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陣中見舞い④



幼子の金の瞳、う~~む、まぎれもなく犬夜叉の子じゃ。
犬夜叉は半妖ではあるが殺生丸さまと同じ白銀の髪、金の瞳じゃ。
母親は人間だが大妖怪の父君、闘牙王さまの血が強くでたらしい。
まあ、とにかくじゃ。
子供が犬夜叉の子であることは納得した。
だが、その子の名前は?
隻眼の巫女、楓に名を問うてみる。


「楓よ、この子の名は?」

「ふふっ、犬夜叉の子だからな。夜叉丸という」

「いつ生まれたのじゃ?」

「半年前だ」

「半年前・・・となると一年前、ワシがお主のところにりんの消息を教えにいった時には、もう、かごめの腹の中におったという訳か」

「そうなるな、まだ、あの頃は判らなかったが」

「ふ~~ん、あの犬夜叉が父親になあ。とはいえ、かごめと一緒になったんじゃから当然といえば当然か」

「まあな。それはそうと、今日は、いきなりどうしたのだ、邪見。何かあったのか?」


楓の指摘にハッとする邪見。
わざわざ人界にまで赴(おもむ)いた用を思い出したのだろう。
ポンと手を打つ。


「そっ、そうじゃ! ワシはお前に吉報を届けに来たんじゃった」

「吉報というと?」

「喜べ、楓! りんが見つかったぞ。今は殺生丸さまの御母堂さま、狗姫の御方の居城におるんじゃ」

「何と、兄殿の母君の許とな。で、それは、一体どういう経緯(いきさつ)でそうなったのだ」

「うむ、それが、話せば随分と長い話でな」

「そうか、ならばこんな処で立ち話もなんだ。ワシの庵(いおり)に寄っていくがいい。丁度、飯時だ。粥(かゆ)など啜(すす)りながら積もる話を聞かせてもらとしようか」

「ふむ、そうじゃな。では馳走になろう」


隻眼の巫女は歩き始めたばかりの幼児を連れ踵(きびす)を返した。
緑色の小妖怪も足並みを揃えて歩いていく。
同じくらいの背丈の幼児と小妖怪が共にヨチヨチと歩く姿。
それは妙におかしみを誘う場景だった。

 

 

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陣中見舞い③

お仕置き主従

邪見は醍醐に騎乗して眼下を見下ろした。
三年ぶりの人里である。
空から俯瞰(ふかん)すると村の様子が一目瞭然でわかる。
ごくありふれた村の佇(たたず)まいが目に入ってきた。


ふむ、相変わらずじゃな。
邪見は独りごちた。
村は見た感じ、三年前とそう変わっていなかった。
強(し)いて違いをいうなら真新しい家屋が二・三軒建っているぐらいか。


んっ! あれは誰じゃ?
幼子がトトッとよろけながら歩いている。
子供の側には見知った顔が付き添う。
刀の鍔を眼帯代わりにつけている隻眼の老女。
村を守る巫女、楓だ。
思わず知らず邪見は巫女の名を呼んでいた。

「楓~~~~~!」

名を呼ばれた巫女が上空を見上げた。
そこには一頭の竜にチョコンと乗った緑色の小妖怪の姿。

「おおっ、邪見ではないか。久しぶりだな」

邪見は醍醐に下降の指示を出し近くの草原に降りた。
ピョンピョンと竜から跳び下りる。
楓と幼子が側に寄ってきた。

「一年ぶりじゃな、楓、子守か。んんっ、その子は誰の子じゃ。初めて見るぞ」

邪見は楓がつれている子供に目をやった。
まだ歩きだして間がないのだろう。
足元がフラフラと覚束(おぼつか)ない。

「ふふっ、誰の子だと思う?」

「そうじゃな。大方、法師と退治屋の子じゃろう。あそこは、年中、盛っておるからな」

「外れだ。この子はな、犬夜叉とかごめの間にできた子だ」

「げぇっ、なっ、なっ、何じゃとおぉぉぉぉぉぉおぉぉぉ!? いっ、犬夜叉とかごめの子じゃとぉおぉぉっ!?」

邪見は絶叫した。
犬夜叉は半妖ではあるが、主君、殺生丸さまの異母弟である。
その犬夜叉とかごめの間に出来た子供、つまり目の前の子供は西国王、殺生丸さまの甥っ子にあたる訳だ。
もっとも半妖の子なので妖怪の血は四分の一しかひいてない。
血の四分の三は人間だから殆ど人間といっていいだろう。


