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『愚息行状観察日記⑪=御母堂さま=』

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 ※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


「左腕を失いながらも、尚、殺生丸さまは鉄砕牙を諦めようとはなさいませんでした」
「そうだろうな。あ奴は一旦こうと決めたら、まず退(ひ)うとはせん。トンデモナイ頑固者だ」
「そんな当代さまに甘言をもって近付いたのが奈落にございます。四魂の欠片を仕込んだ人間の腕を殺生丸さまに差し出し犬夜叉殿と闘うように仕向けたのです」
「フム、奈落とやらの誘いに乗ったか。あれの性格なら面白い趣向とでも思ったのであろう」
「左様にございます。しかし、その企みは犬夜叉殿に退(しりぞけ)けられ成功しませんでした。そして、三度目、当代さまは竜の左腕を繋(つな)いで挑まれました」
「我が息子ながら実にしつこい奴だな。好い加減、諦めればよいものを」
「三度目は、遂に、犬夜叉殿が風の傷を会得されまして、まともに喰らっていれば当代さまの御命は無かったでしょう。しかしながら、この時は天生牙が初めて結界を張って殺生丸さまを守りました。当代さまは瀕死(ひんし)の重傷を負われたものの御命だけは何とか取り留めたのでございます」
権佐の話を聞いて狗姫が溜め息を吐いた。
「ハァ・・・本当に馬鹿息子だな。そんな事をしておったのか。呆(あき)れて物が言えん」
「天生牙は当代さまを闘いの場から少し離れた森の中にお連れしました。そこで殺生丸さまは、りんという人間の童女と出会われたのです」
「その小娘ならば知っておる。つい先日、あ奴が、この城を訪れた時に見た。冥道残月破の冥道を拡げる為に乗り込んできおってな。その際、極めつけの人間嫌いであったはずの殺生丸が人間の子供を二匹も連れておった。何の間違いかと最初は思ったが。餌にでもするのかと殺生丸に訊けば即座に否定しおった。ならば単なる気紛れかとも思ったのだが、それも違っておった。小僧の方は確かに殺生丸に臣従しておったようだが、小娘の方は・・・ム~~~何と云えばよいのか。やはり、こう云うしかあるまい。あれは姫だ、殺生丸のな。肝心の小娘が幼すぎて、今はアアだコウだとは言えんが、まず間違いなかろう」
「御方さま、それは真(まこと)にございますか」
筆頭女房の松尾が驚いて口を挿(はさ)んできた。
「ああ、十中八九(じゅっちゅうはっく)間違いない。近い将来、あの小娘は殺生丸の妻になるだろう。少なくとも殺生丸はその気だろうな」
「まあまあ、何とした事。若さまが、この城を御訪問なさった時、不在だったことが悔やまれてなりません。松尾、一生の不覚にございます」
「アア、あの時、そなたは用があって西国へ行っておったな」
「もし、若さまが姫君をお連れしていると知っておりましたならば、不肖の身ながら、この松尾、万難を排してでも城に詰めておりましたものを」
「マア、そう落胆いたすな、松尾。いずれ逢う機会も巡ってこよう」
「コホン、話を続けて宜しゅうございますか」
権佐が女同士の話に割って入った。
「ンッ、すまん、すまん、ついつい内輪の話に夢中になった。続けてくれ、権佐」
「その童女を奈落が、イエ、配下の者が攫ったことが有るのです。目的は当代さまの力を取り込むことにありました」
「取り込むとな?」
「奈落は数多の妖怪の融合体、目を付けた妖怪を己が体の中に溶かし込み妖力を奪うのでございます。そうですな、判りやすく言えば文字通り『喰らう』のでございます」
「ホッ、さすれば奈落とやらはトンデモナイ悪食(あくじき)だな」
「無論、当代さまは奈落のような下賤(げせん)の輩に取り込まれたりはしませんでしたが。奈落の奴め、その腹いせからか、卑怯にも童女を自分の配下の者に殺させようとしたのです」
「成る程、それで殺生丸が奈落を仇と付け狙うようになったのだな」
「左様でございます」
「あの殺生丸が、そんな事をされて黙っているはずがない。あの小娘は殺生丸に取って天生牙よりも大切な存在なのだからな」
「おっ、御方さま、それは、どういう意味でございましょうか?」
松尾が狗姫の発した言葉に驚き疑問を投げかける。
「言葉通りの意味よ、松尾。先程も申したように愚息は冥道残月破の冥道を拡げるために、この城にやって来た。だから、妾(わらわ)は闘牙から預かった、この冥道石を使って冥界の犬を呼び出したのだ。そうするように闘牙から言付かっておったからな」
首から下げている首飾りの冥道石を手に狗姫が先日の事情を知らない松尾と権佐に説明する。
「殺生丸の操る冥道残月破の冥道は痩せ細った三日月のような形でな。到底、真円からは程遠い代物だった。あれでは、あ奴が納得せぬのも道理。冥界の犬にも全くの効果無しだった。すると何を思ったのか、冥界の犬め、人間の子供を二匹とも呑み込んで冥道へと逃げ込んだのだ」
「それで、若さまは、如何されたのでしょうか?」
「フッ、殺生丸の奴はな、躊躇(ためら)いもせず冥道に踏み込んでいこうとしおったわ」
「「何とっ!」」
「流石に妾(わらわ)も、それは予想しておらなんだ。だからな、一応、止めはしたのだ。だが、あ奴、妾(わらわ)に何と答えたと思う。『犬を斬りに行くだけだ』だぞ。ハッ、見え見えではないか。殺生丸が冥道に入ったのは断じて犬なんぞのせいではない。小娘を救う為よ。小僧は、まあ、ついでといった感じだったがな」
 

『愚息行状観察日記⑫=御母堂さま=』に続く

 

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