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『降り積もる思い⑮=桃果人=』

桃果人か・・・・チッ!
今、思い出しても胸くそ悪くなるぜ。
あん時は、ひどい目に遭った。
相変わらず俺達は四魂の欠片を捜して旅を続けていた。
あのクソ仙人と事を構えたのは、偶然、川に流れてきた生首を見ちまったせいだったな。
戦でも有ったのかと思いきや、その生首、傷口が全く無いんだ。
どう考えても可笑しいと思うだろう?
妖怪が絡んでる可能性は大だぜ。
ついでに四魂の欠片もな。
それで原因を探ろうと生首の流れてきた川を遡ったんだ。
川に沿い上流に向かえば向かう程、濃くなってくる霧。
その深い霧の中から声が聞こえてきたんだ。
「お——い」「おお——い」
誰かに呼びかける声だった。
その声を頼りに更に川を遡っていけば・・・。
川沿いに生えている一本の木に辿り着いた。
その木には生首がビッシリ生ってた。
まるで木の実みてえにな。
声は、その生首から出てたんだ。
かごめも七宝もビビッて俺に取り縋ってたな。
まあ、そりゃ、吃驚もするわな。
何しろ、生首が喋ってんだ。
こういう場合、話の聞き役は弥勒と相場が決まってる。
アイツは法師っつうだけあって話を聞きだすのが上手い。
そん中の首の一つから経緯(いきさつ)を聞きだしてみれば、みんな、仙人に喰われたって云うじゃねえか。
仙人が人を喰うだと!?
そんな馬鹿な話、聞いた事ねえぞ。
人喰い仙人とやらは『桃果人』と名乗ってるそうだ。
そうやって話を聞いてる最中だったな。
山の上の方から何か落ちてきたんだ。
カラカラ・・・パラパラ・・・ボン!
それは人骨だった。
所々、肉片がこびり付いた、まだ新しい骨。
その骨を木の根が地中にズズッと取り込んだ。
すると木の幹に何かが浮き出てきた。
人の顔?みたいな。
事情を話してくれた生首の爺さんが云うにゃ、それは桃果人に喰われた骨の主の顔なんだとよ。
暫くすると幹から果物が生(な)るように生首が生(は)えてくるらしい。
そうやって生えてきた生首の実は『人面果』と呼ばれ桃果人の不老長寿の薬になるってんだ。
ケッ、何て、けったくそ悪い話だ。
そんな野郎はサッサと片付けるに限るぜ。
今夜は朔の日だしな。
俺の妖力が消える前にケリを付けとかねえとな。
そう思って、かごめや弥勒達を置いて、俺一人、山の上に向かったんだ。
エセ仙人如き、大して手が掛かるまいと高を括ってたんだよな。
その甘さが、後で、とんでもねえツケとなって廻ってくるんだが。
フッ、あの頃は、まだ俺も青かったぜ。
切り立った山の斜面にへばり付くように建ってた仙人の屋敷。
あん畜生、桃果人は、見るからにブクブク肥え太った野郎だった。
この人喰い仙人が!
手っ取り早く倒しちまおうと鉄砕牙で斬り付けたは良いが、腹の肉にはね返されちまった。
ボヨヨ~~~~~~ン
畜生、一体、どうなってやがる?!
驚く俺に対し、桃果人の野郎、何をするのかと思えば。
杖を一振りして空中に花を撒き散らしやがった。
目くらましかと思ったが違ってた。
あれは相手を小さくする仙術だったんだ。
そんでもって小さくなった俺を鷲摑みにして、そのまんま口の中に入れ呑み込んじまった。
桃果人の腹ん中に呑み込まれた俺は、何とかして外に出ようとした。
悪戦苦闘って言葉がピッタリするくらいな。
だが、桃果人の体は中も外もブヨブヨしてて力一杯殴りつけてもビクともしねえんだ。
見れば胃の中の内容物が、ドンドン溶けて消化されてるじゃねえか。
グズグズしてると俺もコイツの胃の中で溶かされちまう。
悪い事に妖力が消えかけてた!
妖爪は消え、白銀の髪は黒く変色しかけてる。
そりゃ、もう、焦ったぜ。
無駄に時間を喰ったせいで朔の時間が来ちまったんだ。
半妖の時ならまだしも人間の身体じゃ直ぐにも溶かされちまう。
呑み込まれる時、鉄砕牙は一緒じゃなかった。
多分、外にあるんだろう。
手許には鞘しかねえしな。
こうなったら鞘で腹をブチ抜くしかねえ。
それで鞘で思いっきり突いてみたんだが、又しても、はね返されちまった。
火鼠の衣まで桃果人の胃液で溶け始めた。
もう、これまでかと諦めかけた時、鞘が反応したんだ。
ドクン・・ドクン・・てな。
以前にも有った。
鞘が呼べば鉄砕牙が戻ってきた事が。
ヨシッ、助かるかもしれねえ。