邪見は、まじまじと幼子を眺めた。
よくよく見れば子供の髪は村人と同じく黒い。
かごめに似たのだろう。
だが瞳は上質の琥珀を思わせる艶(つや)やかな金色だった。

 

 


 

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陣中見舞い②

ピヨピヨ邪見

早速、ワシは厩(うまや)へと向かった。
足を確保せねばならんからの。
阿吽は殺生丸さまが乗っていかれたしな。
となると別の竜を探さねばならん。


幸い、阿吽には及ばんが、かなりの健脚を誇る竜が見つかった。
何せ阿吽は双頭の竜だけあって二頭分もの馬力を有しておる。
西国一の駿馬(しゅんめ)ならぬ竜じゃからの。


竜の名前は『醍醐』という。
うむ、中々の強面(こわもて)じゃ。
立派な面構えをしておる。
よろしく頼むぞ、醍醐よ。


どこへ行くのかじゃと?
んなこと決まっておろうが。
人界にある楓の村じゃ。
あそこには犬夜叉やかごめ、法師に退治屋もおるからの。
七宝と琥珀も、おっと琥珀は確か修行の旅に出ておったんじゃよな。
そのせいで滅多に村に帰ってこないとか。

 

騎乗用の鞍を置いた醍醐に乗って妖界と人界の間にある結界を渡る。
一時(約二時間)ほど乗っておったかな。
結界を抜ければ目指す人界はもうそこじゃ。
さてさてアイツらは元気にしておるかのう?
りんが行方知れずになって以来、殆ど逢っておらん。


楓め、りんが殺生丸さまの母君、西国の王太后さまの養女になってると教えてやったら、さぞかし驚くじゃろうて。
驚きすぎて腰を抜かすかもしれんな。
あ奴も随分な年じゃからな。
それから、犬夜叉にかごめ、法師に退治屋と。
七宝はおるかな?
三年前は妖術修行で村に居ないことが多かったからな。
まあいい、あ奴には犬夜叉かかごめが教えるじゃろう。

 


 

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陣中見舞い①



新年に向けて西国の城中は何処(どこ)も彼処(かしこ)も慌(あわただ)しい。
チョイと歩いただけで何やら運んでる女中どもにぶち当たられ突き飛ばされた。
何という無礼な!
当代西国王、殺生丸さまの壱の従者、この邪見を突き飛ばすとは!

「無礼者!」と相手を叱り飛ばそうとしたが、次の瞬間には、もう影も形もない。

むうっ、咎(とが)めようにも相手がおらんのではどうしようもない。
仕方ない、許してやるか。
それにしても、こうも女中衆がワサワサと出張っておっては落ち着くどころではない。
殺生丸さまは殺生丸さまで『りん』のいる御母堂さまの城においでだし・・・。

あっ?
どうして一緒にいないのかじゃと?
そんなもん、決まっておろうが!
殺生丸さまに置いてきぼりにされたんじゃ。

ククッ・・・殺生丸さまったら、酷い!
いくら『りん』に逢いたいからってワシを置き去りにするなんて。
あんまりですぞ。
邪見は悲しゅうございます。

今、西国城内は年末の大掃除でバタバタして居場所がない。
どこにおっても掃除の邪魔だとせっつかれ追い出される。
本当に、もう、ワシ、どこに行けばいいんじゃ!

んっ!?
そうじゃ、久しぶりにアソコへ行こう。
そうそう、ワシ、何で思いつかんかったんじゃろ。
アイツらに近況を教えてやらんとな。




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触手プレイ



※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


八月も下旬に入り夏休み終了まで、もう一息。
間があいてスミマセン。
サボってる間も拍手を贈って下さった方に御礼申し上げます。
上の兄上のシーン、大好きです。
入ってる邪見の台詞も素敵・・・グフフ。
あれこそ名(迷)台詞ですよね。
見る度に笑えてきます。
そんな訳でチョッと小話を。


【お仕置きへの序章】

曲霊めの触手に絡めとられた私の脳裏に響いてきた従者の台詞。
『犬だし。余り賢そうではないし』
おのれ、邪見!
言うに事欠いて『犬』に『賢そうではないし』だとっ!
主に対して何たる言い種(ぐさ)。
不忠不敬なること、この上なし。
断じて許さん!
覚えておれよ、邪見。
曲霊を片付けた後は貴様の番だ。
タップリと仕置きしてくれる。



