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『降り積もる思い(28)=悟心鬼(ごしんき)=』

悟心鬼(ごしんき)、アイツのことは忘れようったって忘れられねえ。
何しろ鉄砕牙を噛み砕いてくれたからな。
桔梗と逢ってから程なく一人の男が送り込まれてきた。
見れば傷だらけだ。
必要なことだけ喋ったかと思うと、その場に崩れ落ち溶けていった。
死臭で判っちゃいたが男は最初から死んでいた。
神楽の屍舞(しかばねまい)だ。
鬼・・・背中に蜘蛛・・・男の残した言葉から判断して奈落が生み出した三匹目の妖怪に間違いねえ。
男の残してきた臭いを追って辿り着いてみれば。
何なんだ、コイツは。
確かに見た目は鬼だな。
頭に二本の角を生やした醜悪な化け物だ。
如何にも強力な膂力(りょりょく)を振るいそうな三本爪の長い腕。
馬みてえな鬣(たてがみ)と尻尾。
背中には聞いてた通りに蜘蛛の痣(あざ)が。
大きく裂けた口には鋭い尖った歯がビッシリと生えてる。
あの歯で手当たり次第に人も獣も喰いまくるんだ。
悟心鬼はデカイ図体の癖に随分すばしっこかった。
そして何より驚かされたのが奴が相手の心を読めるってことだ。
参ったぜ、こっちが何を考えてるのか全てお見通しなんだからな。
風の傷を撃とうにも、悟心鬼の奴、軌道の中に入り込んできやがる。
畜生、これじゃ撃てねえ。
ならば、直接、たたっ斬ってやる!
そう思って振り下ろした鉄砕牙を、野郎、歯で受け止めやがった。
バキバキ! バキッ!
ゲエッ、鉄砕牙が噛み砕かれた。
茫然とする俺に悟心鬼が襲い掛かる。
悟心鬼の両腕に生えた鋭い刃のような棘(とげ)。
ズバッ、その棘に胸を切り裂かれ俺は倒れちまった。
あの時、俺の心を支配していたのは『死にたくねえ』って強烈な本能だった。
身体が熱くなって自分が自分じゃないような感覚が俺を圧倒してた。
ハッキリしない意識の中、俺は獲物を引き裂いて楽しんでた。
その後に起こったことは余り覚えてねえ。
気が付けば悟心鬼は倒され、俺もかごめに『おすわり』を喰らわされてた。
かごめが云うには俺は妖怪化してたらしい。
頬には妖線が走り爪は長く伸び目も赤く変化してたそうだ。
とにかく奈落の三匹目の分身は始末した。
だが、頼みの綱の鉄砕牙は折られちまった。
そして俺に倒された悟心鬼は意外な形で甦ることになる。
鬼の牙の剣、闘鬼神として。

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