忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

『愚息行状観察日記(27)=御母堂さま=』



※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


極限にまで膨張した瘴気が渦(うず)をまく大玉。
巨大な瘴気の渦玉が宙に浮いている。
奈落の成れの果て。
肉眼では見えないが、その中心に位置するだろう四魂の玉。
破魔の巫女が矢を番(つが)えた。
狙うは、唯ひとつ、瘴気の中に存在する小さな黒い禍玉(まがたま)。
全ての禍(わざわい)の源(みなもと)、四魂の玉。
撃った!
瘴気の大玉に向かい真っ直ぐ飛んでいく破魔の矢。
消えた!?矢が!?
一体、何処へ!?
次の瞬間、大玉が破裂した。
ギリギリで内部に留められていた瘴気が炸裂する。
四方八方に飛び散る瘴気の渦。
瘴気の渦が波のように巫女に襲いかかる。
半妖が巫女を抱えこみ急ぎ飛び退(の)く。
次第に薄れていく瘴気。
急激に場が収束していく。
視界に飛び込んできたのは頭部のみの奈落と矢で串刺しにされた四魂の玉。
古びた井戸の上に浮かんでいる。
破魔の矢に射抜かれたせいだろうか。
闇色に染まっていた四魂の玉が無色透明になっている。
もう体が残っていないのだろう。
奈落の頭部には脊髄が繋がるのみ。
虫の息だな、奈落は。
だが、あそこまで追い込まれながら、尚も、あ奴の表情に敗北は感じられぬ。
一体、何を話しているのだろう?
クッ、奈落と半妖どもの会話を聞けないのが、こうも、もどかしいとは。
遂に奈落が消滅した。
髪の毛一筋残さず奴は消えた。
まるで大気に溶け込むかのように。
だが、あ奴の最後の笑みは何を意味していたのだろう。
何!?
巫女の背後に真円の冥道が出現した。
息を呑む間もなく巫女が漆黒の冥道に呑み込まれる。
半妖が慌てて後を追ったが間に合わなんだ。
巫女を吸い込んだ冥道は掻き消すように消えてしまった。
奈落は、これを狙っていたのか。
 

「御方さま、四魂の玉が見当たりません。それに、井戸もです」
 

「ムッ、確かに。そなたの言う通りだな、松尾」
 

巫女の消失に茫然とする半妖と仲間達。
それだけではない、井戸までもが最初から無かったかのように消えていた。
つまり、あの井戸に意味があるということか?
その場にいる全員に拡がる戸惑いの表情。
異常な事態に、どうするのかと見ておったら、半妖め、鉄砕牙を抜き冥道残月破を撃ったではないか。
そして、冥道を出現させ、そのまま、冥道に飛び込んでいったのだ。
 

「フッ、やはり兄弟だな。殺生丸と同じように己(おの)が姫を助ける為、躊躇(ちゅうちょ)せず冥道に飛び込むか」
 

となれば殺生丸の時のように冥道石を使うしかあるまい。
如何に“遠見の鏡”といえど映せるのは現世のみ。
冥界に続く冥道の内部まで映すことは出来ん。
狗姫(いぬき)は冥道石を手に取り中を覗いてみた。
冥道が映る。
漆黒の闇色の冥道。
巫女は闇に捕らえられ虚空に浮いている。
気絶しているらしい。
目は固く閉じられている。
半妖の方はと念じれば、ボウッと冥道石が光り、別の場を映し出す。
フム、巫女を探し求めて闇の中、必死に駆けずり回っておるわ。
冥道石をジッと凝視していた狗姫は妙な違和感に気付いた。
この冥道・・・どこか可笑しいな。
冥界の犬も鳥も竜も出て来ない。
あれは冥界ではないのか!?
では、冥界ではないとしたら、何処だ?
もしかすると・・・イヤ、多分、間違いない。
あの冥道は四魂の玉の中に続いていたのだ。
そのまま冥道石で巫女と半妖の様子を観察し続けたが何の変化も起こらない。
 

「このままでは埒(らち)が明かんな」
 

狗姫が焦(じ)れて呟(つぶや)いた。
その時、部屋の外から上臈(じょうろう)女房が狗姫(いぬき)に声をかけてきた。
 

「御方さま、権佐殿が参られました」
 

「権佐が? 通せ」
 

「失礼致します」
 

部屋の中へ権佐が入ってきた。
 

「丁度良い処に来たな、権佐」
 

「ハッ?」
 

「報告に来たのだろう。尾洲と万丈に頼まれ殺生丸に西国への帰還を促す為、人界へ向かうと」
 

「流石は御方さま、お見通しでございましたか」
 

「当然の帰結だな。爆砕牙が出現した以上、もう闘牙の遺言を守る必要はないからな。留守居役の両名が殺生丸に帰国を要請するだろうことは必定」
 

「仰(おっしゃ)る通りにございます」
 

「本来、国主が国元に不在など許される事ではない。だが、爆砕牙が出現するまでは断じて帰国を促してはならぬと先代国主である闘牙が遺言を残している。それに逆らうことなど家臣に出来よう筈もない。殺生丸は気付いてもおらんのだろうな。二百年もの間、あ奴が人界を彷徨う勝手気儘(かってきまま)が通ったのは亡き父のお陰であるなどと。その件は了承した。それでな、権佐、お主に人界へ赴(おもむ)く前に、ある処に寄ってもらいたいのだ」
 

「ある処とは?」
 

「先見(さきみ)の巫女の許へ」
 

狗姫はニヤリと笑って権佐に命(めい)を下(くだ)した。
 


※『愚息行状観察日記(28)=御母堂さま=』に続く

 

拍手[4回]

PR