「来い、鉄砕牙!」

ドン! バウン・・・・
衝撃が伝わってきたが、はね返されちまったみたいだ。
クソッ、駄目だったのか?
ゴボボボ・・・・
ウワッ、胃液が逆流してきやがった。
鉄砕牙の衝撃を喰らった桃果人が胃の中の物を全て吐き出しやがったんだ。
おかげで俺も外に出れたって訳だ。
目の前には鉄砕牙が!
咄嗟に鉄砕牙で斬りつけたが今の俺は唯の人間だ。
妖力を失ってる。
鉄砕牙は変化しねえ。
元のボロ刀のままだ。
やっぱり、さっきと同じように桃果人の腹の肉にはね返されちまった。
勢い余って跳ね飛ばされた俺。
そんな俺の上に、デブ仙人め、弾みをつけて圧し掛かってきやがった。
ブクブク太ったデブ野郎の全体重が容赦なく掛かる。
ガハッ!
そのまんま血反吐を吐いて俺は気絶しちまった。
目が覚めてみれば、身体中、棘だらけの吸血蔓に巻きつかれてた。
桃果人め、俺の血を絞り取ってから塩漬けにして喰うとかほざきやがって。
この食欲魔人め!
怒りで熱くなる俺の目が四魂の欠片を捉えた。
かごめの四魂の欠片だ。
それが、どうして桃果人の臍(へそ)に押し込まれてるんだ。
かごめ、来てるのか?
デブ仙人の住処の何処かに・・・。
どうにかして、この吸血蔓から自由にならなくちゃ。
だが、もがけばもがく程、締め付けてきやがる。
バッ・・・ボタボタと血が滴る。
まったく嫌になるぜ。
これだから人間の身体は・・・。
クッ・・・血を流しすぎた。
目が霞んできやがった。
桃果人が俺を閉じ込めた部屋に入ってきた。
様子を見にきたのか。
バサッ・・・
奴が投げ出した服。
そっ・・それは・・・かごめの着物。
まっ・・まさか・・・
血相変えて、奴に、かごめをどうしたのかと聞けば。
あの野郎、かごめを喰ったなんて抜かしやがった。
俺は完全に頭に来た。
吸血蔓を絡みつかせたまま、デブ野郎に掴みかかろうとしたんだが。
ギシギシと軋む音がするだけで、どうしても蔓は切れない。
そしたら何かが蔓を吸い込む音が。
ギュ————・・・ミシッミシッ
後で判ったんだが、あれは弥勒が風穴を開いてたんだな。
渾身の力を込めて蔓を引き倒した。
ついでに蔓が絡んでた天井まで崩れてきやがった。
ドオオオン・・・ガラガラ・・・・
ようやく蔓から自由になったぜ。
瓦礫の下になった桃果人は気絶してるようだ。
待ってろ、かごめ!
直ぐにも桃果人の腹をかっさばいて・・・。
そんな俺に弥勒と七宝が話しかけて来た。
なっ、何だ、おめえ達、その姿!
桃果人に喰われる前の俺と同じ小人姿じゃねえか。
これまでの経緯(いきさつ)を弥勒と七宝から聞き出した俺は、かごめが捕まっている厨房へ急いだ。
息せき切って戸をブチ破って駆け付けてみれば・・・・。
かごめの奴・・・・素っ裸だった。
周囲には桃果人に仕える猿や狸やイタチの有象無象が。
そいつらは、皆、俺が来た途端、一目散に逃げてったが。
生きてた・・・・
ホ——・・・かごめは無事だった。
それを自分の目で確認した途端、安心して気が抜けてく。
とは言え、此処でジッとしてる訳にもいかねえ。
何時、あのデブ仙人が追ってくるとも限らねえしな。
とりあえず火鼠の衣を脱いで、かごめに着るように手渡した。
散々、俺の血で汚れてるが何も着ないよりはマシだろう。
とにかく妖力を失った今の俺じゃ、あのデブ仙人と、まともに遣り合えない。
悔しいが夜明けが来るまで奴から逃げるしかない。
かごめが外への出口を見つけてきた。
ゲッ、何だよ、この場所は!
下は断崖絶壁じゃねえか。
・・・・こんな所から、一体、どうやって逃げろって?
かごめと押し問答が始まりそうな気配の時、不意に背後から声が掛かった。
ギョッとしたぜ。
鉢植の牡丹らしき花から覗いているのは老人の顔だ。
今度は人面果じゃなく人面花かよ。
話を聞けば、ソイツは桃果人の師匠だったって云うんだ。
あの人でなし野郎、手っ取り早く仙術を手に入れる為に師匠を殺して喰っちまったんだ。
だが、不老長寿の秘薬の作り方だけは師匠の頭の中だった。
だから、鉢植えに仙人の頭だけ生かしてあるんだとよ。
チッ、全く何て外道だ!
戸を打ち砕いて部屋に入ってきた桃果人。
四魂の欠片が効いてきたのか。
醜くブクブク太った身体が岩石みたいに硬化してやがる。
奴の振るう杖から放たれる仙術も以前の花じゃねえ。
太くて硬い棘だらけの蔓に変わってやがる。

