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『愚息行状観察日記⑫=御母堂さま=』



 
※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


「それで、御方さま、冥界の犬に呑み込まれた子供達は、どうなったのでございますか?」
狗姫(いぬき)の話を聞いたせいだろうか。
松尾は、殺生丸が大事にしているという人間の童女の安否が気になるらしい。
狗姫に話の先を続けるよう急(せ)かした。
「殺生丸は冥界の犬を癒しの天生牙で斬り捨て子供達を救出した。だがな、小娘の息は間もなく止まってしまった。無理もない。儚(はかな)い人間の身、まして脆弱(ぜいじゃく)な雛鳥にも等しい幼子(おさなご)が冥界の邪気に耐えられるはずもない。そんな小娘に対し、小僧の方は、何故か冥界の中でもピンピンしておったな。生身の人間では、到底、有り得ぬことだ。不思議に思って、後で、その事について小僧に問い質してみた。すると四魂の欠片で命を繋いでいると申してな」
権佐がピクリと『四魂の欠片』という言葉に反応した。
「四魂の欠片・・・やはり、その人間の小僧も奈落と何らかの関わりがあるようですな」
「だろうな。そうでなくば殺生丸が傍に置くはずもあるまい。話を続けるぞ。息を吹き返さない小娘にさしもの殺生丸も、どうすればよいのか困り果てておった。そこへ冥界の常闇(とこやみ)が押し寄せ小娘をかっ攫っていったのだ。冥界を支配する主(ぬし)の許へな。そうそう、あの時だったな、妾(わらわ)が冥道石を使って現世への道を愚息に開いてやったのは。なのに、殺生丸め、折角の母の親切を完璧に無視しおった。昔からそうだった。あ奴は本当に可愛げがない」
そこへ松尾が、すかさず合の手を入れる。
「御方さま、お腹立ちはご尤(もっと)もですが、ここは話を先へ進めて下さいませ」
「ム・・・判った。冥界の奥へ踏み込んだ殺生丸と小僧は、小娘を右手に掴んだ巨大な冥界の主(ぬし)を見つけたのだ。周囲は積み上げられた死人どもが山を成す荒涼たる風景でな。見るだに芬々(ふんぷん)たる死臭が漂ってきそうであった。冥界の主は小娘を死人の山に放り込む積りだったのだろう。それを見て取った殺生丸が素早く天生牙を抜き放ち冥界の主を腕ごと斬って捨てたのだ。天生牙に斬られたせいで冥界の主は消滅。小娘を掴んでいた腕も霞(かすみ)のように消え失せた。落ちてくる小娘は殺生丸が天生牙を握ったまま右腕で抱き上げた。あの世の使いどもの首魁(しゅかい)である冥界の主(ぬし)を斬ったのだ。当然、小娘は目を開けるはずだった。なのに、一向に小娘は目覚める気配がない。これは流石に可笑(おか)しいと思ってな。殺生丸が連れていた小妖怪に訊いてみたのだ。もしかして小娘は天生牙で既に甦った事があるのでは?と。案の定、小妖怪の答えは妾(わらわ)が予測した通りであった。殺生丸は知らなんだようだな。天生牙で死者を呼び戻せるのは唯一度きりだと。どうあっても目覚めない小娘に絶望したのであろう。殺生丸が天生牙をポロリと取り落としおった。刀の成長の為に冥界に踏み込んでおきながらな。取り落とされた天生牙は、そのまま冥界の地面に静かに突き刺さった。天生牙の刀身がボウと朧(おぼろ)に光を放ち始めた。するとな、物音ひとつしなかった周囲の死人の山が反応し始めたのだ。ザワザワと生きておるかのように蠢(うごめ)きだしたのよ。山が、イヤ、死人どもが地滑りのように雪崩(なだ)れ込み、天生牙の周囲、つまりは殺生丸と小娘の周りを取り囲んだのだ。その様は、あたかも亡者どもが天生牙に縋(すが)っているかのようであったな。イヤ、事実、縋っていたのであろう。救われたい成仏したいと。その様相に何かを感じたのだろう。殺生丸が小娘を抱いたまま膝を折って天生牙を拾い上げ天に向けて掲げたのだ。一際、眩しい清浄な輝きが天生牙からあふれ出し昏(くら)い冥界を照らし出した。亡者どもが浄化の光に導かれ静かに消滅していった。あれこそ慈悲の光であろうな。亡者どもが完全に浄化されたと同時に冥道が開いた。以前の痩せこけた三日月とは大いに違う。真円でこそないが、それに近い形にまで拡がっていた。そこから小娘を抱いた殺生丸と小僧が現世に戻ってきたのだ」
「それで、御方さま、童女は、どうなったのでございますか?」
「慌てるな、松尾、それを今から話す」

『愚息行状観察日記⑬=御母堂さま=』に続く

 

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