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『降り積もる思い⑪=弥勒=』最終回萌え作品⑤


「私の子を産んでくだされ」

このふざけた台詞が弥勒の決まり文句だ。
アイツは、この台詞を、チョッと美人と見れば誰彼構わず見境なく掛けまくる男だった。
一応、坊主の癖にな。
(・・・流石に男には云わなかったけどな)
如何にも女好きの助兵衛法師だって判るだろう。
思い出すだに頭に来るぜ。
弥勒の野郎が、俺達に初めて粉かけてきた日の事を。
何処で嗅ぎ付けたんだか知らないが、かごめの持ってる四魂の欠片を狙いやがって。
(実際は、偶然、山中の温泉でかごめの四魂の欠片を見たせいである。しかし、これは死ぬまで黙っていた方が良い秘密だろう。犬夜叉やかごめは勿論、もし、珊瑚にバレでもしたら・・・)
狸妖怪を使って俺達を襲わせた、イヤ、俺をだな。
その隙に、かごめを攫おうとしたんだ。
と云うより四魂の欠片を奪って逃げやがった。
盗られた四魂の欠片を追って町へ出かければ・・・・。
あの野郎、のん気に遊郭なんぞに上がり込んで女遊びしてやがった。
その上、乗り込んで行った俺を無視して、かごめにチョッカイ掛けやがって!
何処までもふざけた奴だったぜ。
唯、アイツは並みの人間じゃなかった。
この俺の太刀筋を全て受け流すなんざ、只者とは思えない。
それだけじゃない。
弥勒の野郎は、トンデモナイ武器を右手に隠し持っていた。
風穴、弥勒の右手にはポッカリ穴が開いてたんだ。
その穴は、何でも吸い込んじまうんだ。
馬だろうが、人だろうが、妖怪だろうが、お構いなしにな。
弥勒の話を聞けば、四魂の欠片を集めるのは、ある妖怪を捜し出し滅する為だと云う。
風穴は、その奈落とか云う妖怪の呪いで穿たれたんだそうだ。
それも弥勒本人じゃなく、父親の父親、つまり祖父に掛けられた呪いのせいだってんだ。
話は五十年ほど昔に遡(さかのぼ)る。
弥勒の祖父は、その奈落って妖怪と闘ったらしい。
聞けば、その奈落、人の姿を借りるってんだ。
出逢うたびに違う人間の姿だったとはな。
驚くぜ、そりゃ、生半可な相手じゃねえ。
弥勒の祖父と奈落の最後の闘いじゃ、奈落の奴、見目麗しい女性(にょしょう)の姿で現れたそうだ。
この弥勒の祖父だ。
さぞかし筋金入りの女好きだったろうぜ。
結果、封印の札ごと右手に風穴を穿たれたって訳だ。
その時に掛けられた呪いが未だに効力を放っている。
弥勒の右手の風穴が、その証拠だ。
風穴は、年々、大きくなり吸い込む力も強くなっているそうだ。
そして、いずれは、弥勒自身も風穴に呑まれるのだと云う。
良く、そんな事を平気な顔でサラッと話せるもんだぜ。
そう思って話を聞いている内に驚くような事実が明らかになった。
五十年前、奈落は、四魂の玉を手に入れかけたってんだ。
四魂の玉を守っていた巫女を殺して!
巫女! 桔梗に間違いない!
そいつだ! 
そいつが桔梗と俺を罠に掛けたんだ!
鬼女、裏陶(うらすえ)によって無理矢理この世に蘇らせられた桔梗の魂。
互いが互いに裏切られたと思い込んでいた五十年前の悲劇。
その事実の一端が明らかになった。
俺達に二重の罠を仕掛けた張本人の名が判明したんだ。
必ず捜し出して落とし前を付けてやる!
話の成り行き上、一緒に旅をしようとかごめが云い出しやがった。
だが、俺は、こんな奴とつるむ気は毛頭ないぜ。
俺の目の前で平然とかごめを口説くような生臭坊主とはな。
その積りだったんだが、何故か、力を合わさざるを得ない事件に出遭った。
侍どもが軒並みやられてる場所に出喰わしたんだ。
それも一人残さず肝を取られてる。
これは、どう見ても尋常な戦の跡じゃねえ。
間違いなく妖怪の仕業だ。
それも雑魚妖怪じゃねえ。
恐らく四魂の欠片の力を使ってるに違いねえ。
俺は四魂の欠片を弥勒に渡す気持ちなんぞ全く無かったからな。
その場所で弥勒と別れたんだが・・・・。
後で、また、ヒョッコリ出逢う羽目になるんだな。
戦場跡、累々たる屍が転がる血生臭い臭気と腐敗臭の漂う無残な場所。
そんな場所で血溜まりの中に輝く四魂の欠片を手に入れた地獄絵師、紅達。
奴は、四魂の欠片を持ち帰り墨に溶かし絵を描いたんだ。
血と人間の肝を混ぜてな。
そしたら紙に描いた妖怪が命を得た。
