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『降り積もる思い(21)=地念児=』(15万打お祝い作品)

奈落との戦いで負傷した珊瑚と雲母(きらら)。
取り分け、雲母(きらら)の状態は思わしくなかった。
無理もないぜ。
あの毒と瘴気の塊りみてえな奈落に、もろに噛み付いたんだもんな。
飼い主の珊瑚の枕元にグッタリと蹲(うずくま)って如何にも具合が悪そうだった。
そのまま放っておく訳にもいかず、冥加じじいに、どうしたら良いか訊いてみた。
そしたら、毒消しの薬草が有るそうじゃねえか。
その薬草を手に入れる為、かごめと二人、薬草畑まで出かけたんだったな。
其処で出逢ったのが、半妖の地念児と母親だ。
今、思い出しても、そりゃあ強烈な印象だったぜ。
アァッ? 違う、違う、地念児じゃねえ。
母親の方だ。
何しろ、あの婆(ばばあ)のご面相ときたら、誰が見たって山姥(やまんば)と勘違いするに違いねえからな。
その癖、よくよく話を聞けば、婆(ばばあ)の方が人間だってんだもんな。
俺は、地念児が半妖と聞いたから、てっきり、父親が人間で、母親の方が妖怪なんだろうと思ってたぜ。
後で聞いたら、かごめも、そう思ったらしい。
そんでもってだ、あの婆(ばばあ)、見た目に反して、えらく心は乙女なんだ。
地念児の父親と出逢った時のことを話す様子ときたら、もう、何つうか・・・・。
妙齢の娘みてえにポッと頬を赤らめてよ。
聞いてる俺たちの方が、こっ恥ずかしかったぜ。
これがな、そうだな、かごめや珊瑚辺りが、やるんなら様になるんだろうが。
皺(しわ)くちゃの婆(ばばあ)が、やってみろ。
何とも云いようがない代物だぜ。
それでだな、息子の地念児ってのが、半妖の癖に、やたら気が弱いんだ。
村の奴ら、そこに付け込んで、散々、地念児親子を虐めてたらしいぜ。
地念児の身体中に残ってる古傷、あれは、そのせいだろう。
チョコッと怒鳴りつけ、小石を投げられただけで、地念児の奴、泣き喚いて家に戻りやがるんだ。
あんなデカイ形(なり)して、まるで小さな餓鬼みてえだ。
拍子抜けするったらないぜ。
それで、自分よりもズッと小さい母親に助けを求めるんだ。
まあ、あの婆(ばばあ)の方が、見かけは山姥(やまんば)候(そうろう)で如何にも強そうだけどな。
悪いことに、その頃、村の周辺に人間の腸(はらわた)を喰う妖怪が出没してな。
三人目の被害者が出たばっかりだった。
村の奴ら、その犯人が地念児だと勝手に決めつけちまってたんだ。
何の証拠もないってのにな。
槍や刀、ありったけの武器を総動員して退治しようって話になってたのさ。
そうなると、何時ものことだが、かごめのお節介が始まってだな。
何時の間にか本当の犯人を捕まえようって流れになっちまったんだ。
毒消しの薬草を貰った手前、こっちも、そのまんま、知らん顔するって訳にもいかなくてよ。
仕方ねえ、こうなったら乗りかかった船だ。
かごめを地念児親子の処に残して、俺は一人、人喰い妖怪を追跡した。
殺された村人に人喰い妖怪の臭いが付いてたからな。
臭いを頼りに地中に隠された妖怪の巣を見つけ出した。
だが、其処は、蛻(もぬけ)の殻、妖怪は一匹もいなかった。
残ってたのは、孵(かえ)ったばかりの卵の殻。
・・・・てえことは、親妖怪が、子供達を狩りに連れ出したんだ。
人間の腸(はらわた)の味を教える為に。
そして、狩り場は、当然、村だ。
人喰い妖怪の子供が人間の味を覚えたが最後、あの村は、一人残らず食い尽くされちまう。
かごめが危ねえ!
全速で村へ取って返した。
戻ってみれば、村の奴ら、地念児の家を襲ってるじゃねえか。
地念児親子の住んでた小屋が燃えてる。
馬鹿野郎、何を勘違いしてやがる!
おまけに人喰い妖怪が子供達を引き連れて村の男どもを襲ってた。
つまり、奴ら、お食事のまっ最中って訳だぜ。
既に、村の男が二人、喰われて御陀仏だ。
ケッ、身をもって、自分たちの間違いを思い知るって感じだったな。
子供妖怪どもは、俺が、散魂鉄爪で仕留めた。
どうやら、かごめは、地念児が助けてくれたらしい。
親妖怪と地念児が闘ってる。
あの気の弱い半妖の地念児が。
手助けしようかと思ったら、婆(ばばあ)が止めるんだ。
地念児ひとりで闘わせろってな。
それを尻目にコソコソと逃げようとする村の奴らを足止めしてやった。
てめえらが虐めてた地念児が、本当は、どんなに強いか。
その目で、確(しっか)と見届けやがれ!
見せてやれ、地念児、お前の真の力を。
周囲の者が、全員、息を呑んで見守る中、遂に、力の均衡が破れた。
ブチブチ・・・・ブワッ!
地念児が、強力(ごうりき)で人喰い妖怪を引き裂いたんだ。
ズウウウウウゥン・・・・
地響きを立てて崩れ落ちる人喰い妖怪。
フン、大した怪力だぜ。
これで、もう、村の奴ら、怖がって、お前ら親子を虐めたりしねえだろう。
