『夜叉丸物語=③楓婆ちゃん=』 母上の次は楓婆ちゃんについて話すね。 楓婆ちゃんは村の巫女さまだ。 村の衆は楓婆ちゃんを『大巫女さま』って呼ぶ。 俺の母上と間違えないように。 楓婆ちゃんはこの村だけじゃなくて他の村からも頼りにされてると~~っても偉い巫女さまなんだ。 五十年も村を守ってきた楓婆ちゃん。 昔、楓婆ちゃんには姉上がいて同じように巫女だったんだって。 でも楓婆ちゃんが小さい頃に亡くなっちゃったらしい。 妖怪が村を襲ったせいなんだって。 楓婆ちゃんも、その時、流れ矢を受けて片目を失った。 それで楓婆ちゃんは刀の鍔(つば)で作った眼帯で右目を隠してるんだ。 だからかな、他所(よそ)からきた人は楓婆ちゃんを見るとギョッとするんだ。 こっちへ来たばかりだった母上も最初は吃驚(びっくり)したんだって。 男なら戦(いくさ)で怪我するから割と眼帯する人がいるんだけど。 う~~ん、女の人だもんな。 やっぱり驚く・・・よね。 それでさ、楓婆ちゃんは父上と昔馴染みなんだって。 「いつから父上を知ってたの?」って楓婆ちゃんに聞いてみた。 そしたら『五十年前だよ』って答えがきて「ええええぇぇぇっ?」って驚いちゃった。 滅茶苦茶、昔じゃん! そんな昔から楓婆ちゃんは父上を知ってたのか。 俺、吃驚(びっくり)だよ。 そりゃ父上は半妖だから人より長生きなんだろうけど。 うん、ちょっと待てよ、そういや父上っていくつなんだっけ? ちょうど母上が側にいたから聞いてみたんだ。 そしたらさ、母上ってば腕を組んでジッと考えこんじゃって。 ブツブツと何かつぶやき始めたんだ。 やれ「戦国時代は」とか「織田信長が・・」とかね。 かと思うと「鎌倉幕府が」とか「滅亡は1333年」やら。 俺にはさっぱり分からない言葉ばかりだった。 何の呪文なんだろ??? そうして俺が待ちくたびれた頃、やっと「百五十歳くらいじゃないかな?」って答えてくれた。 何でも父上が生まれたのは二百年くらい前らしい。 でも、父上は俺が生まれるちょっと前まで『封印』されてたんだって。 ほら、森の中に大きな御神木があるだろう。 あの木に破魔の矢で五十年も封印されてたんだって。 だから父上は二百年から五十年をひいた百五十歳なんだって。 おまけに、その父上の封印を解いたのが母上だなんて。 もう、さっきから吃驚(びっくり)することばっかりだ。 あっ、あれっ? ちょっと待ってよ。 楓婆ちゃんの歳は六十をちょっと越したくらいだって前に母上がいってたよね。 となると・・・えええっ! じゃっ、じゃあ、父上は子供の楓婆ちゃんに会ってたのか!? 五十年前・・・子供の楓婆ちゃん。 う~~ん、想像できないや。 でもさ、まさか父上が楓婆ちゃんより年寄りなんて考えもしなかった。 だって父上って凄く若く見えるし。 それに、やることなすこと凄く子供っぽいんだ。 いつも馬鹿なことやって母上に怒られてるし。 特にあの『おすわり』は何べん見ても恥ずかしい。 あれで百五十歳だなんて誰も思わないよ。 楓婆ちゃんに「婆ちゃんの家族は?」って聞いたことがある。 そしたら父上が息子みたいなもんなんだって笑ってた。 う~~ん、確かにそうかもね。 となると母上は娘かな? それでもって俺が孫? 近所には弥勒伯父さんと珊瑚伯母さんもいるし。 茜(あかね)と紅(くれない)もいるし正太(弥勒と珊瑚の長男)だっている。 珊瑚伯母さんの弟の琥珀兄ちゃんだって時々帰ってくるし。 だからさ、ちっとも寂しくないよね、楓婆ちゃん。 ※『夜叉丸物語』の④に続く [6回]PR