紙から抜け出し実体を持って動き出したんだ。
それに味を占めた紅達の奴、片っ端から人を殺して肝を取るようになったらしい。
鼻の利く俺は臭いで紅達を捕まえたんだが・・・・。
アイツ、自分が描いた鬼を懐から出して逃げやがった。
鉄砕牙で鬼を斬ったのは良いんだが・・・・。
墨と血と肝の凄まじい臭気に当てられて俺は気絶しちまった。
クソッ、俺は鼻が利く分、酷い臭気に弱いんだ。
それで、かごめの奴、勝手に弥勒を捜し出して協力を頼んだんだ。
弥勒の野郎、早速、金持ちの家に入り込んでやがった。
例によって口から出まかせの説法でも使ったんだろうぜ。
アイツは口から先に生まれたんじゃないかって思うくらい口が上手いからな。
其処んちのお大尽の姫さまが、どうやら妖怪に憑かれてるらしい。
何でも夜な夜な怖ろしい夢を見るんだそうな。
妖怪が現れ見知らぬ屋敷に連れていかれ、一人ポツンと部屋に置いていかれるんだとか。
其処で誰かがジッと自分を見つめている視線を感じるらしい。
どうやら弥勒が依頼を受けた件と俺達の追ってる妖しい絵師とは繋がりが有るようだ。
その夜、待ち構えていたら、案の定、来やがった。
妖怪どもに轢(ひ)かせた妖しい牛車が!
血と肝と墨の臭い、あの絵師と同じ臭いがする。
妖しい牛車が何処へ行くのか。
突き止める為に七宝が姫に化けて乗り込んでいる。
辿り着いたのは一軒の粗末な家。
俺達の事に勘付いたんだろう。
絵師の野郎、絵から夥(おびただ)しい数の妖怪どもを実体化させ俺達を襲わせたんだ。
ケッ、全部、たたっ斬ってやるぜ!
そう思ってたんだが・・・・。
クソッ、鬼の血の臭気に又も当てられ俺は腰砕けになっちまった。
そんな時、弥勒に助けられたんだ。
一気に何十何百もの妖怪を風穴に吸い込んで始末しやがった。
畜生、こんな奴に助けられるなんて!
自分の不甲斐なさに歯軋りしたくなったぜ。
そんな矢先、絵師の奴、弥勒の風穴を見て流石にヤバイと思ったんだろうな。
空を飛ぶ蛇のような妖怪に乗って逃げようとしたんだ。
跳び付いて絵師から四魂の欠片を取り上げる!
野郎、また絵から妖怪を出してきやがった。
だが、そうも何度も同じ手を喰うか!
斬るのが駄目なら殴る!
バキ!バキ!バキ!
片っ端から殴って邪魔者を片付ける。
最初っから、こうしてりゃ良かったぜ。
残るは絵師だけだ。
大人しく四魂の欠片を渡すかと思いきや・・・・。
あん畜生、まだ抵抗しやがった!
自分が乗ってる蛇妖怪の口を俺に向けさせ、火焔を吐き出させたんだ。
燃え盛る紅蓮の炎、並みの人間なら骨も残さず焼き尽くされただろう。
だが、俺は人間じゃない! 半妖だ!
それに俺の着ている火鼠の衣は少々の炎なんぞ屁とも思わない代物だ。
炎に巻かれても死なない俺を見て恐れを為したんだろうか。
絵師の奴、四魂の欠片が入った竹筒を差し出そうとした。
だが、奴の性根は何処までも腐っていたようだ。
まだ悪足掻きしやがった。
蛇妖怪の頭は三又に分かれている。
その内、自分が乗ってる頭以外の二つの頭を使って俺に噛み付かせたんだ。
グッ! もう許さねえ!
力任せに殴って蛇妖怪をやっつける。
もう飛ぶ力が残っていない蛇妖怪から跳び降りて、まだ逃げようとする絵師。
怖ろしい執念だぜ。
背負っていた葛籠(つづら)は壊れちまった。
中から奴が描いた絵がアチコチ散らばってる。
それでも、まだ逃げようとする絵師。
四魂の欠片が入った竹筒を持って。
だが、遂に命運の尽きる時が来た。
奴は跳び下りた際、額を負傷して血を流していた。
その血の臭いが竹筒の中の墨に潜む魔性を呼び起こしたんだ。
竹筒から溢れ出した墨。
血と肝の混じり合った墨が絵師を襲う。
ザン! 竹筒を握っていた左腕が!
魔性の墨に切り落とされた!
シュ———ブクブク・・・・
見る間に墨に喰われていく絵師。
最後に残ったのは俺が掴んだ右腕のみ。
・・・馬鹿野郎、だから、早く手離せと云ったのに。
足元に転がった巻物の中に姫の絵姿が有った。
あの絵師は、姫に懸想してたんだな。
こうして地獄絵師の一件は終わりを告げた。
そして、何故か弥勒の奴は、俺達と行動を共にするようになったんだ。


 

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