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『降り積もる思い(24)=刀々斎』

刀々斎・・・・か、何遍、思い返しても惚(とぼ)けた爺(じじい)だぜ、全く。
初めて会った時から、そうだった。
あれは奈落の幻影殺から生還して直ぐの事だったな。
俺達は、全員、無事だった。
桔梗に四魂の欠片を奪われはしたが・・・な。
とりあえず、俺は、それで良しとする積りだったんだ。
だけど、クソッ、外野が煩(うるさ)い。
あいつら、ヒソヒソ話どころか、こっちに丸聞こえじゃねえか。
畜生、まるで俺が惚れた女(桔梗)を庇(かば)ってるみたいに好き放題云いやがって。
かごめまで俺を疑ってやがった。
そう、あん時だったな。
刀々斎が、やって来たのは。
ゴ———・・・・・ドオオオン!
いきなり雷を落としやがって。
吃驚するじゃねえか!
妙ちきりんな三つ目の牛に乗って現われたのは、すっ呆(とぼ)けた顔をしたみすぼらしい妖怪爺(じじい)だった。
痩せこけたひょろ長い体にギョロ目、髪は後退して後ろで縛ってやがる。
僅かに残ったチョロ毛が、一筋、額から垂れてる。
ボロッボロの横縞の着物を纏った貧相な容貌の爺(じじい)だった。
そんでもって名乗ったかと思えば、即、俺に襲いかかってきやがったんだ。
肩に担いでた大きな金鎚(かなづち)を振るってな。
こんなヒョロヒョロ爺(じじい)、すぐさま叩きのめしてやると思ってたら・・・。
あんにゃろう、俺の鉄砕牙を、いともアッサリと押し戻してやがった。
再度、振りかぶった鉄砕牙を、今度は懐から取り出した革でハッシと受け止めた。
(一体、何者なんだ、この爺。 只者じゃねえ!)
そう思ったら、冥加の奴が飛び出してきてよ。
爺(じじい)が鉄砕牙を打った刀鍛治だってことが判った。
その刀鍛治がワザワザ何しに来たのかと訊けば。
刀々斎め、俺に鉄砕牙を持つ資格が無ければ叩き折るだと。
おまけに命を狙われてるから、そいつから自分を守れだあ?
何を、ふざけたこと抜かしてやがる!
そう叫ぶ間もなく現われたのは・・・・殺生丸!
見たこともない二つ頭の竜を駆って空からやって来た。
チイッ、まさか、爺(じじい)の命を狙ってるのが殺生丸だとは。
考えてみれば、刀々斎は鉄砕牙を打った刀鍛治だ。
どう頑張っても鉄砕牙が手に入らない以上、殺生丸が刀々斎に新しい刀を打てと要求するのは自然の流れだよな。
そして、その要求を拒んだ刀々斎を殺生丸が付け狙うのも当然っていえば当然の成り行きだ。
ケッ、どう転んでも闘うしかねえ。
鉄砕牙を抜き放って応戦したものの、畜生、殺生丸の身の軽さは半端じゃねえ。
易々(やすやす)と身を躱(かわ)された上、逆にコッチが鉄拳を喰らっちまった。
そこうこうする間にも、新しい刀を打てという殺生丸の言葉に説得されそうな刀々斎。
あのすっ呆(とぼ)けた爺(じじい)のことだ。
スンナリ殺生丸の言いなりになっちまうかも知れねえ。
そう思ってたら、意外なことに、刀々斎の奴、殺生丸の要望をキッパリと跳(は)ね除(の)けたんだぜ。
「やなこった」ってな。
そう云うなりプ~~と膨(ふく)れた口から紅蓮の業火を俺と殺生丸に向かって吹き出したんだ。
刀鍛治の妖怪だからな、あれは火吹きの術だろう。
だがな、もし火鼠の衣を纏ってなきゃ、俺は、あのまま炎に巻かれて御陀仏だったろうぜ。
アン?殺生丸か、あいつは、サッサと飛び退(の)いてたぜ。
ああいう時は、やたら要領が良いんだ、あいつは。
クソッ、何しやがる、このクソ爺(じじい)。
バキッ、焼け出された腹いせに刀々斎の頭を、一発、ブン殴っといた。
飽くまでも新しい刀に拘る殺生丸。
そんな殺生丸に向かって刀々斎が訛声(だみごえ)で喚(わめ)いたんだ。
「やかましいわ!だいたい、きさまには既に立派な刀を一口(ひとふり)与えてあるではないかっっ!」てな。
あれは初耳だった。
殺生丸が腰に差している刀、あれは天生牙とか云うらしい。
あの刀が親父の形見だとはな。
それも親父の遺言だってんだから。
そうしたら、殺生丸が怒る、怒る。
何で、ああも怒るんだ?
訳が判らねえ。
どうにも不思議だったが、刀々斎の奴には、チャンと理由が判ってるんだろう。
チャッカリしっかり逃げる算段をしてやがった。
ビュッ、ドカッ!大鎚(おおづち)で地面をぶっ叩いたと思ったら。
ビシビシ・・・ゴゴゴゴ・・・ゴボボボ・・・
ブワッ、地面から真っ赤な溶岩が湧き出してきやがった。
その隙に俺達は、サッサとその場から逃げ出したんだ。
ひとまず安全な場所に落ち着いてから刀々斎に殺生丸が怒る理由を訊いてみたんだが。
それがな、アイツが怒るのも無理ねえんだよ。
斬れねえ刀~~~~?
そんなんで、どうやって闘うんだよ。
刀々斎が云うにゃ、そもそも天生牙は闘う刀じゃなくて癒(い)やしの刀なんだとさ。
『強きものを薙ぎ払う鉄砕牙に対し、天生牙は弱きもの命を繋ぐ刀』とか。
つまり、死んだものを生き返らせることが出来る【お助け刀】らしい。
『真に人を思い慈しむ心あらば、天生牙で百名の命を救うも可能』
慈(いつく)しむ心って、あの殺生丸がか?
ヘッ、無理だな、そんなことは。
天地がひっくり返っても有り得ねえ。
成る程な、殺生丸が新しい刀を欲しがる訳だぜ。
そんで刀々斎の奴、そのまま俺たちに同行するのかと思ったら、『俺は弱い、当てにならん』とか抜かしやがって。
フン、こっちだって、あんなすっ呆(とぼ)けた爺(じじい)に用はねえ。
トットと何処へなりと行きやがれ。
そうしたら、刀々斎の奴、戻って来てムンズと俺の腰の鉄砕牙を掴みやがった。
んでもって俺には使いこなせないから鉄砕牙を叩き折るだあ?
ふざけんな、この爺(じじい)。
例によって、二・三発、頭に喰らわしてやった。
何ぞ仕返しでもするのかと思いきや、あの爺、アッサリ三つ目の牛に乗って走り去った。
ドドドドドド・・・・・ドドドドドドドド
と思ったら、またまた戻ってきた?
ドガッ!
ゲッ、せっ、殺生丸!
クソッ、追って来たのか。
刀々斎と牛は殺生丸の一撃の煽(あお)りを喰らって地べたに伸びてやがる。
チッ、殺生丸の奴、どうあっても見逃す気はねえらしい。
刀々斎は殺生丸に新しい刀を打つ気は毛頭ないそうだし。
こうなったら四の五の言わず決着つけるしかねえな。
鉄砕牙を抜いて殺生丸と対峙(たいじ)したんだが。
容赦なく襲い掛かってくる殺生丸の鋭い一撃。
奴が袖から出してきた左腕は・・・なっ、何だ、あの左腕は!?
鉄砕牙を受け止めてるじゃねえか。
バチバチ・・・バチバチ・・・火花が飛び散る。
妖怪? イヤ、違う、あれは竜の腕だ。
ザン、ジュッ・・・
クッ、頬を毒華爪が掠(かす)った。
パリパリ・・・・バチバチ・・・・
普通の妖怪の腕よりは丈夫だが、大分、痛んでるみてえだったな、竜の腕。
だが、殺生丸は、端(はな)っから鉄砕牙の盾代わりにさえなれば構わないと目論(もくろ)んでたんだろう。
余裕たっぷりで竜の左腕で鉄砕牙を受け止め右腕で攻撃を仕掛けてくる。
そして、こう、ほざきやがったんだ。
「きさまは風の傷さえ知らんようだからな」と。
風の傷・・・・何だ、それは!?
バキ、バキ、息も吐(つ)かせない猛攻だ。
クッ、クソッ、気を取られてたら胸に毒華爪を喰らって地べたに叩きつけられちまった。
ドガッ・・・・ドガガガガ
戦いの中の束の間の小休止。
『風の傷』の言葉に驚いた刀々斎が殺生丸に問い質してたな。

