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さて、首尾よく和紙を手に入れたのはいいんだけど。
う~~~ん、和紙は十枚しかないのよね。
残る八枚は楓ばあちゃんにあげたから。
来年、また和紙作りをするまで新しい紙は手に入らない。
えっ、いますぐ作ればいいじゃなかって?
それが出来ればね。
コウゾの刈り取りは冬場におこなうものなの。
でも今年の分はみんな刈っちゃったでしょ。
来年、新しく生えてくるまで待たないと無理なのよ。
とっても貴重な十枚の和紙、あだや疎(おろそ)かには扱えません。
う~~ん、ママ達に手紙を書くのはいいとしても十枚しかないもんね。
書く内容を厳選しなきゃ。
なにをどう書けばいいかな。
とりあえず、あたしがコッチにきてからのことを思い返してみるか。
え~~と最初はあたしがコッチにきたばかりの頃のことね。
あれは、そう、高校を卒業した次の日だった。
あたしは久し振りに骨喰いの井戸をのぞいてみたの。
四魂の玉との最後の戦いが終わって現代にもどったあたし。
でも、犬夜叉は強制的にアッチに引き戻されてしまった。
そして、それ以来、骨喰いの井戸はアチラと繋がらなくなってしまった。
最初の頃はね、無事、コッチに戻れたせいもあって、あたし気付かなかったの。
前みたいに簡単にアッチへ行けると思ってたわ。
でも、井戸におりたのに何も起きなかったの。
これは何かの間違いじゃないかって何度も何度も繰り返したのよ。
でも、駄目だった。
骨喰いの井戸はあたしを通してくれなかったの。
もう犬夜叉に逢えないなんて信じられなかった。
珊瑚ちゃんや弥勒さま、七宝ちゃんや楓ばあちゃんにも。
みんなアッチの時代で知り合った大事な人達なのに。
そりゃあ、落ち込んだわよ。
しばらくはショックで立ち直れなかった。
でも、これ以上、ママ達に心配かけたくなかった。
唯でさえ、みんなに酷く心配させたばかりだったしね。
それに高校入学とか色々あって、そうそう落ち込んでばかりもいられなかった。
だから、ひとまず気持ちを切り替えて学生生活に打ち込むことにしたの。
クラブ活動が盛んな高校だったから弓道部に入って部活に励んだわ。
桔梗の形見の梓弓があったしね。
これまでずっと我流でやってきたから基礎から覚えようと思ったの。
何より弓を手にしているとアッチと繋がってるような気がして。
三年間、真剣に弓道に打ち込んだわ。
精進の甲斐あって一年の時は都大会で準優勝、二年の時は全国大会でも準優勝、三年生の時はついに全国大会で優勝。
どうかしら、我ながら中々の戦歴だと思うんだけど。
勉強の方だって、結構、頑張ったのよ。
戦国時代のことをもっと知りたかったから歴史関係の本を探しては片っ端から読破。
随分、この時代について詳しくなったわ。
大学だって史学科に入学が決まってたんだから。
あ~~でも、こっちに来ちゃったから入学式には出られなかったんだ。
入学式用に新しいスーツを用意したのに一度も袖を通してないの。
ああ~~ん、勿体な~~い!
あれ着て入学式に出てからこっちに来ればよかったあ。
まあ、仕方ないけど。
でも、あのまま現代にいたら大学を卒業する頃ね。
きっと就職活動でワタワタしてたんだろうなあ。
それが戦国時代で永久就職だもんね。
とはいえ、あんまり犬夜叉に養ってもらってるって実感はないのよね。
犬夜叉は弥勒さまと組んで妖怪退治を請け負ってるんだけど。
あれって仕事がないときは一年でも二年でも全然ないのよ。
つまり、無収入のときが多いわけ。
弥勒さまは法師だから普通に弔(とむら)いなんか頼まれるからいいけど犬夜叉じゃそうはいかないでしょ。
だから暇な時はそこらでゴロゴロしてるの。
犬夜叉って甲斐性がないのよねえ。
なんだろう、この感じ、え~~となんていったっけ?
亭主、元気で留守がいい、じゃなくて!
髪結いの亭主?うん、かなり近い。
そっ、そうだ、ヒモ、ヒモよ。
だから、あたしが巫女でしっかり稼がないとっ!
ああっ、また話が横道にそれた。
ごめん、ごめん、元にもどすわね。
※⑥に続く
チャプッ チャプッ チャプチャプッ チャプッ チャプッ
かごめは紙を梳く~~~♪
ヘイヘイホ~~~♪
ヘイヘイホ~~~♪
いや~ん、つい『与作』の替え歌うたっちゃった。
だってピッタリの気分なんだもん。
とにかく、あたしは紙を梳いて梳いて梳きまくるわ。
目指せ、紙梳き職人!