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ボリューム最大



※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


朝、マンションを出た途端に上から叩きつけるように蝉時雨が
もう、ウゲッてくらいのボリュームでした。
唯でさえ暑いのに、暑さを倍化させるような迫力
嫌になりますね、あのジージー煩い音は
クッ、何て煩いんでしょう。
騒音公害もいいところです。


【殺生丸さまの側(りん)】

あのね、殺生丸さまの側は凄く安心するの。
殺生丸さまは強くて優しくて、とっても綺麗。
あたしは殺生丸さまが大好き。
だから、ずっと、ずっと側にいたいの。

殺生丸さまと邪見さまと、アッ、それから琥珀も。
これからも一緒にずっと旅が出来たらいいな。
そう思ってるんだけど駄目かな?邪見さま。

あの時は凄く心配しちゃった。
ホラ、あの意地悪なお化けみたいな妖怪。
えっと、えっと・・・まっ、曲霊(まがつひ)!
アイツと殺生丸さまが戦ってた時はドキドキしちゃった。

もっ、もし、殺生丸さまが死んじゃったりしたらどうしようって。
あんなに強い殺生丸さまが負けそうになったんだもん。
思わず泣きそうになっちゃった。
でも、殺生丸さまは新しい刀と左腕を手に入れたの。
良かったぁ~~~~!

でもね、その後、楓さまの村に置いてかれちゃった。
殺生丸さまは一人で曲霊をやっつけに行かれたの。
お留守番だね、邪見さま。
早く帰ってきてね、殺生丸さま。



コメントを贈って下さった(ういんく)様。
有難うございます。
とっても励みになります。
頑張ります。



コメントを贈って下さった機長さまへ
          

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うぐっ!



※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


毎日、暑いですねぇ~~~~~
熱中症になる人も昨年に比べ鰻上り。
節電しなくちゃとは思うけど、この状況では・・・。
せめてクーラーと扇風機を組み合わせて効果的に室内を冷やそうと努力してます。
拍手を贈って下さった方々に感謝致します。
六日も落ちてたお詫びにチョイと小話を。


【モコモコをつかまれた殺生丸の心中】

ムムッ、かごめめ、私の毛皮を掴(つか)むとは・・・。
そもそも毛皮は私の身の一部。
こんな事が許されるのは家族か極々親しい者のみ。
にも関わらず、こ奴は平然と私の許しも得ずに。
クッ・・・この女は遠慮というものを知らぬのか。
何という命知らずにして恥知らずな女。
非常時でなければ手討ちにしてくれる。
だが、今は、りんを救出することが最優先。
些事(さじ)に構ってはおれぬ。
されど、いつも、貴様の無礼が許されると思うなよ。


※些事(さじ)=取るに足りないささいな事


コメントを贈って下さった機長さまへ
          







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『妻問ひ』◆五周年記念作品




※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


妻問ひ】=①異性を恋い慕って言い寄ること。②求婚すること。③男が妻・恋人のもとへ通うこと。
この作品の場合は③の意味です。


夏の宵、天空の母の城に『りん』を訪ねた。
昨年の秋、やっと三年ぶりに見つかった愛しい少女。
そして、今年の正月に晴れて婚約を交わした。


今年の夏も例年の如く暑い。
大妖の我にとっては、これしきの暑さ、何程のこともない。
だが、か弱い人の身の『りん』には堪(こた)えるだろう。
旅の途上で覚えた『りん』への配慮。


そういえば、邪見の奴も、連日、「暑い!暑い!」と喚(わめ)いておったな。
余りに煩(うるさ)いので軽く蹴飛ばしたら西国城の池に嵌(は)まり込んでいた。
あの池に放してあるのは極彩色の小魚。
朱、金、青、緑、紫と見た目は美しいが歴(れっき)とした食肉魚だ。
大きな水音に餌が投げ入れられたと勘違いした魚どもが一斉に集(たか)っていた。
形こそ小さいが食欲旺盛な魚どもだ。
あれらには鑑賞と同時に池に潜む忍びを駆逐する役目がある。