「おまえには“風の傷”が読めるのか!?」

刀々斎の質問に心外とばかりに答える殺生丸。

「当たり前だ。読み取ることなど造作もない」

“風の傷”ってのが鉄砕牙の極意らしい。
だが、どうすれば読めるんだ?
そうだ、以前、殺生丸が奈落に貰った人間の腕で鉄砕牙を振るった時、いとも容易(たやす)く百の妖怪を斬って捨てた。
たった一振り、虚空を斬り裂いただけで。
あれが“風の傷”だったのか。
そうこうする間にも容赦なく続く攻撃。
グッ、力が入らねえ。
さっき、腹に受けた殺生丸の毒華爪のせいだ。
ジワジワ毒が利いてきてるぜ。
俺の窮地を見かねた珊瑚が堪(たま)らず飛来骨で殺生丸を狙う。
すかさず飛来骨を鉄砕牙で叩き落す。
手出しさせる訳にゃいかねえ。
これは俺の闘いなんだ。
何としても“風の傷”を見つけてやる。
邪魔な竜の腕を渾身の力でもぎ取った。
だが、その隙に眼元を毒華爪が掠(かす)る。
目が・・・見えねえ!!
胸元に喰らった鉄拳で地面に叩きつけられちまった。
畜生、殺生丸め、馬鹿力で思いっきり殴りやがって。
その時、感じたんだ。
毒で目が見えなくなったせいで嗅覚と聴覚の機能が異様に高まってる。
近付いてくる殺生丸の妖気の渦と風のこすれる匂い。
風の匂いが違う!
そうか、妖気の流れがぶつかる所、それが風の裂け目。
この匂いが“風の傷”だ!
読めた!匂いの軌道!
これを斬れば殺生丸は死ぬ!
ゴッ、風の裂け目に鉄砕牙を振り下ろす。
ガガガガガ・・・・バババッ・・・・カッ・・・・・ゴ————
シュ—————
殺生丸の気配が消えた。
どうやら終わったようだった。
何しろ毒のせいで全く目が見えなかったからな。
後で刀々斎から聞いた話じゃ天生牙が結界を張って殺生丸を鉄砕牙の剣圧から守ったらしい。
つまり、俺が鉄砕牙の主人なように殺生丸は天生牙の主人だってこった。
闘いの後、刀々斎は鉄砕牙を研ぎなおして去っていった。
その後も何だかんだと世話になるんだが、あのすっ呆(とぼ)けた態度は変わらなかった。
流石に変わり身の早い冥加爺(みょうがじじい)と付き合ってるだけあるぜ。
一癖も二癖もありやがる。
マッ、『類は友を呼ぶ』って奴かな。

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