う~~ん、紙梳きって結構むずかしいのね。
簡単そうにみえるけど、これって紙の繊維を均等に枠内に散らばす必要があるの。
でないと、ある部分にだけ繊維がたまって厚みが均等にならないのよ。
ということは、すくった液を前後に滑るように揺すって動かさないと。
それを何度も何度も繰り返す必要があるの。
そ~~れ、そ~~れ。
チャプ チャプ チャプッ チャプッ
セッセッセ~~のヨ~~イとな。
うん、やっぱりそうだ。
コツをつかまないと上手くできないわ。
以前、アッチで和紙の紙梳きを見学した時は簡単そうにみえたんだけどなあ。
ん~~実際にやってみないとわかんないものね。
ふぅ~~~やっと一枚だけ梳けたあ。
まだまだよ、頑張ろう。
今、盥(たらい)の中にある分だけでも梳いてしまわなくっちゃ!
お昼に始めたんだけど、これ、暗くなるまえに終われるかなあ?
はあ?、暗くなったら明かりをつければいい???
ダメ、ダメ、ダメというより無理。
それは現代ならばの話でしょ。
戦国時代は陽が出てから暮れるまでが活動時間なの。
暗くなったらどうするって?
ご飯たべたら後は寝るしかないの。
だから、夜に作業なんて絶対に無理!
大体、照明器具がないんだもん。
夜はね、真っ暗が普通なの。
満月の晩は明るいけどね。
半月より大きければ結構明るい。
でも細い三日月ていどじゃね、暗いわよお。
朔(=新月、月のない晩)の晩なんて完全に闇の世界よ。
おまけに朔の日は犬夜叉が人間になっちゃうから余計に危ないわ。
妖力を失うから爪も牙もなくなっちゃうし力も人間並みになっちゃうの。
白銀の髪は黒髪になっちゃうし犬耳だって人間の耳になっちゃうのよ。
初めてみた時は本当に驚いたわ。
人間になった犬夜叉は少しヤンチャだけど凛々しい男の子だった。
ドキっとするくらい素敵だったわ。
あら、やだ、なに云わせるのよ。
恥ずかしいじゃない!
バシッ!(力まかせ)
だから朔の晩はしっかり戸締まりするの。
村には基本的に囲炉裏の火しかないもんね。
そりゃあ、御大尽の家なら油に火をともして使うこともあるけど。
この時代、油って凄く貴重だから滅多に使えないのよ。
だから夜遊びに慣れた現代人には辛いかもね。
テレビも携帯電話もパソコンもないから、勿論、ゲームなんてできっこないし。
そもそも電気が使えないんだもん。
どうしようもないでしょ。
あたし? あたしはコッチにいた経験があるから慣れてるわ。
そりゃあ、戻った当初は少しだけ戸惑ったけど。
はあ~~やっと・・全部、梳きおわったあ。
う~~~腕が疲れたよお。
さあて何枚梳けたかな?
ひい・ふう・み・よう、あ~~~まどろっこしい。
やっぱり自分のやり方で数えよう。
1・2・3・4・5・6・7・・・・
ええ~~~っ、たったの十八枚なの!?
あっ、あんなに手間暇かけて・・・十八枚。
くうっ、がっかりしてる暇はないのよ、かごめ!
まだ和紙作りの最終工程が終わってないんだから。
梳き終わった和紙は重石を載せて余分な水分を更に取り除く。
それから一枚、一枚、板というか平らな所に貼って天日で乾かのす。
幸い好天に恵まれ作業は順調に進んでいった。
そして三日後、ついに念願の和紙は完成した。
やった! やった! やったわ~~~っ!
ついに和紙ができたのよお~~~。
かっ、感動~~~。
はあ~~テンションあがるわ~~~。
この手触りは紛れもなく和紙だわ。
ちょっとあちこち厚みが違うけど、そこは全くの素人ってことで勘弁して。
来年はもっと綺麗な和紙を梳いてみせるから。
とにかく、これでママ達に手紙が書けるうぅぅっ!
でも、十八枚しかないから全部使うわけにはいかないわよね。
御札に使う分は分けておかないと。
となると、そうねえ、手紙に十枚もらって楓ばあちゃんに八枚あげよう。
御札に使ってもらうの。
きっと喜んでくれるわ。
よしっ、来年も頑張って和紙をつくるぞ。
今度はもっと沢山の枚数ができるよう工夫しよう。
コウゾも増やさなくっちゃね。
というより、これから村の人にも手伝ってもらって和紙作りを続けていこうと思うの。
どうしてかっていうと手紙は勿論だけど御札作りにも和紙は絶対に必要だもんね。
自給自足できるならいうことないでしょ。
それに和紙って貴重品だから量産すれば村の特産品になると思うの。
そうすれば他の物品と交換できるわ。
いわゆる物々交換ってやつよ。
この時代、貨幣経済が発達してないからね。
だから、欲しい物があったら和紙と交換してもらうの。
あら、別に戦国時代に貨幣がなかったわけじゃないのよ。
中国のお金である宋銭とか明銭が流通してたそうだから。
でも流通してたのは主に京の都を中心にした近畿地方、つまり西日本ね。
特に九州の豪商たち、ほら有名な博多商人なんかが使ってたそうよ。
当時の博多、いまでいう福岡はアジアと直接貿易をして巨万の富を得ていたから。
だからね、この武蔵の国、東日本に属する関東地方の田舎に貨幣は流通していません。
というか貨幣があったとしても通用しないってのが本当のところかな。
だって、この村の人達って、きっと貨幣をみた経験がないと思うのよ。
そういう人達にお金を理解しろっていう方が無理じゃない?
