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珊瑚の出産⑩



※この画像は『妖ノ恋』さまの了解を得て公開しております。


『骨喰いの井戸』、妖怪の死骸を放り込んでおけば何処(いずこ)ともなく消滅せしめるという怪(あや)しの井戸。
死骸が消滅するということは異界に通じていると考えていいだろう。
フン、実に胡散臭い場所だ。
私には関係ない事だと無視していたが・・・
確かに、あの場所は異様な匂いを発していた。
あれは私でさえ嗅いだことのない奇妙な匂いだった。
死人特有の骨と墓土の匂いでもない。
いうならば別の世界の匂い。
さしずめ『異界の匂い』とでもいうべきだろうか。


そういえば、あの女、かごめとやらの匂いもそうだった。
女の匂い自体は悪くなかった。
だが、女が身に纏(まと)う着物の匂いは余りにも異質だった。
匂いばかりではない。
あの女は見たこともない奇妙奇天烈な形(なり)をしていた。
女の身でありながら足を太腿まで顕(あら)わにする破天荒さ。
しかも、それを恥とも思っていないらしい。
慎(つつし)みの欠片もない破廉恥女。
加えて面と向かって私を侮辱する向こう見ずな気質。
何もかもが癇に障(さわ)る女だった。
だからだろう。
私は無意識にあの女を忌避(きひ)し排除しようとした。
未知なる匂いを纏う得体の知れない存在。


井戸が復活してからというもの、あの場所から犬夜叉の臭いが途切れたことはない。
村を訪問するたびに奴の臭いが新たについていた。
ということは・・・間違いない。
犬夜叉め、あ奴、三日に一度は井戸に潜り込んでおるな。
ああ、それと、いつも奴のまわりをウロチョロしている脆弱(ぜいじゃく)な仔狐妖怪、あ奴の臭いも近くに付着していた。
匂いの濃度からして、あの者も犬夜叉に負けず劣らずの頻度で井戸の周辺をうろついているようだ。
両名そろって健気(けなげ)なことよ。


しかし、見込みは殆んどあるまい。
何故なら井戸から異界の匂いが完全に消え失せている。
つまり異界と通じる道自体が閉じているのだろう。
犬夜叉も半妖とはいえ犬妖の端くれ。
私ほどではないが鼻が利(き)く。
だから、当然、奴にも分かっているはずだ。
異界の匂いがピクリともせぬ以上、どれだけ井戸に潜り込もうが無駄な足掻きだと。
それでも諦められぬのであろうな。
逢いたくて逢いたくて・・・
焦がれ焦がれて・・・
実(げ)に恋とは怖ろしきものよ。


※『珊瑚に出産⑪』に続く。


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