邪見め、慌てて池から飛び出したが軽く齧(かじ)られたらしい。
暫らく膏薬の臭いがプンプンしていた。
フッ、このような晩に不粋な従者のことなど放念しておこう。
殺生丸は愛しい少女を抱き寄せた。
『りん』は山吹茶の地色に朝顔の模様の小袖を纏っている。
以前、私が贈った布地で拵(こしら)えたものだろう。
今の季節に良く合う。


三年ぶりに見た『りん』は背が伸びていた。
髪も腰に届くほどに長くなった。
城での暮らしで陽に焼けることもなくなった雪白の肌。
夜空の星のように煌く瞳を飾る長い睫毛。
相変わらず表情豊かな顔は嬉しげに微笑んでいる。


今宵の月は満月。
あの月が隠れるまで二人こうしていよう。
蛍が飛び交っている。
あの虫も相手を求めているのだろう。
今は触れるだけに留めておこう。
次こそは堂々と母の許しを貰おう。

   
          了
 

拍手、有難うございます。
いつも感謝しております。
八月八日をもって当ブログも五周年を迎えました。
今後も、どうぞ宜しくお願い致します。
ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。


 

 

拍手[13回]

『邪見の僕(しもべ)日記⑩』



※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。

アワワワワワワワワワワ・・・・・・
やっ、やはり予測した通りじゃった。
殺生丸さまは猛烈に激怒しておられる。
ハゥ~~~因(ちな)みにワシは阿吽の尻尾に死に物狂いで摑まっておる。
何でかって?
そりゃ、シッカリ摑まってないと今にも振り落とされそうだからじゃよ。
それほど猛烈な速さで飛んでおるのじゃ。
アッ、因(ちな)みに行き先は天空に浮かぶ御母堂さまの城だからな。
ビュンビュンと物凄い風斬り音が耳に入ってくる。
ヒィ~~~殺生丸さま~~~
ワシが落っこちる前に到着して下されぇ~~~~
それでなくても殺生丸さまから発される殺気が凄まじく強烈でな。
ウ~~~今、この瞬間にもビリビリと感電しそうな程なんじゃ。
正直、お側にいるだけでも青息吐息の有り様よ。
ウ~~~~息が詰まるぅ~~~~
尤(もっと)も殺生丸さまが雷を落としたいのは御母堂さまだろうがな。
どうしてだと!?
あのなあ、御母堂さまは『りん』を三年間も匿(かくま)っておられたんだぞ。
殺生丸さまが血眼(ちまなこ)になって『りん』を捜しているのを百も承知の上でな。
それを考えれば殺生丸さまが怒り狂って当然、寧(むし)ろ怒らない方が不思議じゃろうが。
オオッ、ああだこうだ言っておる内に見えてきたぞ、御母堂さまの城が。
雲海の中、天空に聳(そび)え立つ白亜の巨城(きょじょう)。
相変わらず凄い威容じゃのう。
流石に先の西国王妃、現王太后の居城なだけはあるわい。
一見、優美な外観の城じゃが、実際は空飛ぶ移動要塞といったところか。
城全体を御母堂さまの張った結界が覆っている。
機動性といい防御力といい、難攻不落の城とは、当(まさ)に、この城のことよな。
などと暢気(のんき)に考えておったら・・・・・・。
ゲエッ、せっ、殺生丸さま、まっ、まさか、このまま突っ込んでいくお積りで!?
アレ~~~~~~ッ、たっ、助けてぇ~~~~~~~
まっ、まだ死にたくないぃ~~~~~~~~~
 

ドオォ-----------------------------------------------ン!
バチッ!バシッ!バリバリッ!ババババッ!
 

ヒィ~~~~~~~~~~~~物凄い衝撃が!
ほっ、星が飛んでおるぅ~~~
めっ、目が回るぅ~~~~
クラクラするぞぉ~~~~
目の前が真っ暗に・・・なった。
バタッ!