※⑤に続く
やった! やった! やったわ~~~!
ついに和紙の原料となるコウゾの刈り取りよ!
ここまでくるのに苦節一年。
くうっ、長かった~~~。
指折り数えて待ち焦がれた収穫日が今日なの。
あたしのテンションがあがるのも無理ないでしょ。
最初はね、コウゾとミツマタの両方を栽培したの。
両方とも和紙に利用するつもりだったのよ。
それがね、コウゾは一年目からバンバン収穫できるのにミツマタは三年も待たなきゃいけないんですって。
おまけにミツマタは一度収穫したら次の収穫はまた三年後だっていうのよ。
冗談じゃないわ。
あたし、そんなに待てない!
だからね、ミツマタはそのまま放置してコウゾだけに目標を絞ることにしたの。
その初めての収穫が今日なのよ。
あたしが興奮するのもわかるでしょ。
さあ、刈って刈って刈りまくるわよ。
ほら、犬夜叉、ボサッとしてないで手伝って!
あら、夜叉丸、お手伝いしてくれるの?
いい子ね~~~♪
父親とは大違いだわ。
この後、犬夜叉ったら何を思ったのか、いきなり鉄砕牙を抜いて風の傷を放とうとしたの。
もちろん、大慌てで止めたわよ。
そんなことしたらコウゾどころの騒ぎじゃないわ。
畑もろとも何もかも薙ぎ払われて綺麗さっぱり消えちゃうっ!
もうっ、本当にお馬鹿なんだから。
結局、村の人達が手伝ってくれたの。
おかげでサクサクと刈り取りは終了。
どうよ、このコウゾの束の数。
ふっふっふっ、大漁 大漁。
気分はカツオ一本釣りの漁師よ。
といっても海じゃなくて陸(おか)だけどね。
さて材料は集まったわね。
次は刈り集めたコウゾの束を大きな釜で蒸してっと。
どうして蒸すのかっていうとね。
コウゾの皮を柔らかくして剥がしやすくするためなの。
やけに詳しいなって?
まあね、弥勒さまが和紙作りの手順を教えてくれたの。
何でも弥勒さまが諸国をあちこち放浪してた際、紙作りの里に逗留したことがあるんですって。
そっ、それでね、里長の娘に惚れられて婿になってくれって懇願されたらしいの。
・・・そのことは珊瑚ちゃんには黙ってよう。
うん、世の中、知らないほうが幸せなことってあるもんね。
家内安全、夫婦円満のためにも、ここは断固、黙秘よ、黙秘!
コホン、とっ、ともかく弥勒さまが物識りで助かったわ。
おかげで和紙作りがドンドン捗(はかど)るし。
よしっ、蒸して柔らかくなったコウゾの皮、これをむいてっと。
あっ、あちっ! あちちっ!
ふぅ~~ふぅ~~(火傷した手に息を吹きつける)
えっ、水をかけて冷やしながら皮をむくの?
それを早くいってよ、弥勒さま。
お水! お水!
バシャ! バシャ!(水をかける音)
バリッ バリバリッ バリッ(ひたすら皮をむく音)
う~~ん、コウゾの束があんなにあったのに皮は大籠に一杯分だけかあ。
まあ、いいわ、それを今度は灰をいれた釜でジックリ茹でてっと。
どのくらい茹でればいいのかしら?
これはもう勘でやるしかないわね。
グツグツ・・グツグツ・・
何だか子供の頃、絵本でみた魔法使いのおばあさんみたい。
こんな風に大釜で何かをグツグツと煮るのよね。
それで魔法の呪文をブツブツつぶやくの。
アブラカタブラ~~なんちゃらかんちゃらとか。
あら、いやだ、あたし、すっかりなりきってるわ。
おほほほほほほ・・・・・
さ~て、どんな具合かな?
釜の中のコウゾの皮をひきだしてみる。
うん、いい感じ。
じゃあ、これを出して冷まして。
それから表面の黒い皮をとって白い皮にするの。
今度は白皮を川で一昼夜さらす。
そしてゴミを丁寧に取りのぞく。
さあ、いよいよ最終工程に近づいてきたわ。
小鎚でトントン打って繊維を柔らかくするんだって。
バン!バン!バン! バン!バン! バン!バン!バン!・・・・・・
つっ、疲れた~~~~っ!
手も痛~~~~い!
