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『降り積もる思い(23)=幻影殺=』

『幻影殺』、卑怯者の奈落お得意の妖術だ。
奈落がビッシリと地面に張り巡らせた蔓のような触手。
そいつに触れたが最後、心の中の一番弱い部分を攻撃され絶望に打ちのめされて死んでいくんだ。
・・・・誰だって心の中に曝(さら)け出したくない思い出の一つや二つ有るもんだからな。
俺の場合は桔梗に封印された時の記憶だ。
奈落に連れ去られた桔梗。
あのまま放っとく訳にはいかなかった。
俺は一人で桔梗を助け出しに行く積りだった。
だけど・・・・弥勒を始め珊瑚や、かごめまでが一緒に助けに行くって云い出してチョッと押し問答になった。
その最中、奈落の毒虫、最猛勝(さいみょうしょう)が、まるで俺達を誘うかのように現われたんだ。
フン、実際、罠だったけどな。
最猛勝の後を追う途中、桔梗の僕(しもべ)死魂虫(しにだまちゅう)に出喰わした。
間違いない、桔梗は側にいる。
死魂虫が霧の中に入っていく。
まず、十中八九、奈落が罠を張ってるのは間違いねえ。
用心しつつも、そのまま、霧の中に突っ込んでいった。
周囲を見回せば、誰もいない。
かごめ、弥勒、珊瑚、七宝、雲母(きらら)、みんな、何処へ?!
バチバチバチ・・・ゴォ~~~
火? 気が付けば俺は炎に巻かれた村に居た。
村人が俺を見て憎悪に満ちた声を発する。
手には何時の間にか四魂の玉が。

「犬夜叉!」

矢が、破魔の矢が、俺を目指して飛んでくる。
放ったのは桔梗。
これは、あの日の、桔梗が俺を封印した時の記憶。
奈落の罠に嵌った俺たち。
悲痛な桔梗の言葉が、涙が、俺の心を締め付ける。
アァ、血だらけじゃねえか、桔梗。
そうだよな、お前は、俺の後を追って死んだんだ。
わかった・・・桔梗・・・・一緒にいこう・・・・
このまま抱き合ったまま二人で・・・・
桔梗を信じきれなかった俺、裏切られたのが悔しくて憎くて。
お前が俺の後を追って死んだことも知らなかった。
封印の矢は俺を、又、一人にした。
桔梗に出逢う前の孤独な日々。
誰も信じられず生きていた頃と同じ一人ぼっち・・・・。
一人・・・・違う!
俺には、かごめが居る。
かごめ、かごめは何処だ?!
俺が正気づいた途端、抱きついてた桔梗が変化した。
桔梗じゃねえ!
パキパキ・・・・バチバチ・・・・
俺の体に絡み付いていたのは蔓。
クッ、術が破れたのに気付いたせいだろう。
蔓が燃え始めた。
このまま焼き殺そうってんだな。

「畜生!」

こんな処で死んで堪るか!
絡みついた蔓を引きちぎって身体の自由を取り戻した。
何もかも幻だったんだ。
奈落の野郎、一番、触れられたくない心の傷を、ご丁寧にも再現してくれやがった。
幻術から目が覚めてみれば弥勒も蔓に絡まれてるじゃねえか。
爪で蔓を引き裂いて弥勒を自由にした。
俺と同じように弥勒も心の中の怖れを利用されてた。
この分じゃ珊瑚も同じだろう。
珊瑚は弥勒に任せて、俺は、かごめを捜した。
かごめの匂いを必死に追った。
辿り着いた先に見えたのは・・・・。
今にも地面の裂け目に落ちんとするかごめと、それを見下ろす桔梗。
まっ、まさか、桔梗、お前、かごめを?!
急いでかごめを引き上げる。
桔梗の手には、かごめの持っていた四魂の欠片が。
一体、二人の間に何が有ったんだ?!
地面の裂け目には奈落の瘴気が満ちてた。
あんな処に落ちたら跡形もなく溶かされていただろう。
まだ、他にも桔梗に問い質したいことが色々有った。
でも、桔梗は、何匹もの死魂虫に運ばれ、そのまま姿を消しちまった。
かごめの様子も可笑しかった。
妙に沈んだ感じで明らかに何か隠してる。
そしたら、かごめの奴、いきなり、「まだ、桔梗が好きなんでしょう?」とか云い出して。
こっ、こんな時に何云ってんだ!
俺はなあっ、お前の事を思い出したからこそ、奈落の掛けた幻術を破れたんだぞ。
かごめの手を掴んで、「とにかく、もうチッと俺を信用して・・・」と云いかけた処で邪魔が入った。
珊瑚と七宝を負ぶい飛来骨を回収した弥勒が、疲れた様子で俺達を見てたんだ。
そして、ボロッと一言。

「・・・・お話は、お済で?」

「え”」

完全に二人だけの世界に入っていた俺達は、思いっきり間抜け面をしてたと思う。

                                   了





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