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『降り積もる思い⑯=珊瑚=』

今回は珊瑚について話すことにするぜ。
エ~~~と、珊瑚か。
確か、アイツは一番最後に俺達の仲間になったんだよな。
だから、どうしても話が、一番、最後になっちまう。
珊瑚は妖怪退治を専門に請け負う退治屋の里の長の娘だ。
母親は既に亡くなり父親と弟の三人家族だったそうだ。
俺達は七宝を除けば誰も彼も奈落に怨みのある奴ばっかなんだが・・・・。
珊瑚の場合は、特別に怨みが深いだろうな。
何しろ、親兄弟から一族郎党全てを奈落の汚い計略で殺されてるからな。
珊瑚自身だって本当は深手を負って死んでるはずだった。
だが、人間にしちゃ怖ろしく強い生命力と意思のせいだろう。
瀕死の重傷にも拘らず生き残っちまった。
そんな戦う事さえ覚束ない重傷の珊瑚を、奈落の野郎、又しても利用しやがったんだ。
選(よ)りにも選(よ)って俺が退治屋の里を全滅させた張本人だと珊瑚に吹き込みやがって。
あん畜生、てめえがそうだろうが!と突っ込みたいくらいだったぜ。
そんな訳で珊瑚は俺を敵だと思い込み、いきなり襲ってきたんだったよな。
あのデカイ飛来骨をぶん回してな。
かごめが云うにゃ、ありゃ、『ぶーめらん』って武器なんだとよ。
一度、投げても、回転して戻ってくるんだ。
こちとら、あんな飛び道具の武器は初めて見たからな。
魂消(たまげ)たぜ。
しかも、それを扱う珊瑚は女だ。
その点でも吃驚仰天だぜ。
アイツ、退治屋の里では男を差し置いて一番の手練(てだれ)だったらしい。
まあ、実際、珊瑚の戦いぶりを見てるんだ。
それも肯(うなず)けるけどな。
珊瑚は、女にしちゃ背は高いし力も強い。
あのデカイ飛来骨を軽々と扱ってるんだ。
おまけに相当な場数を踏んでるから度胸も良いと来てる。
下手な人間の男じゃ、まず太刀打ちできねえだろうな。
恐らく戦闘能力に置いちゃ、この時代でも指折りの腕利きだろうぜ。
奈落の奴、珊瑚を死ぬまで俺と闘わせる積もりだったんだ。
あの野郎の狙いは、俺と珊瑚の相討ち、悪くてもどちらかが死ぬのを期待してたんだろう。
退治屋の里が全滅するように仕向けたのは奈落だ。
真相を知れば珊瑚が敵と付け狙うのは手前(てめえ)だろうからな。
生かしておくにゃ危険な存在だ。
だからこそ珊瑚に四魂の欠片を仕込んでまで俺と闘わせようとしたんだ。
妖怪退治を専門としてきた一族の中でも一番の腕利きってのは伊達じゃなかったぜ。
珊瑚の奴、瞬時にコッチの弱点を嗅ぎ付けやがった。
チッ、咄嗟の判断力までズバ抜けてやがる。
俺の犬耳を見て即座に臭いに弱いと判断したんだ。
毒粉の臭い玉を投げ付け容易に接近できないようにした。
対する珊瑚は防毒面で防御してるから毒粉の中でも平気で戦える。
ケッ、用意のいいこった。
流石に戦い慣れてしてるぜ。
俺が珊瑚に苦戦してる間に弥勒は奈落と対峙してた。
弥勒は俺と互角に接近戦をこなすほどの腕前だ。
錫杖を武器に奈落に襲い掛かり刀を持った右腕を斬り落とした。
やった!と思ったのも束の間、斬り落とした腕は、刀を掴んだまま空中を飛び、かごめを狙う。
それを阻止しつつ珊瑚の飛来骨をも相手にしなきゃなんねえ。
目が廻るほど忙しかったぜ。
その上、鉄砕牙でボロボロにしたはずの奈落の右手が、隙を衝いて、かごめの首に掛かってた四魂の欠片を奪いやがった!
そのまま奈落の許に戻ったかと思うと見る見る再生していく右腕。
奈落の奴、斬っても斬っても元に戻るんだ。
畜生、一体、どういう体してやがんだ!
これじゃキリがねえぞ。
四魂の欠片を手に入れた途端、奈落の野郎、もう用はないとばかりに瘴気を撒き散らし退散を図りやがった。
だが、有り難いことに、運良く、猫又の雲母(きらら)が来てた。
雲母(きらら)は変化すれば巨大化して空を飛べる。
弥勒を背に乗せ奈落の追跡を助けてくれた。
俺は珊瑚の相手に忙しかったからな。
奈落に操られてると判ってるだけに、やっつけるのも駄目、痛め付けるのも駄目ときてる。
ダア~~~そうそう手を抜いて戦える相手じゃねえんだ。
下手に気を緩めたらコッチがやられちまう。
一気に片をつける積もりで鉄砕牙を珊瑚の足元に投げ付けた。
飛来骨の戻ってくる軌道を塞いだんだ。
そうして飛来骨を防いだら、珊瑚の奴、またも毒粉を撒きやがった。
だから、防毒面を引っぱがしてやった。
その場に居たら珊瑚まで、くたばっちまう。
ムンズと珊瑚の右腕を掴み毒粉が撒き散らされた場所から逃れる。
ムウ~~~助けてやったってえのに。
珊瑚の奴、俺の右腕に刀を突き立てやがった!
恩知らずめぇ~~(怒)
血だらけになってるってえのに。
怖ろしいまでの執念だったぜ。
その後、気を失った珊瑚とかごめを背に負ぶい奈落の後を追ったんだよな。
途中で珊瑚が気が付いたけど冥加じいが居たからな。
冥加と珊瑚が顔見知りだったのも幸いした。
これまでの事情を詳しく説明してくれたんで助かったぜ。
やっと誤解が解けた。
現場に駆け付けてみれば弥勒が腹を触手に貫かれてる!
死んじまったのか?と思ったら息を吹き返しやがった。
別段、腹に穴も開いてねえし、どうもなってなかった。
馬鹿野郎、まぎらわしい真似して心配かけやがって。
一発、殴っといた。
その後、気色悪い触手だらけの化け物じみた奈落を問い詰めて真相を引き出した。
野郎、案の定、退治屋の里の四魂の欠片が目当てだったんだ。
だから城に手練れどもを誘き寄せ、里の守りを手薄にした。
そうしておいてから妖怪どもに里を襲うように仕向けたんだな。
四魂の欠片を手に入れ、ついでに邪魔な退治屋も始末するってえ寸法だ。
相変わらず悪辣なやり口だぜ!
頭に来て奴の頭を鉄砕牙で刎ねたんだが。
奈落の奴、本体じゃねえ。
傀儡(くぐつ)だったんだ。
それに気付いた珊瑚の指示通り、胸を狙ったら術が解けて、みんな土くれに変わりやがった。
後に残ったのは髪の毛が撒きついた人形。
それが傀儡(くぐつ)の正体だった。
珊瑚の傷が癒えて起き上がれるまでに要した日数が十日。
色々と問い質してみたんだが、珊瑚の奴、奈落の手がかりになるような事は何一つ覚えてなかった。
どうやら奈落に暗示でも掛けられてたようなんだ。
チッ、本当に何処までも抜け目がない野郎だぜ、奈落め。
自分に繋がるような証拠は何ひとつ残さねえ。
唯、一つだけ収穫があった。
四魂の玉が、どういう理由で、この世に生まれたのか。
その謎が、珊瑚の説明によって判ったんだ。



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