そうだ、この作業は犬夜叉にやってもらおう。
犬夜叉、代わって。
はい、バトンタッチ!(選手交代)
犬夜叉の馬鹿力でコウゾの繊維はあっという間に柔らかくなったわ。
うん、こういう力仕事は犬夜叉におまかせね。
それを今度は大きな盥(たらい)に水と一緒に入れて。
あっ、ここで重要なのが粘り気のあるトロロアオイの汁を入れること。
そうすると繊維がうまく絡みあって強い和紙になるそうなの。
これも弥勒さまが教えてくれたのよ。
さあ、ついに和紙を梳く時がきたわ。
この紙を梳くための特別な枠、簀桁(すけた)で盥(たらい)の中の液をすくうの。
簀桁の下は細かい竹ひごを何本も張ってあるから余分な水分だけ落ちて和紙になる繊維だけが残るって訳。
うん、本当によく考えてある。
昔の人の知恵は凄いわ。
チャプッチャプッ チャプチャプ・・・
ふぃ~~~大変だ。
まだまだ何枚も梳かなくっちゃ。
今ある分だけ、全部、梳いて和紙にするの。
何枚できるかしら。
できれば三十枚くらいは欲しいところよね。
ファイト! ファイト!
ともかく紙を手に入れるのが先決だわ!
でも、どうやって?
こんな田舎にお店はないし、仮にあったとしても紙を扱うような高級店なんてあるはずないし・・・。
それこそ京の都か大きな城下町にでもいかないと。
でも、どうしても紙が欲しい。
紙がなければママ達に手紙は書けない。
む~~~かくなるうえは・・・。
自分で紙を作るしかないわっ!
そうよっ、日本に昔からある和紙を作っちゃえばいいんだ。
あれよ、あれ、千代紙とか習字、書道に使う紙、あれを作ればいいのよ。
そのためには何が必要か???
え~~と・・えっ・・と何かの本で読んだことがあったけど。
確か、和紙って、え~~~っとミ・ミ・ミツ・・ミツマタ!
それからもうひとつ有名な・・なんていったっけ?
コ・コ・・コウゾ!
そうよ、コウゾやミツマタという植物の繊維で作るんだわ。
他には麻なんかもありだったかな?
昔はって、いやいや、今、あたしがいるのは戦国時代で、もうっ、ややこしい。
ともかくね、木綿が日本に入ってくるまでは麻が着物の材料の主流だったって本に書いてあったの。
現代では大麻、つまり麻薬の原料だからって栽培を禁止されてるけど日本人は昔から麻を利用してきたんだから。
絹もあることはあるけど、あれは超高級品だから庶民は目にしたこともないんじゃないかしら。
んっ? でも、この村の人達はそうでもないか。
殺生丸を見てるから。
殺生丸が着てるお召し物、あれって絶対に絹よね。
それも最高級品じゃないかな。
あの艶(つや)といい柄といい凄く上等そうだもんね。
うん、間違いない。
アッチにいた頃、ママが着せてくれた振袖と光沢が似てるもの。
はあ~~っ、流石、いいとこのおぼっちゃんだわ。
殺生丸って見るからに育ちがよさそうだもんね。
異母兄弟とはいえ犬夜叉とはえらい違いだわ。
でも犬夜叉の着てる童水干、あれだって火鼠の衣なんだから、そんじゃそこらじゃお目にかかれない凄いお宝よね。
なにしろ下手な鎧より頑丈なうえに超耐火性。
逆さ髪の由羅に襲われた時は本当に助かったわ。
犬夜叉が火鼠の衣を着せてくれなかったら、あたし焼け死ぬところだったし。
それに破れても妖力で自動修復する優れもの。
うんうん、やっぱり絹物なんか目じゃないわ。
それにね、犬夜叉って粗野だけどお母さんは貴族の姫だし、お父さんは大妖怪の狗の大将で血筋はいいのよね。
そのせいかな、神妙にしてるとそこはかとなく品があるの。
殺生丸ほどじゃないけど犬夜叉も綺麗な顔してるから。
でも、犬夜叉が大人しくしてるなんて殆どないからなあ。
あ~~っ、とっ、とにかくね、犬夜叉は犬夜叉ってことよ。
そっ、そうだ、楓ばあちゃんならミツマタやコウゾを知ってるんじゃないかしら。
薬草に詳しいってことは植物全般に詳しいってことよね。
あれっ? そもそも楓ばあちゃんも巫女だから神事の際に御札をつかうわよね。
御札って当然だけど和紙よね。
どうやって御札につかう和紙を手に入れたのかしら?
それも含めて聞いてみなくっちゃ。
うん、善は急げよ。
楓ばあちゃ~~ん!
あれから楓ばあちゃんを捜して色々と聞いてみたの。
そうしたら御札を作る紙は、昔、桔梗が生きていた頃、ある御大尽(※お金持ちのこと)から悪霊退治の御礼にって沢山もらったものを使ってたんだって。
ということは、もう五十年も前の紙ってこと!?
なんて丈夫なの。
凄い耐久性だわ。
現代の洋紙じゃ絶対に無理よね。
そういえばお札というか紙幣に使う紙ってミツマタやコウゾから作った和紙よね。
楓ばあちゃんはもらった紙を大事に大事に少しづつ使ってきたんだって。
まあ、この時代というか昔は紙は貴重品だもんね。
でも、もう残り少ないから正直な話、どうしようかと困ってたんだって。
そういう事情なら尚のこと、跡を継ぐあたしが何とかしなくっちゃ!