----------------暗転

ガバッ! 
ハッと気が付いた時、ワシは天空の城の中の一室に寝かされておった。
側には松尾殿ともう一名、女房がおってな。
ワシが気絶していた間に起きたことについてザッとあらましを説明してくだされた。
殺生丸さまは、りんが寝ている部屋においでだそうな。
すぐさま駆けつけようとしたんじゃが、松尾殿に今は遠慮するようにと忠告されてな。
考えてみれば、これは殺生丸さまと『りん』との三年ぶりの逢瀬じゃ。
下手に邪魔などしたら馬に、イヤ、殺生丸さまに間違いなく蹴り殺される。
昔から、そういう点では容赦のない御方じゃからな。
ここは殺生丸さまが戻ってこられるまで大人しく待つのが得策じゃろう。
松尾殿に伺ったところでは、ワシは阿吽の尻尾を掴んだまま気絶しておったらしい。
結界に衝突した際の衝撃に目を回したんじゃな。
人頭杖も固く握り締めて絶対に手離さなかったそうじゃ。
何せ、以前、手から離した時、「次は殺すぞ」と殺生丸さまに脅されてるからな。
ムゥッ、流石は従者の鑑(かがみ)、主の言いつけを守るワシって偉い!
自画自賛はこれくらいにして話を進めるぞ。
殺生丸さまは結界に真っ正面から突っ込んでいかれた。
妖力の強弱から見れば殺生丸さまと御母堂さまは、ほぼ互角だが、城の結界の強度は、さして強くないらしい。
松尾殿から聞いたんじゃが、元々、この城の結界は天空に紛れ込んでくる妖怪どもを排除する意図の結界だそうな。
 

(つまり、裏の意味を探れば御母堂さまが、その気になりさえすれば結界の強度を上げることなど、いとも容易(たやす)いと、そう示唆しておられるのですな、松尾殿)
 

従って殺生丸さまの力量なら結界を破るのは大して難しくはないのだとのこと。
だが、そうと判っておっても何の質疑応答もなくズカズカ結界に踏み込んでいくのはチョッと不味いというか、その何だ・・・。
イヤイヤ、いくら親子の関係とはいえ、やはり相当に無礼千万ではないのかと思うんじゃが。
でも、今回ばかりは完全に鶏冠(とさか)に来ておられたからなあ、殺生丸さま。
などとあれやこれや気を揉んでおったが、ワシの心配は杞憂だったらしい。
戻ってこられた殺生丸さまは、ここ数年、イヤ、これまでお仕えした百五十年の年数の中でも最高に上機嫌であられた。
無表情なのは変わりないんじゃがな、発しておられる雰囲気が、それ、何と言ったらいいのか。
ともかく、先程とは比べものにならないほど柔らかいんじゃ。
そうじゃな、例えるなら真冬の冬山からポカポカと暖かい春の野山に瞬間移動したような感じだな。
何より殺生丸さまが右肩から流しておられる豪奢な純白の毛皮が、ふわっふわのモコモコが、見たこともないほど膨らんでおったのだ。
それに良く見ると微かに震えておる。
近くで見んと判らんような、極々、微かな震えじゃったがな。
思うに、あれは歓喜の余りに震えておられたのではないかと。
お側に居なかったので正直な話、何があったのかは知らん。
だが、主の途轍もない機嫌の良さにワシは『万事、塞翁(さいおう)が馬』を決め込むことにした。
まっ、『終わり良ければ全て良し』ってことで。
今回は、これで終わりにしておく。
長々と引き留めて悪かったな。
また、何時か話をする時もあろう。
それでは、皆の者、達者でな。
さらばじゃ!

                                 了

 

拍手[10回]

