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珊瑚の出産⑥



※この画像は『妖ノ恋』さまの了解を得て公開しております。

りんに誉(ほ)められ気をよくする緑色の小妖怪。
煽(おだ)てに乗りやすいというか実に分かりやすい性格である。
あるのか無いのかよく分からない鼻をググッと得意気にうごめかし邪見は胸を張った。
と次の瞬間、凄まじい衝撃を受けた。

ドゴォッ!

ビューーーーーーーーーーーーーーーーーーー

気がつけば鳥のように風を切り空高く飛んでいるではないか。
見る間に地上が遠くなる。
殺生丸に蹴り飛ばされたのだ。
見事な放物線を描き遥か彼方へと飛んでいく緑色の小物体。
元々、小さな身体はアッと言う間に塵のように小さくなっていく。

(あ”あ”ぁ”~~~~~~~~~~~~~~~~~)

邪見の悲鳴が次第に遠のいていく。

りん:「邪見さま、飛んでっちゃった」

ドンドン小さくなる姿にりんがポソッと呟く。
あまり驚いてない。
というのも慣れっこなのだ。
りんが殺生丸と共に旅をしていた頃、小妖怪は迂闊(うかつ)な失言を屡々(しばしば)重(かさ)ねては主の怒りを買っていた。
そして、その度に殺生丸から手厳しく折檻される邪見を、りんは目にしていた。

殺生丸:「・・・放っておけ。その内、戻ってくる」

りん:「は~い、殺生丸さま」

殺生丸:「今日は阿吽を連れてきた。顔を見せてやれ」

りん:「はい」

少し歩いた場所に双頭の竜が繋がれていた。
殺生丸の騎乗する阿吽である。
りんの匂いに気付いて興奮しているのだろう。
二頭が交互に低く嘶(いなな)きをあげる。

ブルッ ブルッ ブルルル~~ッ

りん:「わあっ、阿・吽、久し振りだね」

そのまま、りんは双頭竜に抱きついた。
阿吽も嬉しそうにりんに頬ずりをする。
大層な懐きようである。
まるで主人に甘える犬のようである。
思えば幼女が旅に加わった最初から妖獣はりんに懐いていた。
非常に珍しいことである。
阿と吽は主人に似て大層気難しい。
気に入らない者には洟(はな)も引っかけない。
それどころか見知らぬ者には容赦なく威嚇し攻撃することさえある。
邪見など、従者になったばかりの頃は全く懐いてもらえず、散々、苦労している。
己の騎獣と戯(たわむ)れるりんに殺生丸が声をかけた。

殺生丸:「りん、阿吽に乗って空を飛んでみるか?」

りん:「えっ、いいの?」

殺生丸:「邪見の捜索もある。周辺を見て廻るとしよう」

りん:「はいっ!」

かくして殺生丸とりんは阿吽に同乗して晩秋の空中散歩へと出かけることになった。


※『珊瑚の出産⑦』に続く。


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