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『降り積もる思い(25)=鋼牙=』

刀々斎の次となると鋼牙だな。
フン、痩せ狼か、あいつとの出会いは初っ端(しょっぱな)から最悪だったぜ。
何せ、あんにゃろうは人喰い狼どもの親玉だったからな。
後で判ったんだが、鋼牙の手下の狼どもが、りんを噛み殺してるんだ。
全くトンデモナイ野郎だぜ。
もし、アイツが、殺生丸とバッタリ出喰わしでもしたら・・・・。
良くて瞬殺、悪けりゃ嬲殺(なぶりごろ)しだろうぜ。
アン、珊瑚は許されてる?!
馬鹿いってんじゃねえっ!
珊瑚の場合は、のっぴきならない事情があった上に、りんに掠(かす)り傷ひとつ負わせてないんだ。
それに引き換え、鋼牙の場合は、殺生丸が容赦してくれる理由がコレっぽっちもないんだぜ。
考えてもみろよ。
噛み殺されてるんだぜ、りんは!
いくら天生牙で蘇生してるったって断末魔の恐怖と苦しみを経験してるんだ。
俺だって、もし、かごめが鋼牙の狼どもに噛み殺されたとしたら・・・。
飽くまでも仮の話だがな。
一切、容赦しねえ。
即刻、鋼牙の首を捻(ね)じ切るぜ。
殺生丸だって同じだろ。
アア、悪い、話を元に戻すか。
かごめが四魂の欠片の気配がするっていうから行ってみれば。
ウッ、村人が殺されてる。
それも、一人や二人じゃねえ。
村ごと皆殺しだ。
辺りには気に喰わねえ狼の臭いがプンプンしてたな。
かごめが云うにゃ四魂の欠片の気配が逃げてるみたいに感じてたらしい。
それもその筈だった。
四魂の欠片は妖狼族の若頭、鋼牙の両足と右腕に仕込まれてたんだからな。
あん畜生は本当にムカつく野郎だった。
いきなり人のことを『犬っころ』呼ばわりしやがって。
出会い頭から鉄砕牙を抜いて戦闘開始だ。
四魂の欠片を右腕と両足に仕込んでるせいで奴の動きは、やたら素早かった。
おまけに鋼牙の野郎、滅茶苦茶、勘が鋭いんだ。
風の傷を試してやろうとした瞬間、何かを感じ取ったらしく、アッという間に逃げ去りやがった。
取り残されたこっちが、思わずポカ~~ンとする程、切り替えが早かった。
とにかく四魂の欠片を持ってるとあっちゃ、奴を見逃す訳にもいかねえ。
俺達は鋼牙の後を追った。
山肌に沿った崖っぷちに奴の狼どもがいたな。
そのまま、とっ捕まえてやろうとしたら、何と崖の上で別の狼の一群が待ち伏せしてたんだ。
チィッ、しゃらくせえ、こんな奴らに俺がやられるとでも。
散魂鉄爪で当たるを幸い片っ端から引き裂いてやったんだが。
如何せん、数が多すぎる。
雲母に乗った弥勒や珊瑚も応戦するだけで手一杯だった。
このままじゃ、かごめが・・・・。
次の瞬間、四匹の狼どもが俺に飛び掛ってきた。
こいつら、このまま一緒に落ちる気か!?
そうしたら崖の側面に隠れていたんだろう。
いきなり鋼牙の野郎が現われて、横から、かごめを掻っ攫っていきやがった。
クソッ、あいつの目的は最初から、かごめだったんだ。
珊瑚が雲母に乗って鋼牙を追跡しようとしたが、生憎、鳥の化け物に邪魔されちまった。
鳥の化け物は極楽鳥とかいうらしい。
上半身は人型の妖怪で下半身は丸く膨らんだ腹に鳥の羽が付いてる。
ハッキリいってゾッとしない代物だぜ。
極楽どころか地獄の鳥って感じだったな。
その極楽鳥ってのが妖狼族や狼どもの天敵だったんだ。
クソッ、かごめを早く取り戻さないと。
幸い、七宝が、かごめと共に居た。
七宝の狐妖術『泣き虫キノコ』が鋼牙の行く先を教えてくれた。
息せき切って駆け付けてみれば、妖狼族が総出で極楽鳥どもと戦ってるじゃねえか。
鋼牙め、こんな修羅場に、かごめを連れ出しやがって。
かごめがケガでもしたら、どうするんだ!
許さねえ、ぶっ殺してやる!
片っ端から散魂鉄爪で邪魔な極楽鳥どもを薙ぎ倒した。
雲母に乗った珊瑚は飛来骨で応戦だ。
それに、こっちには弥勒も居るしな。
こういう数を頼んだ輩を片付けるにゃ風穴は持って来いだぜ。
極楽鳥どもは粗方(あらかた)弥勒が風穴で吸い込んだ。
残るは極楽鳥の親玉のみ。
そいつも四魂の欠片を持ってたんだ。
だから、鋼牙は奴を狙ってたし、極楽鳥の親玉も鋼牙を狙ってた。
互いが互いの四魂の欠片を虎視眈々と狙ってたって訳さ。
かごめを鋼牙が連れ去ったのだって四魂の欠片を見るかごめの力が欲しかったからなんだ。
ケッ、いい迷惑だぜ、全く。
それだけじゃねえ!
鋼牙め、『かごめに惚れた』とか抜かしやがって。
クククッ・・・もう我慢も限界に来たぜ。
一気に片付けてやろうと思ってたんだが、極楽鳥の親玉が鋼牙に殺された兄貴の仇を取ろうと物凄い勢いで突っ込んできた。
奴の狙いは鋼牙の命と四魂の欠片だ。
腹の方のデッカイ口に右手を咥えこまれた鋼牙。
四魂の欠片を仕込んだ右足の蹴りで何とか巨大な口から逃れたものの、右手の四魂の欠片は取られちまった。
鋼牙の奴、かなりの深手を負わされた上に空中に投げ出されて落ちてきた。
そして、弱った鋼牙を、化け鳥の親玉め、再度、上空から狙ってきやがった。
フン、弱っちい奴をやるなんざ俺の性分に合わねえ。
ここは一丁、俺の強さをジックリ妖狼族どもに拝ませてやるぜ。
ゴッ、鉄砕牙を一閃、『風の傷』だ。
ブワッ・・・バラバラ・・・・
バラバラに斬り裂かれ落ちてくる極楽鳥の親玉。
どうだ、見たか!
と後ろに目をやれば、なっ、何だ!?
かごめが鋼牙を抱いてるじゃねえか!
ガァ~~~~ン!
どっ、どうして、そんな奴を庇うんだ???
痩せ狼め、ヨロヨロしながら立ち向かってきやがった。
ハッ、ケガしてる癖に減らず口だけは相変わらずだったがな。
やっぱり、相当の痛手を被(こうむ)ってたんだろう。
鋼牙め、二・三歩でバタッと倒れやがった。
こういう危ない野郎は早いとこ潰(つぶ)しとくに限る。
散魂鉄爪で仕留める積りだったのに、かごめが、『おすわり』を発して俺を地面に叩きつけやがった。
その間に鋼牙の野郎は仲間に連れられてトットと逃げちまった。
どう考えても俺は納得できなかったぜ。
かごめの奴、あんな野郎を庇(かば)いやがって。
畜生、今、思い出してもムカムカする。
何の因果か、鋼牙とは、その後も何度か顔を合わせる羽目になるんだが。
大抵、こんな調子でな。
アイツの顔をみれば腹が立つ、罵(ののし)る、手が出るの連続だった。
図々しくって本当~~に頭に来る野郎だったぜ。


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