まかせて、楓ばあちゃん、必ず和紙を作ってみせるから。
そんなこんなであたしは楓ばあちゃんに和紙の原料になる植物を探してもらったの。
ミツマタもコウゾも麻もあることはあった。
でも、麻は着物や食料にするため畑で育ててるってことからパス。
麻ってね、着物を作るだけじゃないの。
丈夫な繊維は縄にできるし実は食料にもなるのよ。
麻の実って凄いんだから!
アッチにいた頃、ちょっと興味があって調べてみたんだけど、麻の実には必須アミノ酸や脂肪酸、ビタミン、ミネラル、たんぱく質が理想的に含まれてるの。
唯でさえ栄養不足に陥りやすい戦国時代、これを利用しない手はないわ。
あらら、つい話がそれちゃったわ。
ごめん、ごめん、元に戻すわね。
結局、和紙に使えるのはミツマタかコウゾ。
でも、今ある分じゃ、とても和紙にするだけの量はない。
栽培して増やすしかないわ。
それにはまず種を取って育てて・・それを収穫して・・・。
はあ~~っ、先は長い。
すぐにでも和紙作りに取りかかれるかと思ったのに。
く~~~っ、現実は厳しい。
なにくそっ、ここでへこたれてなるもんか。
ファイトよ、かごめ!
※③に続く
せめて、あたしが無事だってことだけでもママ達に知らせたいのに。
犬夜叉と結婚して元気に暮らしてること。
男の子を産んで『夜叉丸』って名前をつけたとか。
ママにとって夜叉丸は初孫よね。
爺ちゃんからすれば可愛い曾孫。
草太は叔父さんになる。
それからもっともっと色々なあれやこれや。
知らせたいことが一杯あるのに。
ああもうっ、何かいい方法はないんだろうか?
んんっ、ちょっとまてよ。
そういえば家の神社って蔵にいっぱい骨董品があったのよね。
爺ちゃんがどれもこれも由緒がある物なんじゃって大事にしてたっけ。
アッチにいた頃のあたしは興味がなくて気にもしなかったんだけど。
あれって、もしかしてこの時代の物もあったんじゃないの???
思い返してみると妙なものがゴロゴロしてたのよね。
やれ天狗のヒゲやら竜の尾の干物なんて訳のわからないものが入った箱に巻物や壷なんかがドッサリあったの。
河童の手の干物はブヨに食べさせちゃったけど。
どう考えても妖怪っぽくない?
うん、間違いない。
あれってこの時代から引き継がれたんだわ。
ということはあたしが手紙を書いて残しておけばっ!
そうよ、運がよければ爺ちゃんが蔵の中から見つけてくれるかもしれない。
戦国時代のあたしが書いた手紙だって。
あたしの手紙を読めばママや草太だってきっと安心してくれるわ。
さあ、そうと決まればこうしちゃいられない。
早速、ママ達に手紙を書かなきゃっ!
とまあ、そういう次第であたしはすっごく張りきったの。
ここまではよかったのよ、ここまではね。
問題は、この時代、紙が凄~~くお高いってことなの。
京の都でさえ庶民にはおいそれと手が出せない貴重品だったのよ。
あっ、言っておくけど、この時代、まだ徳川幕府が成立してないから。
関東平野は殆ど手つかずの原野だったの。
この武蔵の国なんてど田舎もいいとこ。
紙なんて滅多に手に入らない貴重品なんだから。
現代みたいにお店にいけばホイホイ簡単に手に入る代物じゃないの。
弥勒さまが持ってたって?
あれはね、弥勒さまの商売道具なのよ。
法師という職業柄、お金持ちとの付き合いが多いから特別に融通してもらってるの。
お公家さまやお侍さまが使う料紙なの。
普段使いなんて絶対にできない高級品なのよ。
弥勒さま、あの御札をボロボロになるまで何遍も使いまわしてるんだから。
そんな大事なものを手紙に使いたいから譲ってくれだなんて云えないわよ。
まして書き損じなんかしたら恨まれそうで怖い。
駄目、やっぱり頼めない。
ハ~~この時代はコンビニどころかお店自体ないんだもんね。
この村もそうだけど、ほとんど自給自足が原則なの。
なんてったって戦国時代だもんね。
う~~ん、江戸時代なら和紙がかなり普及するんだけどな。
えっ、随分と詳しいじゃないかって?
あたりまえよ、あたしね、高校に入ってから日本史をみっちり勉強したんだから。
自分がいた時代についてもっと知りたかったしね。
教科書だけじゃなく図書館でこの辺りの郷土史の本を読んだりして色々と調べてみたの。
※②に続く
じゃあ、今度は母上について話すね。
大好きな俺の母上、綺麗で優しい母上。
母上はこの村を守る巫女さまだ。
すっごく霊力が高いんだって。
だから遠くの村や町から母上に祈祷を頼みにくる人も多い。
大巫女の楓婆ちゃんがいってた。
ここらの近郷近在で母上に敵(かな)う巫女はおらんだろうって。
へへっ、凄いだろう、俺の母上は。
母上からはいつも凄く良い匂いがする。
だから、つい抱きついてクンクンしちゃう。
そうするとね、父上がジロって睨(にら)むんだ。
こないだもね、母上に抱っこされて嬉しくて頬っぺスリスリしてたんだよ。
すると父上が焼きもち焼いてね、「あんまり引っつくな」って母上からベリッと引き剥がされそうになったんだ。
そしたらね、母上が「なんて大人げない!」って怒って、それから「犬夜叉、おすわりっ!」って呪文を。
あれ、『デンカノホウトウ(=伝家の宝刀)』っていうんだよね。
父上はベシャッと地べたに叩きつけられてた。
ひしゃげたカエルみたいだったな。
母上は強い!
