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『降り積もる思い⑰=四魂の玉=』

かごめがアッチの世界に戻っている間に弥勒に聞かれた事がある。
今でも四魂の玉が欲しいか?と。
当時の俺は本物の妖怪になりたかったからな。
だから、躊躇することなく欲しいと答えたんだ。
そんな俺を諭すように弥勒が云った言葉。
四魂の玉の妖力を得る者は引き換えに心を失うのではないか。
今迄、そんなこと思いもしなかった。
唯々、完全な妖怪になりたかった。
そして、もう二度と誰にも半妖だなんて云わせない。
そればっかり考えてたぜ。
だから、四魂の玉を手に入れた後、どうなるかなんて考えたことも無かった。
更に、弥勒は、こうも云ったんだ。
四魂の玉を使って本物の妖怪になった時、俺が、かごめや七宝を喰い殺すかもしれないってな。
それを聞いた時は、内心、動揺したぜ。
そんなことは絶対に有り得ないと云いたかったが・・・・。
実際、どうなるのか判らなかったからな。
俺の四魂の玉に対する気持ちが微妙に変化し始めたのは、それからだった。
そして、決定的に変わったのが珊瑚に四魂の玉の由来を聞かせてもらってからだ。
退治屋の里、村の外れに存在する鍾乳洞の中。
所々、陽が洩れてくるせいで薄暗くはあるが、日中なら晴れてれば灯りは必要ない。
妖怪の亡骸を葬る場所なだけあって周囲には残骸の骨がゴロゴロしてやがる。
かなり不気味な場所だ。
その奥まった場所にあるアレを初めて見た時は、流石の俺もドキッとしたぜ。
一体、これは何なんだ。
無数の妖怪と人間が合体、イヤ、これは人が喰われてるとしか見えねえ。
壮絶な最期を思わせる木乃伊(みいら)。
見るからに異様な形状だった。
冥加でさえ知らなかった木乃伊の由来。
あの鍾乳洞の中で、あの木乃伊から四魂の玉は生まれた。
奈落を敵(かたき)と付け狙う同士として、新たに俺達の仲間に加わった退治屋の珊瑚。
珊瑚が、四魂の玉の由来を教えてくれるってんで、もう一度、俺達は、あの木乃伊のある鍾乳洞に入った。
まだ怪我が癒えてない珊瑚は俺が負ぶった。
しっかし、何度、見ても不気味な木乃伊だぜ。
その木乃伊を前に珊瑚が話してくれた事を説明するとだな。
木乃伊になってる無数の妖怪どもは、たった一人の人間、巫女を倒す為、寄り集まったんだとよ。
今から何百年も昔、貴族どもが世を治めていた時代の話だ。
戦や飢饉で世が乱れ人が大勢死んだ。
丁度、今みたいな時代だったってえこった。
妖怪どもは死体や弱りきった人間を喰らいながら、ドンドン数を増やしていったそうだ。
そんな状況の中、坊主や武将が妖怪退治に立ち向かったらしい。
中でも、翠子(みどりこ)って巫女は別格だった。
妖怪の魂を取り出して浄める術を使い、一度に十匹もの妖怪を滅する力を持ってたそうだからな。
エ~~ッと、弥勒がいうにゃ、この世の全ての物は四魂で出来てるんだとさ。
四魂は、まず荒霊(あらみたま)、和霊(にぎみたま)、奇霊(くしみたま)、幸霊(さきみたま)と有ってだな。
ウ~~ッ、それで、たっ、確か、荒霊が勇、和霊が親、奇霊が知、幸霊が愛を司ってだな。
そっ、それから、この四魂が正しく働いた一霊が・・・・そっ、そうだ!
直霊(なおひ)っつうんだ。
ン~~、そんでもって人心が正しく保たれるんだとよ。
それでだな、悪行を行えば、四魂の働きが邪悪に転んで・・・と。
エっ・・と、エ~~っと、そうそう、あん畜生、曲霊(まがつひ)になるんだ。
曲霊になっちまうと、ア~~、いっ・・・一霊は道を誤ってだな。
ダア~~~ッ、しち面倒臭え!
ぶっちゃけて云っちまえば、良いことすりゃ直霊(なおひ)に、悪いことすりゃ曲霊(まがつひ)になるってこったろうが!
