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※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。
深い深い地の底に権佐は向かっていた。
有り体(てい)に言えば足から落下しているのである。
地下に続く一本道の穴の底に向かって。
こんな真っ直ぐな深い穴が自然に出来ようはずもない。
明らかに何者かの手によって穿(うが)たれた垂直の縦穴。
かれこれ半時(約一時間)ほど地に潜っただろうか。
不意に仄(ほの)かな光が見えてきた。
光が射すはずもない大地の奥深い場所。
まるで権佐の訪問を知っていたかのようにポォ・・・と淡い光が拡がりだした。
光苔(ひかりごけ)だ。
ポッカリと柔らかな光に包まれた空間が出現した。
権佐は落下する速度を意識的に緩(ゆる)めフワリと降り立った。
透き通った玉が見える、水晶だ。
それも生半可な大きさではない。
直径にして一間(いっけん=1.82m)はあろうかと思われる水晶玉。
巨大な水晶玉は底に紫の座布団を宛(あ)てがわれ黄金の台座に据えられている。
その水晶玉の前でとぐろを巻く白い大蛇が、徐(おもむろ)に首をもたげ眠たげに目を開けた。
白い大蛇の意識がユックリと覚醒する。
キン・・・と空気が張り詰めた。
血のように赤い目が権佐を見据える。
紅玉のように輝く澄んだ眼(まなこ)。
フッと厳しい雰囲気が和(やわ)らいだ。
白蛇の前に恭(うやうや)しく跪(ひざまず)き権佐は頭(こうべ)を垂れた。
直接、妖忍の頭の中に白蛇の言葉が響いてくる。
精神感応、心話、現代風にいうならテレパシーだ。
『久しいですね、権佐殿』
「ご無沙汰しております、先見(さきみ)の巫女、粋晶(すいしょう)さま。一別以来、かれこれ二百年ほどになりましょうか。夢見の眠りをお邪魔して申し訳ございません」
『フフッ、それは何時ものことでしょう。狗姫(いぬき)の御方さまは息災でおられますか?』
「ハイ、今日、ここに参りましたのも御方さまの命によります」
『となると・・・当代の西国王、殺生丸さまに関わる事柄ですね』
「ご推察通りにございます」
『それで、何が知りたいと。権佐殿も御存知のように私に答えられるのは未来に支障をきたさない瑣末(さまつ)なことのみ』
「ハッ、それはもう、重々、承知の上にございます。実は、殺生丸さまの弟御(おとうとご)である犬夜叉殿が冥道に踏み込んだまま戻ってこられないのです。果たして戻られるのでしょうか?また戻ってこれるとして、それは何時になるのでしょうか?」
『犬夜叉殿? ああ、闘牙さまが人間の貴族の姫との間に儲(もう)けられた半妖の御子のことですね』
白蛇がソッと目を閉じた。
瞬時に、権佐の質問に対し、考え得る全ての可能性について思考を巡らせ検証を重ねているのだろう。
今この時にも熟考に次ぐ熟考が繰り返されているのは間違いない。
暫(しば)しの時の後、白蛇は静かに目を明けた。
煌(きら)めく紅(くれない)の瞳。
結論が出たらしい。
『・・・数日後に』
「ハッキリした日数は判らないのでしょうか?」
『権佐殿、先程の答えが私に答えられるギリギリです。御存知でしょう。未来について妄(みだ)りに言いふらしてはならぬと。因果の糸を徒(いたずら)に揺らすのは天に叛(そむ)く事なのだと』
「ハッ、浅慮(せんりょ)にございました。それでは、これにてお暇(いとま)致します。かように慌(あわただ)しい訪問の無礼の段、平(ひら)に御容赦下さい」
『殺生丸さまの許へ行かれるのですね』
「ハイ、爆砕牙出現により正式に西国王の地位に御就任いただく為にも早急に御帰還下さいますようにと、留守居役の尾洲様、万丈様、ご両名より申し付かっております」
権佐が礼を尽して去った後、白い大蛇は一頻(ひとしき)り回想に耽(ふけ)った。
脳裏に浮かぶのは、嘗(かつ)て在りし日のこと。
二百年前、西国の先代国主、闘牙王が身罷(みまか)った。
時を同じくして“先見の巫女”粋晶は最大の危機に遭遇していた。
先見(さきみ)、即ち、未来を視る能力を妖界の各国に狙われたのである。
長年、“先身の巫女”粋晶は先代の西国王、闘牙に擁護されてきた。
闘牙王の崩御に伴い後ろ盾を失った粋晶は今しも賊に拉致されようとしていた。
そんな粋晶を救ったのが権佐と松尾を連れた狗姫(いぬき)の御方だった。
忽(たちま)ち、賊を蹴散らし、闘牙王亡き後も“先見の巫女”粋晶は、西国の、イヤ、狗姫の御方の庇護の下(もと)にあると自ら宣言してくれたのである。
西国王妃、直々(じきじき)の宣言。
それが、どれほど強力な守護を意味するか。
闘牙王に匹敵するとまで云われた妖力の持ち主。
かてて加えて、その智略、縦横無尽とまで謳われた伝説の軍師“白銀の狗姫(いぬき)”。
今も鮮やかに当時の記憶が甦(よみがえ)る。
この場所で、これまで通り先見の夢見を許された粋晶は大恩ある御方に礼を述べていた。
『狗姫の御方さま、有難うございます』
「フッ、妾(わらわ)は闘牙の遺言に従ったまでに過ぎん。礼は要らんぞ」
『イエ、それでも、貴女(あなた)さまが遺言を反故(ほご)にしようと文句を言う者は誰ひとりとしていないはずです。にも拘らず私をお救い下さった。どうして感謝せずにおれましょうや』
「フフッ、そう思うなら、“先見の巫女”、粋晶よ。いずれ妾(わらわ)が知りたいと思う事が出てこよう。その時、そなたに取って差し支えない程度に答えてくれればよい」
『それだけで宜しいのですか?』
「ああ、充分だとも」
そう云って狗姫の御方は莞爾(かんじ)と微笑んだ。
妖界きっての美姫と称(たた)えられた彼の女(ひと)の微笑みは豪奢な華のように艶(あで)やかだった。
『狗姫の御方さま、西国に新しい時代が始まります。おめでとうございます。粋晶めは、この大地の奥深くより、ご嫡男、殺生丸さまの国主御就任を言祝(ことほ)がせて頂きます』
::【注釈】::
この後、権佐は、兄上に逢いに行きます。
西国帰還の話をする為に。
そう、第58作の小説『決断』へと続いていくんです。
話の流れから、どうしても、権佐が、誰から情報(犬夜叉が冥道から何時戻るか?)を入手したのか書かざるを得なくなりました。
そういう已(や)むに已(や)まれぬ事情から出来上がったのが“先見の巫女”の粋晶です。
久々のオリキャラ創作で、結構、苦労しました。 m( ̄o ̄)m
※『愚息行状観察日記(29)=御母堂さま=』に続く