『邪見の僕(しもべ)日記⑨』



※上の画像は『妖ノ恋』さまの使用許可を頂いてます。


由羅とやらの絶叫は、それは凄まじくてな。
ワシャ、、鼓膜が破れるかと思ったわ。
阿鼻叫喚とは、あのことじゃな。
それから、バッタリと倒れたんじゃが。
余程の恐怖を味わったのか、由羅の目はカッと見開き口も閉じておらんという体(てい)たらく。
その上、髪は逆立ってるわ、開いた口からは涎(よだれ)が垂れてるわと。
いや、もう、実に見苦しい有り様じゃった。
妙齢の女子(おなご)に取っては『恥ずかしい』のひと言に尽きるじゃろうな。
だが、りんが受けた苦痛と恐怖を思えば、この程度、まだまだ生ぬるいわな。
勿論、殺生丸さまと御母堂さまは醒めた顔で由羅の醜態を眺めておられたぞ。
厚顔無恥の見本のような豺牙(さいが)も事ここに到って遂に万策尽きたと観念したのか急に大人しくなりおった。
そうだな、さしずめ『尾羽打ち枯らした鷹』といった風情かな。
ガックリと力尽きた姿は見るからに悄然としておった。
つい先程まで、ああも五月蝿く喚きたてておったのにな。
もう抵抗する気力もないんじゃろう。
それを見た御母堂さまが豺牙を拘束していた権佐殿に離してやるよう命じられた。
権佐殿が拘束していた腕を外すとガクッと頽(くずお)れるように座り込む豺牙。
だからなあ、豺牙が、あんな暴挙に出るとは思いもせなんだのよ。
まさか、次の瞬間、『りん』が我々の前に現われるとは。
墨色に染まる宵闇の中、不意に我々の前に姿を見せた『りん』。
淡い輝きを発する内掛けを纏った姿が、まるで蛍の精のようじゃった。
正直、ワシャ、自分の眼を疑ったぞ。
だって、そうじゃろう。
あんなにも逢いたい逢いたいと願い続けた『りん』が、いきなり目の前に現われたんじゃ。
思わず口を開けて茫然としてしもうた。
ワシがそうなんだから殺生丸さまは尚更じゃったろう。
するとな、感動に浸(ひた)る間もなく座り込んでいた豺牙が急に立ち上がったんじゃ。
そして、大声で喚きながら『りん』に襲い掛かりおった。
奴の罪状が明らかになった今、豺牙には良くて流罪、下手すれば斬首の刑が待ち受けておる。
イヤ、殺生丸さまが寵愛する『りん』を襲ったんじゃ。
間違いなく死罪じゃろう。
どちらにしても豺牙一門は破滅じゃ。
だからこそ『りん』を道連れにしようと思ったんじゃろう。
豺牙め、破れかぶれの行動に打って出よった。
逸早く事態に気付いた御母堂さまが叫ぶ。


「しまった! りん、逃げろっ!」


「りんっ!」


殺生丸さまも『りん』の名を呼びながら走る。
爆砕牙を電光石火の早業(はやわざ)で抜き放ち一閃(いっせん)。
逆賊(ぎゃくぞく)を斬る!
ザシュッ!ガッガガガガガガガガガガ・・・・
正(まさ)に神速(しんそく)。
刹那の攻防であった。
瞬時に全ての片が付いておった。
爆砕牙で両断された豺牙。
目の前で豺牙の身体が破壊されていく。
塵のように細かく破砕され消滅していく。
何度見ても凄まじい破壊力じゃわい。
オワッ、見取れている場合ではない。
『りん』が今にも倒れそうではないか。
フラフラしておる。
いかん、受け止めねばっ!
と思ったらば御母堂さまが『りん』の側に来ておられた。
いっ、何時の間に!? 素早いっ!
殺生丸さまの速さには定評があるが御母堂さまも全く遜色ないではないか。
そして倒れかかる『りん』をソッと受け止め軽々と抱き上げられたんじゃ。
どうやら『りん』は気絶したようじゃな。
目を瞑(つむ)っておる。
ンッ、この光景は以前にも見たことがあるような・・・。
そうじゃっ、狼どもに噛み殺された『りん』を殺生丸さまが天生牙で蘇生させた時と全く同じではないか。
あの時も殺生丸さまが『りん』を隻腕に抱いておられた。
ウム、見れば見るほどソックリじゃ。
御母堂さまは殺生丸さまに良く似ておるからな。
イヤイヤ、殺生丸さまが御母堂さまに似ておるのだ。
殺生丸さまは御母堂さまの息子だからな。
それにしても先程の映像からして御母堂さまが全てを御存知なことは必定。
『りん』は御母堂さまの手許におった訳じゃ。
成る程、だからか、あれ程、人界を捜し回っても見つからんかったのは。
フムフム、納得じゃ。
とととっ、待てよ・・・ということはだぞ、御母堂さまは殺生丸さまが『りん』を捜しておられたことを百も承知の上で三年間も『りん』を隠しておられた・・・という事になるわな。

(・・・・・・)

タラ~~リ、タラタラ(冷や汗)
こっ、これは由々しき事態じゃ。
間違いなく殺生丸さまは怒り心頭に発される。


「殺・・生・・・丸・・さま・・・」


耳に残る小さな声、倒れる前に『りん』が呼んだのは、やはり、殺生丸さまだった。
気が付けば御母堂さまの脇を権佐殿と松尾殿、他の女房衆が固めておる。
そして、同様に殺生丸さまの周囲も重臣の尾洲殿、万丈殿、女官長の相模殿、側近の木賊(とくさ)殿、藍生(あいおい)殿が主を守るように立っておった。

 

※『邪見の僕(しもべ)日記⑩』に続く
 

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