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『満月夜話⑤』最終回萌え作品③

考え込む刀々斎に、呼応するように冥加が答える。

「爆砕牙か。まさか、殺生丸様が、あの刀を物にされようとは思ってもみなんだぞ。鉄砕牙をも超える究極の破壊の刀。お館様でさえ手にする事は叶わなんだのに。やはり、殺生丸様が爆砕牙を手中にされたのは相応しい器量と慈悲の御心を備えられたからだな。だからこそ、一度は、犬夜叉様に鉄砕牙で斬られて失った左腕も再生した。」

「確かに殺生丸の変わりようは凄い。。だがな、冥加、奴を、そこまで変えた、りんは、もっと凄いと思うぜ。考えてもみろよ。かごめは、元々、犬夜叉と恋仲だった桔梗って巫女の生まれ変わりだから、大した霊力の持ち主だが、りんには、何の力も無いんだぜ。それどころか、赤ん坊に毛が生えたような童女だったんだ。だが、そんな無力なりんだけが、あの“冷酷無慈悲”が着物きて歩いてるような殺生丸に、慈悲の心を目覚めさせたんだ。驚天動地ったぁこの事だぜ。それだけじゃねえ。りんは二度も『死』を経験してるんだ。一度死んだってんなら、極々、数は少ないが全く居ない訳じゃない。天生牙が有るからな。十六夜様然り、琥珀然り、捜せば他にも居るだろ。でもな、『二度の死』ってのは、聞いた事がねえ。朴仙翁にも云われたんだが、俺は、この事を考えると、どうも、殺生丸とりんは前世でも因縁が有ったんじゃねえかって思っちまうんだ。イヤ、下手すると、前々世でも拘わりが有ったんじゃないかってな。」

冥加も、刀々斎の鋭い指摘に、それまでの認識を新たにして考え始めた。

「フム・・・そう云われてみると.。そうだな、実に摩訶不思議な存在じゃな、りんは。かごめは、骨喰いの井戸を通って別の世界から来たせいもあって、初めから不思議な存在だと、誰もが思う。だが、その実、もっともっと不思議な、驚くべき存在は、身近に存在していた。そういう事じゃな。」

刀々斎の話を聞いていた琥珀も、冥界で自分の経験した事をポツポツと喋り始めた。

「俺も・・そう思います・・刀々斎さま。俺が・・殺生丸さまや・・りんと・・一緒に・・・冥界に・・行った事は・・もう・・お話し・・ました・・よね。あの時・・天空の城で・・殺生丸さまの・・御母堂さまが・・冥道石から・・冥界の犬・・・を呼び出され・・たんです。その犬が・・俺とりんを・・呑み込んで・・冥道に・・逃げ・・込んだんで・・す。俺達を・・追って・・殺生丸さまも・・冥道に・・入られました。俺は・・四魂の・・欠片で・・命を繋いで・・いたから・・冥界の中でも・・平気だった・・けど・・生身の・・りんは・・冥界の・・邪気・・のせいで・・そのまま・・息絶えて・・しまいました。それを・・知った・・殺生丸様が・・どんなに・・衝撃を・・受けられ・・たか。天生牙を・・取り落と・・されたんで・・す。あの・・何物にも・・動じない・・誇り高い・・御方が・・・!そして・・その後・・りんを・・腕に・・抱いた・・まま・・天生牙・・を使って・・山のような・・数の・・亡者どもを・・浄化・・されたんです。俺・・あんな・・神々しい・・光景を・・初めて・・見ました。まるで・・神仏が・・本当に・・現れた・・ような。それと・・同時に・・冥道が・・大きく・・開いて・・俺達は・・天空の・・城に・・戻る事が・・出来ました。でも・・りんは・・息絶えた・・ままでした。そうしたら・・御母堂さまが・・冥道石を・・使って・・冥界に・・取り残され・・た・・りんの・・魂を・・呼び戻して・・くれたんで・・す。あの時・・の眩しい・・魂の・・光・・・凄い・・輝きでし・・た。俺・・奈落に・・操られて・・いた頃・・何度か・・人魂を・・見てるんで・・す。でも・・あんな・・凄い光を・・発する魂は・・一度も・・見た事が・・・有りません。きっと・・・りんの魂は・・・特別・・・なんだろうと・・思います。刀々斎・・さまの・・・仰った・・ように・・りんと・・殺生丸さま・・の間には・・・俺なんか・・には・・想像も・・出来ない・・何か・・不思議な・・繋がりが・・あるんじゃ・・ないかと・・思え・・るんです。」