ケッ、弥勒の説明は回りくどいんだよ。
いちいち勿体ぶりやがって。
とにかく、翠子ってえ巫女は四魂を浄化して妖怪どもを無力化する力を持ってた。
だから、妖怪どもは翠子を怖れ、命を狙い始めたんだ。
けど、翠子は滅茶苦茶、強い。
闇雲に襲っても即座に浄化されちまうのが落ちだ。
だから翠子の霊力に打ち勝つだけの巨大で邪悪な魂が必要だった。
そこで妖怪どもは考えた。
ありったけの知恵を絞った訳だな。
そうやって考えついたのが自分達を一つにくっつけちまおうって案だ。
一匹づつじゃ、どうしようもねえが、大勢、集めて一つになれば違うだろうってな。
そして、そういう場合、邪心を持った人間を“繋ぎ”に使うのが一番簡単で手っ取り早い方法なんだとさ。
珊瑚が指し示した木乃伊の場所。
良~~く見ると木乃伊の下の部分に男が見える。
アイツは、当時、翠子を秘かに慕っていたんだそうだ。
妖怪どもは、あの男の心の隙につけ込んで取り憑いた。
有象無象の妖怪が男の邪心を核に一つに纏まり巨大化した。
それを聞いた時、俺はゾッとしたぜ。
奈落が誕生した経緯(いきさつ)とソックリ同じじゃねえか!
そうやって一つに融合した妖怪どもと翠子は戦った。
戦いは、延々、七日七晩も続いたそうだ。
遂に力尽きた翠子は身体を喰われ魂までも吸い取られそうになったらしい。
だが、翠子は最後の力を振り絞って妖怪どもの魂を奪い取り、逆に自分の魂に取り込んだ。
そして、その混ざり合った魂を体外に弾き出した。
結果、翠子も妖怪どもも死んだ。
翠子が体外に弾き出した魂の塊り、それが四魂の玉なんだ。
それから、珊瑚が付け足した更に衝撃的な事実。
肉体は滅びはしたものの、翠子と妖怪達の魂は未だに戦い続けてるんだとよ。四魂の玉の中で!
驚いたな、まだ終わってないのか。
何百年もの間、戦いが繰り返されてきたと考えると・・・。
だとすると、玉の内部での戦いが外部での争いを誘発してる。
そうとしか思えねえ。
実に厄介な代物だぜ、四魂の玉ってのは。
それにな、四魂の玉ってのは持つ者によって良くも悪くもなる代物らしいんだ。
悪人や妖怪が持てば穢(けが)れが増し、清らかな魂を持つ者が持てば浄化される。
長い間、人間や妖怪どもの間を転々とした四魂の玉は、“浄化”と“穢れ”を何度も繰り返し、珊瑚の爺さんの代になって退治屋の里に戻ってきたんだそうだ。
つまり、俺が封印された五十年前の頃に遡る。
当時、四魂の玉は、酷く穢れてたらしい。
何でも退治した妖怪の中から出てきたらしいからな。
だから、桔梗に預けられたんだ。
霊力の高い巫女の桔梗に委ねて“浄化”してもらう為に。
そして、そのせいで奈落が生まれた。
桔梗が玉を浄化したから。
奈落は玉を穢したがっていた。
玉の内部の妖怪どもの魂が、それを望んだんだ。
桔梗の心を憎しみで穢し怨みの血を吸わせたがった。
その為に、俺と桔梗を罠に掛けた。
繰り返される悲劇。
四魂の玉が、そうさせてるんだと珊瑚が云ってたな。
アア、今だからこそ云える。
何もかも、その通りだったぜ。
俺達、みんな、四魂の玉に踊らされてたんだ。
とことん他者を利用して操る、あの奈落でさえもな。
イヤ、考えてみれば、奈落こそが最初から最後まで四魂の玉に操られてきたのかもな。
かごめが奈落との最後の戦いで問い掛けた言葉を思い出す。
『四魂の玉は、アンタの本当の望みを叶えてくれなかったのね』
奈落の、ひいて云えば鬼蜘蛛の真の望み。
それは、聞くまでもない。
野郎は桔梗を手に入れたかったんだ。
だからこそ、魂までも差し出して願ったんだ。
結局、奴の執着は利用されるだけだったけどな。
その奈落も、もう、この世に居ない。
桔梗の魂も、あの世に戻った。
四魂の玉も消えた。
あの時、全ての元凶である四魂の玉を滅して、かごめは、家族の待ってるアッチの世界に戻った。
そして、俺の方は、何か大きな力によって無理矢理コッチに引き戻された。
骨喰いの井戸は元通りになってた。
でも、もう前みたいにアッチの世界へ行くことは出来なくなってた。
かごめは、もう、コッチには戻ってこれないのかも知れない。
だけど・・・・俺は・・・・。
諦めきれないんだ・・・・どうしても!
かごめ・・・・かごめ・・・・俺は今も待ってる。
戻ってこい・・・・かごめ!



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