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『降り積もる思い⑭=再会=』

奈落との因縁が漸くハッキリした。
これ迄は奴の思惑に翻弄されてきた。
正体の判らない敵の攻撃を闇雲に受けるばかりだったんだ。
だが、事の真相が判明した今、それなりに奴に対応できる。
奈落との因縁、それは桔梗が村外れの洞穴に匿っていた鬼蜘蛛って男の話から始まる。
鬼蜘蛛は隣国で、散々、悪事を働き逃れてきた野盗だったそうだ。
何故、そんな奴を、巫女である桔梗が匿ったのか?
俺の疑問に楓ばばあが答えてくれた。
奴は全身に火傷を負い両足の骨が砕けていたんだとよ。
つまり、歩くことは愚か、身動きさえままならない状態だった訳だ。
成る程、そんなんじゃ、もう悪さは出来ねえよな。
そんな男が抱いた桔梗への激しい執着。
桔梗は俺と出会ってから霊力が弱くなっていたらしい。
この地に巣喰う妖怪どもを封じる事ができない程に。
そして、そうした妖怪どもは、鬼蜘蛛の桔梗への凄まじい妄執を利用した。
妖怪どもめ、自由な身体を与える代償に奴の魂を要求したんだ。
その結果、鬼蜘蛛の魂を拠り所にして数多の妖怪どもが融合し生まれたのが・・・奈落だ。
奈落の罠のせいで俺と桔梗は互いに憎しみ合い殺しあう破目になったんだ。
憎んでも憎みきれない終生の敵(かたき)、奈落。
奴も四魂の欠片を集めているんだ。
そして、四魂の玉を完成させようとしてる。
だったら、俺達が四魂の欠片を集めていれば、いずれ、必ず、何処かで奈落と出会う。
その時は、必ず、奴を仕留めて今度こそ桔梗の敵を討ってやる!
そう心に固く誓った俺だった。
だが、まさか、死んだと思っていた桔梗に再び逢うことになろうとは・・・・。
あの時は考えもしなかった。
例によって弥勒の口先三寸説法で立派な屋敷に上がり込んでいた俺達。
何でも、そこんちの姉姫が亡くなって死魂(しにだま)が狙われてるんだとか。
それで、死魂を妖怪に取られないように守ってくれと頼まれたんだっけ。
俺とかごめを部屋に残し、弥勒の奴、七宝を連れて、おびえてる妹姫を守りに行きやがった。
草木も眠る丑三つ時、かごめが俺に擦り寄ってきた。
死体を置いてある部屋に居るのが怖いんだとよ。
思わず勘違いしそうになっちまったぜ。
何がって・・・・うるせえ!
その時、いきなり死体が起き上がった!
口許から死魂が出てきた。
それを妖怪が持っていこうとしてやがる。
すかさず鉄砕牙でそいつを斬り捨てた。
取り合えず姫の死魂は無事だ。
呆気ないほど簡単に片が付いた一件だった。
だが、外を見れば半月の夜空を妖怪どもが飛び交っているじゃねえか。
奪ってきた死魂を集めて何処かへ運ぼうとしている。
やっと弥勒の奴が来やがった。
お多福の妹姫が取り縋り法衣が着崩れしてる。
野郎、一体、何してたんだ?
妖怪どもを追ったが見失っちまった。
次の日、河原で休息していたら今度は坊主の土座衛門を見つけた。
いや、実際は生きてたな。
そして、そいつの口から知ったんだ。
桔梗が、まだ、この世に居ることを。
死魂を集めていたのは桔梗だった。
どんな理由かはサッパリ判らなかったが。
更に驚いたのは、桔梗が成仏させようとした坊主の法力をはね返して逆に殺したって事だ。
殺された坊主は、そいつの師匠だったと云う。
あの時、裏陶(うらすえ)によって蘇った桔梗。
崖から落ちて死んだと思っていた。
・・・・まだ、この世を彷徨っているのか?
もし、そうなら俺はお前を救いたい。
弥勒達を置いて、一人、桔梗の許へ向かった俺。
陽が落ちてきた。
秋の夕べはつるべ落としだ。
アッと云う間に周囲が暗くなってきた。
幻想的な闇の中、フワフワと浮かぶ人魂、飛び交う妖怪。
後で知ったが奴らは死魂虫(しにだまちゅう)と云うそうだ。
そんな中、桔梗が居た。
昔のまま、俺が恋焦がれた当時の姿のままで。
何故、死魂を集めるのか問い質せば・・・・。
裏陶が作った桔梗の骨と土の体は、魂で満たしておかなければ上手く動かせないのだと云う。
桔梗の手が俺の頬を優しく撫でる。
ソッと重ねられた口付け。
触れた事さえ無かった桔梗の唇が柔らかく押し付けられる。
桔梗・・・・桔梗・・・・
俺は、今でも、お前を・・・・。
死人のお前に俺は何をしてやれる。
お前が望むなら、今、この場で殺されても構わない。
桔梗と抱きあったまま、俺の意識は途切れていった。
不意に飛び込んできた、かごめの声。
ボウと結界が霞み、見えてきたのは死魂の妖怪に捕われたかごめの姿。
咄嗟に鉄砕牙を抜き放ち、死魂虫を斬り捨てた。
闇の中、おぼろげな光を発して浮遊するように飛ぶ死魂虫。
数匹の死魂虫が桔梗を乗せて飛んでいった。
その姿は夢幻のように綺麗で、その癖、哀しげだった。
意識がハッキリすれば周囲の様子から何が有ったのかは容易に判断できる。
桔梗は俺を生きたまま、あの世に連れていこうとしてたんだ。
だけど、どうしても桔梗を憎めない。
俺の後を追って死んだ桔梗。
桔梗の思いが深ければ深い程、その痛みが胸に突き刺さって・・・。
とはいえ、それは俺の事情であって、かごめには関係ねえ。
イヤ、関係ないってこたねえんだろうが。
アアッ、もう、ややこしい!
とにかく、かごめは怒ってる。
畜生、どうすりゃいいんだ!?
何とか話をしようとしても『おすわり』攻撃で叩き臥せられるし・・・。
段々、腹が立ってきた。
何で、俺がビクビクしなきゃいけねえんだよ。
遂に堪忍袋の緒が切れた。
かごめの前に廻り込んで、取り合えず謝った。
多分、桔梗との口付けの事を怒ってるんだろうな。
そう云ったら、かごめの奴、喰って掛かってきたんだっけ。
『かごめに側に居てほしい』・・・・かごめに云った言葉。
『一日だってお前を忘れた事はなかった』・・・・桔梗に云った言葉。
ドッチが本当なんだって詰め寄ってきたんだ。
でも、俺に取っちゃ、ドッチも本当なんだ。
だから、正直に、そう云ったんだよな。
ハア~~~今、思い返すと、当時の俺って・・・・何て馬鹿なんだ。
少しは弥勒を見習っとくべきだったぜ。
何でもかんでも馬鹿正直に話せば良いってもんじゃない。
そういう人情の機微ってもんが、今なら、俺にもちっとは判る。
もし、かごめに俺以外に好きな男が居たら・・・・?
鋼牙の奴には、かごめは好意以外、何も抱いてなかったみたいだけど。
それでも、俺には我慢ならなかったっけ。
すまねえ、かごめ。
桔梗が、この世に戻っていた間、ズッと辛い思いさせてたんだな。
・・・・だからかも知れないな。
お前に会えない辛さをこんなにも我慢しなきゃならないのは。



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