あんなに強い父上でも母上には絶対に勝てないんだ。
母上は弓が凄くうまい。
百発百中だ。
でも、昔はちっとも当たらなかったんだって。
そんなの信じられない。
だから父上に訊いてみた。
そしたら母上のいう通りだって。
父上と逢ったばかりの頃の母上は矢を獲物に当てるどころかヒョロヒョロで弓を引いたことさえなかったんだって。
え~~と、なんて父上がいってたっけ?
そうだ、思い出したっ!
『じょし・・ちゅう・が・くせい?』だったからだって。
でも、その意味がわからない。
一度も聞いたことがない言葉だもん。
何なの、それ???
父上に聞いてみたんだけど、父上にもよく分からないみたいで上手く説明できないんだって。
そんなのチンプンカンプン(=珍粉漢粉)だよ。
父上がいうには母上は違う世界からきた人なんだって。
違う世界???
う~~ん、これもサッパリ分からない。
どういうことなんだろう。
どこか凄~~~く遠い国からきたってことかな。
楓婆ちゃんに聞いてみたら母上は、村の中の、あの『骨喰いの井戸』からきたんだって教えてくれた。
というか井戸の向こうにある世界からやってきたんだって。
井戸の向こうって?
水のない枯れ井戸なのに?
それとも土を掘ったら、あっちの世界とやらへ行けるんだろうか?
ますます分からないや。
でも、一昨日(おととい)だったかな、夜、目が覚めたんだ。
あの日は父上がお仕事で山向こうの町まで出かけていなかった。
俺は母上と二人で寝てた。
月明かりが眩しい晩で家の中にまで射しこんでた。
母上が行李(こうり)から何かをソっと取り出してた。
見たこともない変わった形の着物だった。
そしたら母上がそれを抱きしめて泣くんだ。
途切れ途切れの涙声で母上が何度もつぶやいてたのは「まま」「そうた」「じいちゃん」。
誰のことなんだろう。
後で母上に内緒で父上に聞いたら、それは母上の家族のことだって。
「まま」が母上の母上、俺のお婆ちゃん。
「そうた」は母上の弟、俺の叔父ちゃん。
「じいちゃん」は母上の爺ちゃんだから俺の曾(ひい)お爺ちゃん。
昔は『骨喰いの井戸』で自由にアッチとコッチの行き来ができたんだって。
でも、突然、それができなくなって、三年間、父上は母上に逢えなかったんだって。
それでね、三年後のある日、骨喰いの井戸がアッチの世界と通じて母上は父上と一緒になるためにコッチの世界にきたんだって。
それから骨喰いの井戸は閉じてしまって、もう母上はアッチの世界に戻れないんだって。
だから母上は泣いてたんだ。
もう家族に会えないから。
でも、ごめんね、母上、俺はそれを聞いて凄く安心したんだ。
だって、母上にはどこにも行ってほしくない!
これからもズッとズ~~~~~っと俺と父上の側にいて!
【行李(こうり)】:竹・柳などを編んで作った箱型の入れ物。衣類などの収納や運搬に用いる。
【珍粉漢粉(ちんぷんかんぷん)】:訳がわからないこと・言葉。またはそのさま。
◆『夜叉丸物語』の③に続く
俺の名前は夜叉丸。
年は二歳。
えっ、嘘つけって?
嘘じゃないよ。
俺は本当に二歳なの。
この村の者なら、みんな知ってるよ。
まあ、他所(よそ)からきた奴らは驚くけどね。
二歳にしちゃ大きすぎるって。
パッと見だと俺は五歳くらいにみえるらしいんだ。
身体も大きいし受けごたえだって二歳児とは思えないくらいシッカリしてるってさ。
だって、仕方ないだろ。
俺には父上の、妖怪の血が混じってんだもん。
母上の名はかごめ、父上は犬夜叉。
父上は半分が人間で半分が妖怪。
半妖っていうんだって。
大巫女の楓ばあちゃんが、そういってた。
父上の父上、俺のお爺ちゃんは犬の大妖怪なんだって。
お爺ちゃんの墓参りを二度もしたって母上がいってた。
だからかな、父上の耳は犬耳だし髪だってフサフサの銀髪だ。
アッ、気づいた?
