』ってもんが有るんだって事を実感するんだ。そういう目で見ると、今回、奈落が滅され、四魂の玉が消滅したのも、全てが巡り合わせで、目には見えねえ天の意思が大きく働いたんだろうと思えるのさ。まず、かごめが、この世界に引き寄せられ、四魂の玉を持ち込んだ。四魂の玉が、かごめを、この世界に引き摺り込んだと思いがちだが、それも、裏を返せば天の意思と解釈する事が出来るんだ。そして、五十年、続いてた犬夜叉の封印を解いた。それが、全ての始まりだ。あらゆる事が、其処から始まってんだ。」

刀々斎の話に、冥加が、説明を加える。

「目に見えぬ因果の糸に導かれておるのじゃ。前世からの因縁、今生(こんじょう)で生じた有縁(うえん)、それらが複雑に絡まりながら宿命を織り成していく。生きている以上、誰もが、否応無く、因果の糸に繋がっておる。これは、妖怪、人間に拘わらず、生物ならば、皆、そうじゃ。イヤ、それだけではない。あの世の者でさえ因果の糸から逃れる事は出来ん。曲霊が良い例じゃ。四魂の玉の中に五百年もの間、潜み、悪心を誘発し続けた悪霊。だが、奴とても、遂には、その報いを受けた。殺生丸様の天生牙によってな。因果応報とは正しくこの事じゃ。」

「何だか、妙に小難しい話になっちまったな。済まん、済まん。マア、とどのつまりが、ぶっちゃけて云えば、悪い心を抱かず真っ当に生きろってこった。その点、琥珀よ、おめえは大丈夫だ。常人には考えも付かない辛い運命に挫けず乗り越えてきたんだからな。」

惚(とぼ)けた風采の刀鍛治が、ポリポリと白髪(しらが)頭を掻きながら、退治屋の少年に言葉を掛ける。

「刀々斎・・・さま。」

「良く頑張ったな、さぞかし辛かっただろう。今日は、そんなおめえを労(ねぎら)ってやろうと思って来たんだが・・・・。結局、わしら老いぼれのの益体(やくたい)も無い話になっちまったな。」

「いえ、そんな事はないです。俺・・・俺・・・嬉しいです。有難う・・・ございます。」

ポツリと琥珀の目から涙が落ちた。
それは、杯の中に沈み、芳醇な酒と混ざり合い甘露となった。
朧(おぼろ)に霞(かす)む春の月が、柔らかな光で、少年と猫又、二匹の老妖怪を照らし続けていた。    了
                           2008.8/5.(火).公開◆◆









 

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