忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

珊瑚の出産①



※この画像は『妖ノ恋』さまの了解を得て公開しております。

吹く風が冷たくなった。
季節が秋から冬へと変わろうとしている。
紅葉は今が盛りだ。
赤、だいだい、黄、黄緑、緑、鮮やかな色彩が山野を彩る。

カサッ カサッ カサカサ・・・

落ち葉を踏みしめ老婆と幼女が道を急ぐ。
日暮村を守る巫女の楓と養い仔のりんである。
隻眼の楓は刀のつばを眼帯代わりにしている。

りん:「楓さま、急いでっ! 赤ちゃんが生まれちゃうぅ」

楓:「そう慌てんでも大丈夫だ、りん。初産ういざんは時間がかかるものと昔から決まっておる」

りん:「本当?」

楓:「ああ、本当だとも。まだ産道が開いてないからな」

りん:「産道って?」

楓:「赤ん坊が通って生まれてくる道のことだよ。女は皆、体内に道を持っておる」

りん:「りんにもある?」

楓:「勿論あるとも。いつか、りんが子供を産むとき道が開くだろう」

ザザッ・ザッザッ・・ザッザザッ・・ザザッ・・・

落ち葉を蹴散らす勢いで墨染めの衣をまとった若い男が現れた。
珊瑚の夫、赤子の父親である法師の弥勒だ。

ザシュッ!

勢いよく手にもつ錫杖しゃくじょうを地面に突き刺し大きくあえぐ。
先日、妖怪退治を請け負って犬夜叉とともに村を離れていたはず。
それが、今、ここにいるということは・・・

弥勒:「ハアッ・ハア・ハッ・・ハッ・・七宝が・・さっ・珊瑚が産気づいたと・・知らせてくれ・・駆けつけ・・てまいりました。ハアッ・・ハアッ・・後は・犬夜叉に・・まかせてきました」

よほど急いで走って来たのだろう。
髪は汗で頬に張り付き息が乱れている。
いつも泰然と事に対する弥勒にしては珍しく焦っている。
流石に初めての我が子の誕生に平静ではいられないらしい。

弥勒:「楓さまっ!」

楓:「落ち着きなされ、法師殿。産気づいたからといって、そうそう簡単に赤子は生まれんぞ。特に初めてのお産はな」

弥勒:「そっ、それでも、珊瑚がっ! 珊瑚が・・ひどく・・痛がっているのです。見ているこちらは・・生きた心地がいたしません。楓さま、お願いですっ! 何とかしてやってくださいっ!」

楓:「そうはいってもなあ、こればっかりは自然にまかせるしかないのだ」

弥勒:「ともかく急ぎましょうっ!」

そう云うなり弥勒はやにわに楓を引っ担ぎ走り出した。

楓:「こっ、これ、法師殿!」

弥勒:「りん、私達は先に行きます。後からゆっくり追ってきなさい」

すぐさま弥勒と楓の姿は見えなくなった。
あっという間の出来事だった。

りん:「・・・置いてかれちゃった」

ヒュルルル~~~~~~~ 

りんは晩秋の田舎道にひとりポツンと置き去りにされてしまった。
落ち葉が風に吹かれてカサカサと舞い散る。
すると近くの木立ちからガサガサと物音がするではないか。
狸か? 狐か?
このところ、野盗や追剥おいはぎというたぐいの話は聞かない。
だが、万が一ということもある。
りんは警戒しつつ藪を見つめた。


※『珊瑚の出産②』に続く



拍手[5回]

PR