そう、俺の目は金色なの。
これは父上に似たんだ。
髪は母上と同じで黒いけどね。
父上は半妖だけど凄く強いんだ。
そんじょそこらの雑魚妖怪なんか目じゃないよ。
村の若い衆が五人がかり、十人がかり、ううん、束になったって敵(かな)わない。
それに凄く力持ちなんだ。
大きな米俵を三つくらいは軽々と運んじゃう。
五つ、いや、十だっていけるかも。
力の強い男衆だって米俵を二つも持てばバテバテなのに。
それから父上の長くて鋭い爪。
下手な刃物よりも凄いんだよ。
こないだ暴れ猪が畑を荒らしたうえに村まで襲ったんだ。
でも父上がアッという間に爪で片付けちゃった。
その後、村中の者に猪鍋が振舞われてたよ。
美味しかったな。
茸狩りで母上が熊に出くわした時もそうだった。
父上が駆けつけて爪でひと薙(な)ぎして終わり。
熊の肉は熊鍋に、なめした毛皮は冬の防寒具に、熊の胆(い)は楓婆ちゃんが天日に干してから大事そうに薬草箱にしまってた。
あれってお薬になるんだって。
父上は鉄砕牙っていう刀を腰に差してる。
大妖怪だったお爺ちゃんの牙を打ち出して作った凄い刀なんだって。
父上は親父の形見だっていってたな。
あれね、ふだんはボロボロの冴えない刀なんだ。
でもイザとなると凄く大きな刀に変化して悪い妖怪をバッサバッサと薙ぎ払っちゃう。
まだ見たことないけど風の傷や爆流波とか色々な技を使えるんだって。
そんな父上は法師の弥勒伯父ちゃんと組んで妖怪退治を請け負ってる。
わざわざ遠くの町から妖怪を退治してくれって頼みにくるくらいなんだよ。
どうだい、凄いだろう?
◆『夜叉丸物語』の②に続く
楓:「さて、こちらの近況はもうよかろう。そろそろ事の詳細を話してもらおうか。まず、どのような経緯で、りんは兄殿の母上の養女になったのだ。それから、りんと兄殿の再会についてもな」
邪見:「あぁっ?うっ、うん、そっ、そうじゃったな。では、まず、りんが大雨で行方不明になった件からいくぞ。あれはな、豺牙(さいが)なる者が放った刺客のせいなんじゃ」
楓:「豺牙?」
邪見:「殺生丸さまの遠縁に連(つら)なる一族の者じゃ。豺牙は殺生丸さまの今は亡き父君、闘牙王さまの母方の従弟にあたる」
楓:「その豺牙なる者は、何故(なにゆえ)りんを亡き者にしようと画策した?」
邪見:「豺牙には由羅という娘がおってな。これが見た目といい年頃といい殺生丸さまと頃合いの姫だったんじゃ。あ~~もうっ!ここまで云えば解かるじゃろう。聡(さと)いお主のことだ。ほぼ察しがつこうが」
楓:「・・・りんが邪魔だったか」
邪見:「その通りじゃ。そもそも殺生丸さまには血の繋がる者、親族が極端に少なくてな。伯父君や伯母君もおらんし、当然、従兄弟(いとこ)連中もおらん。兄弟といえば犬夜叉のみ。おまけに奴は半妖で人界で暮らしておる。豺牙は御母堂さまを除けば西国において最も近しい血縁だったんじゃ。それをいいことに、奴め、殺生丸さまが西国を留守にされていた間、専横の限りをつくしておったらしい。税の水増しや勝手な特権行使など、それはもう色々とな。じゃが正当な主である殺生丸さまが帰国された以上、もう以前のように好き勝手な振る舞いは許されん。それどころか昔の行状を調べられでもしたら、即、身の破滅じゃ。殺生丸さまは潔癖な御方じゃからな。そんな状況の中、彼奴(きゃつ)は妙案を思いついたのよ。手っ取り早く己(おの)が窮地を脱する方法をな。それが殺生丸さまと自分の娘を娶(めあわ)せるという昔ながらの手法じゃ。姻戚関係さえ結んでしまえば多少の昔の悪さは目こぼししてもらえるだろうと古狸らしく算段したのよ。おまけに西国王の舅(しゅうと)ともなれば、その威光は大したもんじゃ。単なる一族の血縁などとは比べ物にならん。そう考えた豺牙は、早速、殺生丸さまの身辺を嗅ぎ回りはじめたんじゃろうな。すると必然的にこの村に預けられたりんの存在を知ることになる。奴の計画においてりんが最大の障害となるは必定。ならば排除すればよいと密かに人界に刺客を放った。これが三年前の大水の日のりん失踪の原因じゃ」
楓:「成る程。では、あの日、珊瑚からりんは蝶に誘われて川の方へ向かったと聞いたが、それは豺牙とやらが放った刺客のせいだったのだな」