トトト・・・・地念児、なっ、何してんだよ?!
そいつら、村の奴らはな、寄ってたかって、お前ら親子を殺そうとしたんだぞっ!
そんな奴らに薬草を分けてやったりして!
ダァ~~おめえって奴は何処まで優しいんだよ。
チッ、好きにしな。
あの時は、急いでたんで、そのまま、別れたんだが、本当に呆れたぜ。
地念児の奴、トコトンお人好しなんだ。
その後、消えた奈落を追跡する途中、もう一度、薬草を貰いがてら地念児親子の許に立ち寄る機会があった。
あれから、結構、村の者とも上手くやってるようだったな。
その際、地念児親子に聞いたのが、小さな娘っ子、つまり幼女が、妖怪の毒消しの薬草、千年草を貰いにきたって話だ。
今、思い返してみると、ありゃ、りんの事だったんだな。
丁度、あの頃、殺生丸も、俺たちと同様、奈落を追ってたからな。
状況がピッタリ一致する。
妖怪の毒消しの千年草か、そりゃ、どう考えても邪見のこったろうぜ。
まかり間違っても、殺生丸じゃねえな。
大体、殺生丸自身が、体内に猛毒を保持してるんだ。
少々の毒なんぞ平気の平左だろうからな。
だとすると邪見に間違いねえだろう。
ン? そういや、殺生丸は、あん時、最猛勝(さいみょうしょう)を追ってたっけ。
てえことはだ、邪見の奴、毒虫、最猛勝にやられたんだな。
それで、りんが、ワザワザ地念児の処に出向いて、妖怪の毒消し、千年草を貰いに行ったと。
俺と殺生丸は、例によってチョッとした小競合(こぜりあ)いをしてたしな。
フンフン、成る程な、そう考えると辻褄(つじつま)が合ってくるぜ。
聞かせてもらった話にピッタリ符号する。
三年前、爆砕牙と左腕を手に入れた殺生丸が、曲霊(まがつひ)を追う為に、りんと邪見を楓ばばあの許に十日ほど預けたことが有った。
その時、かごめと弥勒が、これ幸いとばかりに、アレコレ邪見とりんから聞きだしたんだよな。
あの二人は何だかんだと好奇心が旺盛だからな。
尤も、そのおかげで、随分、色々な疑問が解消したことも確かだけどよ。
ンンッ? アァ~~ッ! そうだ、思い出した!
りんの奴、もう一度、地念児親子の処に行ってるんだ。
以前、琥珀が、瘴気を持つ毒蛇に噛まれたことが有ったんだ。
差し向けたのは、奈落の最後の分身、夢幻の白夜だ。
あの頃の奈落は、鋼牙の欠片も手に入れ、四魂の玉を、ほぼ完成させてた。
残るは琥珀の欠片のみだったからな。
だが、その琥珀の欠片は、桔梗の光に守られ清浄に保たれてる。
下手に取り込んだら、完成間近の四魂の玉が、一気に浄化されちまう怖れがあった。
だから、瘴気まみれの蛇を琥珀に噛みつかせ、ジックリ欠片を汚(けが)そうって算段だ。
もう少しで奈落の思惑通りになるはずだった。
だが、其処に邪魔が入った。
夢幻の白夜に、殺生丸が、冥道残月破を喰らわしたんだ。
生憎、躱(かわ)されたけどな。
殺生丸にしてみりゃ、気に喰わない奈落の臭いがするってんで斬りに行っただけのこったろうが。
俺達に取っちゃ、天の助けだったぜ。
もし、殺生丸が、琥珀を助けてくれなかったら・・・・。
それを考えると、ゾッとするぜ。
アァ、済まねえ、話が横道に逸れちまったな。
元に戻そう。
エ~~と、何だったっけ?
そうそう、白夜が仕掛けた瘴気の蛇のことだったな。
そいつらに琥珀だけじゃねえ、邪見まで、ついでに噛まれやがったんだ。
あの馬鹿、きっと、蛇に噛まれた琥珀の側にノコノコ近付いてったに違いないぜ。
奈落の分身、夢幻の白夜が仕掛けた瘴気まみれの蛇。
そりゃ、かなりの猛毒だろう。
チョッとやソッとの毒消しじゃ利きそうもないぜ。
そうなってくると、やっぱり、地念児の薬草でないとな。
とまあ、そうした事情から、りんは二度も毒消しの薬草を貰いに地念児の処へ行く羽目になったのさ。
おまけに、りんが、人間と妖怪、両方の毒消しを貰いに行ったもんだから、あの夢見がちな婆(ばばあ)、またまた、妙な想像をしやがって。
信じられるか、りんが人間と妖怪の二股掛けてると思ったんだぜ!
あんなチビっこい奴に二股もクソもあるか。
大体、色恋だって理解してるとは思えねえぞ。
それだけじゃねえ、あの婆(ばばあ)、りんに、とんでもない事を吹き込んだんだ。
琥珀が気絶してるなら口移しで薬草を煎じた汁を飲ませろってな。
りんは純真だからな、婆(ばばあ)に云われた通りにしようとしたらしい。
だが、そうする直前に、殺生丸が現われて、既(すんで)のところで止めたって訳だ。
フゥ~~~ッ、危ねえ、危ねえ。
あのクソ婆、てめえが、どんなに危ない橋を渡ってたのか気付いてねえんだろうな。
下手したら怒り狂った化け犬に殺される処だったんだぞ。
全く、しょうもない万年乙女の惚れ心に教えてやりたいぜ。     了


2009.2/5.(木).作成 ◆◆猫目石

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