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珊瑚の出産⑦



※この画像は『妖ノ恋』さまの了解を得て公開しております。

邪見が指摘するまでもなく殺生丸はりんに纏(まと)いつく異臭に気付いていた。
犬妖の鋭敏な嗅覚が否応(いやおう)なく嗅ぎつけたのだ。
それも一つではなく異臭は二つ。
ひとつは出産によって珊瑚とかいう女退治屋の血と体液が混じり合ったもの。
もうひとつは云うまでもなく犬夜叉の体臭。
両方とも危険な臭いではない。
だが、心地よい範疇(はんちゅう)には決して入らない代物である。
特に犬夜叉の臭いは問題だ。
例え異母弟であろうと男は男。
りんに己以外の男の匂いが染み付くなど断じて許せるものでははない。
当然、殺生丸の心は波立ち弥(いや)が上にも苛立ちは募る。
そんな荒れ狂う主の心中も察せず従者は目の前でペラペラと賢(さか)しげに喋りちぎる。
抑えようもなく湧きあがる殺意。
秀麗な顔貌の眉間に刻まれた皺(しわ)は益々深まり・・・

イライラ・・イライラ・・イラッ(怒)!

ボカッ!

気がつけば殺生丸は渾身の力を込めて邪見を空高く蹴り飛ばしていた。
まったく空気を読まない下僕への意趣返しである。
緑色の小妖怪はアッという間に見えなくなった。
それと同時に殺生丸の胸の内の苛立ちも急速に収まった。


フン、邪見め。
相変わらず何と口の軽い。
私の不興を買っておきながら一向に気付かぬとは・・・。
迂闊(うかつ)者めが!
いつもの事ながら呆れるわ。
山の向こうで海よりも深く反省するがいい。
さて邪見の捜索を口実にりんと空中を散歩するか。


殺生丸は鞍の前にりんを乗せ阿吽に跨(またが)った。
鐙(あぶみ)に足をかける。
軽く手綱を引き阿吽に飛行の指示をだす。
双頭竜が妖雲を発生させ上昇を始めた。
そのまま一気に上昇気流にのり上空に落ち着く。
見下ろせば村どころか周囲を一望できる高さだ。
高度が上がった分、絶えず風がビュウビュウと強く吹き付けてくる。
瞬時に幼女から不快な臭いが消えた。
文字通りの雲散霧消である。
殺生丸の狙い通りに風がりんに纏(まと)いつく異臭を吹き飛ばしたのだ。

くしゅんっ!

りんが風の冷たさに震えて小さくクシャミをした。

ファサ・・・

殺生丸が自身の毛皮でりんの全身を包み込んだ。
密集した毛が冷気の進入を阻(はば)む。
白銀の毛皮から顔だけチョコンと出してりんが笑っている。
満面の笑顔だ。

りん:「ありがとう、殺生丸さま。凄~~く暖かい」

強大無比な大妖の口角が僅(わず)かに上がる。
殺生丸がりんだけに見せる微笑だ。
嫉妬深い男は己が匂いをりんに纏わせ満足気にほくそ笑んだ。


※『珊瑚の出産⑧』に続く。




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