邪見:「そうじゃ。刺客は蛾々(がが)という名の幻術を操る妖怪でな。そ奴は幻の蝶を使ってりんを誘い込み川に落としたんじゃ。大雨で堰(せき)が決壊し荒れ狂う川にな。溺死に見せかける積もりだったんじゃろうな。あの記録的な大雨じゃ。遺体があがる確率は低い。蛾々とやらが川にりんを落とす際、豺牙から絶対にりんに傷をつけんよう指示されておったらしい。それは、もしもじゃ、万が一、りんの亡骸(なきがら)が見つかったとしても、誰ぞの手にかかって殺されたと決して疑われんようにとの思惑からじゃろう」
楓:「何とまあ・・・奸智に長(た)けたやり口だ。まるで奈落のようではないか」
邪見:「ん? そうか。むぅ~~云われてみると確かにそうかも知れん」
※『陣中見舞い⑦』に続く
トトトッと幼子が邪見の側を歩く。
黒髪に金色の瞳の男(お)の子。
犬夜叉とかごめの間に生まれた子供じゃ。
あ奴は半妖だが殺生丸さまと同じ父親をもつ弟、その犬夜叉の息子とはな。
となると殺生丸さまにとっては甥に当たる訳で。
ふむふむ、黒髪はかごめから金色の瞳は犬夜叉譲りっと。
犬夜叉のように犬耳ではないのだな。
見たところ瞳の色以外は里の者と変わらんようじゃ。
幼子の歩みは、到底、生後半年の赤子とは思えぬほど確かなものだった。
普通の人間の子ならば、まだハイハイが精々のはず。
それがハイハイどころか危なげなく歩いておるとは。
身体だって、生まれて半年の赤子とは思えぬほど大きい。
下手するとワシよりも大きいかもしれん。
やはり犬夜叉の半妖の血が影響してるんじゃろうな。
邪見は主の未来に思いをはせる。
もし、りんが殺生丸さまと・・・。
いやいや、りんと殺生丸さまの婚儀は仮定ではない。
もはや確定事項じゃ。
何といっても、あの御母堂さまの、西国の王太后であらせられる『狗姫(いぬき)の御方』の養女になったんじゃからのう。
それに西国王である殺生丸さままでついておる。
西国きっての実力者が親子揃って後ろ盾ときておる。
文字通り鉄壁の守護の布陣じゃのう。
どんなに内心、りんに不満があろうと表立って逆らうような愚か者はおらんじゃろうて。
つい先頃、豺牙一門を断罪したばかりだしな。
となると遅かれ早かれ、りんは殺生丸さまの子を孕(はら)むことになるわな。
はてさて、どんな子が生まれるんじゃろう?
犬夜叉のような犬耳の子じゃろうか?
りんに良く似た黒髪の子か?
それとも殺生丸さまに良く似た御子か?
邪見は、そんなことをツラツラ考えながら小さな足をセッセと運んだ。
すると程なく楓の家にたどり着いた。
入り口の筵(むしろ)を捲(めく)って家の中に入る。
コトコト・・グツグツ・・コトコト・・
囲炉裏にかけられた鍋が煮えている。
茸(きのこ)に食べられる野草、雑穀、それに猪の干し肉を加えて煮込んだ雑炊粥だ。
ジュルッ・・・ゴクッ!
その美味そうな匂いに思わず邪見は生唾を飲み込んだ。
唾液が口の中にあふれだす。
考えてみれば邪見は西国を出てから何も飲み食いしていない。
当然、ペコペコの空(す)きっ腹である。
腹の虫が鳴りそうなのをグッと腹に力をいれ必死でおさえる。
ううっ、殺生丸さまの壱の従者たる者がみっともない真似をする訳にはいかん!
すると楓が木の椀に雑炊をよそって手渡してくれた。
楓:「ほれ、邪見」
邪見:「うっ、うむ、馳走になる」
楓:「ほら、夜叉丸もな」
夜叉丸:「あい」
ズッ、ズズ~~ッ
早速、雑炊をかきこむ邪見。
むぅ、美味いっ!
う~~~空きっ腹だったせいか五臓六腑にしみわたるわい。
味噌が野趣にあふれた滋味をうまく引き出しておるのう。
そりゃ、西国の厨房で作られる贅(ぜい)をこらした料理には敵(かな)わんがな。
これはこれで中々におつな味じゃ。
夜叉丸も小さな口でフウフウと息をふきかけて雑炊を冷ましつつ美味しそうに啜(すす)っている。
邪見は夢中で一杯めをかきこみ、お代わり所望(しょもう)、二杯めを食べ終わって息をつく。
邪見:「ふぅ~~っ、馳走になった。田舎料理にしては中々いけるぞ、楓」
楓:「はっ、相変わらず口が減らんな、邪見」
邪見:「ふん、お前もまだ惚(ぼ)けてはおらんようだな」
楓と邪見がお馴染みの憎まれ口を叩いているところへ可愛い声が割り込んできた。
夜叉丸:「ばぁば」
夜叉丸だ。
椀の中の雑炊を食べ終わったらしい。
小さな手で椀を楓に差し出す。
楓:「おお、もうよいのか、夜叉丸」
夜叉丸:「ん」
邪見:「そういえば楓よ、犬夜叉達はどこにおるんじゃ?」
楓:「ああ、犬夜叉は法師殿と一緒に山向こうの村に出かけておる。年が明ける前に米蔵にとり憑いた化け狐を退治してくれと頼まれてな」
邪見:「かごめは?」
楓:「かごめは珊瑚と一緒に村の衆の餅つきを手伝っておる」
※『陣中見舞い⑥』に続く