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『愚息行状観察日記⑭=御母堂さま=』



 ※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


頷(うなず)いた松尾と権佐に向かい狗姫は話を続けた。
「とまあ、以上が、先日、この城を殺生丸が訪問した際の事の顛末(てんまつ)だ」
「それで御方さまは暇を見つけては“遠見の鏡”で若さまの動向を探っていらっしゃったのですね」
松尾が空かさず狗姫の行動を指摘した。
「まあな、この二百年、これといった動きがなかった殺生丸が、やっと本格的に動き出し始めたのだ。物事は、一旦、動き出すと坂から石が転げ落ちるように次々と動き出す。これは目が離せぬと、ここ最近、愚息の行動を覗いておったのよ。さすれば、この城を辞去した直後、今度は死に損(ぞこ)ないの死神鬼が、殺生丸に絡んできおったわ。大方、闘牙への怨みを息子である殺生丸に向けて晴らす積りだったのだろうが、お門違いも甚(はなは)だしい。死神鬼め、殺生丸を甚振(いたぶ)る為だろう。天生牙が鉄砕牙から切り離された刀だと暴露しおったわ。お陰で殺生丸が闘牙の真の意図に気付いてしまった。冥道残月破を完成させた上で天生牙を鉄砕牙に吸収させるという、アレに取っては屈辱的な目論見をな」
「若さまは、さぞかし憤(いきどお)っておられましたでしょうなあ」
「まあな、松尾。アレの矜持は昔から高すぎる程に高かったからな」
「それで、御方さま、殺生丸さまは、その事実を知って、どう決断されたのでしょうか」
「権佐よ、アレの気性を熟知しておるそなたなら、殺生丸が、どうしたか予測がつくであろう」
「ということは、冥道残月破ごと、そっくりそのまま弟御に天生牙を・・・」
「その通りだ。いずれ手離さねばならぬモノなら、もう一時も手許に置きたくなかったのであろう。例え、それが、どれ程の辛苦の果てに会得した技であろうと・・・な」
「当代さまは、文字通り、苦渋の決断をされたのですな」
「誰よりも誇り高い若さまらしゅうございます」
権佐と松尾が、各々(おのおの)感じたままを言葉にする。
両名とも殺生丸が幼い頃から仕えてきた生え抜きの家臣である。
その分、殺生丸に対する思い入れも強い。
「それでな、とどのつまり、冥道残月破は半妖の弟が持つ鉄砕牙に吸収された。だが、何故か、不思議なことに天生牙は鉄砕牙に吸収されず“癒やしの刀”として残ったのだ。まあ、それは別に構わん。問題は、殺生丸に絡んできた妙な男の事だ。そなた達も“遠見の鏡”で見たであろう、あの若衆侍。彼奴の敵とも味方ともつかぬ態度。それが気になって権佐に調べさせたのだ」
「御方さま、あの者は“夢幻の白夜”と申しまして奈落の手の者にございます」
「それは真か、権佐」
「ハイ、しかも、“夢幻の白夜”は奈落の分身にございました」
「分身とな?」
「ハッ、先程も御説明申し上げたように奈落は数多の妖怪どもの融合体。次から次へと妖怪を喰らい己が身に取り込んでは力を増幅させてきました。それが、先頃、ほぼ完成に近い四魂の玉を手に入れてからは、今度は分身を生み出すことまで出来るようになったのです。とはいえ、これまで生み出された分身は大半が犬夜叉殿に倒され、残りは奈落に殺されるか吸収されたりしました。今現在、残っているのは“夢幻の白夜”のみです」
権佐の話に疑問を感じた狗姫が口を挟む。
「権佐よ、奈落の分身を半妖が倒すのは判るが、何故、奈落が己の分身を?」
「分身だからこそでございましょう。奈落は猜疑心が強く誰であろうと容易に信用しません。そして、非常に用心深い。おまけに、この上なく奸智に長(た)けております。犬夜叉殿の例を見れば判るように一筋縄ではいきません。二重・三重の罠を張るという怖ろしく巧妙な手口を駆使します。策を弄し他者を陥れることを何とも思わぬ輩なのです。弱者を嘲笑い強者に阿(おもね)り、裏切りを常とする、それが奈落です。そうした奈落の気質を色濃く受け継いでいる分身です。相手が何者であろうと隙あらば何時なりと襲いかかってきましょう。本体だけは裏切らないという保証がどこにありましょうか。奈落自身が、その危険性を、誰よりも知り抜いているはずです」
「成る程な。では奈落なる輩(やから)は殺生丸を使って半妖を殺させる積りだったのだな。イヤ、下手をすると殺生丸もろとも兄弟の相討ちさえも企(たくら)んでおったのだろう」
「「何とっ!?」」
権佐と松尾の両名が衝撃を受け驚きの声を発した。
「半妖と闘う前に、奈落の分身である、その“夢幻の白夜”とやらが殺生丸に妙な鏡の欠片を渡しおったのだ。当然、奈落の差し金だろう。その鏡の欠片はな、敵の妖力を、そうさな、まるで鏡に映したかの如く奪い取ることが出来るのだ。その欠片を纏(まと)った天生牙は半妖の持つ鉄砕牙と見た目は全く同じに変化した。無論、鉄砕牙の技ごと奪ってな。兄弟同士の争いを見かねた者達が必死に闘いを止めさせようとしたのだが、そこへ、その若衆侍、奈落の分身が現われてな。頼みもせぬのに殺生丸と半妖を異次元に移動させたのだ。兄弟で殺し合わせる為にな。だが、事は奈落の思惑通りには運ばなかった。殺生丸は半妖を殺さず冥道残月破は首尾よく鉄砕牙に吸収された。全て闘牙の望んだままにな。後は、あの刀が出現するのを待つばかりよ」
 

『愚息行状観察日記⑮=御母堂さま=』に続く

 

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