珊瑚の出産② ※この画像は『妖ノ恋』さまの了解を得て公開しております。 バサッ! すると枝を払いながら現れたのはりんも顔見知りの半妖の男だった。 紅葉にも負けない真紅(しんく)の童水干、長い白銀の髪、瞳は金色である。 下品ではないが非常に派手な色合いだ。 黒目、黒髪に色目の冴えない野良着ばかりの村人と比べれば目が覚めるように鮮やかだ。 年の頃は少年から青年になりかかったばかりか。 綺麗な顔立ちに精悍さがにじみでている。 中々の美丈夫である。 りん:「犬夜叉さま?」 犬夜叉:「おう、りんじゃねえか。久し振りだな。弥勒は楓婆を連れてったか?」 りん:「はい、今しがた楓さまを負ぶって走ってかれました」 犬夜叉:「そっか。じゃあ、こいつを届けてやらなくっちゃな」 そう云うなり犬耳の青年は木立ちの中からヒョイと米俵を担ぎ上げた。 米俵の重さは十六貫(一貫は3.75kgつまり3.75×16=60kg)もある。 大の大人でも一俵担ぐのがやっとの重さだ。 それを三俵も軽々と、驚くほどの怪力である。 犬夜叉は右肩に米俵を二俵を担ぎ、左腕には一俵を抱(かか)えこむやスタスタと歩き出した。 りんも一緒についてトコトコ歩く。 りん:「犬夜叉さま、それ、重くないの?」 犬夜叉:「ああ、これか。どってことねえぜ。金持ちに妖怪退治を頼まれたときゃ、これ位の謝礼はいつもの事だしな」 りん:「じゃあ、貧乏な人に頼まれた時は?」 犬夜叉:「そうだな。そういう時は寸志(すんし)って奴だな」 りん:「『すんし』って?」 犬夜叉:「心ばかりの御礼、つまり相手の気持ち次第ってこった。貧乏なら貧乏なりに御礼の気持ちを込めて物を贈ることさ」 りん:「ふ~~ん、それにしても凄いね、犬夜叉さま。村の若い衆だって米俵は一俵かつぐのがやっとなのに」 犬夜叉:「そっかあ? でも、俺より殺生丸の方が力持ちなんだぜ」 りん:「そうなの?」 犬夜叉:「ああ、あいつは見た目こそあんな優男だが、片腕だった時でさえとんでもねえ馬鹿力だった」 りん:「じゃあ、今の殺生丸さまは両腕があるから、もっと力持ちなの?」 犬夜叉:「まあ、そうなるわな。おまけに今の奴は天生牙だけじゃなく爆砕牙まで持ってやがる。どこにも死角がねえ。もし、殺生丸が本気になったら誰も敵わないだろうぜ」 そんなたわいもないことを話しながら田舎道を歩く犬夜叉とりん。 程なく二人は弥勒と珊瑚が暮らす家に着いた。 家の中から微かに呻(うめ)き声が漏れ聞こえてきた。 珊瑚の声だ。 どうやら陣痛の真っ最中らしい。 痛みを必死にこらえているのだろう。 声が老婆のようにしわがれている。 りんは慌てて家の中に駆け込んだ。 すると楓が陣痛に苦しむ珊瑚の手を握って励ましていた。 楓:「しっかりせい、珊瑚!」 りん:「楓さま、珊瑚さんっ!」 楓:「おおっ、りん、丁度いいところに来てくれた。急いで湯を沸かしてくれ」 りん:「はいっ、楓さま!」 テキパキと湯を沸かす準備をするりん。 現代と違い戦国時代である。 電気は勿論、マッチもガスもない。 単に湯を沸かすだけでも大変な手間がかかる。 まず囲炉裏の火種に藁(わら)をくべて息を吹きかけ火口(ほくち)を大きくする。 それから薪(まき)をくべて更に火力を強くする。 そうしてから、やっと井戸から汲んでおいた水を入れた大鍋を火にかけるのだ。 ※『珊瑚の出産③』に続く。 [8回]PR