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『愚息行状観察日記⑮=御母堂さま=』

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 ※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


狗姫(いぬき)の言葉に権佐と松尾の両名が反応した。
「では、やっと・・・」
「若さまの悲願が・・・」
両者の言葉に狗姫が頷き言葉を繋いだ。
「とはいえ、何時、現われるのかは、まだ判らん。だから、この“遠見の鏡”でズッと探っておるのだが。どうやら殺生丸が冥道残月破を失ったことは瞬(またた)く間に妖怪どもに知れ渡ったらしい。『悪事、千里を走る』とは良く云ったものだな。ここ数日、功名心に駆られた雑魚どもが引っ切り無しに挑んできよるわ。愚息の命と小僧の四魂の欠片を狙ってな。宛(あたか)も死骸に集(たか)る蝿(はえ)のようだ。煩いことよ」
掛け布を取り払い“遠見の鏡”を覗いた狗姫が声を上げた。
「何だ、こ奴は!?」
権佐と松尾も“遠見の鏡”を覗き込んだ。
鏡の中、殺生丸と男が対峙している。
奇妙な感じを与える男である。
容貌は、まず腰まである長い白髪、頬には一筋の妖線、何本もの妖線が走る腕、赤い瞳。
そして、何より三白眼から発散される強烈な悪意が見る者をしてたじろがせる。
見た目は人型であるが、右腕は三本の大きな鎌のような形状に変化した触手。
明らかに妖怪である。
三白眼の男の鎌状の触手が伸びてきた、瞬時に。
殺生丸の後方に控えていた人間の小僧を目掛けて。
小僧は双頭竜に飛び乗り、乗っていた小娘ともども空中に逃げ難(なん)を逃(のが)れた。
更に小僧を狙おうする男に殺生丸が挑みかかる。
岩をも砕く爪を武器にして。
だが、俊敏さを誇る殺生丸の攻撃さえ軽く躱(かわ)す三白眼の男。
それだけではない、隙を見て殺生丸の妖鎧に触手で穴を開けたではないか。
物音が、一切、伝わらないので何を云っているのかはサッパリ判らないが、あの男の様子、明らかに殺生丸を(あざけ)っておる。
この手の挑発に殺生丸が黙っているはずがない。
案の定、殺生丸は鎌状の触手を爪で薙ぎ払って懐に飛び込み男の胸元深く右手を突き入れた。
ヨシッ、これで三白眼の男は仕留めた。
心の臓を抉(えぐ)った上に殺生丸の毒を流し込めば如何なる敵といえども一溜(ひとた)まりも・・・。
何とっ!?
あの男、胸元を貫かれているというのに苦しそうな顔ひとつ見せん。
それどころか薄気味悪い笑みさえ浮かべておるではないか。
ムッ、三白眼の男の両腕が変化した!
片腕が三本、両腕にして六本もの鎌状の触手に。
六本の鎌が蟷螂(かまきり)のように殺生丸を挟(はさ)み千切り殺そうと狙う。
フゥッ、間一髪、逃れたぞ。
だが、殺生丸の右腕が焼け爛(ただ)れているではないか。
三白眼の男の胸元深く埋(うず)められていた右腕。
本来なら殺生丸の猛毒に侵されて奴は内部から溶け落ちるはず。
にも拘(かかわ)らず、三白眼の男は溶けるどころか逆に殺生丸の右腕に損傷を与えた。
ということは・・・あの男の毒の方が殺生丸の毒よりも強いというのか。
この眼で見たのでなければ信じられなかっただろうな。
妖界でも屈指の毒性を誇る化け犬が毒負けするなど。
一体、あ奴は何者なのだ?
またも鎌状の触手が殺生丸を襲う。
右肩を覆う毛皮が大きく抉(えぐ)られ焼け焦げた。
奴の狙いは殺生丸の右腕だな。
殺生丸は隻腕だ。
右腕さえ封じてしまえば戦闘能力を失う。
主(あるじ)の危機を見かねたのか人間の小僧が空中から三白眼の男に攻撃を仕掛けた。
小僧が投げた鎖鎌が男の頭にめり込む。
しかし、三白眼の男は痛みを感じておらぬのか。
全く意にも介さんようだ。
寧(むし)ろ、顔の周(まわ)りに飛び交う小虫風情(こむしふぜい)にしか感じておらぬだろう。
小僧、何をする気だ?
無謀にも小僧が双頭竜から跳び下りおった。
何か勝算でもあるのか。
あれでは三白眼の男の格好の餌食(えじき)になるだけではないか。
鎌状の触手が伸びて小僧の項(うなじ)付近に突き刺さった。
大方、四魂の欠片とやらが埋め込まれている場所だろう。
邪気にやられたのか。
小僧がガクリと項垂(うなだ)れた。
チッ、小僧め、余計な真似をしおって。
小僧を救う為に殺生丸が動けば否応(いやおう)なく隙が生じる。
そこに敵が乗じてくる。
アアッ、言わぬことではない。
小僧に伸ばした殺生丸の右腕が串刺しに!
「若さまっ!」
「殺生丸さまっ!」
両脇の松尾と権佐が悲鳴のような声を上げる。
無理もない。
あ奴が、こうまで追い込まれるところなど今まで一度も見たことが無いからな。
無残だな、三本もの触手が右腕に突き刺さっている。
それにしても、あの三白眼の男の体は、どうなっているのだ?
触手が見る間に大きく拡がっていくではないか。
まるで体内に何体もの妖怪を隠し持っているかのようだ。
通常の妖怪では有り得ぬことだ。
この危機的状況を、どう乗り切る、殺生丸!?


『愚息行状観察日記⑯=御母堂さま=』に続く
 

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