「危ねえ!」
「きゃっ・・・」

かごめを庇ったせいで背中を棘にやられた。
クソッ、又しても、出血だ。
何処も彼処も傷だらけだぜ。
良心の呵責もなく、散々、人を喰らってきた化け物が!
こんなクソ野郎が人間だっただと?
馬鹿云ってんじゃねえ!
とにかく妖力が完全に桃果人の身体に溶け込む前に、四魂の欠片を取り戻さねえと。
喰われた人間の骨が入った大壺をぶつけて奴の注意を逸らす。
そして出来た隙に四魂の欠片を取り返そうとしたんだが。
畜生・・・奴の一撃を背後から喰らって吹っ飛ばされちまった。
ガシャ———ン!
ゲッ!
壊れた大壺から出てきたのは・・・・。
夥(おびただ)しい人面果と何かの液体。
人面花の仙人の爺さんが云うには、それは桃果人が作った不老長寿の秘薬のまがい物らしい。
だが、たちどころに怪我を治すくらいの効果は有るそうだ。
それを俺に飲めって云うんだ。
冗談じゃねえぜ!
そんな目覚めの悪い物、飲めるかよっ!
俺は、そんな物、飲まなくたって貴様みたいな外道に負けねえ!
奴の仙術、棘だらけの蔓を掻(か)い潜(くぐ)り、杖を奪い取ろうとしたんだが。
ドカッ!
桃果人の丸太のような一撃を喰らっちまった。
クッ、摑まっちまった。
野郎、グイグイと首許を締め付けてきやがる
畜生・・・・どうすりゃいいんだ。
そんな時、かごめが俺を助ける為、矢を射ようとしたんだ。
ビシ! ビイイイン・・・・
クソッ、弓が砕けちまった。
禄に手入れもしてなかったんだろう。
運が悪かった。
それを見た桃果人が、かごめに向かってトンデモナイ事をほざきやがった。
俺を片付けた後で、ゆっくり、喰ってやるだと!
このデブ野郎が、許さねえ!
咄嗟に蔓の棘を折り取って奴の左目に突き刺してやった。
ドカッ!
お返しに俺の右腕も折られちまったがな。
ボキッ!
左目を潰されたせいで桃果人の野郎、本気で頭に来たらしい。
ジワジワと俺を嬲(なぶ)り殺す積もりだ。
利き腕は折られちまったわ、非力な人間の身体だわ。
絶対絶命と思った時、かごめが背後から破魔の矢を桃果人に撃ち込んだんだ。
ドカ! シュ———・・・
さっき弓は折れちまったはずだ。
どうやって?と思ったら・・・。
仙人の爺さんが最後の力を振り絞って弓に変化してくれたんだ。
おかげで桃果人の臍に仕込まれてた四魂の欠片が押し出された。
そのまま外れて床に転げ落ちた。
キイ———ン
見る間に四魂の欠片の効果が薄れていく。
岩石並みに硬化してた奴の身体が元に戻り始めた。
仙人の弓は役目を終えたと同時にボロボロと崩れ落ち消えていった。
完全に頭に血が昇った桃果人め、今度は、かごめを標的に!
危ない! 逃げろ! かごめ!
かごめの後ろは断崖絶壁だ。
こうなったら一か八かだ。
ゴチャゴチャ考えてる暇はねえ!

「伏せろ、かごめ———っ!」

桃果人の背中に俺は思いっきり体当たりを喰らわせた。
ドカ!
そのまま勢い余って暗い崖下に落ちていく俺と桃果人。
気が付いた時、霧は出てたが辺りは明るかった。
夜が明けたんだ。
俺は人面果の木の上に寝てた。
傷口は粗方(あらかた)塞がり出血も止まってる。
折れた右腕はチョイと痛むくらいだ。
妖力が戻ってた。
桃果人の野郎は死んでた。
そりゃ、あれだけの高さから叩き付けられたんだ。
無理もねえか。
ンッ、下でピーピー泣き喚いてるのは七宝じゃねえか。
かごめと弥勒の声も聞こえる。
耳を澄まして様子を窺ってたら・・・・。
アイツら、好き勝手抜かしやがって。
かごめの奴なんか、俺を『馬鹿』だの『無茶』だの散々に云ってくれてたぜ。
尤も、あれは俺の事を心配する余りの言葉だった・・・けどな。
何時も、あんな風に心配してくれてたんだな、かごめ。



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