琥珀の告白に、物識りの冥加が、自分なりの考えを口にする。

「“宿縁“じゃな。仏教で云う処の前世からの因縁、凡そ、この世の一切の事象は、一見、偶然のように見えるが、その実、全てが必然だと云う。恐らく、殺生丸様とりんは、前世でも深い拘わりが有ったのじゃろう。だからこそ、二度の死を得て、尚、りんは生きている。それに、琥珀よ、お主が、此処に、こうしているのも前世からの約束かも知れんぞ。本来なら、当に死んで肉体は土に還り、魂は、あの世に戻っている筈のお主が、今、こうして確かに生きている。何人もの人間、妖怪に助けられてな。これも仏縁のおかげと云っても良かろう。珊瑚にしても同じ事じゃ。お主と同じく、親兄弟、一族を、奈落の謀略により失うという過酷な運命を生き延びた珊瑚。その珊瑚が、奇しくも犬夜叉様と拘わり、助けられ、結果的に志(こころざし)を同じくする心強い仲間を得た。そして長く辛い戦いの果てに奈落を討ち果たし、弟であるお主をも取り戻した。珊瑚自身の強靭な意志有ればこそじゃが、だが、それとても、目に見えぬ神仏の御加護無くしては、事の成就は覚束なかっただろう。」

「アア、その通りだな、冥加。琥珀、おめえになら、多分、判るだろうが、犬夜叉達にゃ、まだピンと来ねえかも知れねえな。法師は、元々、坊主だから、こういう事は、お手の物だろうが。俺達みたいに長い間、生きてるとな、理屈じゃ説明できない不思議な出来事を何度も目にするんだ。そうするとな、段々、この世には、確かに『天の意思』ってもんが有るんだって事を実感するんだ。そういう目で見ると、今回、奈落が滅され、四魂の玉が消滅したのも、全てが巡り合わせで、目には見えねえ天の意思が大きく働いたんだろうと思えるのさ。まず、かごめが、この世界に引き寄せられ、四魂の玉を持ち込んだ。四魂の玉が、かごめを、この世界に引き摺り込んだと思いがちだが、それも、裏を返せば天の意思と解釈する事が出来るんだ。そして、五十年、続いてた犬夜叉の封印を解いた。それが、全ての始まりだ。あらゆる事が、其処から始まってんだ。」

刀々斎の話に、冥加が、説明を加える。

「目に見えぬ因果の糸に導かれておるのじゃ。前世からの因縁、今生(こんじょう)で生じた有縁(うえん)、それらが複雑に絡まりながら宿命を織り成していく。生きている以上、誰もが、否応無く、因果の糸に繋がっておる。これは、妖怪、人間に拘わらず、生物ならば、皆、そうじゃ。イヤ、それだけではない。あの世の者でさえ因果の糸から逃れる事は出来ん。曲霊が良い例じゃ。四魂の玉の中に五百年もの間、潜み、悪心を誘発し続けた悪霊。だが、奴とても、遂には、その報いを受けた。殺生丸様の天生牙によってな。因果応報とは正しくこの事じゃ。」

「何だか、妙に小難しい話になっちまったな。済まん、済まん。マア、とどのつまりが、ぶっちゃけて云えば、悪い心を抱かず真っ当に生きろってこった。その点、琥珀よ、おめえは大丈夫だ。常人には考えも付かない辛い運命に挫けず乗り越えてきたんだからな。」

惚(とぼ)けた風采の刀鍛治が、ポリポリと白髪(しらが)頭を掻きながら、退治屋の少年に言葉を掛ける。

「刀々斎・・・さま。」

「良く頑張ったな、さぞかし辛かっただろう。今日は、そんなおめえを労(ねぎら)ってやろうと思って来たんだが・・・・。結局、わしら老いぼれのの益体(やくたい)も無い話になっちまったな。」

「いえ、そんな事はないです。俺・・・俺・・・嬉しいです。有難う・・・ございます。」

ポツリと琥珀の目から涙が落ちた。
それは、杯の中に沈み、芳醇な酒と混ざり合い甘露となった。
朧(おぼろ)に霞(かす)む春の月が、柔らかな光で、少年と猫又、二匹の老妖怪を照らし続けていた。    了
                           2008.8/5.(火).公開◆◆




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