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珊瑚の出産⑪


※この画像は『妖ノ恋』さまの了解を得て公開しております。


「殺生丸さまああああああああああぁあぁあぁあ」

けたたましい声が殺生丸の思索を断ち切った。
鬱陶しいダミ声が辺り一面に響き亘(わた)ってくる。
この声は・・・
眼下に目をやれば緑色の小妖怪が此処ぞとばかりに人頭杖を振りかざしつつ己の名を叫んでいるではないか。
矮小(わいしょう)な体躯の癖に声だけは矢鱈(やたら)とでかい邪見。
何とも騒々しい従者である。
だが、りんは喜んで声をかける。

りん:「邪見さま、良かったあ。生きてたんだね」

邪:「馬鹿者、当たり前じゃっ!」

殺生丸は素早く邪見の形(なり)から状況を見て取る。
従者のお仕着せ、海老茶の水干と烏帽子(えぼし)はボロボロの枯葉まみれになっていた。
かなり酷い目にあったようである。
とはいえこれだけ大きな声で喚けるのだ。
心配は無用だろう。
この小者(こもの)は妖力こそ大してないが昔から頗(すこぶ)る丈夫で長持ちなのが長所である。
その証拠に殴る蹴る踏みつける石をぶつけるなど思いつくままに仕置をしてきたが殆んど寝込んだり死んだ例(ためし)がない。
だからこそ、長年、己に仕えることが出来たといってもいい。
もう暫(しば)し、りんとの水入らずを楽しもうと思っていたが・・・
仕方がない。
拾い上げてやるか。

殺生丸:「阿吽、奴を引き上げろ」

ブルル~~ッ

双頭竜が承知とばかりに低く嘶(いなな)き降下する。
阿が従者をパクッと咥(くわ)え込み上昇する。
双頭竜の片割れに襟首を咥えられたままプラプラと宙に浮かぶ邪見。

邪:「こっ、こりゃっ、阿吽!何をするっ!?ちゃんと乗せんかっ!」

ギャイギャイと喚(わめ)く小妖怪が煩(うるさ)くなったのだろう。
阿が後方に向けて邪見をポイと放り投げた。

邪:「わわっ、どわああああああぁあぁあ」

放物線を描き双頭竜の尻尾あたりに落ちる邪見。
そこでハッシと阿吽の尻尾を掴み必死に鞍までズリズリと這(は)いあがってくる。
片手に人頭杖を持ちながらである。
中々に器用だ。
落ちたら命がない。
流石に死に物狂いである。
吐く息が荒い。

ゼッゼッ・・ハッ・ハッ・・

邪:「ひっ、ひいぃ~~っ、死っ、死ぬかと思ったわ」

りん:「でも、死んでないんだから凄いね、邪見さま」

邪:「だあ~~~~~~~~~~っ」

殺生丸:「煩い、黙れ」

邪:「ははっ!」

殺生丸に窘(たしな)められピタリと口を閉じる邪見。
しかし、下界に目をやった途端、又もや喋りだした。
どこまでも懲りないというか、何かあると喋らずにいられない性分である。
その何かは紅葉にも負けないほど鮮やかな真紅の童水干を身に纏う半妖の男。
云わずと知れた主の異母弟、犬夜叉である。

邪:「ややっ、殺生丸さま、ご覧ください。犬夜叉めが骨喰いの井戸に入っていきますぞ。何故あんな胡散臭い場所に?」

殺生丸:「・・・」

りん:「あのね、邪見さま、かごめさま、骨喰いの井戸を通ってこっちと御自分の国を行き来してたんだって。だから、犬夜叉さま、あの井戸に潜って試してるんだと思う」

邪:「試すって、かごめの国へ行こうとしてか?」

りん:「うん、前は犬夜叉さまも井戸を通ってあっちへ行けたそうなの」

邪:「前はって、今は出来んのか?」

りん:「井戸が閉じちゃったみたいなの」

邪:「ふ~~む、面妖な話じゃのう」


※『珊瑚の出産⑫』に続く。





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